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新選組ゆかりの某不動尊近域を始発駅に、終着駅を『八咫ヶ岳』までになぞり、この短い区間の地元ローカル線を高八咫線と呼称された。
不動尊からは降車し、大手電鉄に乗り換えれば都市部まででも乗り換え込み一時間程で着くぐらいには御鏡市の交通の便はそれなりである。
高八咫線を御鏡市立第二高等学校がある御鏡本町駅から更に下り『神爾江』に音羽龍世が住まうサンガ荘はあった。
御鏡本町は「本町」の名が付くが実際には御鏡市南西部に位置し、一駅下ると跨いで隣りは浄張市となる。御鏡市より更に都市化が遅れており浄張市中央区こそ居住地域化してはいるが市立学校は小中までしか無く、それ以外の郊外は田畑や雑木林ばかりで土臭いという他ない。
近頃この間の土地を大手建築会社が区画整理し、全長1Kを超える超大型ショッピングモールを建造しようと多く企業参入を始めていた。
これが龍世の寝床となる神爾江ともなると片田舎宜しく、田んぼ道は遠い間隔で古い街灯が電柱に吊るされているだけの粗末なもので、夜などは携帯で足元を照らさないと見えない程である。
子供の頃にしか出会えないクスノキの森の主でも出てきそうな雰囲気こそあるが、実際は近隣の地形は丘はあっても山はなく最悪自転車があれば開けた公道沿いには何とか辿り着けるという具合だ。
それでもまだ、サンガ荘は最寄り駅から徒歩10分弱で着く距離にあり駅前には辛うじてコンビニがある。が、これが今どき24時間営業しておらず朝7時開店・夜11時閉店という家族経営のコンビニである。
正直、今ある標準的な近代思考を持った人間であればこの辺りにはそうそう住めないだろうなと龍世が思う。
陽射しの強い正午からの三時間を避けて一度本町駅近場のゲームセンターに逃げ込んでいた龍世は街の熱が落ち着く頃、それでもまだ暑いがのっそりとした足取りで漸く表へ出ると普段通り電車に乗り、この帰路へ発った。
神爾江の駅からの道、まるで龍世を出迎えるかの様に烏の群れが田畑や電線に群がり林の側で日が沈むのを待っている。ご苦労なことだとその黒い羽毛を憐れみながら午前中に大地が帯びた残暑を肌に感じる。
アパートの玄関先に人影が二つあった。
近付く気配でこちらに向く。
「おかえりなさい、龍世君」
「伏見さんに、正也もか。何してんの?」
「見てわかんねーの、草むしりだよ。お前も突っ立ってないで手伝えよ」
確かに今、サンガ荘の周りは正に田園将蕪と言った有様だった。夏の日を浴び緑光に生い茂り、腰の高さまで伸びる雑草もある。
然しそれにしても、否、普段からそうなのだがサンガ荘の周りには何か爽やかな独特の甘く青い香りが鼻を突く事がある。
この香りを龍世は決して嫌いではなかったが、今は一段と強く、特に青さの方を前面に感じる気がする。
二人が草むしりをしているせいだろう。
「あら龍世君、この草何か知らなかったの?」
サンガ荘管理人代行の伏見千鳥が言う。どうも龍世の表情から頭に描く設問を読み取ったらしい。
「アップルミント、丸葉ハッカだよ」
同居人の玉置正也が毟った葉を龍世の鼻先へと近付ける。
確かに名前の通り、林檎の実の様な甘い香りが仄かにしていた。
「これ、ハッカなのか?」
「なんだ龍世、お前全然知らないで毎日玄関先を歩いていたのかよ」
「雑草の名前なんかいちいち知らねーよ。匂い出してたのコイツなんだな」
「林檎みたいな甘い良い香りするでしょう?私も好きだから、あんまり刈り過ぎないようにはしてるんだけど、伸びると青臭ささが強くなってしまうの」
足元を見ると小さな高さ3〜4cm程の群生した場所一部を残し、背の高くなったものを二人で熱心に刈り取った様子である。
然しこれが、人の鼻には爽やかで甘い香りを放つが反して地下茎は以外にも他の植物に対し侵略的なよう。
龍世がよくよく玄関周りを観察してみると、サンガ荘の母屋から離れてそこそこ大きな欅が一本立っている以外に植物といえば正に雑草ばかりだが、チガヤやブタクサが少し目立つぐらいなもので、伏見がこのアップルミントを上手く群生させることで周囲の害草の繁殖をコントロールしてるようであった。
