陣容
「我がもとへ集え、同胞達よ!」
リガルノと別れ、北を指して走る七人の子ども達は、背後から低い声が響き渡るのを聞いた。
(あの大魔族が、仲間を呼んだんだ)
マイントは思った。
(隊長さんも、信号弾でみんなに知らせた。決戦……この戦いで、勝負がつく!)
「ねえ、マイント」
十四歳のマイントより二つ年下の少年が、走りながら言った。
「ネーシャはなんで、一緒に来ないの?」
マイントは、少し間を置いてから答えた。
「デンズの人達が戦ってるのに、先に逃げられない。せめて、見届けたい――だとよ」
「だったら、あたし達も――」
別の少女が言うのを、マイントは遮った。
「おれ達は、後詰隊の人達に伝えることがあるだろ。それから……町長にも、状況を知らせないと」
「みんな、言い争ってる場合じゃない。マイントの言う通りにしよう――ネーシャは大丈夫だ、しっかりしてるから」
マイントと仲の良い少年が言った。
(……作戦は最初から決まってるんだから、伝言なんて、ほとんど無意味なんだ)
黙って走りながら、マイントは思った。
(おれ達を追い払うために、言ったんだ……)
それからマイントは、ネーシャが自分の耳元で囁いた言葉を思い出した。
――あたしは残るわ。マイント、みんなをお願いね。
――残る?
――デンズの人達が戦ってるのに、先に逃げられない。せめて、見届けるわ。
――だったらおれも。
――駄目よ。あんた、あたしの次に年上なんだから、みんなを守らなきゃ。
――一番年上なのは、お前だろ!
――ふふ、頼りにしてるわよ、マイント。
そしてネーシャは、横手の路地に飛び込んでしまったのだった。
マイントは、思わず顔をしかめた。
(おれも勝手をしたけど、お前もずいぶん勝手だよ)
ベイルは、先端に魔力の光をまとった棒を、ホルムの大魔族に叩きつけようとした。しかしその巨大な魔物は、片手で棒を受け止め、弾き返した。
大魔族の両腕も、ベイルの棒と同様の光に覆われていた。
(これは、タープの戦士やロアーク寺院の修行僧が使う技! 魔力刃を魔力刃で返すとは)
ベイルは続けて、右から左から棒を繰り出した。が、全てどちらかの腕で止められてしまう。
そして大魔族は、反撃とばかり右手で突いてきた。ベイルはそれを鋼鉄の棒で受けつつ、跳びすさった。
(反応は良い。しかし、速さ自体はそれほどでもない)
ベイルはそう考え、後方のリガルノに鋭く言った。
「隊長! こいつはおれが抑える」
リガルノはベイルの意図をすぐに理解し、全体に指示を発した。
「ノイン、クラーツ、ベイルさんを援護しろ! 残りは周りのを先に倒すんだ!」
道場の門弟と対峙しているオーバの横に回り込み、ハルバードで突き倒しながら、オレオンはリガルノの声を聞いた。
(周りのを先に、というのは正しいな。あのデカブツは、おれでも倒せん。まずは、孤立させなければ……)
考えつつ、ギマランの足にハルバードの鉤を引っかける。引き倒された緑色の魔物に、兵士のひとりがとどめを刺した。
その向こうで、道場の門弟のひとりが肩に魔力弾を受け、倒れた。
「下がれ、神官殿に診てもらえ!」
言いつつ、オレオンはそちらへ走り、とどめを刺そうとする魔物達を防ぐ。
(数が多いな。おれと、デリック黒兵と、あいつがうまく動ければ、ぎりぎり何とかなりそうではあるが――)
そう思いながら、オレオンはちらとオーレスに目をやった。
(何しろこちらは、寄せ集めだ……)
タウロンはシュタルテ、ヘイズンの二人と共に、指揮を執るリガルノのさらに後ろにいた。魔法で前衛を援護しつつ、前に出たベイルに代わって殿の役目も担う。作戦では、ゲルーニャら後詰隊が中央隊の後方に展開し、背後からの攻撃を防ぐはずだった。
(それがうまくいっているとも限らないわけだが……)
ちらと後ろを見やって、タウロンは思った。
