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第一時代の覚醒

深紅の光は、脈動を続けていた。


一度。


二度。


そして、もう一度。


最後の指揮権限が受諾された後も、地下施設全体は不自然なほど静まり返っていた。


サルゴンは、古代の指揮台の前に立っていた。


カエレンは数歩後方に留まり、壁に埋め込まれた無数の機構を見つめていた。


何も動かない。


何も攻撃してこない。


それでも――


空気は変わっていた。


この造船所は、もはや放棄された場所には感じられなかった。


それは――


目覚めていた。


低い振動が床を伝わった。


ヴゥゥゥゥゥゥゥ――


サルゴンは視線を下げた。


彼の足元から、細い銀色の線が外側へと広がっていく。


一本は東側の壁へ。


もう一本は床の下へと消えていった。


三本目は、二人の背後にある巨大な指揮室へと伸びていく。


そして――


さらに数百本もの線が現れた。


カエレンは周囲を見回した。


「これは何だ?」


「接続だ。」


「何への?」


サルゴンは答えなかった。


銀色の線は、なおも広がり続けていた。


古代施設そのものが――


自らをマッピングしている。


何千年もの間、この造船所は沈黙していた。


だが今。


三つすべての指揮紋章が復元されたことで、その内部システムが一つ、また一つと再接続され始めていた。


機械的な声が、指揮室へと響き渡る。


【三つの指揮権限――同期中。】


【武装指揮:認証済み。】


【観測指揮:認証済み。】


【無効指揮:認証済み。】

【指揮ネットワーク復旧率:7%。】


カエレンは、その数字を見つめた。


「七パーセント?」


サルゴンは頷いた。


「そうだ。」


「つまり、俺たちがここまでやっても、復旧したのはたった七パーセントなのか?」


「そういうことだ。」


カエレンは額を押さえた。


「それを聞いても、全然安心できないんだが。」


数字が変化した。


8%。


そして――


11%。


造船所が震えた。


はるか上方では、巨大な金属構造体が水中で動き始めていた。


古代の水没施設が、その構造そのものを変え始めている。


サルゴンは出口へと振り返った。


「来い。」


カエレンは後に続いた。


二人は、先ほどの指揮通路へと戻った。


壁は、もはや闇に覆われていなかった。


銀色の紋様が、二人の進む道を照らしている。


これまで封鎖されていた扉のいくつかが、今では開き始めていた。


一方で、完全に停止したままの扉もある。


カエレンは、そのうちの一つを指差した。


「あれ……前はなかったぞ。」


サルゴンはそちらを見る。


壁に、巨大な円形の扉が現れていた。


その中央には――


三つの輪が互いに絡み合った紋章が刻まれている。


その下には、第一時代の文字で一行が記されていた。


サルゴンの瞳に、銀色の光が一瞬だけ映り込む。


「資源管理。」


カエレンは眉を上げた。


「資源管理?」


「そうだ。」


「つまり、古代文明にも倉庫があったってことか?」


サルゴンは彼を見る。


「非常に巨大なものがな。」


カエレンは、かすかに笑った。


「ようやく理解できそうなものが出てきたな。」


二人は中へ入った。


その先に広がっていた部屋は――


あまりにも巨大だった。


金属製のコンテナが何列にも並び、遥か彼方まで続いている。


中には小さな建物ほどの大きさを持つものもあれば、人間の手ほどの大きさしかないものもあった。


その大半は封印されている。


そして、そのうちのいくつかは完全にエネルギーを失っていた。


カエレンは最も近くにあった巨大なコンテナへ歩み寄った。


「ここには何を保管していたんだ?」


サルゴンは、その表面に手を当てた。


コンテナが反応する。


【第一時代・物資保管庫】


【状態:81%保存】


一連のリストが、空中に表示された。

星金属。


虚無結晶物質。


天界エーテル。


原初合金。


未知のエネルギーコア。


カエレンは、そのリストを見つめた。


「……とんでもない財宝だな。」


サルゴンは、最後の項目に意識を集中させていた。


