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来やがれ!ダンジョン学園!!  作者: 志摩鯵
第2話「くたばれ!ゾンビドラゴン!!」
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ゾンビドラゴン




4日目。


「来たぞ。」


ゾンビドラゴンが飛び回っている縄張りにもっとも近いガレオン船の残骸。

ここが最後の休憩地点だ。


「それにしてもここまで、もう何十kmも西に来たよな?

 なんでこんな船が陸地に残されてるんだ…?」


十太郎がガレオン船を中から見上げながら言った。

横倒しになった船体は、大きく裂け、左舷の隙間から青空が見える。


「いや…。

 スマホで確認すると230kmぐらいは海岸から進んでるよ。」


岩戸がスマホを調べながら答えた。


だいたい東京都から静岡県までの距離だ。

海岸から陸側という意味では、長野県に届く。


東京湾から長野県まで離れた場所にガレオン船の残骸がある。

確かに奇妙な話だ。


「お前たちは、ここに残りなさい。」


徳川が奴隷たちに命令した。

だが綾瀬が横から口を出す。


「待ってくれ、徳川ガール。

 もし猛獣やモンスターが来たら一溜りもないぞ。」


「じゃあ、ゾンビドラゴンと戦っている所まで連れて行きますの?」


徳川が馬鹿にするように片眉をつり上げる。

確かにどちらも肯首し難い。


「ともかくここは、不味いよ。

 連れて行くべきだと思う。」


十太郎がいった。

徳川は、首を傾げる。


「は?

 わたくしの奴隷をどう扱おうと予の自由ですわ。」


そういって口の端を曲げる。

だが十太郎は、首を横に振って答えた。


「自由を約束したなら、責任を持つべきだ。」


「………こいつらを守りながら戦えと?」


「そう。」


十太郎がキッパリと言い切ると徳川は、目を泳がせる。

しばらく何か考えていたが十太郎に賛成する。


「当を得た考えですわ。

 でもそれは、他の11人の同意を必要と致しますわね。」


徳川がそう言うと話を聞いていた11人が口々に答える。


「論外だ。」


岩戸が不愉快そうにいった。

腕を組み、顔をしかめている。


「はっはっは!

 俺は、良いぞ!!」


と綾瀬だ。

親指を立て、ニッコリと笑う。


「どーでもいい。」


青柳は、弓の手入れ中でずっと背を向けている。


「反対です。」


藤田も弓を見ながら答える。


「反対だな。」


と乙倉。


「よっしゃ、それ賛成!!」


高橋がガッツポーズする。


「私も賛成!」


と高本。


「続けて賛成!!」


大暮も高橋、高本に続く。


「ダメだ。」


と中野。


「あり得んな。」


と宗像。


「ああ…ええっと。」


相田がデカい体で最後まで悩んでいる。

すると仲間の綾瀬たちが一斉に急かした。


「賛成だろ?」

「賛成でしょ!」

「賛成じゃん!」

「賛成しかない!」


すると青柳も困った顔で


「じゃあ、俺も賛成で…。」


と前言を撤回した。

これでは、相田も賛成するしかない。


「じゃあ…、賛成です。」


「ふざけろ。」


岩戸が組んでいた腕を広げ、徳川と十太郎を睨み付ける。

いつものように感情的に喚き出した。


「……奴隷なんかどうなっても良いだろ?」


「勿論ですわ。」


徳川が黄金の髪を靡かせて胸を張る。

両手を腰につき、顎を突き出し、傲岸に答えた。


「予の名誉に誓って。

 彼らをシャディザールまで辿り着かせるため、可能な限り努力する。


 予は、そう約束しました。

 予の名誉は、彼らの命より貴い。

 決して傷つけることなどあってはなりませんわ。」


なんて理屈だ。

岩戸が歯を剥いて顔の筋肉を痙攣させた。

見えないように顔を背けた藤田が笑っている。


「予にそれを気付かせたのは、西岡十太郎。

 感謝しますわ。」


徳川は、そういって十太郎に一礼をする。

十太郎は、含羞はにかんで頭を手で掻いた。


「…馬鹿な。

 俺は、手を貸さんぞ!!」


岩戸が吐き捨てるようにいった。

なおも喚き散らす。


「こいつらだって信用できるものか!

 どうせ口先だけだ!!」


そう言って綾瀬や十太郎たちを指差し、睨み付ける。

高橋が”くたばれ”と無言で口だけ動かした。


「安っぽい漫画の主人公にでもなったつもりか!?

 ここに残しておけばいい!!

