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国境砦に潜む影

開けたエーテル海の深い藍色の潮流が、アル・メーラジュの黒曜石の船体をゆっくりと洗い流していた。


静寂に包まれた船は、オリンポス・セクターの崩壊した外縁部を通り過ぎていく。


船長室の内部は、暗く、涼しく、完全な静寂に包まれていた。


重厚な絹のカーテンが、通過していく遠方の星雲の光を遮っている。


その広大な部屋を照らしているのは、石柱に刻まれた紫色の幾何学模様のルーンだけだった。


それらは、かすかに、そして一定のリズムで明滅している。


サルゴンは、低い石造りの壇上で完全な瞑想状態に入っていた。


長く乱れた白髪が額の黄金のヘッドバンドの上へと無造作に垂れ下がっている。


その瞳は閉じられていた。


白く透き通るような胸が、ゆっくりと、そして意図的に一定の周期で上下している。


彼は【権威の支配者】を用いて、三日月型の小惑星から採取した生の時空元素を、自身の損傷した霊的構造へと織り込んでいた。


聖なる宇宙嵐から受けた反動によって生じた、深部の微細な内部亀裂を修復するためだ。


しかし――


その内部負荷は深刻だった。


閉じた視界の前には、宇宙システムのインターフェースが浮かび上がっている。


そこには、無機質で臨床的な警告文が、鈍い光を放ちながら点滅していた。

【警告:ユーザーの肉体は現在、『概念過負荷反動』により深刻な損傷を受けています。】


【現在の効率低下:38.4%(一時的)】


【未封印の原初の門は、現在その構造安定化を行っています。】


【推奨:肉体の永久的な劣化を防ぐため、今後24時間は『究極属性:至高なる虚無』の使用を制限してください。】

「フン……」


低く、共鳴するような音が床板を伝って静かに響いた。


サルゴンの左手に嵌められた液状星金属の指輪――【至高者の印章:ニヒル】が振動し、戦術的な空間警報を直接彼の意識へと伝達する。


「至高者様」


コア・スピリットの機械仕掛けの鷹のアバターが、天井の影から音もなく姿を現した。


星座で構成された翼が、警戒するような淡い青色の光を放っている。


「船はオブシディアン・トレンチの中立国境裂け目へと進入しました。カエレンが我々を、【ラスティ・マーク】と呼ばれる無法の天空前哨基地のレーダー影へ停止させました」


鷹は続けた。


「そこは、独立系の宇宙冒険者、無法な傭兵ギルド、そして闇市場の密輸業者たちによって支配されている交易拠点です」


サルゴンはゆっくりと漆黒の虚無眼を開いた。


瞳の中に浮かぶ小さな銀河が、静かに、気怠げな円を描いて回転している。


彼は微動だにせず、いつもの気楽で無関心な平静を保っていた。


「なぜ止まった?」


「若君様の肉体は、効率低下を迅速に解除するため、高品質の安定化触媒を必要としています」


コア・スピリットは説明しながら、鳥のような頭部を低く下げた。


「航行アレイが前哨基地の巨大な大市場をスキャンしました。現在、下位の砂漠セクターから来た一人の無法商人が、希少な未精製の【エクリプス・ロータス】を競売にかけています」


「それは、損傷した霊脈を鎮めることができる宇宙植物です」


「しかし、前哨基地は高位の独立冒険者たちによって厳重に警備されています。そこで虚無術を解放すれば、そのエネルギー波動が近隣のエオン神々の追跡ネットワークを刺激するでしょう」


