デート
翌朝。
「うう…。
うう……。」
十太郎は、義姉のお尻が顔に来ている状態で目が覚めた。
両脚が首に絡みついている。
「殺されるー。」
十太郎は、義姉の脚を振り解いてベッドから逃げるように起きる。
静かに着替え、下に降りていった。
「継母さん。」
珍しく継母が台所にいる。
普段は、義姉と義妹が料理担当だ。
継父は、寿司屋だが家で料理しているところを見たことはない。
「貴方も大変ね。
いつも二人の玩具にされて…。」
「ははは…いや…ははは。」
十太郎は、苦笑いするしかない。
テーブルにある義妹の作ったパンを食べる。
「今日、外出するから。」
「彼女?
ようやくあんたにも普通の女の子ができたのね。」
継母は、そういって苦笑いした。
どこに行ってもメイと葵がべったり十太郎には、くっ付いていた。
二人が血の繋がらない姉妹だということは、小中と噂になっている。
そのせいか女子は、十太郎を敬遠している節があった。
義理とはいえ姉と妹と関係のある男子。
修羅場も泥沼も外野だから楽しいのだ。
これでは、芳醇に匂い立つ美味な果実が熟れていても誰も手を伸ばさない。
「上手く行くと良いね。」
「う~ん。
倉橋葉月って子で幼馴染だったんだけど。」
「ああ…。
小学校の頃に仲が良かった子ね。」
継母は、つい昔のことを思い出した。
いつも義姉と義妹がくっ付いていて友達ができない十太郎。
そんな彼に随分と親しくしていた元気そうな女の子を。
「確か小1で引っ越ししていった…。
こっちに戻って来たのね。」
「うん。」
朝御飯を食べ終えた十太郎は、約束の場所に向かう。
既に葉月が待っていた。
「おーい!」
葉月が手を振って十太郎を呼ぶ。
葉月は、半ズボンにTシャツとボーイッシュな選択。
胸には、大きなAvenirフォントで”FAILED”。
特に半ズボンは、形が物凄くダサい。
大きな乳と臀は、着られる物を制限する。
自然と男物ばかりになってしまうのだろう。
「やあ。」
やっぱりご機嫌取りみたいで気が引けるな。
十太郎は、騙してるみたいで気が晴れなかった。
「服が欲しいんだよね。
ちょっと見て貰って良い?」
「うん。」
十太郎は、上の空で葉月に返事する。
やっぱり止めようかな。
葉月を《スケロスの窖》に誘うのは…。
怖い思いをするだろうし、危険な奴がいっぱいいる。
命は、安全でも嫌な思いはするだろうし。
何より信じて貰えないかも知れない。
「どう?
まだ早いけど水着も見てくれる?」
「うん。」
上の空の十太郎と楽しそうに買い物する葉月。
十太郎は、金には困っていない。
向こうから持ち帰った金貨は、岩戸が独自のルートとやらで換金していた。
使っても使い切れない大金だ。
「じゃじゃーん!」
葉月は、男の欲望を掻き立てる刺激的な水着を選んだ。
思わず誰もが振り返ってしまうような画面だ。
しかし十太郎は、浮かない。
「ちょっと凄すぎじゃない?」
「何着ても私は、凄すぎるんだよ。
ほら。」
といって胸を揺すった。
乳房が撓み、淫靡な景を作る。
津波の破壊力だ。
それでも十太郎は、憂鬱だ。
「何食べようか?」
「ラーメンで良いかな。」
二人は、近場のラーメン屋を選んだ。
別にSNSの人気店でも何でもない。
席に着くと十太郎は、少しずつ情報を小出しにすることにした。
「ねえ。
………葉月って。」
「うん?」
「ゲームとか好き?」
とりあえずこの辺りかな。
でもゲームが好きだからって異世界冒険は、飛躍してるよな。
「別に普通だと思うけど…。」
「じゃあ、旅行とか…。」
「分かんない。
ウチは、あんまりそういうの行かないから。」
葉月は、話しながら店員を呼ぶ。
注文を受けにアルバイトがやってくる。
「すいません。
味玉鳥塩まぜそばください。」
「………ば→い゛。」
不愛想なアルバイトの女の子がメモを取る。
その上、なんだか声が酷くかすれていた。
(おい、夜桜…。
お前は、どうする?)
返事はない。
まだムクれてるのか。
「鯛ラーメンと地鶏白湯。
からあげとチャーハンセットで。」
「え゛→↓!?」
目を丸くしたアルバイトは、ペンを握って驚いていた。
口をぽかんと開け、カエルみたいになっている。
よく食べる人はいてもラーメンを二つ頼む人は、見たことがない。
それに十太郎は、そんなに食べるように見えない。
「ずぎまぜん↓…。
ぼ客様ば→、三名様でじょ↑ぶが→…?」
おずおずとデス声でアルバイトが訊く。
「ちょっとこいつ食べる量、おかしいから。
聞き間違いじゃないよ。」
と葉月がいった。
アルバイトは、言われた通りメモに書いてテーブルを離れた。
「……で。
旅行とか好き?」
十太郎は、話を戻した。
葉月は、天井を見上げ、考えてから答える。
「う~ん。
自転車は好きかな。
自転車でどっか行こうか?」
「ああ、うん…。」
そういう話じゃない。
二人でどこか行こうっていう話題じゃないんだ。
でも、ストレートに説明できない。
十太郎は、コップを両手で握りしめて俯いた。
何も言わずに俺を信じてくれ!