 頭の中にカエルでも飼ってるんじゃないのか!?」


岩戸が大騒ぎすると宗像も参加した。


「岩戸君のいう通りだ。

 そんなの二重に危険を冒すだけで何にもならないよ。」


「次に何か言ったらキンタマ潰すぞ?」


夜桜が睨み付けると岩戸も宗像も黙った。

12人の瞳が十太郎の右手に一斉に向けられる。


長い沈黙がガレオン船の残骸を支配した。

やがて十太郎が堰を切る。


「………岩戸君。

 出発しても良いんじゃないかな?」


「………そうしよう。」


岩戸がそう言って剣を腰に、盾を背に。

綾瀬たちは、馬上に移った。


「さあ、いよいよ本戦だ。

 行こう……!」


岩戸を先頭に20人は、ガレオン船を離れる。

荷運びたちの背には、もう荷はない。






「っしゃあああッ!!

 先陣を切るのは、俺たちだ!!!」


綾瀬が剣を頭上に振り上げた。

他の4人もサーベルを抜く。


5人の《ナイト》が馬の脚を早める。

リズムカルな蹄の音が戦いの前奏曲となった。


「ゴアァオァア………。」


腐り果てたドラゴンが岩山から姿を見せる。

落ち窪んだ目が人間の姿を捉え、大顎を開いた。


「始めろ!!」


青柳、藤田、乙倉、中野、十太郎。

弓か魔法で攻撃できるメンバーが一斉攻撃を始める。

けたたましい音と光を伴ってゾンビドラゴンの腐肉が飛び散った。


「ゴァァァアアア………!!」


ゾンビドラゴンが首を捩って悶える。

朽ちた翼を広げて悶え、長い尾が岩肌を沼田打のたうつ。


「おい、徳川さん!」


岩戸が驚いたように隣にいる徳川に声をかける。


「なんでそこに突っ立ってる!?」


「あら?

 予に雑兵と共に斬り込めとおっしゃいますの?」


そう答えた徳川は、剣を杖にして両手を置き、仁王立ちしている。

不思議そうに首を横に向け、岩戸を見ていた。


「おッ……仰います!!」


そういって岩戸が地団太を踏んで喚く。

徳川も溜め息を吐いて空を仰ぐ。


「はあ…。

 その判断、後悔しますわよ?」


捨て台詞を吐いて徳川は、前に出る。

剣を抜き、ゾンビドラゴンに飛び掛かった。


綾瀬たちは、互いに回復し合いながら騎馬突撃を繰り返していた。

《ナイト》は、《プリースト》に劣るものの神聖魔法を使用できる。


「はっはっはっはっは!!!

 こんなデカい奴を相手に戦うのは、楽しいな!!!」


綾瀬は、剣でゾンビドラゴンを突き、素早く離脱する。

入れ替わりに大暮、相田、高橋、高本が続く。


「あら?

 逃げ回るために馬を連れていらしたの?

 予の剣の冴え、逃げながらご覧になるものではなくってよ?」


徳川は、大きな口を叩くだけのことはある。

ゾンビドラゴンの振り回す尻尾を剣で弾き、大顎にも斬り返す。

その剣捌きは、《ナイト》と一線を画す働きを見せた。


《ソードマン》に就いている学生は、少なくない。

しかし大抵は、Lv7~8の間にCC(クラスチェンジ)している。


もちろんステータス上は、4~5ぐらいしか違わない。

だが習得スキルなどの補正が働くのだろう。

あるいは、徳川が()()やっているか。


(江戸柳生新陰流…。

 まさか、そんなものを習得した高校生がいるとはな。)


夜桜が嘆息した。

もちろん彼女が渡り歩いて来た世界なら珍しくもない。

しかしこの平和で異能の戦いもない世界に剣術を身に着けた高校生は珍しい。


(じゃあ、あれは、徳川さんの素の能力!?)


頭の中で十太郎が夜桜に訊く。


(ああ…。

 見覚えがある。

 他の世界でも新陰を使う高校生は見た。


 しかしあれは、江戸柳生だ。

 徳川宗家、将軍の剣だ。

 初めて見た。)


「さあ、後学になさい!!