「小さい方が甘い香りが強いんだよな。いい匂いがするのは植物も人間も動物も皆一緒で、揃って赤ちゃんの頃ってわけか」
「ふふ、正也君、面白いこと言うわね」
然し二人の会話に龍世はぽかんとしていた。
「いい匂い?人間が?」
「ノナナールって、龍世知らんのか?」
さあと、素っ頓狂な龍世である。
玉置は龍世と同年代だったが、不思議と妙な博識があり、しかし高校中退のフリーターだ。六月の始めに龍世はこのサンガ荘に越してきたのだが、玉置はそれより少し前には此処に居た。
「ちなみに、おっさん特有の加齢臭を発音が似てるんだがノネナールという」
「それは別にカレー臭でよくね?」
「ん?なんかイントネーション妙だな……」
二人がくだらないことを言っているとその間に入り、伏見が一つ新しい軍手を龍世へ差し出す。
手渡され「あー」とやはり面倒くさそうな顔を思わずしている。
「しょうがないだろ龍世『俺ら』の場合は、これで家賃安くなってんだから」
「ほら若いんだから手伝って。ってまあ、家賃については殆ど私の気分みたいなものなんだけど」
実はこのサンガ荘、不動産屋を一切通しておらず驚くべき事に「半共同住宅」である。
このご時世に幻ともいうべき建造物は昭和の頃に建てられた共同住宅の家屋を部分改築した。各部屋ごとに鍵とささやかにガスの内管を通した小さな台所と空調設備、そして個別にトイレを設けた。だが風呂場だけは改修出来ず一階の奥に広めの共同浴場があり未だに入居者の皆がそれを使う。
昔の名残りから玄関から伸びる共用廊下には今でも使える台所と流し、そして何と古の「二層式」の洗濯機が設置してある。
「龍世、お前だって月の家賃光熱費込みで一万五千なんだろ?」
神爾江が片田舎に入っているとはいえ実際に都市部もそう遠くなく、これはあまりにも破格だ。
一応「学生割」という扱いになっているようだが、玉置の言い方からするとどうも同じ支払いの家賃らしい。
只それだけに非ず、月にこのサンガ荘の雑務の主に廊下浴室庭先ゴミ置き場の清掃を割り当てられ家賃を値下げして貰っている。という体だが、
蓋を空けてみれば殆ど一階入り口近くの101号室に住み込む管理人代行の伏見が龍世や玉置の分も一人でこなしてしまい、普段は申し訳なく思っている。
「除草剤撒くんじゃ駄目なのか?」
「絶対駄目よ、その辺にタヌキだっているんだから」
龍世が繁々とこのアップルミントを見やり、
「……まあ、たまにはちゃんとやるか」
「偉い偉い、龍世君」
「千鳥さん、先にやってる俺も褒めて下さい」
林檎香る夏のアパートの庭先に腰を屈めて、普段より幾分と殊勝な龍世が二人に寡勢をする。
然し、もしもこれが龍世の本当の肉親達であったのなら、
彼は絶対に雑務の手伝いなどしないだろう。
有り体に言えば『団塊』の世代に近い性質を持つ父親だった。代々受け継いだのは心の悪しき負の遺産。
見栄を張り、傲慢かつ態度は尊大そのもので毎日他人の悪口を言っている様な男だ。何故母がこの男と結婚をし自分を産んだのか、龍世は高校三年になった今でも未だに理解が出来ない。
昭和の人々が目指した一億総中流社会の幻想はもはや後世への呪いだった。皆が平等を目指し、然しその中で密やかにそしてほんの少し、他人より裕福でいようなどとは太々しいにも程がある。
龍世の父はそういう呪いの連鎖を受けて育ち、そして自らの子にも『親である』という仕打ちをすることが自分の生きる意味の正統性なのだと本気で思っている。そういう人間だ。
『毒親育ち』と──
今の時代はまだ「言葉」があるだけ救われている。一昔前で言えば子供に対する暴力も暴言も、親として自身の感情を上手くコントロール出来ない未熟な精神も、ただ癇癪の強い父親という程度で済まされてしまうだろう。
小学中学年の頃、食事の席では頻繁に難癖を付けて龍世の頭を箸で強く叩く父親だった。
「龍世!お前は行儀が悪いぞ!」
バチンっ!
