資本主義
岩戸クランは、総勢13名。
ゾンビドラゴンの討伐に向かう。
その後ろを現地民の《ベアラー》20名が着いて行く。
「おーほほほほ!
水も食料も十分にございますわ!!
快適でございましょう、皆さま!!」
得意満面の徳川は、調達した食料や水を惜しげもなく配った。
この方法が快適なのは、否定できない。
だがこの《ベアラー》たちは、奴隷だという。
重りが着いている訳ではないが全員、鎖を着けている。
どこへ逃げてもそれが目印となる訳だ。
「あの連中は、どこで雇った?」
岩戸が徳川に訊く。
分かり切ったことだ。
「カズラクの商人たちから買い上げましたわ。」
買ったという事は、つまり命こみの値段で手に入れたということ。
この冒険で死のうと構わないという訳だ。
「奴隷だって?
本物のか。
……悪趣味なことをする。」
胸のムカつきを覚えた岩戸がいった。
しかし徳川は、笑い飛ばす。
「おーほほほほ!
お金持ちがお金で人を雇うのがそんなに不愉快なんですの?
これは、予共の世界でも当たり前じゃありませんこと。
奴隷もサラリーマンも同じでしょう。
違うとお思いになりたいんですの?
奴隷は、主人が衣食住の面倒をすべて看る。
サラリーマンは、主人から貰った賃金でそれらを自分で整える。
この自分で調達するという形式が誤解を生むのですわ。
金であれ、直接与えるものであれ。
結局は、主人から生計を受け取っているのは、同じこと。
それを間接的に見せることであたかも奴隷である事実を誤認する。
奴隷を見て庶民が不愉快になるのは、それをお認めになりたくないから。
岩戸、貴方は、お勉強を頑張ってますけど……。
貴方がどんなに出世しても労働者階級は、支配者にはなれませんわ。
せいぜい奴隷同士、限られた自由、鎖の長さを競うことね…!!!
おーほほほほ!!!」
徳川の不遜な物言いは、他の12人全員が聞いていた。
特に綾瀬の顔は、真っ赤になってる。
「で?
ゾンビドラゴンは、どれぐらい進めば見えますの?」
徳川が質問する。
だが誰もが徳川に対し、口を閉ざしたい思いでいた。
誰一人として徳川の質問に答えようとしない。
だが十太郎だけが率先して答える。
「そんなすぐには、見つからない。
きっと向こうもこっちを探してるんだ。
疲労のピークを待ってるだろうから…。」
徳川を含め12人が少なからず驚いた。
微笑みを浮かべた徳川は、十太郎に近づく。
「あら。
よく見れば可愛らしい顔をしてるじゃありませんこと?」
といって徳川が十太郎に手を伸ばした。
優しく伸びて来た手が、いきなり十太郎の鼻を摘まむ。
「………ぐえ!?」
「調子に乗るんじゃありませんわ!
ちょっと可愛いって言われたぐらいで身分を弁えなさいッ!!」
ぱーん!
徳川の平手打ちが十太郎を見舞う。
だが叩かれた十太郎の目が光った。
夜桜がすぐに反撃に出る。
鋭い平手打ちが弧を描き、遠慮なく徳川を強かに打った。
それは、徳川の首が半回転し、彼女自身が膝を崩すほどの勢いだった。
電光石火の出来事に全員がカエルみたいに目を開いて口を開ける。
「………こ、このっ。
予を誰と思っていますの!?」
「うるせえ。
ここで輪姦すぞ。」
夜桜が風も凍り付く眼光を飛ばす。
これには、徳川も真っ青になって口をつぐんだ。
肝を冷やす応酬に誰もが言葉少なく黙り込むしかなかった。
ただ沈黙だけが13人の冒険者たちの頭上にあった。
カズラクを出発して2日目。
その道程で思わぬ問題に直面した。
13人の冒険者と20人の荷運び。
合わせて33人の大集団が砂嵐から身を隠せる閉所の所在だ。
大きな岩の隙間、窪地、洞窟、谷…。
日本の山の中なら問題なく見つかるが、ここは平地のサバンナだ。
これまでの冒険では、6人前後が身を隠せる場所で良かった。
だが今回は、ざっと5倍以上の広さを必要とする。
もちろん事前に分かっていたことだ。
しかし徳川が20人の荷運び奴隷を連れて来たのは、想定していない。
ただし20人の荷運びが運んでいるのは、食料と水である。
これによって水源を巡る必要はなくなった。
かなり行動の制約を受けずに済むが岩戸の頭を重くした。
「しかし思った以上、33人が身を隠せる場所がないな。
いざ寄ってみるとギリギリだ。」
岩戸がスマホで地図を確認した。
ここまでかなり広い場所を選んで進んでいる。
それでも思った以上に人間を詰め込むことになっていた。
「………ここを通るか?」
地形を思い出しつつ距離と時間を何度も計算する岩戸。
そこに
「別に荷が無くなった荷運びは、捨てて行きますわ。」
徳川があっさりといった。
一同、唖然とする。
「お前は、自由よ。」
徳川が一人の奴隷を解放した。
だがここは、ハイエナやライオン、ゴブリンさえ跋扈する異界のサバンナ。
幸いにして難敵のワイバーンこそいないが街まで一人で帰り着く可能性は、紙のように薄い。
それでも奴隷は、一縷の望みを胸に走る。
徳川に鎖を外され、金貨を受け取って一目散に走った。
「あ、ありがとうございます、ご主人様ァ。」
走り去る奴隷の背を12人の高校生が見送った。
綾瀬が訊く。
「………正気か?」
「問題ありませんわ。
まだ二日の距離ですもの。」
そう言って徳川は、胸を張った。
十太郎が訊く。
「残りの連中は?」
「ゾンビドラゴンを倒せればシャディザールに到着する。
そこで解放する約束になってますわ。」
奴隷にしてみれば4日で自由を得るまたとないチャンス。
身体を壊すか病気になる危険を抱え、十幾年過ごしても自由は遠い。
破格の好待遇だ。
「さあ、皆さん。
可哀想と思うのなら、この冒険を成功裏に収めることですわ。
おーほほほほ!!」




