表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕斬りオレオン  作者: 山風勇太
第二章 オーレスとオレオン
21/60

ラブレター


 町外れでの訓練から戻り、夕食を済ませた後、シュタルテはジーニャを彼女の部屋に訪ねた。

「それでシュタルテ、話って何?」

 ジーニャが切り出すと、シュタルテは素っ気ない作りの封筒を取り出した。

「ジーニャに渡したいものがあってさ」

「あら、何?」

「ラブレター」

 とシュタルテが言った途端、ジーニャは両手で口元を覆った。

「シュタルテ、あなた、そこまで本気だったなんて……!」

「え……あ、いやいや、わたしからじゃなくて!」

 シュタルテが、慌てて首を横に振る。

「道場のレギスって奴、知ってるでしょ? あいつに頼まれたのよ」

「え、ああ……そうなの? いやだ、そりゃそうよねえ……」

 ジーニャは普段の穏やかさを取り戻した。シュタルテもほっと胸をなでおろし、部屋の中に和やかな空気が流れる。

 だがジーニャは、再び顔色を変えた。

「ええっ、レギスがあたしに!?」

「反応遅いよ!」

 思わず叫んだシュタルテが、声の調子を戻して説明する。

「なんか昔から、ジーニャは憧れのお姉さんだったんだって。明るくて、優しくて、料理が上手で……けど、今さら口で伝えるのは気恥ずかしいから、手紙を書いてみたんだって」

「そう……」

 考えを整理するような表情で、ジーニャは呟いた。

「確かにレギスのことは、小さい時から知ってるけど……ああいう性格だから、もっと面食いなのかと思ってたわ。それこそ、シュタルテに告白するんだったら、驚かないけど」

「わたしもなんか悔しいから、『なんでわたしじゃないのよ』って言ったの。そしたらあいつ、『え、それじゃ、告白したら付き合ってくれんの?』なんて言うから、『そんなわけないでしょ、バーカ』って言ってやったら、すごく嫌そうな顔してたわ」