 この徳川龍外、技を惜しみは致しませんわ!!」


徳川の攻撃は、ますます鋭くはやくなる。

圧倒的だ。


「なんだ…あの動き………!」


岩戸の視線が慌ただしく徳川を追う。

汗が頬を伝い、顎先から滴る。

徳川の驚異的な動きに一同が息を飲んだ。


「すっげ…。

 あんなジャンプしてぇ…。」


バレー部の高橋は、見ているところが違う。

彼女の視線の先にゾンビドラゴンを真向から斬り下げる徳川の雄姿があった。


「ゴアァァオァアァアァ………!!」


頭が真っ二つになってもゾンビには、関係ない。

零れる脳ミソが堪らない悪臭を放つ。


「うげ……臭ッ!」


徳川が腐肉に顔を背けた。


この一瞬の隙を見逃さずゾンビドラゴンは、徳川を前脚の餌食にする。

続けて綾瀬たち、5人にも襲い掛かった。


徳川が縦に割った頭がそのまま二つに別れる。

頭が半分になってもゾンビドラゴンには、関係ない。


「嘘だろ…?」


目を丸くして綾瀬が口をポカンと開けた。

2本になった首が綾瀬たちをはしこく追い回す。


「いやッ!!」


まず高橋が噛み潰される。


「ぎぇ!?」


首に気を取られた綾瀬は、尻尾に打たれた。


「いや、あああ!!」


大暮は、立ち止まった所で馬から振るい落とされる。

そこへ首が伸びて来て無惨に咀嚼された。


「やだ!!

 負けたくない!!

 負…!!」


高本は、必死に応戦するも前脚に刎ねられる。


「は、はひ!」


残った相田は、失神して馬から落ちる。

その時に頸椎が脳を下から突いて死んだ。


「ゴアァァァ………!!!」


勝ち誇ったようにゾンビドラゴンは、咆哮する。

残った岩戸や奴隷たちが青褪め、その威容を見上げた。


(何、終わったつもりになってる?

 まだ半分じゃねえか。)


不敵に夜桜が笑う。

だが十太郎は、狼狽えている。


(いや、でも…。

 綾瀬君も徳川さんもやられちゃって…!!)


(寝ぼけてんじゃねえ。

 ゾンビを仕留めるのは、お前の神聖魔法だろォが。


 野郎は、十分に弱ってる。

 あとは、テメーがキメて終わりにしろ。)


そう言って夜桜は、十太郎を前に押し出した。


「お、俺の後ろに…!!」


宗像が大盾を奮ってそう言った。

藤田や青柳、乙倉は、宗像の後ろから攻撃を続けている。


だが敵がその気になれば、まとめて一蹴されるだろう。


「裁きの光!!!」


十太郎が神聖魔法でゾンビドラゴンを攻撃した。

出力の大きな射程の短い攻撃魔法に切り替える。


「うう……!!」


岩戸は、目を泳がせて何も言えない。

この場に至って口出しすることを止めた。

指揮官を気取っておいて責任を自ら投げ捨てたのだ。


「い、岩戸君!!

 西岡君を行かせていいのか!?」


宗像が叫んだ。

返事はない。

岩戸は、もう口出ししない。


十太郎は、ゾンビドラゴンの前まで駆けて行った。


「さ、裁きの光!!!」


眩い輝きがゾンビドラゴンを打つ。

これまでと比べ物にならない大きな手ごたえ。

空気が振動し、大地が鳴動した。


「うあ…ああ……!?」


岩戸が膝から体勢を崩して倒れ込む。

いま、ゾンビドラゴンの身体が崩れ、青い炎を噴き上げた。


「やったァァァー!!」


荷運びの一人が両手を上げて叫んだ。

他の奴隷たちも大喜びで西を目指して走り始める。


「自由だー!」

「自由だッ!」

「ナブネルにかけて、自由だァ!!」


今、太陽が傾き、地平線の彼方、夕日の中に大きな尖塔の街が見えた。

シャディザールの街並みだ。


「はあ、はあ、はあ…。」


十太郎は、魔力を使い果たし、地面に膝を着く。

汗が額から直接、乾いた大地に落ちた。


「やったの?

 ………西岡君が?」


藤田がいった。

乙倉が目を丸くして頷く。


「ああ。

 ゾンビドラゴンを倒した!

 道が開けた…ッ!!」


「岩戸君、西岡君がやったよ!」


中野が岩戸の背中を叩いていった。

しかし岩戸は、まだ呆けている。


「………。」


何も出来なかった。

十太郎も綾瀬も徳川も他の皆も奮戦した。

だが自分は、この戦いの中、立ち竦んでしまった。


それは、これまでの連敗のせいで諦めがどこかにあったせいだ。

徳川がやられ、綾瀬たちが全滅。

その瞬間に緊張の糸が途切れてしまった。


「く…!」


しかしここで失態を認める訳にはいかない。

岩戸は、なんとか気持ちを奮い起こし、さも気丈に振る舞った。


「よ、よし。

 これでシャディザールへの道を確保したぞ!

 他のクランに先んじられる前に先へ進もう…!!」


生き残った岩戸クランのメンバーは、西へ歩き始めた。




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