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来やがれ!ダンジョン学園!!  作者: 志摩鯵
第3話「出て行け!西岡十太郎!!」
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茶メロンパンと自宅寿司




「あ。」


気が付くと十太郎は、教室に戻って来ていた。

いつもの通りだ。


「………夜桜。」


話しかけるが返事はない。

よほど怒らせてしまったのか。

これまでこんなことはなかった。


「はあ………。」


十太郎は、とりあえず家に帰ることにする。


8日ぐらい向こうに行って忘れかけていた、元の世界。

窓から外を見ると何事もなかったかのように戻っている。


「西岡君。」


現代国語(げんこく)藤山ふじおか純恋スミレ先生だ。

この小っ恥ずかしい名前のおかげで国語に興味を持ったという。

純愛じゅんあい先生と揶揄からかう連中もいる。


「最近、どう?

 ……友達は、できそう?」


優しい女の先生でいつも一人の十太郎を気にかけている。


「ああ、ええ…。」


十太郎は、少し避けるように答えた。

今、そんな気持ちじゃない。


一度別れた仲間と再会したと思ったのに…。

まさか相手の目的は、ダンジョンに置き去りにすることだったなんて。


毎度、学校とあの異世界を交互に行き来する。

再開時には、必ず前回の場所に再配置リスポーンされる。


十太郎は、これまで死んだことがない。

でもこれまで向こうで死んだ連中は、最後に訪れた街に再配置された。

だから、もし十太郎が死んだ場合、タナスルに戻されることになる。


「で、タナスルで誰かが俺を見つけるだろ?

 その情報は、どうにかしてジョーに届いちゃう訳で。

 そしたらまたジョーに狙われたりしないかな…。」


気分が重い。

夜桜は、ちっとも返事をくれない。

十太郎は、額を手で抑えた。


「じゅーたろー!」


元気な声がいきなり放課後の校舎に響き渡る。

葉月はづきだ。


「帰ろうー。」


「葉月。」


十太郎は、急に込み上げてくるものがあった。

ちょっと涙が出そうだ。


「葉月は、俺のことを……どう思う?」


「結婚の約束をした人!」


ちょっとふざけたように葉月がそういって右手を挙げた。

困った表情で十太郎が首を横に振る。


「こ、子供の頃の冗談でね。

 ………俺たち、友達だよな?」


改めて変な事を訊かれ、葉月は、眉を寄せて訝しむ。


「え?

 なに、まさか何か悪いことしたのっ!?」


常人と比べ物にならない超爆乳を揺らし、葉月が驚いた。


「ダメだよっ!

 私、十太郎が悪いことしたら手を貸さないから!!」


などと急に興奮し始めた。

ムキになって十太郎を諭そうとするので十太郎は、困ってしまう。


「ち、違うんだ。

 別に何か悪いことした訳じゃないんだ…。」


「そーなの?

 じゃあ、何?」


葉月は、キョトンとした顔で口をポカンと開けた。


そう言われても異世界ダンジョンに着いて相談したい。

まず一緒に異世界に行けるのか試して欲しい。

なんて今から口だけで言っても全然、相手にして貰えないだろうし。


「う~ん…。

 ゴメン、また明日な。」


十太郎がそう言うと葉月は、不思議そうに目を丸くした。


「………明日も学校来るの?

 あ、デートしてくれるんだ!!」


そう言われて思い出した。

こっちで明日は、土曜日なんだ。


どういう訳か土日には、《スケロスのいど》に呼ばれない。

決まって放課後の校舎内で入り口を見つける。


「分かった。

 デートしよう!!」


少しでも親密度をあげておこう。

次の月曜には、目一杯、変な事ばかり頼むんだから。


「あ、今からラブホ行く!?

 十太郎の家、行きたい!!」


葉月は、余計なことに気が付いたらしい。

嬉しそうに十太郎の腕を引っ張った。


直球だな。

しかし十太郎は、そんな気分になれない。


「だ、ダメだよ。

 家には、家族がいるし…。」


「えーっ。

 じゃあ、土曜ね!!」


などと話しながら一緒に電車に乗り、途中で分かれた。


悪い奴じゃないんだけど…。

休日サービスしないといけないなんて思うと気が重い。


「俺って恋愛体質になれんな。」




家に帰ると義妹が十太郎を出迎える。


「十太郎兄さーん!」


即お帰りのキス。

彼女の中で義兄は、未来の夫なのだろう。

うっとりした瞳で十太郎を見上げ、腕を腰に回した。


あおい、俺も疲れちゃった。

 今日は、そっとしておくれ…。」


「はーい!」


返事は良いが放してくれない。


そのままリビング兼台所に向かう。

十太郎は、冷蔵庫を開いて何か食べられそうな物を探した。


「十太郎兄さん!

 これー!!」


そう言って葵が見せたのは、パンだ。

葵の趣味だ。


「抹茶を混ぜたクッキー生地を使ったメロンパン…。

 題して茶メロンパン!!」


鮮やかな緑色と抹茶の香りが漂う逸品。

葵の新作だ。


「………お前、学校は?」


十太郎が訊くと葵は、苦笑いして誤魔化す。


「ええ?