「未知のエネルギーコア。」


システムが展開される。


【識別失敗。】


【分類:制限対象。】


【アクセス:無効指揮が必要。】


サルゴンは手を上げた。


掌に、無効指揮の黒い紋章が一瞬だけ浮かび上がる。


コンテナが開いた。


その内部にあったのは――


小さな黒い球体だった。


完全に滑らかな表面。


そこには、いかなる光も反射されていない。


サルゴンは、それに触れなかった。


代わりに――


ただ観察した。


カエレンが一歩近づく。


「それ……危険なのか?」


「可能性はある。」


「それじゃあ、あまり安心できないな。」


サルゴンは観測権限を発動した。


その瞳が、わずかに変化する。


黒い球体を中心に、世界そのものがゆっくりと減速したように見えた。


情報が浮かび上がる。


---


【観測指揮】


【対象:未識別コア】


【起源:第一時代】


【エネルギー種別:不明】


【物理構造:安定】


【概念構造:封印済み】


【用途:不明】


【警告:強制的な起動を行うな。】


---


サルゴンは手を引いた。

「封印したままにする。」


カエレンは頷いた。


「それは今日、お前が言ったことの中で一番賢明な判断かもしれないな。」


二人は、資源保管施設のさらに奥へと進んでいった。


さらに多くのコンテナが姿を現す。


武器を収めたものもあった。


別のものには、船の構成部品が保管されている。


そしていくつかのコンテナには――


二人のどちらにも識別できない、奇妙な結晶構造体が収められていた。


しかし、次第に一つの事実が明らかになっていく。


この造船所は――


単なる軍事施設ではない。


それは、文明規模の巨大インフラだった。


船舶建造。


資源保管。


航行。


観測。


指揮。


研究。


防衛。


そのすべてが――


繋がっている。


そして、その中心に存在しているのが――


星金属コア・マトリクスだった。


カエレンは、ようやく理解した。


「これは……ただの造船所じゃなかったんだな。」


サルゴンは、遠くに広がる巨大な構造物へ視線を向けた。


「そうだ。」


「では、何なんだ?」


サルゴンは静かに答えた。


「文明の玄関口だ。」


カエレンは眉をひそめる。


「どこへの?」


サルゴンは答えなかった。


その時――


新たなシステムメッセージが表示された。


【指揮ネットワーク復旧率:24%。】

保管室全体が、突然として光に包まれた。


休眠状態にあった数千ものシステムが、同時に起動する。


遥か彼方で――


何か巨大なものが動いた。


その音が、金属製の通路を伝わってくる。


ゴォォォォォン――


カエレンは即座に入口へ振り返った。


「……今の、かなりデカかったぞ。」


サルゴンも振り返る。


「そうだな。」


「何か来るのか?」


「いや。」


カエレンはため息をついた。


「それはそれで、余計に怖いんだが。」


二人は中央指揮室へと戻っていった。


近づくほど、振動は強くなっていく。


そして二人が中へ入った瞬間――


サルゴンは足を止めた。


巨大な造船所のホログラフィック・マップが、変化していた。


以前は、上層部しか表示されていなかった。


しかし今は――


施設全体が表示されている。


そして、その規模は――


あまりにも巨大だった。


造船所は、海底のさらに深くまで広がっている。


複数の階層。


複数の封鎖区画。


そして、いくつもの未探索領域。


だが――


その中でも、サルゴンの注意を引いた場所が一つあった。


施設の最深部。


そこだけが、完全な黒に覆われている。


地図はない。


情報もない。


分類すら存在しない。


そこに表示されているのは――


ただ一つの指定だけだった。


【区画:ゼロ。】


カエレンは、それを見つめた。


「……たぶん重要なんだろうな。」


「そうだ。」


「アクセスできるのか?」


サルゴンはマップを調べる。


「まだだ。」


「なぜ?」


「システムがアクセス権限を与えていない。」


カエレンは驚いたように目を見開く。


「お前、指揮官だろ?」


