↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕斬りオレオン  作者: 山風勇太
第二章 オーレスとオレオン
PR
20/60

それぞれの秘密


 道場から下宿に戻ったシュタルテを、フレシトのクラッセが待っていた。少し話したいことがあるというクラッセを、シュタルテは自分の部屋に入れた。

「なんだか、変なことになっちゃったわね」

 シュタルテのベッドに腰掛けたクラッセが、部屋の主が着替えるのを眺めながら言った。

「おまけに、あんたを守ってくれるはずのベイルもいないし」

 隊商を警護するという仕事の入ったベイルは、あと十日ほどは戻らないらしい。どこの町へ行ったのかも、シュタルテ達は聞かされていなかった。魔族なり野盗なりに襲われて隊商が全滅すれば、それきり、どこで死んだかも分からないという仕事である。

「話って、そのこと?」

 汚れても良い服に着替えながら、シュタルテが言った。

「心配してくれるのは嬉しいけど、大したことないわよ」

「いや、心配っていうか、ちょっと責任を感じててさ……」

 珍しく歯切れの悪いクラッセの顔を、シュタルテは覗き込むようにした。

「責任って、どういうこと?」

「うん……」

 クラッセは少しだけ、ためらうように間を置いた。

「あんたの、〈腕斬りオレオン〉を探してほしいって依頼を受けたの、シュマっていうフレシトだったでしょ? 背の高い、女の」

「……」

 シュタルテは顔に驚きを浮かべたが、黙ったまま次の言葉を待った。

「そいつにオーレス先生の情報流したの、わたしなのよ。ちょうど、なじみの情報屋から、オーレス先生がオレオンの特徴と合致するっていう話を聞いててさ」

「そうだったの」

「と言ってもさ」

 クラッセの顔に、自嘲するような色が差した。

「オーレス先生がオレオンかどうかなんて、知ったこっちゃなかったのよ。依頼の内容は、刀を使う、左利きの達人で、男で……そうそう、後は、二刀流か。そういう人を見付けろっていう依頼だったから、オレオンかどうか確証がなくても、別にいっかなって思ってさ。割と報酬が良くて、分け前が出ることになってたし」

「……」

「つまりさ、わたしがそんないいかげんなことしなければ、あんたは他の町で、他のオレオンを見付けてたかもしれないわけよ」

 そうしたらシュタルテとオーレスが出会うこともなかった、と言いたいらしい。

 それにしても、他のオレオンとは、皮肉な言い回しである。シュタルテはちょっと、苦笑した。

「そんなこと、気にすることないのに」

 シュタルテは言った。

「オレオンかどうか確かめなくても良いことにしてたのは、それだけ特徴が合えば、ほとんど間違いないって思ってたからよ……まあ、そうでもなかったけどね」

「……」

「シュマさんもクラッセも、わたしの依頼をちゃんと達成してくれたわ。それに、クラッセがシュマさんに知らせなくても、多分この町の他のフレシトが、オーレス先生のことに気付いてたわよ。本当にぴったりなんだもん、オレオンの特徴に」

「そっか……そうかもね」

 幾分ほっとしたという顔で、クラッセは言った。

「あーあ、いつもならこんな責任感あふれること、口走ったりしないんだけどね。なんだか、ひどいことになっちゃってるからさ」

 クラッセはそう言うと、あざの浮かんでいるシュタルテの頬を、優しくなでた。

 しばらくされるままにしてから、シュタルテが口を開いた。

「ところで、さっき言ってた情報屋って、何?」

「あるのよ、そういう仕事が。売れそうな情報を集めて、売れそうなところに売るの。商人とか、役人とか、フレシトとかにね」

「ふうん」

「まあ、オーレス先生のことは、他の話のついでに教えてくれたんだけどね。ごひいきさんへのサービスってとこかしらね」

「それって、どんな人なの?」

「それは言えないわ」

 クラッセは、きっぱりと言った。

「ならず者や悪党ともつながってるような商売だからね。正体が広まると、色々とやばいのよ」

「ふうん……」



 その日もシュタルテに何十発もの魔力弾を撃ち込んだオーレスは、訓練が終わった後、「明日は用事があるから休みにしてほしい」とシュタルテとタウロンに告げた。そしていつものように、シュタルテ達よりも先に町への帰途についた。