って言って《スケロスの窖》まで着いて来てもらおうか?
でも、葉月の気持ちが…。
「こーんにーちはー。」
声がする方を十太郎が見ると鳩巣が顔を出していた。
パーテーションから半身を出し、こっちを見ている。
「うあっ。
流川さん…っ!?」
十太郎が驚いている間に鳩巣は、彼の隣に着座した。
そのままブザーを押して店員を呼ぶ。
「すいません。
店員さん、濃厚トンコツ醤油ラーメンください。」
「ばい゛→。」
声のかすれたアルバイトは再度、注文を聞いて奥に下がっていった。
「誰?
誰なの?」
葉月は、驚きと戸惑いの目で鳩巣と十太郎を交互に見る。
いきなり現れた女の子は、かなりの美人で着ている物もカッコイイ。
十太郎は、少し鳩巣を睨んだ。
「あのさ。
デート中なんだけど。」
「見れば分かる。」
鳩巣は、スマホの画面を開いた。
「西岡君。
例のアレ、一部の界隈じゃニュースになってるよ。」
岩戸クラン、西岡十太郎を追放!
こんなものを記事にしている馬鹿が居た。
「うわあ!?
なに考えてんだこいつら!?」
十太郎は、鳩巣のスマホを覗き込んで絶叫した。
葉月は、面白くなさそうに隣で見ている。
「ご安心あれ。
幽撃倶楽部の力は、強大だ。
このページは、削除させるから…。」
鳩巣は、そう言ってにっこり微笑んだ。
「この手の馬鹿が出始めてるんだよね。
……西岡君も気を付けて。」
「はあ…。」
十太郎は、頬杖着いて溜め息を吐いた。
まさか自分が晒される世の中になるとはね。
「まあ、UFOとかUMAとか。
世界の神秘を秘匿し、偽情報を流すのが幽撃倶楽部の目的もであるから。」
そういって鳩巣は、スマホをしまう。
十太郎が眉宇を上げる。
「え?
あの動画って全部、嘘なの?」
「当たり前じゃん、はははっ。
私らは、神秘の学徒であって秘密を暴く狂人集団じゃないよ。」
といって鳩巣は、悪戯っぽく笑う。
そうか?
どっちかっていうと狂人集団に見えたが。
十太郎は、そう思った。
しかしこうして自分の情報を晒した記事を削除してくれた訳だし。
ここは、イメージを改めても良いな。
「ねえ?
この子、誰?」
ずっと成り行きを見守っていた葉月が遂に口を挟む。
「ああ。
鳥剣高校の流川鳩巣さん。
ちょっとした知り合い…。」
十太郎は、そう言って鳩巣を葉月に紹介した。
何もいかがわしいことはない。
………とは、言えない。
「どーもでーす。
彼女さんですか?」
鳩巣が葉月に挨拶する。
葉月は、腑に落ちない様子で返事した。
「どうも…倉橋葉月です。」
「お買い物?」
鳩巣が荷物を見てそう言った。
葉月は、犬のように歯を剥いて嫌がってる。
「デート中なんですけどォ?」
「あっははは…。
ごめん、ちょっと用事があってね。」
葉月に睨まれた鳩巣は、笑って話をはぐらかそうとした。
倉皇する間に注文した料理が運ばれてくる。
取り立てて物珍しくもない平凡な内容だ。
「そういや鳥剣高校って言えば。
………頭いい学校だっけ?」
葉月が鳩巣に訊いた。
ちょっと十太郎の手が一瞬、止まる。
「いやぁ、良くないね。
アホ学校だよ。」
そう答えた鳩巣は、ケラケラと笑う。
葉月は、眉を吊り上げて面食らった。
「ええっ?
そうだっけ…?」
「たぶん鳥剣西とごっちゃになってるよ。
鳥剣は、頭良くないね。」
「そんな話止めろよ…。」
十太郎は、青い顔で狼狽えた。
岩戸たちの顔が浮かんで来たからだ。
「学校なんて関係ないだろ。
仲良くしてやってくれよ。」
「は?」
葉月は、目を丸くした。
「急に女の子が出て来てあんたとベタベタしてて。
あんた、そいつと仲良くしろっていう?」
「はははは…!」
鳩巣が面白がっていた。
眼鏡を指で持ち上げ、肩を震わせている。
「じゃあ、私、自分のお勘定払って消えるわ。」
食べ終わった鳩巣は、そう言って席を立つ。
「良いよ。
流川さんの分も持つよ。
……さっきのニュースページ削除してくれたし。」
と十太郎が引き止めるが鳩巣は、手を振って断わった。
「それは、また精神的にお返しして貰いますんで。
じゃあ…。」
それだけ言って鳩巣は、退散した。
葉月がちょっと困った顔をしている。
「ごめん。
私のせいで追い返したみたいになって…。」
「あ、え…?」
こういう時、なんて言えば良いんだろう。
十太郎は、しどろもどろに口ごもってしまった。
ずっと義姉と義妹に囲まれてて一般的な人付き合いが苦手だ。
「べ、別にそんな親しい人じゃないんだよ。
ちょっと………。」
ちょっとどこで知り合ったと言えば良いんだろう。
十太郎は、色々考えて
「塾で…ね。
なんかこう、話すようになってさ。」
「ふ~ん?」




