第六十七話 第二部イントロダクション
―――アダムくん……アダムくん………あだ………あでっ!
「アダムくんって……だれ?」
一日明けた朝。
メサちゃんは、早朝の小鳥の囀りに誘われて、ムクリと体を起こした。
暴虐なる、おっさんブチュキスチェキの発光により、メサちゃんのアダムとの記憶は全て、因果地平の先へ消えていったのだ。
この記憶、戻るのか、戻らないのか。
第二部の火蓋が切って、百均の鋏で切ってるので、中々切って落とすのに手こずったが、切って落とされた。
本編より、一足早い第二部開幕。追いついてしまいそうな文字数。由々しき事態である。
***
メイドが扉をノックする音が聞こえた。
朝の6時50分。
玄関が騒がしかった。エトセーラやヴィーナが騒いでいるのだろう。
冬の寒気は、布団を蹴って降りたメサイアの足の裏や、パジャマの隙間を縫って入り込む。
「さ、さむい………」
着替えを棚から用意していたメイドは、熱々のココアを差し出した。
それを受け取り、いざ廊下の空気を吸おうという時、その扉の前でモジモジする人影があったのだ。
茶髪で、同年代ぐらいの、冴えないスーツの青年。
頬を赤らめ、廊下の赤いカーペットを隔てて、窓を背にモジモジする男性。
第一印象は、なんか、悪いけどきもいである。
クネクネと、ミミズのように、クネクネと。
「め、メサちゃんおはよう……」
その男の声は、この冷気にやられて震えているのか、それとも頬の赤らみが原因なのかわからなかった。
しかし、それは問題ではない。
問題は、使用人かspが自分をちゃん付けということだ。
自分は、アルメイア財閥の次期当主である。
同い年の青年にデカい顔をすることは、心苦しい。
しかし、やらなければならないのだ。威厳を見せなければならないのだ。
「貴方、いきなり失礼よ。気安く呼ばないで。」
『ご、ごめんなさい!本当にごめんなさい!スーツの男の子!!お仕事、頑張ってください!!』
「え………ちょ」
メサちゃんは内心で何度も謝り、部屋の扉を閉じた。
その扉が閉じる瞬間の青年の顔は、青く、何か大きなショックを受けたようであった。
――朝食を終え、身支度を整えると、あっという間に登校の時間となる。
鏡の前で制服を見に纏うメサイアを見つめるヴィーナも、どこか居た堪れなさそうな顔をしていた。
首元の黒いリボンを結び、ロケット型のペンダントを首に下げれば、身支度の完了の合図である。
ふと、その銀色のロケットを開きたい衝動に襲われたが、それは錆びついているのか、開かぬままであった。
黒を基調として、金の装飾がなされた鞄を手に取った。
それに合わせて、スーツ姿のヴィーナも、身をゆったりと扉から離していた。
腕組みをして、眠気故に若干不機嫌な表情を貼り付けるヴィーナを最初は恐れたが、今はもう慣れたことである。
「ヴィーナ、行きますよ。」
メサイアは、ブロンドの髪を撫でるように優しくかき上げた。威厳アピールタイムである。
「お嬢様良いんですか?」
ヴィーナの言葉の指しているところがわからない。
自分の身に何か付いているのか見回すが、自分を見下ろす彼女はそれを見て、ため息を吐くのみだった。
何度も言うが、この記憶喪失が起こった原因は、ホ○ジジイ共の悪ノリブチュキスチェキによる、カンタータ・オルビ○が原因である。
玄関の側に、エトセーラとフェスターに心配そうに見つめられる、あの茶髪の青年の姿があるのだ。
項垂れ、何か元気が無さそうである。
彼を自然と目線で追ってしまうのは、朝の厳しい叱咤が原因だろうか。
☆☆☆
運転席のヴィーナと、後部座席のメサイアの間には、
胃を重たくさせる沈黙があった。
「…………。また喧嘩ですか。」
ハンドルを握り、隣の車や、自転車や、自分を車と自認して、道路中央を走る裸の男性を見て、軽く舌打ちをするヴィーナが口を開いた。