 ………いひひひっ。」


パン作りは、半日を要する趣味だ。

どんな魔法を使っても帰ってすぐに出せるものじゃない。


「えええ……っと。

 低温長時間発酵だよ!」


と義妹は、苦しい言い訳。

訝し気な顔で十太郎は、義妹を睨んだ。


「………この時間に焼き上がるか?」


1次発酵から2次発酵までたっぷり4時間はかかる。

そもそも学校に行く前に長時間発酵に入ったなら朝7時に始めないとできない。

寝る前に準備したら20時間以上、発酵が進んでしまう。


冷凍庫を使えば話は違うだろうが…。


「葵、学校休んだのか?」


十太郎は、義妹を真っ直ぐに見つめた。

すると


「えー?

 ちゃんと行ったよ。」


と義姉の声が飛んで来た。

向こうは、晩御飯の準備を進めている。


「ねえ、葵ちゃん?」


「うん!!」


義妹は、義姉に弾む声で返事した。


「じゃあ、メイ姉さん。

 葵は、どこで何時、パンを焼いたのさ?」


「知らない。」


いい加減だな。

呆れた十太郎は、茶メロンパンを戴いた。


「美味しい。

 やっぱり焼き立てパンは、最高に贅沢だよな!」


「でしょ、十太郎兄さん!?」


葵は、誤魔化し切ったつもりで笑っている。

笑ってる場合じゃねえよ。




継母かあさん。

 今、2位ってどこ?」


晩御飯の最中、テレビの野球を見ながら十太郎が訊く。


「横浜じゃない?」


「じゃあ、広島は?」


「2位じゃない?」


「じゃあ、横浜は?」


「3位じゃない?」


「じゃあ、ヤクルトは?」


「2位じゃない?」


「継母さん、適当に答えてるでしょ!?」


十太郎が歯を「いーっ」としてウンザリする。

しかし継母は、平然としていた。


「どうでもいいでしょ。

 どうせパリーグは、セリーグに勝てないんだから。」


「………強いのは、パリーグ…。」


そう言って唖然としているのは、義姉だ。

義姉と継母は、血が繋がっている。


「そう言ったじゃない。」


と答えて継母は、パクパクと晩御飯を食べている。

十太郎と義姉は、唖然とした。

本当に万事、いい加減と言うか非を認めない人だ。


「どう?

 家で作った握り寿司は。」


義姉が十太郎と義妹に声をかける。


「父さんのが美味い!」


そう義妹は、誇らしそう答えた。

だが隣にいる継父は、複雑な顔をしている。


「じゃあ、葵は、なんでパンばっかりねるんだ。

 たまには、寿司を握ってくれよ。」


継父と義妹の血は、繋がっている。


「寿司は、やっぱりオジサンの仕事っぽいもん。

 やるならパン屋さんだね!」


といって義姉の握った寿司を義妹は、口に放り込んだ。

継父が困ったように眉を寄せる。


今日の晩御飯の寿司は、継父の勤め先からネタやシャリを持ち帰って来た。


これって横領だよな。

と思いながら十太郎は、変な汗を浮かべていた。


「パン屋キツイよ?」


継父が義妹に言った。


「十太郎兄さんが寿司屋さんになればいいよ!

 十太郎兄さんが”十太郎寿司”始めればいい!!」


義妹は、そう言って十太郎を見て、にっこり笑う。


「パン屋と寿司屋を合同でやるのか?」


十太郎は、困った顔で言い返した。


なんだろう。

葵がどこまで真剣か知らないが俺の人生は、寿司屋と決まってるのか。


この家族を十太郎は、嫌いじゃない。

でも誰とも血が繋がっていないというのは、実際問題、怖い。




「夜桜ーっ!

 いい加減、機嫌直してくれよ…。」


自室に入って十太郎は、夜桜を呼ぶ。

しかし一向に頭の隅っこに行って返事がない。


「あああ……。

 何がそんなに機嫌悪くすることいったか?」


ベッドに飛び込んで十太郎は、いろいろワキワキする。

手足をもぞもぞと動かし、顔をベッドに擦り付けた。

その次は、枕に顔を押し付け、何度も頭をベッドに叩きつけた。


「はあああーっ!?」


「十太郎ー?」


義姉が義弟の部屋に遠慮なく入って来た。

この義理の姉妹と十太郎は、そういう関係だ。


「何?

 彼女と喧嘩したの?」


そう声をかけた義姉は、義弟を情欲に飲まれた目で見る。

艶然とした微笑みは、快楽の頂へと手を伸ばす欲深な女のそれである。


「ああ、メイ姉さん。

 ちょっと今日は、勘弁してください。

 本当にマジ、お願いしますから。」


十太郎は、ベッドの上に正座して義姉に断わった。


「えーっ。

 葵ちゃんに搾り取られちゃった?」


といって義姉は、十太郎の学習机の椅子に腰かけた。

ひょいっと本棚に手を伸ばし、漫画を読み始まる。


「今日は、葵としてませんよ。」


「じゃあ、元気ないの?

 まだ15歳じゃん。」


「………俺を一人にしてくださいよ。

 俺は、マスオさんなんだから。」


厳密には、まだ義姉とも義妹とも結婚してない。

そういう意味では、マスオさん未満の居候だ。


「どっちかっていうと……。

 十太郎は、ドラえもんでしょ?」


「ど、ドラえもん……。」


確かにドラえもんも便利に使われてて断わり難い立場だ。

しかし猫型ロボットと同列というのは、引く。


「という訳だから。

 十太郎、お姉ちゃんのお願い。

 聞いて欲しいなぁ…。」


義姉は、そう言って漫画を机の上に置く。

そしてベッドまで駆け寄ると十太郎を抱いて横になった。




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