居間にテレビがあった、当たり前だ。
食事の時にこれは当然点いていた。ちらと一瞬視線を画面に移した時に手が止まった。理由はそれだけだった。
父は胡座を繋いてテレビに向き、片肘をテーブルに突けて晩酌する。その向かい側が龍世の席だ。
正座をさせられていたが怒号で萎縮し背筋が崩れた。
「また、お前は!」
バチンっ!
理由を付けては何度も叩いた。
なんでコイツが自分の父親なんだ?
意味が分からなかった。
神様ってのがこの世にはいるらしい、ソイツは驚くことにとてつもなく理不尽で、人間が生まれる以前から一個人の搾取の対象を定めているのだ。
まだ幼い龍世は父を睨みそして、
──生まれてきた自分自身を恨んだ。
「龍世!何だその目は!誰のお陰で飯が食えていると思ってるんだ!」
バチンっ!
何度も何度もその頭を叩いた。
勝手に親になり、勝手に家庭を持ち、勝手に子供を怒鳴り付けている。
「俺の親父はこんなものじゃ無かった、俺はお前達を甘やかし過ぎた」
「俺の人生の苦労をお前達はまるで分かっていない、お前達は幸せな方だ」
「俺のように出来た父親は他所にはいない、お前達は俺を尊敬するべきだ」
いつ自分は此処に生まれてきたいと願った?
龍世には二つ上の兄が居る。
父はよく龍世達、兄弟の名前を間違えて呼ぶ事があった。
自分で自ら付けた子供の名前を安易に間違えるのか?
有り得ないと思った。だが父は感情が昂ぶればいつだって叫び間違えた、理由は簡単、龍世達兄弟の扱いは人でも子供でもなく父の承認欲求の為の『モノ』だった。
それでも兄は大人しい性格の持ち主だった。いや、そうすることで家庭の中で自己防衛し、決して父には逆らわなかった。
父が兄弟の名前を間違えて呼ぶ時、それは父本人の無意識下である決まった法則がある。
「龍世っ!」
「っ!?」
突然叫ばれ、驚いた龍世が父の方を向いた。
「龍世!お前はっ!」
だがその名で怒鳴りつけられていたのは幼い頃の兄だった。理由は相変わらず分からない。
父は怒りに我を忘れ自分が子供の名前を間違え怒鳴っていることに全く気が付いていない。
『呪い』の復讐と怨念、その塊だ──
然しその時、一つだけ龍世にははっきりとしたことが分かった。
この男は人間を『モノ』として下して言う時に、自分の「龍世」の名を脳から取り出して叫んでいるのだ。
それも無意識でやっているとても邪悪で性質の悪いものだ。キレる大人の典型だった。それでも兄がただ黙って叱られ自尊心を失わずにいられたのは、父が龍世の名前で間違え兄を怒鳴りつけていたからだろう。
そんな兄が高校卒業から暫くの間フリーターでいた頃、アルバイトをしつつ車の免許を取った。
これは音羽家が関西へ引っ越すきっかけになった出来事である。
運送会社に努めていた父は大型トレーラーの運転手だった。勤務態度は決して悪くはなかったが『キレ性』な気質なせいでよく社内や搬送先でモメる事があった。
特に父は他人に対して「頭を下げる」ということが出来ない。だから自身で他人の上に立ち、会社を持つことを日々念頭としていたのだ。
いつか密かに機会を見計らい、仲間内で別の組織を立ち上げようと考えていた矢先の事だった。フリーターだった兄が車の免許を持つと父は自分の仕事を手伝わせようと、いつもの恫喝で兄を威嚇した。
