『隠された水門』
《フロスト・ヴェイン・ジャンクション》の氷に削り出された狭い洞窟の隘路には、氷点下の銅と、淀んだプラズマ燃料の臭いが漂っていた。
カエレンは補助着陸艇の強化サイドハッチ付近に立っていた。
巨大な手が静かに動き、つい先ほど手に入れた高級エーテル・シャード1,800個を収めた、厳重に施錠された最後の鉄箱を、輸送艇の床下収納へ滑り込ませる。
重厚なブーツが、滑りやすい結晶質の地面を踏む音は完全に抑えられていた。
その鋭く、戦場で鍛え上げられた眼差しは、三次路地の低く垂れ下がった氷柱と、暗い建築構造を絶え間なく監視している。
通貨仲介商ガーとの物質取引は、サルゴンが玉座から定めた正確な条件通りに完了していた。
しかし――
凍結した彗星の中心部に満ちる空気には、依然として不穏な、静電気を帯びた構造的緊張感が濃く漂っていた。
サルゴンは、交換層から続く低い石段をゆっくりと下りてきた。
その歩調は緩く、どこまでも自然だった。
青白い手は、紫色の商人ローブの流れる袖の中に無造作に収められている。
深い灰色の旅用フードは完全に前へ引かれ、乱れた白髪へ濃い影を落とし、金色のヘッドバンドを視界から隠していた。
無表情な顔には、いつもの飄々とした完全な無関心の表情が保たれていた。
その冷徹な知性は、地下世界の通路を覆い始めた闇など、まるで意に介していなかった。
静かな意識の奥では、彼のシステム・テキストボックスが安定した状態で浮かんでいた。
[通知:現在のコア・エネルギー残量:16.5%(安定均衡は継続中)。]
[警告:局地的な独立賞金稼ぎ追跡網が作動し、主要格納庫ゲートにアクティブ・チェックポイント封鎖を開始しました。『究極属性:ソヴリン・ヴォイド』による高位概念消去の強制実行は、極端なコア・エネルギー不足のため、引き続き制限されています。]
サルゴンは、ゆっくりと浅い息を吐いた。
自分の現在の限界は、正確に理解している。
コア・エネルギーが厳格に16.5%という現在の閾値にある以上、封印を解いたゲートはあまりにも弱い。
世界を砕くほどの概念消去を実行することも、重武装した三つのスクラッパー・シンジケートを、閉鎖された公共市場の内部で正面から相手取ることも不可能だった。
力は使えない。
もし、この凍結した地下通路で大規模な銃撃戦が始まれば、その構造的フィードバックが近隣の企業エルフ審問官の巡回港へ警報を送る。
そうなれば、彼の幻影パラメータは一瞬で露見し、即座に破滅を招く。
必要なのは――
冷徹な策略。
慎重さ。
そして、絶対的なストリート・スマートだった。
その瞬間。
巨大な凍結冷却パイプの陰から、小柄なフード姿の影が滑り出てきた。
彼らのドッキング用路地の入口を塞ぐようにして。
独立系の情報仲介人だった。
名はヴァックス。
薄汚く、抜け目のない痩せた異星人であり、油汚れの染み付いたぼろぼろの革製飛行ローブをまとい、腰には低周波スキャナー・マトリクス・ボックスを吊り下げている。
ヴァックスの片方だけの巨大なサイバネティック・アイが、カチカチと激しく作動した。
彼はサルゴンを見上げる。
その姿勢から漂っているのは、まさに闇市場の情報屋特有の、神経質で落ち着きのない気配だった。
何世紀もの間、高額な秘密をわずかなシャードと交換して生きてきた者の空気。
「四トンもの未精製スペースタイム資産を抱えた漂流者にしちゃ……歩くのが遅すぎるな」
ヴァックスは、低く掠れた声で囁いた。
その巨大な眼球が、狡猾な計算ループを描くように回転する。
「通貨仲介商ガーは、お前たちの台帳を最大市場パラメータで処理した。だが、お前たちの影はもうネットワークに刻印されている」
「有力な独立賞金稼ぎシンジケートが三つ――その中には《アイアン・ヴァルチャー・スクラッパーズ》も含まれている――すでに主要格納庫ゲートを封鎖した」
「奴らは、出発するすべての輸送艇に対して、多重グリッド密度スキャンを実行している。《ソーラー・パンテオン》が出した五千万の賞金首アラートを手に入れるためにな」
カエレンの旅装ベストの下で、筋肉が一瞬にして強張った。