気を遣うような、ようやく重たい腰を上げたような声音である。
「………誰と?」
純粋な疑問であるが、ミラー越しにヴィーナのめんどくさそうな瞳が、はっきりと自分視線に混ざり込むのがわかった。
それから逃れるように、窓の外へ目線を向けた。
線上に駆ける外の木々、人、建物、唯一変わらずに自分と並走するのは、青空と雲である。
メサちゃんの目線は、変わりゆくものにだけ向けられた。
それは、過ぎ去っていく人に向けられていた。
自分の今日の夢に出てきた男性。
名前は、あでくんだったろうか。
そんな彼を想起させる人物がいないか、目線を動かして探すのだ。
「まぁ気持ちはわかるけど。」
ヴィーナはタバコを咥えて、窓を全開にした。
彼女は普段はそんなことをしないのだが、彼女なりに苛立つ時、タバコを盛大にふかしながら、車窓を盛大に開いて煙を逃すのだ。
外の冷たい風に一身に吹かれ、メサイアは目を細めた。
「ヴィーナ、さ、さむい。」
「ヤニスパー」
「ヴィーナさむい!」
「ヤニスパー」
「さむい!ねぇ!さむい!」
「わがままメサちゃんめ。ヤニスパ」
わがままメサちゃんとは、
ヴィーナが、19で勤務を始めた時。
メサちゃんは14であった。
丁度、アダムを初めてのお友達として、不平等お友達条約を締結避けられた翌年である。
ギランミとロイヤリティ、フェスターはまだ勤務せず、他の場所で働いたり、学校に通っていた頃、既にアルメイア家に勤めていたエトセーラ(19)が友人として勧誘したのだ。
その時のメサちゃんはご令嬢なので、とんでもなくリッチ思考で、わがままだった。
ヴィーナはこの頃から運転を務めていたが、助手席に座るメサちゃんは、窓を開ければ風で呼吸がしづらいと言って、音楽やラジオを流せば、古臭いと文句を言うのだ。
暖房をつければ暑いと言って、冷房をつければ冷えすぎと文句をつけていた。
そして、学校へ向かう道中の道で、必ずコンビニに寄って、アイスをたかっていたのだ。
エトセーラに、お腹を壊したら不味いから、何も買い与えるなと言われていたヴィーナであったが、自分がタバコを吸いたいので(19ですよね!?!?!?)よく買って食べさせていた。そして、勝手に学校サボらせて、ドライブして、ゲーセンに連れ回したり、アミューズメント施設に連れて行かせたりもした。
その時も、何か欲しがったり注文が多いので、ヴィーナはわがままメサちゃんと名付けて遊んでいたのだ。
そしてヴィーナを見てメサちゃんは彼女を反面教師にした。
お姉ちゃんみたいに遊んでもらってたのに。
わがままも控えるようになったのだ。
そして、アダムくんとの不平等約束も守り、時空が歪んで19歳で高一となり、成長したかなと思ってのこれである。
「あ!コンビニ……」
後部座席のメサちゃんは、ミラー越しのヴィーナの瞳に光線を放った。
キラキラお星様光線である。
「買いませんよ。冬なんだから。」
「ヴィーナ(きらきら)」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「んめぇ!」
買ったんかい。
車内で抹茶味のスーパーカッ○を頬張り、ほっぺをもちもち揺らしながらアイスを食べるメサちゃん。
朝の八時手前である。
「あ、あ………お腹いたいかも。」
「おばか」
ヴィーナはお腹を抱えて歩くメサちゃんの背中を見送り、ため息を吐いて車を路駐から再び発進させた。
***
「メサちゃん!なんでぇ!僕……なんでぇ!メサちゃん、い、行かないで!もう浮気しませんから!僕嫌われることしちゃったのかな!!!」
不倫も浮気も気持ちを蔑ろにすることも、とにかく列挙し出したら、店の商品全部買った時のレシートぐらい長くなるのでやめておくが、嫌われることはしまくっているだろう。地雷も踏みまくっていただろう。
