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腕斬りオレオン  作者: 山風勇太
第三章 英雄の再来
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陣容


「我がもとへ集え、同胞達よ!」

 リガルノと別れ、北を指して走る七人の子ども達は、背後から低い声が響き渡るのを聞いた。

(あの大魔族が、仲間を呼んだんだ)

 マイントは思った。

(隊長さんも、信号弾でみんなに知らせた。決戦……この戦いで、勝負がつく!)

「ねえ、マイント」

 十四歳のマイントより二つ年下の少年が、走りながら言った。

「ネーシャはなんで、一緒に来ないの?」

 マイントは、少し間を置いてから答えた。

「デンズの人達が戦ってるのに、先に逃げられない。せめて、見届けたい――だとよ」

「だったら、あたし達も――」

 別の少女が言うのを、マイントは遮った。

「おれ達は、後詰隊の人達に伝えることがあるだろ。それから……町長にも、状況を知らせないと」

「みんな、言い争ってる場合じゃない。マイントの言う通りにしよう――ネーシャは大丈夫だ、しっかりしてるから」

 マイントと仲の良い少年が言った。

(……作戦は最初から決まってるんだから、伝言なんて、ほとんど無意味なんだ)

 黙って走りながら、マイントは思った。

(おれ達を追い払うために、言ったんだ……)

 それからマイントは、ネーシャが自分の耳元で囁いた言葉を思い出した。

 ――あたしは残るわ。マイント、みんなをお願いね。

 ――残る?

 ――デンズの人達が戦ってるのに、先に逃げられない。せめて、見届けるわ。

 ――だったらおれも。

 ――駄目よ。あんた、あたしの次に年上なんだから、みんなを守らなきゃ。

 ――一番年上なのは、お前だろ!

 ――ふふ、頼りにしてるわよ、マイント。

 そしてネーシャは、横手の路地に飛び込んでしまったのだった。

 マイントは、思わず顔をしかめた。

(おれも勝手をしたけど、お前もずいぶん勝手だよ)



 ベイルは、先端に魔力の光をまとった棒を、ホルムの大魔族に叩きつけようとした。しかしその巨大な魔物は、片手で棒を受け止め、弾き返した。

 大魔族の両腕も、ベイルの棒と同様の光に覆われていた。

(これは、タープの戦士やロアーク寺院の修行僧が使う技! 魔力刃を魔力刃で返すとは)

 ベイルは続けて、右から左から棒を繰り出した。が、全てどちらかの腕で止められてしまう。

 そして大魔族は、反撃とばかり右手で突いてきた。ベイルはそれを鋼鉄の棒で受けつつ、跳びすさった。

(反応は良い。しかし、速さ自体はそれほどでもない)

 ベイルはそう考え、後方のリガルノに鋭く言った。

「隊長! こいつはおれが抑える」

 リガルノはベイルの意図をすぐに理解し、全体に指示を発した。

「ノイン、クラーツ、ベイルさんを援護しろ! 残りは周りのを先に倒すんだ!」



 道場の門弟と対峙しているオーバの横に回り込み、ハルバードで突き倒しながら、オレオンはリガルノの声を聞いた。

(周りのを先に、というのは正しいな。あのデカブツは、おれでも倒せん。まずは、孤立させなければ……)

 考えつつ、ギマランの足にハルバードの鉤を引っかける。引き倒された緑色の魔物に、兵士のひとりがとどめを刺した。

 その向こうで、道場の門弟のひとりが肩に魔力弾を受け、倒れた。

「下がれ、神官殿に診(み)てもらえ!」

 言いつつ、オレオンはそちらへ走り、とどめを刺そうとする魔物達を防ぐ。

(数が多いな。おれと、デリック黒兵と、あいつがうまく動ければ、ぎりぎり何とかなりそうではあるが――)

 そう思いながら、オレオンはちらとオーレスに目をやった。

(何しろこちらは、寄せ集めだ……)



 タウロンはシュタルテ、ヘイズンの二人と共に、指揮を執るリガルノのさらに後ろにいた。魔法で前衛を援護しつつ、前に出たベイルに代わって殿(しんがり)の役目も担う。作戦では、ゲルーニャら後詰隊が中央隊の後方に展開し、背後からの攻撃を防ぐはずだった。

