連環
さあ、どうしよう。
どうすればいい。
しばらく十太郎は、目を泳がせていた。
葉月もなんだかソワソワしている。
買い物も済んで御飯も食べた。
さあ、次はどうする。
そんな時、急に覚えの無いスマホの着信音と振動。
「うえっ!?
………俺のポケットから?
どこだっ!?」
十太郎は、見たことのないスマホを摘まみだす。
いや、鳩巣の仕業か。
「………ロックが解除された?」
いつの間に十太郎の指紋で登録したのか。
指紋認証でスマホのロック画面が解除される。
「えっ、何?
どうかした…?」
葉月が気になって十太郎に訊いた。
どうも十太郎のスマホだと思っているらしい。
それは、そうだ。
普通に考えて他人が知らぬ間にスマホを滑り込ませるとは思わない。
十太郎のポケットにあるのは、十太郎のスマホだと結びつける。
慌てて十太郎は、葉月をはぐらかした。
「ちょ、ちょっとごめんね…。」
「………西岡君?」
電話からは、聞いたこともない女子の声。
ハッキリ分からないが鳩巣ではないことは、辛うじて分かった。
鳩巣の声は、うるさいオバサンみたいな感じだ。
電話の声は、静かで柔らかい声色だった。
「怪しまれないよう適当に相槌を…。」
電話の相手は、そういって十太郎に演技を促した。
「………え、あ…。
メイ義姉さん?
な、何か用?」
とりあえず葉月に勘付かれないように誤魔化しておく。
このスマホは、誰が入れて、何のために仕組んだのか。
電話の相手から聞き出さないと…。
「私は、獅子王伊豆守。」
「えっ!?」
驚いた十太郎がスマホを離して画面を見ると名前が出ている。
獅子王伊豆守。
誰だ。
聞いたこともない名前だ。
鳩巣の仲間、幽撃倶楽部のメンバー?
それとも中学に居たか、こんな名前の女子?
義姉か義妹の友達?
「え、ええー?
ああ、義姉さん、俺、ちょっと帰るのが遅くなるかもー?」
「西岡君。
今、倉橋さんを抱いてあげた方が良いと思います。」
獅子王を名乗る女は、そう言った。
その口振りは、何もかも知っているようだ。
「うん!?
………うん。」
十太郎は、相槌だけを返し続けている。
「恋愛は、勢いですよ。
女の子とすぐにセックスしたら悪いと思っているでしょう?
でも女の子は抱かれないと自分に魅力がないのかなって考えてしまいます。
誘って貰えないと拒絶されたような気持ちになります。
拒絶された回数ほど辛くなるだけです。
だから絶対、セックスに持ち込むべきなんです!」
「へえ…えっ、はいー?」
十太郎は、近くをチラチラと見渡した。
電話の相手は、近くにいるんじゃないか?
それにしてもなんでこんなに全てを知り尽くしているんだ?
っていうか何で急に他人の人間関係に口出しする?
「…西岡君の考えてることは、分かっています。
他の女の子と関係がある自分が倉橋さんを受け入れるべきか?
それで西岡君は、悩んでいる。
でも、そんなこと気にしないで!
それは、女の子同士の問題じゃないですか。」
なんだ、コイツ…。
ある意味では、夜桜より無茶苦茶な奴だな。
十太郎は、嫌な汗でぐったりして来た。
「でも、最後はきっと私を選んでくれますよね?
ふふふ…。
じゃあ、西岡君、黒武さん、また…。」
「!?
あんた、いったい!?」
電話は、切れた。
十太郎は、改めて葉月の様子を伺った。
葉月は、どう思ってるんだろう?
「どこ行こっか?」
ソワソワしながら十太郎は、葉月に声をかける。
「そうだね。
…私、やっぱり十太郎の部屋に行きたいな。」
やっぱりそう来るか。
十太郎は、ドキリとして肩を揺らした。
「本気…?」
十太郎は、足を止めて葉月を、じっと見つめた。
彼女の表情は、様々な感情が去来していることを物語っていた。
恋、恐怖、期待、熱情…。
「ずっと十太郎に触れて欲しかった。
8年間、また会えたら良いなって……。」
葉月の声が上擦った。
ずるい。
これと同じことを男は、口に出来そうにない。
「ありがとう。」
喘ぐように十太郎も声を絞り出した。
「でも……俺は、ダメだ。
義姉さんや葵とも……いろいろ流されて来たし。」
「そんなことどうでもいいよ!」
葉月は、そういって十太郎に飛び込んで来た。
豊満極まりない超乳が弾み、十太郎も溜まらず後ろに倒れそうになる。
「十太郎は、私に興味ないのっ!?」
葉月が十太郎を必死に抱き締めた。
所詮、十太郎は、押しに弱い。
「………俺もお前と。」
葉月を物にしたいという欲望は、十太郎にもある。
二人は、ただ刹那の亢進に身を任せた。
互いに唇を合わせ、荒い吐息を漏らした。
「あむ…。」
日曜になって十太郎は、家に戻った。
「ただいま。」
「十太郎兄さん!」
義妹の葵がすっ飛んで来た。
パンを捏ねていたのか手にパン生地が着いている。
「おかえり!!」
「うん。」
十太郎は、返事して自室に向かう。
義兄の背中に義妹が喚いた。
「ねえ、十太郎兄さんは、外の女と結婚する気?
他所の家の子になっちゃうよ!!」
義妹がそう言うと義姉が叱りつけた。
「あんた、そういうこと言わないの。」
「でも、メイ義姉さん~!」
義妹は、いーっと歯を噛み合わせて悔しがる。
義姉は、はぐらかすように話題を転じた。
「ほらっ。
2次発酵の途中なんだから。」
「うええ~。」
義妹は、急いで台所に戻ってパンを整形しにいった。
それを見届けて義姉は、溜め息をつく。
あの子。
まさか本当に義理の兄と結婚する気でいたのかしら…。
メイにとって十太郎は、玩具に過ぎない。
遊びだ。
遊びだがセックスが愛情の源には、違いない。
赤の他人の男と同じ屋根の下にいるのだ。
特別な感情がなければ不潔にしか感じられない。
しかし中学から高校。
十太郎の行動範囲が広がれば家からも遠のく。
普通の人間ならどれほど家と距離を取っても血の繋がりがある。
しかし十太郎にとって家から離れることは、特別な意味を持った。
それを継親もメイも咎めたりしない。
十太郎が家から離れた時、家族がどうなるのか想像もできない。
正真、血の結び付きのある家庭だって崩壊しない保証はない。
自信はない。
だがそれは、井嶋・宮澤家の問題だ。
西岡十太郎が西岡家を再スタートさせるのを邪魔立てすることはない。
「西岡十太郎、追放か………。」
メイは、それほど感慨深くなく、そう呟いた。