「指揮権限が無制限というわけではない。」


カエレンは笑った。


「つまり、ようやくお前にも、単純に命令できないものが出てきたってことか。」


サルゴンは彼を見る。


「今のところはな。」


その瞬間――


ホログラフィック・マップが突然変化した。


一本のルートが出現する。


それは中央指揮室から始まり――


造船所の最深部へと伸びていた。

しかし、そのルートは――


区画:ゼロの手前で途切れていた。


終点には、別の指定が表示される。


【アクセス条件:コア同期。】


サルゴンは、星金属コア・マトリクスへ視線を向けた。


すべてが繋がった。


三つの指揮紋章によって、指揮システムは復旧した。


だが――


コア・マトリクスは、まだサルゴンの器と完全には同期していない。


それが、次の段階だった。


カエレンはマップを見つめる。


「つまり、コア・マトリクスを同期させる必要があるんだな。」


「そうだ。」


「それで?」


「区画:ゼロが何なのかを確かめる。」


カエレンはサルゴンを見る。


「その後は?」


サルゴンは出口へと振り返った。


「出る。」


カエレンは瞬きをした。


「……それだけ?」


「今のところはな。」


二人は歩き始めた。


しかし、扉へ到達する前に――


造船所全体が、突然静寂に包まれた。


すべての光が消える。


カエレンが足を止めた。


「サルゴン。」


サルゴンは振り返る。


中央のホログラフィック・マップが消失した。


数秒間――


何もなかった。


そして――


一つの光が現れた。


ただ一つの深紅の点。


二人の遥か下。


区画:ゼロ。


その点が、ゆっくりと広がっていく。


その隣に、二つ目の紋章が現れた。


そして――


三つ目。


システムがメッセージを表示する。


---


【コア同期:開始。】


【第一時代・星金属コア・マトリクス:応答中。】


【指揮官認証:確認。】


【造船所覚醒率:31%。】


【区画:ゼロ:待機状態。】


【深層コア・システム:オンライン。】


---


凄まじい振動が、施設全体を揺さぶった。


古代造船所が――


本格的な覚醒を始めた。


カエレンは壁に手をつき、身体を支える。


「今のは何だ?」


サルゴンは床へ視線を向けた。


「俺たちの下にある何かだ。」


再び振動が走る。


そして、もう一度。


攻撃ではない。


爆発でもない。


――機構だ。


造船所の深部で、何か巨大なものが動き始めていた。


光が戻る。


今度は――


深紅ではなかった。


銀色だった。


一つ、また一つと――


施設全体に存在する古代構造体が光を放ち始める。


そして初めて――


数え切れないほどの時を経て、第一時代の造船所、その全貌が姿を現した。


サルゴンは、ようやくその真の規模を目にした。


この造船所は――


古代の船を建造するためだけの場所ではなかった。


それは、エーテル海の下に埋められた――


金属、機械、知識、そして封印された技術によって構成された、巨大な隠された文明そのものだった。


カエレンは、周囲を取り囲む巨大構造物を見上げた。


「これが……第一時代が残したものなのか。」


サルゴンは前方を見つめる。


「違う。」


カエレンが彼へ振り返る。


サルゴンは続けた。


「これは、生き残ったものにすぎない。」


その言葉が、指揮室に残響する。


そして――


システムが最後のメッセージを表示した。


---


【第一時代・造船所】


【覚醒状態:31%】


【指揮官:認証済み】


【継承:稼働中】


【コア同期:進行中】


【次なるアクセス地点:深層コア室】


---


サルゴンは、新たに姿を現した通路へ向かって歩き始めた。


カエレンも後に続く。


その背後では――


数千もの古代機構が、なおも目覚め続けていた。


そして、二人の足元遥か深く――


第一時代の造船所、その最深部が静寂の中で待っていた。


区画:ゼロは、依然として閉ざされたままだった。


――今はまだ。

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