サルゴンは長い間、沈黙した。


その顔には一切の表情がなく、何を考えているのか完全に読み取れない。


彼は自分の限界を理解していた。


現在、彼の未封印の門はまだ弱すぎる。


肉体に効率低下のペナルティを抱えたまま、高位戦士の大群を相手に戦うことはできない。


「カエレン」


サルゴンが静かに命じた。


その穏やかな声が、広大な船長室の中へと鮮明に響き渡る。


重厚な木製の扉が、瞬時に開いた。


カエレンが部屋へ入ってくる。


重い革のブーツが石床を踏みしめ、硬い足音を響かせた。


聖なる宇宙嵐を操舵する際の凄まじい負荷によって、両腕には包帯が巻かれている。


それでも、その姿勢は鋭く保たれていた。


瞳には、サルゴンの【権威の法則】による鉄のような同調の下で、燃え上がるほどの集中力が宿っている。


もはや彼は、ただの機械的な奴隷ではなかった。


彼は、主君の帝国を実行するために鍛え上げられた副長だった。


「ご命令を、我が主君」


カエレンは片膝をつき、揺るぎない深い敬意を示した。


「船の少額貨幣の備蓄を持って前哨基地へ入れ」


サルゴンは冷たく命じた。


銀河の満ちる瞳が、戦士を真っ直ぐに見据える。


「【エクリプス・ロータス】を確保しろ」


「虚無属性は一切使うな」


「己自身の力だけで取引を処理しろ」

「御意のままに」


カエレンは答えた。


立ち上がると、湾曲したシミターの柄へと手をしっかり添え、そのまま踵を返してメインデッキへ向かって歩き出した。


――十分後。


カエレンは【ラスティ・マーク】の結晶化した錆びた鉄製ドックの上に立っていた。


その前哨基地は、死んだ宇宙巨大生物の骸の上に築かれ、虚空を独立して漂う、広大で混沌とした巨大都市だった。


巨大な鉄製ジッグラトが紫色の空へ向かってそびえ立っている。


大気には、機械油の臭い、揮発性マナ結晶の刺激臭、そして精製されていない生の元素エネルギーが充満していた。


何千人もの魔導鋼鎧を身に纏った冒険者たち。


高位の宇宙傭兵部隊。


そして、人ならざる種族の商人たち。


彼らが巨大な大市場の狭く混雑した通りを行き交っている。


カエレンは暗い外套を肩へきつく巻き付け、黄金の腕輪とシミターに刻まれた紋章を隠した。


彼は、歴戦の砂漠生存者だけが持つ、熟練された無音の身のこなしで群衆の中を進んでいく。


サルゴンの命令と完全に同調した彼の精神は、絶対的な戦術効率で機能していた。


珍しい武器にも、希少な魔法巻物にも、彼は一切興味を示さない。


その視線はただ一点――


市場の中心へ向けられていた。


そこでは巨大な鉄製の舞台が設置され、その周囲を高位の買い手たちが殺気立った群衆となって取り囲んでいた。

舞台の上には、傲慢な第4階位の地属性アーク・アークコンが立っていた。


その手には、水晶ケースが握られている。


中には、漆黒の花弁を持ち、冷たく穏やかな紫色の霧を放つ花が収められていた。


――【エクリプス・ロータス】。


「開始価格は五千コズミックコイン!」


商人が叫ぶ。


大音量のマナ・アレイによって増幅された声が、市場全体へと響き渡った。


「魂脈の精製に最適な触媒だ! 六千はいるか!?」


「六千!」


最前列にいた地元傭兵ギルドの屈強な武装隊長が怒鳴った。


その瞬間――


カエレンが絹の天幕の影から一歩踏み出した。


彼の声が、騒然とした市場を冷たく切り裂く。


「七千」


群衆が一斉に振り返った。


視線が、外套を纏った一人の男へと集中する。


傭兵隊長が鼻で笑った。


その巨体から、重く轟く第4階位マナの障壁が放たれる。


「七千五百! 旅人、墓を買う前に引っ込め!」


「一万」


カエレンは即座に答えた。


その表情は完全に無表情。


買い手たちを苛立たせるほど、何事にも動じない静かな態度だった。


彼は高位コズミックコインの詰まった重い絹袋を舞台へ放り投げる。


金属製の硬貨が鉄の床へ激しくぶつかり、大きな音を響かせた。


商人の目が強欲に見開かれる。


「一万コイン!」


「一度目……」


「二度目……」


「落札! この外套の旅人だ!」


カエレンは前へ進み出た。


重いブーツが階段を踏みしめ、硬い音を響かせる。


そして、水晶ケースへ手を伸ばした。


だが――


指先がガラスに触れる寸前。


ガァンッ!!


重厚な魔導鉄槍が、カエレンの手とロータスの間へ猛烈な勢いで叩きつけられた。


その衝撃で舞台の床に亀裂が走る。


「その手を引け、ネズミ」


舞台脇から、嘲笑するような声が響いた。


ジッグラトの影から、三人の精鋭高位聖戦士が姿を現した。


彼らは磨き上げられた銀色の鎧を身に纏っている。


前哨基地の私設警備執行官たちだ。


三人とも、全員が第4階位の絶対的な頂点領域に達していた。


その部隊の隊長――


顔に大きな傷跡を持つ騎士が、巨大な大剣を手に、カエレンを見下ろす。


その眼差しには、露骨な侮蔑が浮かんでいた。


「ラスティ・マーク評議会は、今しがた外部から来た全購入者に対する緊急税を発令した」


銀騎士が嘲笑する。


手にした大剣が、鋭く眩い光を放つ。


「追加で五千コインを払え」


「さもなければ、そのロータスはここに残る」


そして――


「もしその規則が気に入らないなら……」


騎士の笑みがさらに深くなる。


「貴様の魂を虚空の餌にしてやる」

巨大な大市場全体が、死んだような静寂に包まれた。


周囲の冒険者たちは薄笑いを浮かべながら、一人の旅人が青ざめ、命乞いをするのか、それとも精鋭執行官たちに殺されるのかを見物しようとしていた。


だが――


カエレンは一切ひるまなかった。


ゆっくりと外套から手を離す。


暗い布地が床へと落ち、その下から、包帯で厚く覆われた両腕、磨き上げられた黄金の腕輪、そして腰に鞘へ収められた、血に染まった湾曲刀――シミターが姿を現した。


カエレンは三人の銀騎士を見据える。


その鋭く、幾多の戦場を潜り抜けてきた眼差しは、サルゴンの法則による鉄のような同調の下でも、微動だにしなかった。


彼は主君が休んでいることを理解していた。


そして、自分に課せられた絶対的な使命が何なのかも理解している。


――宇宙規模の注目を引き起こすことなく、薬を確保する。


「貴様らは、まるでその鋼が評議会の税を裏付けられるかのように語るな」


カエレンの声が低くなる。


それは、砂漠の戦場を一生涯にわたって生き抜いてきた男だけが持つ、剥き出しの経験と殺気を孕んだ、低く危険な唸り声だった。


「貴様らの鎧が磨き上げられるより遥か昔、俺は砂漠で一個軍団を丸ごと殺した」


「退け」


カエレンの手が、ゆっくりとシミターの柄へ添えられる。


「さもなければ――」


鋭い眼光が三人を射抜いた。


「この舞台を貴様らの血で染める」


銀騎士の顔が、純粋な怒りに歪んだ。


「殺せ!」


その瞬間――


三人の精鋭高位戦士が、咆哮とともに同時に前方へ突進した。


彼らの魔導武器が一斉に起動する。


凄まじい閃光とともに、眩い聖属性マナが激しく噴き上がった!

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