メサちゃんの優しさにあやかり、この主人公もどきは調子に乗りすぎたことにようやく気づいた。
もちろん、不平等お友達条約を締結させたことは覚えていない。
「ぼくはメサちゃんしか愛さないよ!!メサちゃん!!メサちゃんメサちゃんメサちゃんメサちゃんメサちゃんメサちゃんメサちゃんメサちゃんメサちゃんメサちゃんメサちゃんメサちゃんメサちゃんメサちゃんメサメサメサメサメサメサ…………うっ、い、いくっ!」
なにしてんだこいつ。
アルメイア邸の玄関に蹲り、念仏を唱えるアダム。
フェスターを筆頭としたアンチアダムの軍勢は、その背中を一列になって見つめていた。
「自業自得だな」
ロイヤリティである。
「自業自得だな」
ギランミである。
「擁護できません。元旦那様」
エトセーラである。
「自業自得だな」
フェスターである。
「自業自得だな」
ダッケルである。
扉が開き、ヴィーナが帰ってきた。
そして、後ろに様子を伺うようにそろそろと屋敷に入る人影も共に。
「おはようございます。本日からお世話になります……不束者ですが何卒ホニャホニャ………」
スーツを身に纏い、SP初日でありながら、貫禄がすごいユナちゃんであった。
「あ、アダムくん。自業自得だね。」
挨拶を終えて早々に、ユナちゃんは自業自得判定をした。
「アダムくん❤︎自業自得だよそれ。」
ヴィーナであった。味方はいなかった。
「もう、しぬしかねぇだろうがよ!!」
アダムは歯を食いしばり、その歯の隙間の歯クソを恥ずかしげもなく露出した。
そんなに好きだったのだろうか、メサちゃんを。
そうは見えなかったのだから、この記憶喪失第二部である。とにかく反省してほしいのである。
***
「とにかくいつも通り!」
朝の会議が始まった。
本日からお勤めの新人ユナちゃんがいながら、パワハラ認定されそうな雑説明をぶちかますエトセーラである。
「す、すいません。何がいつも通りなんですかね。」
ユナちゃんは、メモ帳片手に居眠りをぶちかますギランミの肩を突いた。
「ぐーぐーぐーぐーぐーぐー!ぐー!ぐーー!」
ギランミはいびきで返事をしていた。
「だめだこりゃ。すいません、何がいつも通りなんですかね。」
次はギランミを飛ばして、隣のロイヤリティへ質問するユナちゃん。
「え……!えっとね!あはは!よくわかんない!」
がき。
がきんちょはいつもサボってるらしいので、頭をぽりぽりと掻いて笑っていた。丁度口に咥えていた、道からむしったつくしが地面に落ちていた。
「就職先間違えたかな。すいません、何がいつも……」
ギランミとあほのロイヤリティを飛ばして、ヴィーナへ質問をした。
「ん………?お化粧何使ってるか?気になる?まずこのリップはね………」
手元のおちび鏡を机に置き、お化粧品の説明を始まるヴィーナ。
「本日を以て退職致します。皆さん、本当に、本当にありがとうございました。」
はやすぎんだろ。
現代流行中の、退職RTAである。
***
「くっそ!くっそ!この世の中おわってるだろうがよ!」
性格がカスの人間というのは、すぐにこうやって自分の指にチクリと刺激がくるような出来事が起こると、世の中を憂い始めるのだ。
冬の寒空の下。
雲ひとつない快晴の下で、敷地内のブックオ○から漏れる店内BGMを聴きながら、アダムくんはこれまた敷地内の草むらに座り込んでいた。
フェスター達とのサボりがバレたので、エトセーラの監視下に置かれるアルメイア邸の警備となったのだ。
フェスターはふんどしおっさん達の餌やり。
ヴィーナとロイヤリティは敷地内の、名前を出すと著作権が危うい店内の店員。
ダッケル、ギランミは外回りとなった。
エトセーラは大層不機嫌である。