父には開業の当てがあり、多くの人が寄り付き難い荒い気性を備えていたがそれでも『同族』らしい同業の知り合いが関西には一人居た。この助けを借り兄と母を従えて向こうへ行ったが、龍世は後一年で高校卒業間近だ。
当然、父は龍世をも関西へまるで手下のような扱いで連れて行く気であったが、意外にもそれを止めたのは龍世の兄、大世だ。
兄にとっては、それは龍世へ対してのせめてもの贖罪だったのかもしれない。
龍世の人としての尊厳を削り一番足元に置くことで、この家庭はその形をこれまで保ってきた。
サンガ荘の住居を探り当てて龍世を住まわせると、高校卒業までの家賃の面倒を自分がみると率先して言い出したのだ。
酷く寝覚めの悪い朝だ。
何か悪い夢を視ていた。よく内容を覚えていなかったが、いや視ていたのは夢では無く過去の記憶なのかもしれない。
思考は未だ泡沫だったが、とにかく憂鬱だった。起き上がり肌にまとわり付く気味の悪い湿度を取り払う為、冷房の電源を入れる。
昨日、些細なことだが一つ自分の中で決めたことがあった。
『夏期講習にはもう出席しない』
期末テストの補填となる追試だけを当日そのまま受ける、多分それで大丈夫だ。
奈緒や壬生や平安と揃って勉強しても卒業後に自分が関西へ越すことには変わりがない。もしあちらに行かなかった時の事を考えると、母や兄がまるであの男の人質にでも捕られているかような、そんな強迫観念にすら苛まれる。
壬生は今からでも追い込めば龍世が御鏡大に入れるなどと、さも平然と言って退けたがそんなものはやるだけ徒労だ。
どうせ大学入試など受かりはしない。
教師達からしても龍世の進退など微塵も関心が無いどころか、寧ろ学校に在席されている事の方を忌避するような生徒だろう。
だからこそ追試は通される、これには龍世にも確信めいたものがある。
時刻を確認する為、携帯を見開く。
この部屋には時計が無かった。龍世が越してくる時にサンガ荘へ持ち寄ったのは寝具とテレビ、学校関連の物と制服や衣類ぐらいだ。某家庭用ゲーム機の一型古いものを後から壬生に貰った。
冷蔵庫は古く小さい昔のものが部屋に置き去りにされており、洗濯機は共用廊下のものを使う。結果的に今この六畳の和室部屋だが、一人暮らしの男子学生の部屋にしてはえらく殺風景に感じた。
携帯のSNSにチャットの着信がある。
新作スタンプの告知、どうでもいい。
それとは別に兄、大世からのものがあった。
「調子どうだ?」
相変わらず淡泊な、感情がまるで感じられない。
あの身勝手でキレ性の父を側に置き、兄はその人格を殺してしまっている様な、龍世に比べ反発を示すということが殆どなかった。
兄弟仲は良いとも悪いとも言えなかった。同じ血を分けた兄弟のはずがいつもどこか他人のようだった。兄の質問の意味が一人暮らしについてなのか、学校生活についてなのか、はたまた夏バテしていないか等か、一向に定かではなかったが。
もしくはそれら全てをひっくるめて。
「特に変わりないです」
とても兄弟のやり取りとは思えないような、曖昧で抽象的で他人行儀な、いや本人達も恐らく分かっていないだろう返信を打つ。
それからもう一つ、別の未読に携帯の画面をフリックする。
奈緒からのチャットだ。
「朝、そっちへ迎えにいくよ」
は?
