最初の探索
都市は、まるで石の海のように砂漠一帯へと広がっていた。
遠くの砂丘の頂上から、サルゴンとカエレンは巨大な城壁の向こうに無数の建物がそびえ立つ光景を見渡していた。形状の異なる塔々が立ち並び、それらは橋や宙に浮かぶ足場、そして淡く輝く通路によって結ばれていた。
その都市は、生きていた。
隊商が巨大な門を通って入っていく。
商人たちが人混みで賑わう通りを行き交う。
人間が、さまざまな姿をした亜人たちと並んで歩いている。
華やかなローブを身にまとった者もいれば、武器を携えた者もいた。
奇妙な獣に乗っている者もいれば、輝く結晶を動力源とする小型の機械車両で移動する者たちもいた。
カエレンは数秒間、都市を見つめた。
「……予想していたよりも、ずっと大きいな」
サルゴンは黙ったままだった。
その瞳が、遠くに広がる都市を見渡していく。
この場所には、第一時代の造船所を思わせるものが何一つなかった。
古代の機構もない。
放棄された構造物もない。
忘れ去られた技術が放つ、圧倒的な存在感もない。
ここは、生きている場所だった。
現代の文明。
そして――彼らにとって、完全に未知の場所だった。
カエレンはサルゴンへ視線を向けた。
「それで、本当に中へ入るのか?」
「そうだ」
二人は歩き始めた。
境界から都市までの距離は数マイルに及んでいたが、その道中、二人はほとんど言葉を交わさなかった。
砂漠の風が砂の上を吹き抜けていく。
やがて、巨大な都市の城壁が近づいてきた。
入口には、複数の衛兵が立っていた。
彼らは暗色の金属鎧を身にまとい、カエレンがエーテル海で見たことのない武器を携えていた。
門の上には、見慣れない言語で刻まれた文字があった。
それなのに――
なぜか、サルゴンには読むことができた。
ASTERIONへようこそ。
カエレンが頭上を見上げる。
「アステリオン……」
サルゴンが頷いた。
衛兵たちは、二人を短く観察した。
衛兵の一人が手を上げた。
「旅人か?」
「そうだ」とサルゴンが答えた。
「出身地は?」
サルゴンは一瞬、沈黙した。
「アウター・ヴェイル」
衛兵は、奇妙なものを見るような目で彼を見た。
カエレンはすぐに問題を理解した。
彼らには、正式な出身地がなかった。
身分証明もない。
登録された船舶もない。
この土地における身分もない。
しかし、衛兵がさらに質問をする前に、サルゴンは落ち着いた動作で数枚のエーテル・カウンティ硬貨を彼の手に置いた。
衛兵は手元を見下ろした。
そして、その表情が変わった。
「通っていいぞ」
カエレンが片眉を上げた。
サルゴンはそのまま歩き続けた。
カエレンも後に続く。
「ずいぶん簡単だったな」
「それで十分だった」
「いくら渡したんだ?」
「必要な分だけだ」
カエレンはため息をついた。
「だろうな」
アステリオンに足を踏み入れた瞬間、周囲の雰囲気が変わった。
通りは人で溢れていた。
大通りの両側には市場が広がっている。
商人たちが声を張り上げ、値段を告げていた。
旅人たちはダンジョン探索について語り合っている。
冒険者たちはさまざまな遺物を携えていた。
奇妙な鉱物を積んだ隊商が、通りを進んでいく。
この都市には、独自のリズムがあるようだった。
カエレンは興味を募らせながら、周囲を見回した。
「ここが……アウター・ヴェイルか」
サルゴンは、すぐには答えなかった。
彼はあらゆるものを観察していた。
人々。
建築様式。
通貨。
衛兵たち。
建物に刻まれた紋章。
そして何よりも――
情報。
二人は、大きな公共情報掲示板のそばで足を止めた。
そこには、いくつもの告知が掲示されていた。
カエレンが身を乗り出す。
「この土地の法律か……」
サルゴンは、それらに目を通した。
アウター・ヴェイルには、そこに存在する世界や領域全体に適用される、独自の法体系が存在していた。
法律は地域ごとに異なっていたが、宇宙全体で広く認められている、いくつかの基本原則があった。
居住者のいる世界を、許可なく破壊することは禁止されている。
保護対象となっている都市への攻撃も禁じられていた。
そして、一部の古代遺跡は、直接的な保護下に置かれていた。
領域間交易は、規制の対象となっていた。
そして、アウター・ヴェイルの支配者が持つ権限は、宇宙全体に及んでいた。
カエレンは最後の項目に目を向けた。
「支配者の名前は書かれていないな」
サルゴンは、別の告知へ視線を移した。
そこには、無数の星に囲まれた銀色の王冠を思わせる紋章が描かれていた。
