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腕斬りオレオン  作者: 山風勇太
第三章 英雄の再来
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敵を斬った

ネーシャ「しょーもな! 前回のあとがき、しょーもな!」

ベイル「何を今さら」

シュタルテ「ベイル、それは言っちゃダメ!!」



 オレオンがホルムを一撃で仕留め、タウロンとリガルノが魔力弾で空飛ぶ魔物ダーズルを撃ち落としたことで、形勢は決した。残りの白い魔物オーバ一頭と緑の魔物ギマラン二頭は、兵士達と道場の面々に瞬く間に討ち取られた。

 後方で援護射撃を担当するタウロンの護衛であるシュタルテには、交戦の機会はなかった。

「また混成部隊か。混成部隊は、各々の弱点を補える反面、進軍速度が落ちるはずだが……」

 リガルノ隊長は誰にともなく呟いてから、朝からずっと戦っていたらしい九人の町民達に、北の門まで下がって一旦休むよう言った。もう正午を過ぎている。

「我々はこのまま、次の敵の所へ向かうぞ。今度は八頭だ、気を抜くなよ!」

 リガルノの号令を受けて、中央隊の一行は再び動きだした。

 その時、路地に隠れていたマイント少年が飛び出してきたのに、シュタルテは気付いた。マイントは、北の門へ引き上げていく面々の中の、ひとりの中年男に抱きついた。「父さん!」という少年の声が聞こえた。



 中央隊の面々が到着した時、ネーシャが「十人ほど」と言っていた味方は、五人にまで減っていた。敵は、巨大な魔物ホルムが二頭、オーバが二頭、ギマランが三頭。

 リガルノは、部下達と道場の一行を敵に当たらせ、それまで戦っていた者達を下がらせた。敵味方とも通りいっぱいに広がるような形になっており、数で勝っていても、側面に回り込むことができなかった。

「隊長さん!」と、ネーシャがリガルノに言った。「ダーズルが一頭いたはずなのに、いません!」

「何? ――とにかく、君らは下がれ!」

 リガルノは子ども達に言ってから、先ほどまで魔物と交戦していた、槍を持った兵士に訊いた。

「君はデリック黒兵こくへいか! ダーズルが一頭、いなかったか?」

「先ほどまでいました」デリックと呼ばれた兵士が答える。「退いたようです、落としてはいません」

「分かった――みんな、空も警戒しろ!」

 リガルノは怒鳴ってから、魔法で攻撃するべく、右腕を敵集団に向けた。二頭のホルムがお互いに援護し合うような動きを見せているため、先の戦闘よりも手こずっていた。それでも、敵のほうが明らかに疲労している。オーレスがギマランを一頭、槍で突き倒した。

 オーレス達前衛の後方で、デリックら今しがたまで戦っていた者達が一時いっときの休息を取り、またタウロンが彼らの傷の治療を行っていた。シュタルテとヘイズンはその傍らで、家並の間の路地を警戒する。

 そしてさらにその後方で、デンズの町の用心棒ことベイルが、仁王立ちしていた。

「ねえ、この中で一番魔族と戦った経験があるのって、多分ベイルよね?」

 シュタルテが、周囲に目を光らせつつ、ヘイズンとタウロンに訊いた。

「フィーズさんの経歴が良く判らないけど」ヘイズンが答える。「多分そうだろうね」

「なのに、最後尾で良いのかしら?」

「経験豊富だからこそ、殿しんがりなんだろう」

 タウロンが見解を述べると、ベイルも背中を向けたまま言った。

「おれも、リガルノ隊長の判断は的確だと思うぞ」

 その瞬間、ベイルの右手の路地から、緑色の魔物ギマランが二頭飛び出してきた。ベイルは、一方を鋼鉄の棒で突き、一方を強烈な蹴りで押し返した。

「こういうことがあるからな」

 言って、ベイルは呪文を唱え、棒の先端に魔力の刃をまとわせた。その間にも、ギマランに続いてオーバとダーズルが姿を現した。

「敵襲!」ヘイズンが叫ぶ。「後ろから敵です、数は不明!」

「タウロン殿はそちらに当たってくれ!」リガルノが素早く状況を確認し、指示を飛ばす。「デリック、やれるか?」

「もちろんです」

 デリック以下、三人の兵士が武器を構えた。それに続くように、二人の町民もよろよろと立ち上がる。訓練を積んだ者とそうでない者とでは、持久力に雲泥の差がある。しかし、町を守ろうという気持ちに違いはなかった。

「二人とも、ベイルさんを援護しろ」

 タウロンが言うと、シュタルテがためらうように振り返った。

「けど」

「わたしは良い。今はあちらだ」

「分かりました。シュタルテ、行くぞ」

 ヘイズンはそう応じると、デリックら三人の兵士に続いて駆けだした。即座に、シュタルテも続いた。

 タウロンは、翼を生やした黒い魔物を見上げた。

(ダーズルがこちらの動きを見て、仲間と共に回り込んだのか)

 ベイルはオーバに踏み込もうと隙を窺っていたが、上空からダーズルに狙われていることに気付き、素早く下がった。そこへやってきたヘイズンが、魔力障壁を展開し、ベイルを守る。ダーズルとオーバが放った魔力弾が、光の壁に弾かれた。

 ダーズルが撃った次の弾がヘイズンの障壁に当たった瞬間、長剣と盾を持った兵士がオーバに突っ込んだ。白い魔物が魔力弾を撃つが、兵士はそれを走りながら盾で弾き、オーバに剣を突き刺した。その兵士をダーズルが上から狙うが、ベイルとヘイズンの魔力弾による牽制を受けて、魔力障壁を張りつつ高度を上げた。