(数に余裕がないからな、ベイルさんを遊ばせておくわけにもいかんか)
「タウロン様、後ろはぼくとシュタルテが見ます。前に集中してください」
やや離れて立つヘイズンが言った。
「分かった」
言って、タウロンはホルムの大魔族の頭に魔力弾を放った。大魔族は、鈍く光る左腕を上げて、それを遮った。魔力の弾丸が、弾けて消える。
ベイルと二人の兵士が、その隙に乗じて仕掛けようと、踏み込みかける。しかし、振り回された右腕に、素早く距離を取った。
隙すら、作れなかった。
「タウロン殿、大魔族は後回しだ」馬上のリガルノが言う。「他のを先に、頼む」
「はい」
短く答えて、タウロンは、道場のひとりと武器を打ち合わせているギマランに狙いをつけた。
ゲルーニャが語ったように、タウロンは魔法を使う上での先天の才を備えていた。また、それを活かすための技能も、人並み以上に習得していた。故に、苦戦というものをあまり経験したことがなかった。「弱い敵から倒す」という戦術を、知識としては知っているが、実践したことがなかった。
(戦いに慣れているような口をきいてしまったが……わたしの経験など、思っているほど役には立たんということか)
タウロンの撃った弾がギマランの腹に当たり、緑の魔物は、ひるんだところを斬り倒された。
(あの老人の助言を受けられて、助かった――いや、待てよ)
タウロンはふと、戦場でゲルーニャから受けた最初の指示を思い出した。
――まずは上だ!
「隊長! ダーズルが一頭もいませんが」
タウロンの言葉に、リガルノとウデナが、魔物の群れの上空に目をやる。
「確かに」
「隊長、先ほどの戦闘と同様なのでは」
リガルノが応じるのに、ウデナが言う。
「味方を誘導するために、散ったのか――みんな、敵はまだ出てくるぞ! 気を付けろ!」
リガルノが怒鳴った。
ウデナは、探査術の呪文を唱え、広場の周囲の気配を探った。先ほどまでは探査術を阻害する隠蔽術を、数人の兵士がかけていたが、今は使っていない。お互い、味方に位置を知らせたからには、無意味である。まさに、戦力を集中させての決戦だった。
広場の北側に、何者かの気配があった。意識を集中する。人間らしい。
(負傷者……?)
しかし、今は構っていられない。他の気配は見出せなかったため、ウデナは別のことをリガルノに言った。
「敵の増援が着くまでに、数を減らしておきたいところですが」
「ああ」
「右翼が、苦戦しているようです」
それを聞いて、シュタルテは改めて魔族の陣容を見渡した。敵はホルムの大魔族を中心に、左右に展開している。大魔族を除いてホルムが四頭、オーバが六頭、ギマランが十五頭ほど。それに対して、こちらの前衛も左右に広がり、中央ではベイルら三人が大魔族を抑え、その少し右でデリックが、右翼の端でオーレスが、左翼の端でオレオンが中核となって戦っていた。
しかし、右翼がやや押され気味のようだった。
「オーレス先生が、思うように動けてない」
シュタルテが言った。
ヘイズンは、側面と後方の警戒を怠っているシュタルテを咎めようとしたが、ふと思い直してその言葉に応じた。
「だとすれば、なぜかな……集団戦闘に慣れていないからか、前にも脇にも敵がいるという状況に」
そしてヘイズンは、背を向けたまま、リガルノとタウロンに言った。
「シュタルテを前に出しましょう。シュタルテなら、誰よりも先生の呼吸を知っている」
先天の才
魔力を扱う潜在的な能力を「魔法力」といい、その大小はおおよそ生まれつきで決まっている。ゲルーニャやタウロンは、これがかなり高い。ただし、いくら魔法力が高くても、魔力を扱う技術を習得しない限り魔法は一切使えない。この辺りのことは、『ほら吹き少年と司祭』第二章第四話「精神と呼吸」で、タウロンが詳しく解説している。