ギランミが行っちゃったから。
二人のお泊まり回を早く書きなさい。
地の文のもう一人の僕は、この作品の全てが円満で終わるまで完結などさせませんよ。
10年かけてもいいから、それぞれの女の子のルート分岐を用意しなさい。いいですね。広げた風呂敷の全てを回収するのです。
使い捨てなんてさせませんよ。本編が終わっても、誰もが満足させるまで完結はしませんよ。
良いですね。
こ、これがメシアのお告げなのだろうか。
ユダ○教の末席におしりの剥がれた皮だけ置かせてもらうことにした。
そうすれば、メシアはイエスではなくなるので、お告げは無効だろう。
なんの話なんだよ。
「ねぇ………ねぇって!」
アダムの背後に、女性の若干ヤンデレエナジーを感じる声が降りかかった。
土手の草むらのような場所でうずくまるアダムは、返事をしない。
「ねぇ!!エトセーラさんに聞いたら、アダムくんに色々聞けだって!あと、旦那様ってなに?結婚してたのあなた。」
ユナちゃんの声の後半のトーンは、ドス黒くなった。
『ほれみろ、ヤンデレだってばよ!』
アダムくんは蹲りながら毒づいた。
相変わらずかすである。
「だいたい、アダムくんが誘ったんだから、そっちが教えるのが道理ってもんでしょう!」
ユナちゃんはまだ喚いていた。
「っせ!っせぇ!ぼかぁね!今命がかかってんだ!!
シャキリさんに聞いてみろよ、シャキリさんがまだ好きなんだろ!!ほれ!!!」
ボグゥッ!!!!
体育座りをしていたアダムの首に、ユナちゃんの神経を殺した脛の会心の一撃が食い込んだ。
やはり、spは天職だろう。
「身を引くことも、いい女の子の秘訣だから、努力してんだ!!!」
ユナちゃんは涙を弾けさせながら、河原で叫んだ。
ちなみに、この河原は敷地内の模造品である。
「当てつけか!それで僕に当てつけか!首が折れちまったよ!!あーいって!!」
死体が喋っている。
いや喚いていた。
「ほんとに、こいつサイテーすぎる!」
ユナちゃんも顔真っ赤で涙をダラダラ流していた。
死体と失恋女の子。
それらが同時に河原に存在していた。
エキストラのふんどしのおっさんが、自分の使用済みパンツの移動販売をしながら、チャリを漕ぎ、サッカーボールに狙撃されていた。
エキストラが隠しきれないオーラ力で、この二人を食っちまっていた。
「ふぐぅくっそ!」
「ふぐぅくっそ!」
二人して河原に並んで、体育座りで泣いていた。
こいつらお似合いだから付き合えよ。
「ねぇ、もうアダムくんもアルメイアさんのこと忘れたら?」
ユナちゃんは、涙をハンカチで拭い、それで鼻までかんで、アダムくんに渡そうとした。
「できねぇよ!あと、鼻噛んだハンカチを押し付けようとしないでください!本当にアイドルなのかよ、この人!」
アダムくんも爆泣きしながら、ハンカチは拒否した。
「やっぱメサちゃん好きなんだぼかぁ!ぼかぁあの如何にもお姫様っぽい顔で、困り眉でポンコツなお馬鹿なメサちゃん好きなんだ!!」
アダムくんの爆泣きは河原に響き渡った。
その背景で、フェスターがふんどしのスレッグに首輪をして散歩をさせ、横を駆け抜けたサラスに靴に小便をかけられ、しまいには湧いて出た野球少年にケツをボールと間違えられてフルスイングされていた。
なぜ一文に意味のわからない情報を詰め込むのか。
読者への配慮が皆無であった。
「わ…………わ………くっ/////////////忘れさせてやるよ!!!!!!!!!」
ユナちゃんは顔を真っ赤にして、アダムの肩を掴んだ。
スーツの肩パッドはひしゃげて、アダムの肩もひしゃげた。
実質告白である。負けヒロインの典型である。
「はぁ……はぁ………よし、忘れるか!」
アダムであった。
断れふざけんな。
――第二部開幕!!ーー