 その間に、デリックは二頭いるギマランの片方を、槍の一突きで仕留めた。そしてもうひとりの兵士が別のギマランの前に立ち、その間にシュタルテはその魔物の脇に回り込んで、棍棒を持った腕を斬りつけた。ベイルが、魔力の光をまとった棒をギマランの胸に突きこんで、とどめを刺した。

 と、シュタルテは、自分の周囲に異様な空気の流れが生じていることに気が付いた。風は空中の一点に集まるように動き――竜巻となって、ダーズルを飲み込んだ。

 空飛ぶ魔物が、荒ぶる気流に翻弄される。

「みんな、撃て!」

 兵士のデリックが言うのとほぼ同時に、ベイルが右腕を伸ばして魔力の弾丸を放った。ヘイズンと三人の兵士も、それに続いてダーズルを撃った。

 ダーズルが地面に落ちたところで、ヘイズンは素早くタウロンのもとへ戻った。シュタルテも、慌ててそれに倣う。

「今のは、タウロン様が?」

 ヘイズンが、さらなる襲撃を警戒しつつ、訊いた。

「ああ、風の術だ」

 風の神の神官が答える。

「相手の動きを封じる効果がありそうだな。ただ、呪文がいくらか長いから、とっさには使えないが」

 オーレス達のほうも決着がついたらしい。もはや通りには、立っている魔物の姿はなかった。

 道場の仲間のゼックが、右腕から血を流しながらやってきた。タウロンがそちらへ向かう。

 周囲に気を配りつつ、タウロンの後に続きながら、ヘイズンは、どこか呆然とした様子のシュタルテに声をかけた。

「シュタルテ、どうかした?」

 シュタルテは、びくりと体を震わせると、顔をヘイズンの方へ向けた。

「わたし……初めて、敵を斬った」

 ヘイズンは、少し途惑うような素振りを見せてから、短く応じた。

「そうだね」



 ゼックの傷はいささか深く、もはや剣は持てなかった。リガルノは彼を、ここで休む間もなく戦い続けていた面々と共に北の門へ戻らせることにした。

 ただ、デリックは退くことを承知しなかった。

「リガルノ隊長、おれをこの隊に同行させてください」

 リガルノはデリックのがっしりとした体躯を、上から下まで一瞥いちべつした。全身に負っていた細かな傷は、治癒術によって塞がっている。しかし――。

「朝から戦いづめだろう。大丈夫なのか?」

「ようやくやり返せるんです。休んではいられません」

「……では、来てもらうか。第一師団屈指の槍の使い手と言われる君が一緒なら、心強い」

「はい」

 言って、デリックは槍の柄をしごいた。

 そこへ、敵の一団を発見したマイント少年が、おずおずと進み出た。

「隊長さん……」

「マイント、どうした?」

 マイントはしかし、すぐには答えずに、無言のまま通りを見渡した。そこここに、人間と魔物の死体が転がっていた。

「……ネーシャが見た時は、ここにはまだ十人いたはずなのに、おれのせいで……」

「それは違う」

 リガルノが、きっぱりと言う。

「決断を下したのはおれだ。それに、こちらへ先に来ていたら、向こうの人がやられていたかもしれない」

「……あっちには、おれの父さんがいたんだ」

「……」

「だから放っておけなかった。それに、おれが行けば、みんなも付いてきてくれるんじゃないかとも思ってた……」

「……マイント、敵を見つける役目、まだやれるか?」

「やるよ」

 マイントは、即座に答えた。

「みんなはどうだ?」

 リガルノがネーシャら残りの子ども達に尋ねると、七人はそれぞれに頷いた。

「では、行ってもらおう。気を付けてな」

 リガルノの言葉を受け、子ども達は二人ずつになって散っていった。

「……やはり、二手に分かれるべきだっただろうか」

 リガルノが訊くと、傍らの女性兵士、ウデナは馬上の上官に、言い含めるように答えた。

「敵に倍する数だったからこそ、圧倒することもできたんです。半分の数で当たっていたら、遥かにてこずっていたはずです。特に、先ほどは挟撃を受けました。半分の戦力では、全滅していたかもしれません」

 そしてウデナは、少し間を開けてから言葉を継いだ。

「――なんてことは、わたしが言わなくても隊長ならお分かりかと思いますが」

 隊を分けることを言い出したのは、ウデナである。

「隊長さん」

 と、オーレスが口を開いた。

「ぼくには、戦術のことはあまり分かりませんが――隊長さんは、果断なわりに後になって悩むたちのようです。それが悪いとも言いませんが、そういう性質だということは自覚されたほうが良いかもしれません。戦場では、考えるべき事柄に優先順位がありますからね」

「なるほどな――ありがとう、危うく、ここが戦場だということを忘れるところだった」

 リガルノは、オーレスにそう言ってから、声を張り上げた。

「進軍再開!」

(どうも一言、言ってやりたくなる)

 兵士達の後ろを歩きながら、オーレスは思った。

(果断なわりに後になって悩む、という人には)

 それから、オレオンとシュタルテにちょっと目をやって、苦笑した。




第一師団

 ボンナー兵団は六つの師団によって構成されており、各師団は六つの大隊から成っている。六つの師団の内、王国中央部を管轄しているのが第一師団であり、デンズやネスロに駐在しているのは、その第五大隊に所属する中隊である。第五大隊所属の部隊は町や村に分散して駐在しているため、大隊としてまとまって動く機会はまずない。


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