その下には、ただ一つの称号が記されていた。
ヴェイル皇帝。
カエレンは眉をひそめた。
「皇帝か?」
「そのようだ」
「どれくらい強い?」
サルゴンは読み進めた。
正確な測定値はなかった。
階級もない。
数値による分類も存在しなかった。
ただ一つ、こう記されているだけだった。
ヴェイル皇帝は、アウター・ヴェイルにおける最高権威である。
カエレンは、その文面を見つめた。
「これじゃ、あまり参考にならないな」
「そうだな」
サルゴンは視線を外した。
いずれ、もっと多くのことが分かるだろう。
今のところ、支配者についてこれ以上調べる理由はなかった。
二人は再び街中を進んだ。
近くでは、商人が小さな金属硬貨の束を数えていた。
カエレンは、その硬貨にすぐ気づいた。
「シンか?」
商人が彼を見た。
「我々の通貨に馴染みがないのか?」
「少しな」
商人は硬貨を二枚掲げた。
「これはロー・シンだ」
続いて、別の硬貨を持ち上げた。
「そして、こちらがハイ・シンだ」
カエレンは興味深そうに尋ねた。
「何が違う?」
「ロー・シン一万枚で、ハイ・シン一枚になる」
カエレンの表情が変わった。
「一万枚だと?」
商人は笑った。
「ここでは、そういう仕組みなのさ」
サルゴンは硬貨に目を向けた。
エーテル・カウンティの通貨とは異なり、シンはアウター・ヴェイル独自の通貨だった。
それは宇宙全体で通用する。
しかし、アウター・ヴェイルの外では――
その価値を失う。
カエレンはサルゴンを見た。
「じゃあ、エーテル・カウンティの硬貨もここで使えるんだな?」
「そうだ」
それは有益な情報だった。
エーテル・カウンティの通貨は、エーテル海全域で認められている。
銅。
プラチナ。
銀。
金。
その価値は、どこでも一貫していた。
シンはアウター・ヴェイルに属する通貨。
エーテル・カウンティの硬貨は、より広大なエーテル海に属する通貨。
単純な違いだった。
サルゴンは先へ進んだ。
そのとき――
カエレンの注意を引くものがあった。
巨大な壁の周囲に、大勢の人々が集まっていた。
「あれは何だ?」
サルゴンは彼の視線を追った。
二人は近づいていく。
壁一面には、指名手配の告知が貼られていた。
そのほとんどは、ありふれたものだった。
危険な犯罪者。
海賊。
所属組織を裏切った賞金稼ぎ。
しかし、その壁の中央には、ほかとは比べものにならないほど大きなポスターが一枚、掲げられていた。
そこには、たった一つの名前が記されていた。
ベル・ザー。
その下には、一枚の肖像画があった。
自信に満ちた笑みを浮かべる男。
ただし、肖像そのものが意図的に歪められているようで、その容貌を完全に把握することは難しかった。
その下に記された説明は、短いものだった。
最重要指名手配犯――大泥棒。
カエレンの目が見開かれた。
「この懸賞金……」
サルゴンは金額を確認した。
65,000,000エーテル・カウンティ金貨
さらに、その下には別の一行が記されていた。
10,000,000ハイ・シン――アウター・ヴェイルの支配者による懸賞金。
カエレンは目を見張った。
さすがの彼も、しばらく言葉を失った。
そして――
「六千五百万だと?」
サルゴンは無表情のまま答えた。
「そうだ」
「金貨で?」
「そうだ」
「エーテル・カウンティの金貨だぞ?」
「そうだ」
カエレンはゆっくりとサルゴンを見た。
「正気じゃないな」
サルゴンは再びポスターに目を向けた。
ベル・ザー。
その名前だけでも、十分に人目を引くものだった。
告知によれば、彼の犯罪は複数の世界に及んでいた。
詳細の一部は、機密扱いとなっていた。
記載されていたのは、いくつかの短い項目だけだった。
制限指定遺物の窃盗。
封印された宝物庫区域への侵入。
保護対象となっている遺跡への無許可侵入。
王室の宝物庫からの窃盗。
領域間資産への干渉。
そして最後に――
正体不明の財宝に関する、複数の未解決窃盗事件。
カエレンは顎をかいた。
「よほど嫌われているんだな、こいつ」
サルゴンは、その莫大な懸賞金を見つめた。
「この金額が、それを物語っている」
カエレンは続きを読む。
「実際、そこまで危険な奴だと思うか?」
サルゴンはわずかに首を横に振った。
「必ずしもそうとは限らない」
「なら、どうしてこんな懸賞金が?」
「奴が盗むものに理由がある」
カエレンは再びポスターに目を向けた。
その答えで十分だった。
彼らがベル・ザーを追うことはない。
