第七十四話 俺達の戦いは、これからだ!(打ち切り)
―――ギランミ達のちょっと前。
「俺は自由だ!俺は自由だ!もう俺はなんでも出来るだ!俺はもうなににも縛られちゃいないんだ!俺は自由だ!俺は自由だ!俺は今メサちゃんのお家の廊下のカーペットに、自分の掠れた、中学生時代から履いてるガムも、犬のうんこの全ても踏み締めてきたこの靴で、赤い高級カーペットの上を駆け抜けることだって出来るだ!俺は自由だ!俺は自由だ!よくよく考えたら、もうメサちゃんに気を使わずに、街の女の人をえっ○な目で見ることも可能なんだ!俺は自由だ!」
アダムくんの頭髪の全ては、前方からの風圧により、獅子の鬣のように靡いていた。
赤いカーペットは、彼が全力で走るから、窓から差し込む夕方の紅に混ざって、赤い閃光に変化していた。
「きゃっ!」
廊下を走っていた、不審者のクソ。
無事曲がり角でメサちゃんとぶつかり、彼女の手に持っていたマグカップとカフェオレが、血飛沫のように宙を舞った。
「あちっ!あちっ!あっち!!金払え、金!」
自身の仕事服のスーツに薄ベージュの、沸騰したそれらが降り掛かり、自業自得カスは、あろうことか被害者のメサちゃんへ慰謝料を請求し始めた。
その様、さながらエ○漫画の、クリーニング代当てつけヤクザジジイのようであった。
「ご、ごめんなさい……やけどしちゃった?」
メサちゃんは記憶を失っているのに、わざわざカスの頬にその御手をお触れなすって、肩をお撫でなすって、肌を点検なすって、不審者のクソをご心配なさった。
「あぁっ!俺に触れるなぁ!俺は誰のものでもねぇぞ!僕は僕だよ!!」
「え……え、え。なにこの人、なにこの人きも。なにこの人、私心配したよね今。私今心配したのに、なにこの人。なんなのこの人。この人なんなの。」
「おらっ!誰も俺に触れんじゃねぇよ!!」
カスは再び走り出した!
手綱から解き放たれた、時代劇で黒澤○に叱られる馬のような暴れ方であった!
彼は自身の平坦な人生の内に、山を作ろうとしていた。
彼は浮気ばかりのクソカスハーレム主人公ムーブを重ねていた癖に、一度女性に自分の存在を知らんぷりされると、もう我慢ならなかった。
山を作るためには、彼は自分が基地外になることも厭わなかった。
「俺は自由だ!俺は自由だ!俺は、自分の失敗作を今すぐ投げ出して、絶対に新作をだしてやるんだ!モンスターボー○を女神に授かられた転生ニートが、異世界で女騎士や魔王の幹部を捕獲して、国を作って王国も魔王もぶっ倒す転生物語を!!ピカレスク・ロマンを!!魔王を殺しにいく勇者のクズと、彼氏持ち魔法を使えない詐欺魔法使い女の子の、旅のギャグ作品も作ってみせる!!!このす○と被るから、そんなことはやめろ!!?書いててなんの意味がある!?勉強しろ!?だ、だまれ!!!」
彼には、何かこの世のものとは思えない、ドス黒い泥のような悪霊が乗り移っているらしかった。
くずめ、しんでしまえ。
鼻息が冬の寒気により、白い煙として実態を持って、彼の鼻から煙突の煙のように絶え間なく放たれていた。
「不法侵入で、逮捕。」
突如足を引っ掛けられ、退勤直後のギランミに手錠をかけられたアダムであった。
「ぐすっ………」
メサちゃんはトボトボと歩いて、案の定泣いていた。
「これ、落としたけど……知らない人。」
知らない人と言う必要はまるで無さそうであったが、彼女流の仕返しであった。
「あははははははははは!知らない人かぁ!!おぎゃぁぁぁぁぁぁ!!僕は自由だよママぁぁぁぁ!!」
「………………」
ギランミは絶句していた。
「ぐすっ……………クビ。」
「あ、あれよく見るとやっぱりメサちゃん綺麗ですよね。そのなんて言うんですかね、雨が降ったなら、必ずカタツムリにくっつかれそうな、そんなお花みたいな綺麗さですよね。本当に!良い匂いもするし!一番に蜂の餌にもされそうですよね!本当に素晴らしい!!クビにはしないでください!なんでもしますから!!」
「私からもお願いします!!」
突如、使用人のこんにゃくが現れ、その粘ついた体を魚が跳ね回るような音を一度立てながら、地面に叩きつけ、土下座していた。
「貴方……俺のことが好きなんですか……?」
アダムは、自分を庇うように横で土下座するこんにゃくメイドの、その灰色と詰まった毛穴のような黒い模様の背中を見つめた。
「みなまで言わせないで頂戴……!」
こんなもの投稿してさ、本当に頭おかしくなったと思われるんじゃないの?