(それがうまくいっているとも限らないわけだが……)

 ちらと後ろを見やって、タウロンは思った。

(数に余裕がないからな、ベイルさんを遊ばせておくわけにもいかんか)

「タウロン様、後ろはぼくとシュタルテが見ます。前に集中してください」

 やや離れて立つヘイズンが言った。

「分かった」

 言って、タウロンはホルムの大魔族の頭に魔力弾を放った。大魔族は、鈍く光る左腕を上げて、それを遮った。魔力の弾丸が、弾けて消える。

 ベイルと二人の兵士が、その隙に乗じて仕掛けようと、踏み込みかける。しかし、振り回された右腕に、素早く距離を取った。

 隙すら、作れなかった。

「タウロン殿、大魔族は後回しだ」馬上のリガルノが言う。「他のを先に、頼む」

「はい」

 短く答えて、タウロンは、道場のひとりと武器を打ち合わせているギマランに狙いをつけた。

 ゲルーニャが語ったように、タウロンは魔法を使う上での先天の才を備えていた。また、それを活かすための技能も、人並み以上に習得していた。故に、苦戦というものをあまり経験したことがなかった。「弱い敵から倒す」という戦術を、知識としては知っているが、実践したことがなかった。

(戦いに慣れているような口をきいてしまったが……わたしの経験など、思っているほど役には立たんということか)

 タウロンの撃った弾がギマランの腹に当たり、緑の魔物は、ひるんだところを斬り倒された。

(あの老人の助言を受けられて、助かった――いや、待てよ)

 タウロンはふと、戦場でゲルーニャから受けた最初の指示を思い出した。

 ――まずは上だ!

「隊長! ダーズルが一頭もいませんが」

 タウロンの言葉に、リガルノとウデナが、魔物の群れの上空に目をやる。

「確かに」

「隊長、先ほどの戦闘と同様なのでは」

 リガルノが応じるのに、ウデナが言う。

「味方を誘導するために、散ったのか――みんな、敵はまだ出てくるぞ! 気を付けろ!」

 リガルノが怒鳴った。

 ウデナは、探査術の呪文を唱え、広場の周囲の気配を探った。先ほどまでは探査術を阻害する隠蔽術を、数人の兵士がかけていたが、今は使っていない。お互い、味方に位置を知らせたからには、無意味である。まさに、戦力を集中させての決戦だった。

 広場の北側に、何者かの気配があった。意識を集中する。人間らしい。

(負傷者……?)

 しかし、今は構っていられない。他の気配は見出せなかったため、ウデナは別のことをリガルノに言った。

「敵の増援が着くまでに、数を減らしておきたいところですが」

「ああ」

「右翼が、苦戦しているようです」

 それを聞いて、シュタルテは改めて魔族の陣容を見渡した。敵はホルムの大魔族を中心に、左右に展開している。大魔族を除いてホルムが四頭、オーバが六頭、ギマランが十五頭ほど。それに対して、こちらの前衛も左右に広がり、中央ではベイルら三人が大魔族を抑え、その少し右でデリックが、右翼の端でオーレスが、左翼の端でオレオンが中核となって戦っていた。

 しかし、右翼がやや押され気味のようだった。

「オーレス先生が、思うように動けてない」

 シュタルテが言った。

 ヘイズンは、側面と後方の警戒を怠っているシュタルテを咎めようとしたが、ふと思い直してその言葉に応じた。

「だとすれば、なぜかな……集団戦闘に慣れていないからか、前にも脇にも敵がいるという状況に」

 そしてヘイズンは、背を向けたまま、リガルノとタウロンに言った。

「シュタルテを前に出しましょう。シュタルテなら、誰よりも先生の呼吸を知っている」




先天の才

 魔力を扱う潜在的な能力を「魔法力」といい、その大小はおおよそ生まれつきで決まっている。ゲルーニャやタウロンは、これがかなり高い。ただし、いくら魔法力が高くても、魔力を扱う技術を習得しない限り魔法は一切使えない。この辺りのことは、『ほら吹き少年と司祭』第二章第四話「精神と呼吸」で、タウロンが詳しく解説している。



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