少なくとも、今は。
彼らが当面優先すべきことは、依然としてアル・メラージュ号だった。
サルゴンは壁から視線を外した。
「行くぞ」
カエレンは後に続いた。
二人はアステリオンのさらに奥へと進んでいった。
中心部へ向かうにつれ、都市はますます巨大になっていった。
市場は、専門分野ごとの区画へと変わっていく。
ある通りには武器が並んでいた。
別の通りでは魔法遺物が売られている。
さらに別の通りには、希少な鉱物が集められていた。
その先には、地図を掲げた巨大な建物がいくつも立ち並んでいた。
カエレンは、そのうちの一つに気づいた。
「ダンジョンか」
サルゴンは足を止めた。
建物の内部には、アウター・ヴェイルのさまざまな地域を示す地図が展示されていた。
地下構造を描いたものもあった。
遺跡を示したものもある。
そして、警告の記号が付された広大な区域を描いた地図もあった。
カエレンが中へ入る。
サルゴンも続いた。
中央の壁には、大きな地図が掲げられていた。
そこには、数百もの地点が記されていた。
未探索と記された場所。
危険区域に分類された場所。
そして、ただ一つの言葉だけが記された場所もあった。
ダンジョン。
カエレンは笑みを浮かべた。
「これは面白くなってきたな」
サルゴンは地図を見つめた。
アウター・ヴェイルには、数え切れないほどの謎めいた場所が存在していた。
古代遺跡。
地下迷宮。
放棄された都市。
封印された構造物。
未知の領域。
財宝や遺物を秘めたダンジョン。
サルゴンは何も言わなかった。
だが、その瞳は数秒間、地図から離れなかった。
もし、何か役立つものを発見できれば――
アル・メラージュ号の修復に役立つかもしれない。
それで十分だった。
二人は建物を後にした。
外では、午後の太陽が地平線へと近づき始めていた。
街の明かりが、少しずつ輝きを増していく。
カエレンは両腕を伸ばした。
「何時間も歩きっぱなしだぞ」
サルゴンは彼を見た。
「探索したいと言ったのは、お前だ」
「そうだけどな」
「それで?」
カエレンは笑みを浮かべた。
「まだ探索したい」
サルゴンは歩き続けた。
「なら、続けろ」
カエレンは笑った。
「お前、本当に楽しみ方を知らないんだな?」
サルゴンは足を止めた。
近くの通りへ視線を向ける。
そこには、二つの大きな建物に挟まれた、小さなレストランがあった。
店の外では、人々が座って食事をしながら談笑していた。
サルゴンは店を見た。
それから、カエレンへ視線を戻した。
「食事にするか」
カエレンは目を瞬かせた。
「……今、自分から食事を提案したのか?」
「そうだ」
「変わったな、お前」
「変わっていない」
カエレンは笑みを浮かべた。
「はいはい、そういうことにしておこう」
二人はレストランに入った。
アウター・ヴェイルへ到着して以来、初めて、彼らはただ腰を下ろした。
古代造船所もない。
第一時代の機構もない。
次元に関する緊急事態もない。
謎めいた遺跡もない。
そこにあったのは、見知らぬ宇宙の、賑やかなレストランだけだった。
カエレンはいくつかの郷土料理を注文した。
サルゴンは、そのうちの数品だけを口にした。
馴染みのない味だったが、悪くはなかった。
食事をしながら、カエレンは周囲を見回した。
「ここも、なかなか悪くないな」
サルゴンは窓越しに外を眺めた。
通りの向こうでは、巨大な都市が、暮れゆく空の下で輝き続けていた。
あの城壁の向こうには、ダンジョンがある。
遺跡がある。
財宝がある。
遺物がある。
未知の文明がある。
そして、この宇宙のどこかには――
多くの王国を上回る価値を持つ男、ベル・ザーがいた。
サルゴンは食事を終えた。
「まずは必要な物資を見つける」
カエレンは頷いた。
「もし、価値のあるものを見つけたら?」
「手に入れる」
カエレンは笑みを浮かべた。
「その答えが聞きたかった」
外では、アステリオンの明かりが通りを照らしていた。
アウター・ヴェイルは広大だった。
二人には、ここにどれほど長く滞在することになるのか分からなかった。
この都市の向こうに何が存在するのかも、まだ知らない。
だが、この奇妙な宇宙へ足を踏み入れて以来、初めて――
彼らは何かから逃げているわけではなかった。
彼らは、探索していたのだ。
そして、アステリオンの城壁の向こうでは、数え切れないほどの未探索の場所が、彼らを待ち受けていた。
財宝が眠る場所も。
そして、おそらく――
伝説が生まれる場所も。
つづく……