「ちょっと待ったぁぁ!!」
仕事終わりの制服ユナちゃんが、アダムとこんにゃくの恋の匂いを察知して、更衣室から飛び出してきていた。
「なんか、すごいモヤモヤする……」
メサちゃんもまた、自分の心に、喉に埃が入り込んで、むず痒く触れるようなウジウジした感触を味わっていた。
「あ、じゃあ僕のママになって?ねぇ、メサちゃん良いでしょ。メサちゃん僕のママになってさ、僕の面倒これからずっと見て?ねぇ、ママ?大学卒業しても三年間は面倒見てくれるよね?ママ。ママ?ねぇ、ママ。」
アダムは手錠越しにメサちゃんの両肩を掴んで揺らした。
「貴方が誰は存じませんが。厚かましさというものを、少しは自覚して、自省なさい!」
「はい……」
「大体貴方はね!今日の朝からね!ガミガミガミガミガミ!!」
「はい、はい。すいません。はい。」
「貴方がそんな風な態度で、他の女の子と平気でイチャイチャし出すからね!この子は自信を失って、記憶まで失っているのに!貴方ね!私を引き摺り出してね!こんな説教されているの、恥ずかしいと思わなくて!?」
「はい。はい。はい。あの時のメサちゃんを返してください。」
「ムキーーッ!!なにもわかってないガミ!!ガミガミガミガミガミガミガミガミネチネチネチネチネチネチネチ!クズクズクズクズ!!!!」
「ひっぐ!ふぐぅっ!おれ、おれ自分が情けねぇよ!!」
「では、私は今晩のおでんの具となる予定がございますので。いえ、ならなければならないのよ!!」
アダムはメサちゃんに説教をされ、こんにゃくメイドは死地へ向かった。
「こんな世界にいると、気が狂う!!ヴィレヴァ○の品揃えみたいに雑多で、意味のわからない世界だよ!!もう一度私に出番をくれ!!私を復活させて本編に出させろ!」
無理である。
「一緒にかえろ。」
エトセーラがギランミの袖を引っ張り、上目遣いで見つめていた。
「一緒にかえろ。」
ユナちゃんが、下目遣いでアダムを見下ろし、首根っこ掴んで引っ張っていた。
「助け舟きたぁ!!」
「モヤモヤがすごい。」
皆それぞれ帰宅の準備を始めていた。
夕刻の十八時を回っていた。
「ふんっ!」
パァンッ!!
紅すら失う暗い空の下、街灯に照らされて、その残像を纏ったユナちゃんの手刀の一閃が、アダムの手錠を引き裂いた。
「ふんっ!」
パァンッ!!
アダムはユナちゃんの短いスカートのケツを引っ叩いた。
あなたはなにをしてるの?本当に。
なにをされてるかたなの?
「………………」
ユナちゃんは、一瞬の最大風速でチラ見えしたパンツを隠すように、形の良いおしりを手で撫でていた。
「え。なにしてんの。」
ユナちゃんはアダムを睨んだ。
山に住む鹿や、あとなんかその辺にいる動物のように、瞳は一定の光量で発光していた。
「自分に正直に生きたい。」
「このまま、私が自分に正直に生きたのなら、貴方は死にます。それを抑えるために、人間には理性が備わっているのよ。貴方は今それを捨てたね。」
「一瞬の情熱の内に生きたい。そのためには、命すら惜しくない。」
「良い覚悟です。死ぬこと以外はかすり傷だからね。貴方は死にます。」
「わお!それをしません!」
アダムはしんだ。
テレテテーテレテー!テレテテーテレテー!
テレテテーテレテー!テレテテーテレテーン!!
銀色の海に熱い波がおーしよせてー!
ひーざまずく君が見えたー!
優雅に泳いで傷つくこともしらないー!
そーんな風に演じてた………
終
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