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腕斬りオレオン  作者: 山風勇太
第三章 英雄の再来
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誰かが誰かに


 中央隊は再び前進を始めた。

 オーレスは、いくぶん動揺した様子のシュタルテに、そっと近寄った。敵を斬ったことに、途惑っているらしい。

(他のみんなは、割と平気なようだな。みんなして動揺していたのでは、かなわない……もっとも、どちらの神経がまともかといえば、何ともいえないところだが)

 シュタルテひとり、そのような反応をしていることを、意外とは思わなかった。良くも悪くも、多感なのである。それは、もうとっくに知っていた。

 ただ、何と声をかけるべきか、分からなかった。

 ふと、ここにカイムかバスコフがいたら彼女に何と言うだろうと思った。人間と魔族の争いの歴史を語り、あるいは実戦の厳しさを言って聞かせ、シュタルテを納得させるだろうか。

 ガゼフやソーラだったらどうだろう。何か、シュタルテを励ますようなことを言い、彼女を落ち着かせてくれただろう。しかし、具体的には何を……?

 あるいは、レギスだったら……?

 オーレスは、ふっと笑みを浮かべた。

 誰かが誰かにかける言葉に、正解などあろうものか。人それぞれ、違って当然なのだ。

 ならば、自分がシュタルテにかける言葉、望むことは――。

「シュタルテ君」

 オーレスが声をかけると、シュタルテは不安げな顔で振り向いた。オーレスが、言葉を続ける。

「生き抜きましょう」

 シュタルテは、一瞬驚いたような表情をしてから、ちょっと笑った。

「はい!」



 ネスロの町を南へ進む中央隊のもとへ、伝令の騎兵がやってきた。リガルノ隊長が、他の隊の状況を訊く。

「西隊は二度戦闘を行い、合計十三の敵を倒しました。こちらは死者一、重傷者二。兵士五人、町民六人と合流、重傷者と共に北の門へ行かせました」

 伝令が、リガルノと馬を並べて報告する。

「東隊は戦闘一回、五頭の敵を撃破。死者なし、重傷者なし。兵士三人、町民六人と合流、これも北の門へ行かせました」

「後詰は?」

 リガルノが尋ねる。伝令は、中央隊が戦闘を行っている間に、他の三隊のところを回ってきたのだった。

「討ち漏らしの敵を掃討するために、東西に散開していますが、敵は基本的に少数なので、対応できています。現在、約十五頭の敵を撃破。敵の捜索に当たっている町民に、いくらか死者が出ています」

「うん……」

 リガルノは、しばらく黙り込んだ。

「討ち漏らしが思ったより多いが……我々が倒したのが約五十、敵はもっといるはずだ。デリック」

「はい」

 ネスロの兵士が応じる。

「君は初め、町の南部にいたのだったな」

「はい。敵の一隊に突破されたので、それを追ってここまで下がったのです」

「我々は、町の北から南の、どれくらいまで進んだだろうか」

「ちょうど、半分というところです」

 リガルノは、行く手に見える広場の、さらに向こうへ目をやった。遠く剣戟の音が聞こえてくる。

「……ここから先、敵はまとまった数で動いていると見るべきか」

「同感です」リガルノの臨時補佐官、ウデナが応じた。「北部まで分散して突っ込んできたのは、攪乱のための戦力なのではないでしょうか。この先に、大魔族の指揮する本隊が――」

