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来やがれ!ダンジョン学園!!  作者: 志摩鯵
第1話「来やがれ!ダンジョン学園!!」
14/213

英文




Into the west, unknown of man,

Ships have sailed since the world began.

Read, if you dare, what Skelos wrote,

With dead hand fumbling his silken coat;

And follow the ships thru the wind-blown wrack--

Follow the ships that come not back.


───Robert E. Howard 『The Pool of the Black One』




太初たいしょ以降このかた、誰知らぬ西へ船は、帆走したりけり

きみ、勇あらば絹衣着るスケロスがれる死の手()て書ける物を読め

して船よ、追ひつけ

風運ぶ難破船を過ぎ、運命さだめの末を()せよ

船よ、帰らぬ船の跡を追へ


───ロバート・アーヴィン・ハワード 『黒魔の泉』






「いんとーうぇすと、あんのーんおぶまん…。

 しっぷはぶ…さいれど?」


自室で男子高校生が教科書の英文を読み上げている。

途中で詰まったり、考え込んだり、あまり見事とは言えない。


sailed(セイルド)だろ。

 帆を張るってことで出航な。」


どこからか女の声がした。


「………しんすざわーるどびがん…。


 ……えーっと…。

 世界が始まって以来ぃ、船は出航した。

 西に向かって………知らない人が?」


「人類の知らないだろ?」


と呆れたような女の声。


気にせず男は、教科書を読み進める。

しかし見たこともない英単語が次々に彼を苦しめた。


「れっど、りーど?

 いふゆーだれ……だれって何?」


結局、早々と降参する。

男は、女に助言を求めた。


「敢えて。

 勇気をもって。」


「……ああッ。

 もう、お前がやってよ、これ!」


教科書を投げ出し、男が喚いた。


「いいからやれって。

 お前の宿題だろ?」


と呆れた女の声がした。


「やってよ!!」


「はあ?

 ………貸し一つだからな。」


「お前への貸しなら売るほどあるよ。」


「不良債権じゃねえか。」


「それ、自分で言うなよ。」


急に男は、シャーペンをノートに走らせる。

その手は、淀みなく訳文をスラスラと書き上げていった。

そして書き終わった文章を男は、改めて読み上げる。


「えっと……。


 世界が始まって以来、誰も知らない西に向かって船は出航した。

 もし貴方に勇気があるならスケロスがぎこちない死んだ手と絹のコートと共に彼が書いた物を読みなさい。

 そして風の運ぶ漂流物の間を船で通り過ぎなさい。

 戻って来ない船を辿りなさい。」


「なんだ。

 人にやらせといて出来栄えに文句まであるのか?」


部屋のどこかから女の声がする。

しかし女の姿はない。

ここには、男子高校生が一人いるだけだ。


「いや…。

 間違ってないか考えてるけど分からない。」


「腹減ったな。」


不思議な女の声は、男子高校生の口から出ていた。


「お前のせいで食事が二人分かかるよ。」


男子高校生が机に肘を着き、顎を掌に置いて溜め息を吐いた。

それが次の瞬間には、男子高校生が一人で喚き出していた。


「だァからァッ!

 こーして色々、ヤってやってるじゃねえか。」


やはり女の声は、彼の口から出ている。

はたから見ると一人で会話しているように見えた。

声が男女で入れ替わっていて、ただふざけている訳ではないらしい。


義妹いもうとに聞こえる。

 頭の中で会話してくれ。)


この男子高校生。

名前は、西岡にしおか十太郎じゅうたろう


時を遡る事、実に8ヶ月前。

オカルト研究部の降霊実験に招かれた。


この時に黒武くろぶ夜桜よるさくらという女の子に憑依された。

彼女は、彼の中にいる。


(とりあえずお前は、宿題してろよ。

 私は、ちょっと休憩ーッ。)


いきなり十太郎の口から白い女の手が伸びる。

そのまま蛇が脱皮するように彼の口から女の子が飛び出した。


「ぺっ。」


最初は、萎んだゴム風船のような身体が次第に膨らみ始める。

それが床の上で完全に若々しい女の子に変身した。


「うう…。

 ああ~っ。」


夜桜は、猫のように背伸びする。

十太郎から離れて一つしかないベッドに寝そべった。

そして一人だけオヤツを食べながら漫画に手を出す。


憑依。

───いや、厳密には融合というべきだろう。


異世界から召喚された《転校生(括弧つきの転校生)》は、十太郎の中に封印された。

これは、オカルト研究部が呼び出された者を封じ込めるための処置である。


どういう訳か。

全く望んだ霊と違う相手を降霊したにも関わらず、封印術そのものは、成功した。


今、こうして分離していても夜桜と十太郎は、結びついている。


「くあ……。

 マジでこの漫画、私が描いた方が面白いんじゃねえの?」


漫画片手に夜桜は、見事な足を伸ばした。

女なら誰もが憧れる美しく長い脚だ。


いつも彼女は、下着だけでくつろいでいる。

男子高校生の十太郎は、否が応でも彼女の豊満な肢体を注視してしまう。


(オイ。

 今、どこ見てるか分かってンぞ?)


と言って夜桜は、意地悪そうに歯を見せて微笑んだ。

十太郎は、机に向かいながら眉を寄せる。


夜桜の身体は、男が夢に望む淫蕩な女悪魔のように魅力的で毒々しい。

男共が虫のように招き寄せられる突き出した豊乳むね豊尻しり、細い腰、完璧な脚。

それらが作る流麗なボディラインは、186cmの長身によって完成する。


この美しい身体の頂点に置かれた首は、美の極致を表現していた。

魔界の帝王たちの限りない寵愛を一身に独占するであろう。

そこから妖しく輝く瞳を巡らせ、夜のような黒々とした髪を垂らしている。


こんな美人と24時間暮らすというのは、心休まらないものである。

まして相手が悪戯っぽくとびっきりの邪悪を脳に注ぎ込んだ悪女とくれば猶更だ。


特に夜が激しい。




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