今から10分前ぐらいに着信している。
「来なくていい」
そう打ち返した。
夏期講習にはもう行かないと決めたのだ。
それに奈緒は御鏡本町駅から上りの御鏡東駅から通学している。龍世の神爾江とは逆方向だった。此処へ来る為にはわざわざ学校のある本町駅を跨いで電車を乗って来る必要がある。
携帯をマナーモードにし枕元へ投げた。二度寝しよう。
奈緒は来ない。
あまりに気分は悪く、今朝は寝た心地が全くしていなかった。
今更、鬱ら睡魔へ侵される龍世の側で、その携帯が間隔をおいて振動している。
肩を揺さぶられ、その名を呼ばれる。
「龍世っ!龍世っ!」
いつか同じような事があった。
あれはいつの頃だったろうか?
ただ覚えているのは酷く悲しい記憶と罪悪感。
そう、雨が打ち付けていたはずだ。
「起きてよ龍世!」
──目を覚ましたが、
「奈緒……?」
「龍世!寝てないで学校行かないと!」
身体を起こし部屋を見渡す。
直ぐに理解した、部屋の鍵を閉め忘れていた。やって来た奈緒が勝手に入って来たのだ。
半共同住宅のサンガ荘は各個室に当然鍵を付けているが、共用廊下の入り口は大玄関(式台玄関)になっておりこの開閉を伏見が朝夜に行う。大玄関の鍵も住居者には渡されてはいるが、セキュリティという面で言えば雑だが部外者は敷居を跨ぎ難い形にはなってはいる。
そのせい龍世は自分の部屋の施錠に関して、近頃やや曖昧な心構えにはなった。一人暮らしに慣れてきた矢先にこれでは先が思いやられようか。
「なんだよ、勝手に入って来たのかよ……」
「龍世が閉め忘れてたんでしょ、散々チャット送っても既読も付かないんだから……早く支度しないと最初の講習に遅刻しちゃよ」
気怠そうに頭を掻きむしる龍世。
「一人で行けって、俺、講習出ねーから」
「何馬鹿なこと言ってるのよ、皆で勉強するって……」
「別に約束してねーよ、どうせ俺なんか関西に行くんだからやるだけ無駄だっての」
面倒くさい。
一重にこれが全てだったのだが奈緒は怒るかもしれない、と龍世は内心身構えていた。
だが、
「追試だって……受けなきゃ卒業出来ないんだよ?」
ぎくりとした。
言われた事に対してではない。
奈緒の表情が悲愴のそれ『そのもの』だったのだ。正しく恐怖や畏怖といった強烈な不安から来る人の感情の表れだった。
自分が『それ』を彼女に与えたのだ。その事実に龍世が自らを恐れた。
「と、通るさ……追試なら」
途端に怖じ気付き、喉を詰まらせながら龍世が言う。
「なんで!?」
「俺みたいな奴を学校に置いときたくないだろ、担任見てりゃ、んなこと分かる。アイツら俺の勉強の出来なんか関係なく単位取らせるよ」
「龍世、それ本気で言ってるの!?そんなんじゃ大学入れないよ!」
「やらねーよ大学入試なんか、今から準備してたら途方もない労力かかるだろ」
言って、はっと息を呑んだ。
奈緒が肩を震わせ、泣いていた。
「どうしてっ!?なんで龍世、こっちに残ってくれないの!?」
奈緒の感情が掴めず龍世は気圧されていた。
何故、奈緒の方が泣いているのか、
「な、なんでって……無理だろ、だって……」
「龍世しか、龍世だけしか──」
──私のこと見つけられないのに!
「な、何言って……」
言葉が出て来ない。
自分しか奈緒を見つけられない?
龍世が声を絞り出そうとした瞬間、奈緒が勢いよく部屋を飛び出して行ってしまった。