「隊長さん!」

 悲鳴のような声を上げながら、ネーシャが他の子ども達と共に走ってきた。

「いました。二十頭はいます。このまま進んだところです」

「ぶつかったな」

 リガルノはそう呟いてから、指示を飛ばした。

「みんな、広場まで進め!」



「ねえ、なんで広場に出るの?」

 道場の面々の後ろ、タウロンの脇を走りながら、シュタルテが言った。

「魔族は個々の能力で戦い、人間は連携によって戦う」最後尾のベイルが答える。「開けた場所を確保したほうが、連携が取りやすくこちらに有利だ」

「ふうん……それにしても、今日は走ってばっかりね」

「戦いは、とにかく走るものだ」

 ベイルが、こともなげに言う。

「疲れたかね?」

 と訊いてきたタウロンの涼しげな顔を、シュタルテはいささか呆れたように見返した。

「いや、わたしよりも、タウロン様……今朝から大活躍だけど、体力あるわね」

「まあ、旅の神官というのも、なかなか大変なのでね」

「……どんな旅だったのか、もういっぺん聴かせてほしいもんだわ」

 などと言っている内に、シュタルテ達も通りから広場へ出た。人間と魔物の死体が、いくつか横たわっている。

 そこへ、向こうの通りから、魔物の一群が姿を現した。

「何あれ……」

 シュタルテが、目を見開いた。

 群れの中に、通常よりさらに一回り大きなホルムがいた。



 リガルノは、仲間達に素早く指示を出してから、異様な圧迫感を放つその魔物を見据えた。灰色のごつごつした体躯、太い腕、太い脚、それらと比べて小さい頭。防具の類はつけておらず、武器も持っていない。

「ホルムの大魔族か……厄介な」

「大魔族、なのでしょうか」

 傍らのウデナが言った。

「単に、少し大きいだけ、ということは?」

「威圧感が違う、あれに間違いない」

 リガルノが断言する。

「なるほど、勉強になります」ウデナが、その大魔族に目を向けたまま言った。「大魔族を見るのは、初めてなので」

「おれも、二度目に過ぎんがな」

 話しながら、魔物達を観察していたリガルノは、ふと子ども達に顔を向けた。

「君達の仕事はここまでだ。北の門に戻ってくれ」

「でも――」

 何か言いかけたネーシャを遮って、リガルノが続ける。

「それと、途中で後詰の連中に会ったら、なるべく前進するよう伝えてくれないか」

 それだけ言うと、リガルノはウデナを振り返った。

「信号弾、青青青、上げろ」

「了解。信号弾、青青青、上げます!」

 ウデナは右腕を空へ向け、呪文を唱えた。魔力の光が上空へ飛び、雲の流れる空が一面、青く染まった。ウデナは、さらに同じ呪文を唱える。

 その間に、リガルノは伝令の騎兵に命じた。

「君は、西隊をここへ誘導してくれ。作戦通りだ」

「了解」

 応じて、騎兵は馬首を巡らし、広場を西へ駆けだした。

 騎兵がふと右へ目をやると、先ほど北へ向かったはずの少女が、ひとり細い路地から様子を窺っているのに気付いた。しかし彼は、自分の任務の緊急性を鑑みて、やむなく捨ておいた。



 東隊の指揮を執るブレヒム小隊長は、魔法の光で青一色になった空を見上げた。

「隊長、信号弾です」彼の副官が言う。「青……青……青、『敵指揮官発見、作戦通り行動せよ』!」

「やや北寄りだが……」ブレヒムが呟く。「ここからでは、まっすぐ西へ向かっても背後は取れんな」

 そこへ、サルト流剣術道場の高弟ガゼフが、師範ソーラと共にやってきた。

「ブレヒム隊長。作戦通りに?」

「ええ」

 ガゼフの言葉に、ブレヒムが頷く。

「我々は、さらに南へ進んでから西へ転進、敵の大将の後ろを突きます」

「おそらく、敵本隊との決戦になるでしょう」

 ブレヒムの副官の言葉に、ガゼフとソーラは頷き、一行は再び南へ進みだした。

 そして彼ら東隊は、十頭ほどの魔物の群れと遭遇した。

 ブレヒムの指示が飛び、剣や槍やメイスを持った者達が、敵に向かっていく。ソーラは道場の数人の仲間と共に、弓に矢をつがえた。

 ガゼフはハルバードを掴んで走りながら、顔に焦りを浮かべて、呻いた。

「このタイミングで――うまくいかんものだな……!」




信号弾

 上空に任意の色を映し出す術。幻術の一種で、軍ではその用途からもっぱら「信号弾」と呼ばれている。ボンナー兵団では、赤、青、緑、黒、白の五色を三回、赤青緑、赤赤黒というように組み合わせて信号とする。つまり、本来技術的には百二十五通りの組み合わせが可能なのだが、今回は民間人との共同作戦なので、大幅に簡略化して「同じ色を三回」という形で使っている。



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