その手は即座に湾曲した黒鋼製シミターの真鍮製の柄へと落ちる。
鋭い眼差しがヴァックスを捉えた。
その視線には、明確な殺気が宿っていた。
粗く鍛えられた拳の関節が白くなる。
次の瞬間には、たった一つの座標さえこの路地の外へ漏らすことなく、情報屋を静かに始末できる構えだった。
「死んだ情報屋なら、我々の艇の座標を売ることはできません。我が君」
カエレンは低く、規律の取れた声で呟いた。
その姿勢は、即座に前衛攻撃へ移れるほど完璧に整えられていた。
「ま、待て、待て! 俺は分別のある商売人だ!」
ヴァックスは慌てて叫んだ。
生き残ろうとする必死の身振りで油まみれの両手を上げながら、影の中へ一歩後退する。
「俺は、お前たちの白い髪をシンジケートへ報告しに来たんじゃない。取引をしに来たんだ!」
「賞金稼ぎどもは、正式なスリップストリーム出口を完全に封鎖した。今、メイン格納庫の扉から艇を発進させようとすれば、お前たちの密度シグネチャが三秒以内に自動警報を作動させる」
「だが――俺は、誰にも記録されていない忘れられた第一紀の火山性メンテナンス水門、その座標を持っている」
「そこなら、外側の氷の尾根へ直接つながっている」
ヴァックスはサルゴンを見つめた。
商人としての強欲と、カエレンの刃に対する本能的な恐怖が、激しくせめぎ合っている。
「その隠し出口のデータ・マトリクス……高級エーテル・シャード二百個でどうだ?」
「幻影パラメータを維持するための、正当な取引だぜ。旅人さん」
サルゴンは、フードの下で微動だにしなかった。
無表情で、飄々としたその顔は、情報屋が提示した危険な取引にもまったく動じていない。
瞬きすらしない。
力の抜けた立ち姿も変わらない。
だが――
誰にも見えないところで、進化した[概念上書き:マス・コントロール]の法則が、ヴァックスの革製飛行ローブの襟元に隠された、小型の機械式盗聴マイクへと向けられた。
独立系の仲介人は、自分が安全かつ巧妙な取引をしていると思っていた。
地図を売る一方で、サルゴンの声の周波数を密かに記録し、後から別の賞金稼ぎシンジケートへ二倍の利益で売り渡すつもりだったのだ。
しかし――
サルゴンの冷徹な知性は、その隠された機械構造を瞬時に解析していた。
――システム。
サルゴンは心の中で命じた。
その内なる声には、揺るぎない帝王の冷たさが宿っている。
――《マス・コントロール》を初期化。
――情報屋の衣服の下に隠された録音用ワイヤー、その内部ギアを受動的に標的化せよ。
[通知:『概念上書き:マス・コントロール』が受動的に起動しました。]
[現在の標的:情報屋の隠し襟元ワイヤー内部に存在する、小型ぜんまい式録音ギア。]
[状態:絶対重力圧縮を強制実行。マイクロギアの局地重量を5,000%まで増加。]
――ギシッ。
静かに、そして誰にも気づかれることなく。
サルゴンの至高の権能法則が、ヴァックスの襟元からわずか三インチほどの空間ポケット内部に存在する宇宙の台帳を書き換えた。
派手な爆発を引き起こしたわけではない。
莫大なエネルギーを放ったわけでもない。
ただ、その装置の微細機構を支配していた「重量」という概念を傍受し、それを何千倍にも増幅しただけだった。
瞬間。
山岳のように密度を持った不可視の大気圧が、隠された録音装置へと直接叩きつけられた。
内部の真鍮製マイクロギアが激しく噛み砕かれるように破損し、結晶製ストレージ針は微細な塵へと砕け散る。
そして低周波送信機は、サルゴンの声の周波数を微粒子一つすら記録する前に、完全に押し潰され、歪んだ金属片の平たい塊へと変わった。
ヴァックスは、自分の録音ワイヤーが音もなく破壊されたことにすら気づかなかった。
ただ胸元を、一瞬だけ小さな冷気が通り抜けたように感じただけだった。
サイバネティック・アイが、わずかな戦略的混乱を示すようにカチリと鳴る。
その前で、サルゴンはヴァックスを見下ろしていた。
前髪の下では、銀河を閉じ込めたような底知れぬ瞳孔が、ゆっくりと計算するように回転している。
「その提案、受けよう。情報屋」
サルゴンは平坦に告げた。