 しかしオーレスは、市街地に入る少し手前で、ふと足を止めた。

「いつまで付いてくるつもりですか?」

 オーレスは振り返ると、誰もいない道の先に声をかけた。

 突然、夕闇の中に背の低い人影が現れた。魔法で姿を消していたらしい。

 人影は無言で、オーレスに歩み寄ってきた。道場の若い門弟、ヘイズンだった。

「君は以前から、ぼくのことを嗅ぎ回っているようですが――」

 無言のままのヘイズンに、オーレスが言う。

「ここ数日は、随分しつこく見張っていましたね。さっきの、シュタルテ君の訓練も見ていたんですか?」

「見ていました」

 ヘイズンがとうとう、口を開く。

「先生、随分器用に、左手で魔力弾を撃ちますね。ぼくも、右で剣を使う練習と一緒に、右で魔法を使う練習もしているんですが――なかなかうまくいきません、利き手と逆の手で魔法というのは」

「……君は、どこまで知っているんですか?」

「全部知っている、と言ったら、ぼくを斬りますか?」

 二人の視線が、静かに重なった。ヘイズンは、オーレスからいつも以上の威圧感を感じたが、平然とした表情を保った。

「いや、大したことは分かっていません」

 オーレスが何か答える前に、ヘイズンが言葉を続けた。

「先生が本当は右利きらしいということは、門弟達の一部で噂になっているんです。カイム先生、バスコフ先生、ソーラ先生と立ち合う時、長剣を右で使っていると。そのことと、先生があまりにも〈腕斬りオレオン〉の特徴に当てはまることから、何かあるのではと思って調べていたんですが……それだけです」

「そうですか……まあ、信じましょう」

「先生は、シュタルテをこの町から追い出そうとしているように見えます。先生は一体、何を隠しておられるんですか? シュタルテは、その秘密に近付きすぎたのですか?」

「ぼくは別に、シュタルテ君を追い出そうとしているわけではありません。ただ……」

 オーレスは、言うか言うまいか迷うように、少しの間口をつぐんだ。しかし、かすかに険しい表情になって続けた。

「ただ、気に入らないんですよ。何でも自分の思い通りになると言わんばかりの、彼女の態度が」

「……それで、シュタルテに教育を施しているとおっしゃるんですか」

 押し殺したような声でそう言ったヘイズンは、次の瞬間、吠えた。

「それで、あの綺麗な顔をあざだらけにしたと言うんですか!」

 オーレスは、わずかに驚いたような表情を浮かべた。ヘイズンが激昂するところなど、初めて見る。

 しかしオーレスは、すぐに平静を取り戻して、言った。

「あの訓練方法が有効だというのは、本心です。それは、シュタルテ君も納得しています」

「……」

「ところで、ぼくが右利きらしいという噂、シュタルテ君は知らないのですか?」

「今のところ、シュタルテの耳には入らないように、ぼくが口止めをして回っています。先生の得体の知れない秘密に、深入りしてほしくないですからね」

「ふうん……君はどうして、そこまで彼女のことを心配してやるのですか?」

「……妹弟子の心配をするのは、当然です」

「珍しいですね、君がそうまで、他人に関心を持つのは……まあ、良いでしょう」

 オーレスはそう言ってから、ヘイズンを促し、歩きだした。

「先生の秘密については、教えていただけませんか」

 普段の静かな調子を取り戻して、ヘイズンが言った。

「秘密と言われましてもね、ぼくはオレオンではありませんしね」

「……では、ぼくからひとつ、申し上げておきたいことがあります」

「なんでしょう」

「シュタルテは〈腕斬りオレオン〉を英雄と呼びますが、ぼくに言わせれば、オレオンは得体の知れない辻斬りに過ぎません」

「そうですか」

 オーレスは短く答えた。

 しばらく通りを歩いてから、二人は別れた。

(どこまで知っているのか、と言いましたね、先生)

 ひとりになったヘイズンは、歩きながら考えた。

 何か意図があって言った言葉かもしれないが、秘密の存在を認めたことになる。

(その秘密の正体を、突き止めなければ。シュタルテに何かある前に……)




カイム

 五十二歳男性。サルト流剣術道場の道場主。妻と次女ソーラ、居候のオーレス、お手伝いのアーロと五人で暮らしている。子どもの頃、山中で幻のヘビを見たことがあるらしい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。