「レギス……!」

 ジーニャは悲痛な顔で呻いたが、まあどうせ、いつもの軽口の叩き合いだったのだろうと思い直した。なんだかんだいって、道場でシュタルテと一番気が合うのがレギスらしい。

「まあでも、どう考えたってジーニャの方が魅力的だもんね。悔しがってもしょうがないか」

「そんなことないわよ……なんだか弱気ね、シュタルテ」

「え? 別に……まあそれで、手紙を渡すように頼まれたわけ。一応言ったのよ? ジーニャには好きな人がいるから、諦めろって」

「……それがレギスのことだっていう可能性は、考えなかったの?」

「だって、ジーニャがあんな馬鹿、相手にするはずないじゃん」

「……まあ、違うんだけどね」

「だけど、『それでも良い、伝えるだけ伝えておきたい』って……どうする? わたしから、丁重にお断りしておこうか?」

「それには及ばないわ」

 と言って、ジーニャはシュタルテから封筒を受け取った。

「お手紙を読んでから、あたしがレギスに会いに行って、きちんとお話をしてくるわ。だって、告白してくれるなんて、とっても嬉しいもの」

 ジーニャの言葉を聴いて、シュタルテは不思議そうな顔をした。

「好きでもない相手から告白されて、嬉しいものなの?」

「それは嬉しいわ。……そうね、シュタルテも誰かのことを好きになったら、きっと分かるわよ」

「ふうん……」

 ジーニャの話を聴いていて、シュタルテは急にそわそわした気分になってきた。先ほどまでは、レギスの告白になど大して関心がなかったのに、この感覚はどうしたことだろう。

 ジーニャやレギスがどんな気持ちなのか、知ってみたい、と思った。

「ねえ、その手紙、読んでみて良い?」

 シュタルテが言った途端、ジーニャの顔が強張った。

「シュタルテ、なんてこと言うの!」

 ジーニャが声を荒げる。

 シュタルテは、顔に後悔と困惑を浮かべながら、いじけたような声を出した。

「何よ……そんな、怒鳴ることないじゃん……」

「シュタルテ、レギスはきっと、一生懸命この手紙を書いたに違いないわ」

 ジーニャは、静かな諭すような調子で言った。

「そして、あなたを信頼して、これを預けたのよ。それなのに、この手紙をあなたに読まれたなんて知ったら、どう思うかしら」

「……」

「シュタルテ、どんな時も、人には感情があるってことを、忘れてはいけないわ」

「分かった……」

 シュタルテはうなだれて言う。

「分かった、つもりだけど、分かってないからうまくいかないんだろうなあ……」

 と言ってから、シュタルテはレギスの家の方角に顔を向け、「レギス、ごめんね」と呟いた。



 翌日の夕方、稽古を終えた門弟達が道場から出ていくのを、ガゼフは立ったまま眺めていた。

 気疲れする一日だった、とガゼフは思った。今日はカイムとバスコフがいなかったので、オーレスやソーラと共に門弟達の指導に当たったのだった。

 人に教えるなどは柄じゃない、という気がしている。もっとも、教わる側に不満な様子はなさそうではあったが。

 ガゼフひとりが残っている深閑とした道場の中に、一度外へ出ていたオーレスが入ってきた。

「ガゼフさん、今日はお時間は大丈夫ですか」

「ええ、特に用はありません。それにしても、オーレス先生に一対一でご指導をいただけるとは」

「今日は、ずっと師範役をさせてしまいましたからね。それに……」

 オーレスは稽古試合用の木剣を二本持って、ガゼフのそばへやってきた。左手に長剣、右手に小剣。

「この形でお相手するのも、いよいよ難しくなってきましたしね。そろそろ、本来の形でお相手しなければ」

「本来の……? なんです、『真の姿』でも見せていただけるのですかな?」

 ガゼフは不思議そうな顔をしながらも、おどけるように言った。

 それには答えずに、オーレスは左右の剣を逆に持ち替えた。右手に長剣、左手に小剣。

 ガゼフの顔から笑みが消える。

「……先生が実は右利きだという話、本当だったんですな」

「ご存知でしたか」

「一部の者が噂しているのを、何度か耳にしていました」

「……なぜ左利きのふりなどしているか、お話ししなければ納得していただけないでしょうね」

「ええ」

「では、お話ししましょう」

 と言って、オーレスは自分が左利きの人間として振る舞っている訳を話しだした。

 ガゼフは、話が終わってからもしばらく黙っていたが、ややあってから不快そうに言った。

「初めてですな、シュタルテの奴を気の毒だと思ったのは」

「そうですか……そうですね」

「他に、このことを知っているのは……」

「カイム先生ご夫妻とソーラ先生、バスコフ先生には話してあります。アーロ君には、右利きであることだけ教えてあります……さすがに、一緒に暮らしていてごまかすのは無理ですからね」

「おれの知る限り、アーロから秘密が漏れたことはないようです。あれはやはり、しっかりしていますな」

「ええ」

「それで、このことをみんなに話すおつもりはないわけですか」

「今のところ。ガゼフさんにも、黙っていていただきたいのですが」

「当然です。話すなら、先生の口からでなければ」

「ありがとうございます」

 オーレスは礼を述べてから、ガゼフを促して立ち合いをした。

 道場一の高弟は、あっという間に三本取られた。ガゼフは最近、もう少しでオーレスに追いつけそうだという手応えを感じていたのである。それが、また一気に引き離されたような感覚だった。

 ガゼフはそのオーレスの強さに、ふと怒りを覚えた。ヘイズンが利き手と逆の手で剣を振るのは良い。しかし、師範であるオーレスがそれをするのは、門弟達に対する裏切りではなかろうか……?

 しかしガゼフは、それを口にはしなかった。実力が迫ってきた自分には、こうして秘密を明かし、本来の力で立ち合ってくれているのである。

 それからふいに、オーレスに「真の姿で相手をする時が来た」と言われる夢を見たことを、ガゼフは思い出した。今まさに、その通りになっている。

「先日の、おれが見た夢についての話、憶えておいでですか?」

 オーレスはちょっと不思議そうな表情をしてから、頷いた。

「ええ」

「夢というものは、願望、疑念、恐れ、罪悪感などを反映すると聞いたことがあります。妙な噂や、先生の何かを隠しているような態度が、おれにあんな夢を見せたのかもしれませんな」

「願望、疑念、恐れに罪悪感ですか」

 オーレスが、呟くように言った。

「ならばぼくは、シュタルテ君を恐れている、ということになるのでしょうか……」

 オーレスが見た、少女達に付きまとわれる夢について知らないガゼフは、怪訝な表情になった。が、オーレスに問いただすことはしなかった。




クラッセ「ベイルとソーラ先生の夢は願望でしょ。あれ、わたしの夢は?」

エルト「ニンジン食べなきゃ、望みが叶わないってことさ」

ベイル「食べたら叶うのか……?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