静かで無表情な声には、古代から存在するかのような重みが響いていた。
「だが、お前の録音ワイヤーは今、構造的な質量障害を起こした」
「シャードを受け取り、データ・マトリクスを渡せ。そして、この取引における立場を維持しろ」
「そうすれば、この路地を無傷で出ていける」
自分の衣服にすら触れていないにもかかわらず、隠されたワイヤーの正確な位置と、その破壊まで言い当てられた。
ヴァックスの顔から完全に血の気が引いた。
冷たい汗が仲介人のこめかみを伝う。
傲慢な商人としての自尊心は、サルゴンが放つ帝王の気配の前に完全に砕け散っていた。
理解したのだ。
目の前に立つ白髪の少年は――
自分が隠していた策略のすべてを、まるで開かれた本でも読むかのように見抜いている。
「は、はい……受け入れます、我が君!」
ヴァックスは必死にどもった。
サイバネティック・アイが、完全降伏を示すようにパニック状態で激しくカチカチと鳴る。
彼はベストの内側へ手を入れ、紫色に輝くデータ・マトリクス・チップを取り出した。
そして、それを補助艇の外部コンソール・テーブルへ置く。
直後、カエレンが投げ渡した二百個のエーテル・シャードが入った小袋を掴んだ。
「座標は確認済みだ! 隠し水門は安全だ! 俺は他には何も知らない!」
サルゴンは、ほんのわずかに心の中で頷いた。
ヴァックスは踵を返した。
そして暗い氷の通路を全速力で駆け去っていく。
その姿は完全な恐怖に支配されており、彼は長い年月にわたって沈黙を守ることになるほどの恐怖を、その身に刻み込まれていた。
「艇へ乗れ、カエレン」
サルゴンは平坦に命じた。
そのまま滑らかな動きで操縦室へ足を踏み入れる。
重厚なエアロック・ドアが、安心感すら覚える金属音を響かせながら閉じていった。
――ガシャン。
それによって、彼らは市場層へ迫りつつある賞金稼ぎたちの包囲網から完全に切り離された。
カエレンも滑らかに航法デッキへ向かう。
その荒々しい手が手動式の機械レバーを操作する。
長年の戦場経験によって磨き上げられた超人的な精度で、一切の無駄なく動かしていく。
そして、手に入れたばかりのデータ・チップを主ターミナル・グリッドへ差し込んだ。
すると――
ガラス製スクリーン上に、隠され、地図にも記録されていなかった火山性メンテナンス排気路が浮かび上がった。
そのデータは、安全かつ監視されていないスリップストリーム航路を表示している。
それは彗星の下部氷殻を一直線に貫き、厳重に封鎖された主要格納庫ゲートを完全に迂回して、外側の氷の尾根へと続いていた。
――ウゥゥゥゥン……。
主推進グリッドを起動することなく、小型の補助艇は滑らかに暗く凍てついた水門トンネルへと滑り込んだ。
地図にも記録されていない航路を、まるで暗黒の絹を切り裂く静かな影のように、音もなく突き進んでいく。
わずか五分後。
補助艇は彗星の下部地殻を勢いよく突き抜け、そのまま優雅に開けた星海へと舞い戻った。
そこには、巨大な船体を完全に隠蔽した《アル・ミラージュ》が、彼らの帰還を静かに待ち続けていた。
サルゴンは《アル・ミラージュ》の船底部への補助艇のドッキングが完了すると、ゆっくりと再び漆黒の玉座へ腰を下ろした。
紫色の商人ローブが、石張りの床の上を優雅に滑っていく。
今回の、極めて危険な局面を乗り越えたのは――
制御を失った圧倒的な力を派手に振るったからではない。
冷徹な知性。
絶対的な慎重さ。
そして、裏市場で得た資産を最大限に活用する高度な戦略。
その三つによって、彼はこの難局を完全に制したのだ。
彼らの幻影パラメータを安全に守り抜いた。
資金基盤を確保した。
そして、一発の銃撃すら交えることなく、精鋭賞金稼ぎたちによる待ち伏せを完全に回避した。
遠く離れた場所では、神々が空虚な宇宙を必死に捜索している。
だが――
その捜索の先に、サルゴンの姿は存在しない。
彼らが探し続けるのは、すでに何も残されていない虚空だけだった。
その一方で、至高の君主は静かに、誰にも知られることのない無法の星海の影の中で、自らの力を蓄え続けていた。




