番外編 日常その1
――ほぼ死に損ないの季節、その名は秋。
四季の内の二つ。
春と秋。それは、屍季。
ある休日の午前のこと。
部屋でゴロゴロと漫画を読む。
壁に吊るされた、退屈そうに針を鳴らす時計を見つめると、朝の10時であった。
さてと、男を磨くか。
男には鍛錬が必要である。
違う、筋トレではない。
違う、勉強でもない。
違う、料理でもない。
違う、ヨガでもない。
違う、スキンケアでもない。
違う、トイレの後に手は洗わない。
違う、キウイは皮が一番うまい。
違う、鼻くそをほじっても、掃除機をかける前なら、ティッシュには包まない。床に放っておく。
違う、鼻毛は切らない。なぜなら、朝切って夕方には生えているから。
違う、髭も同じ理由で剃らない。
違う、ケツ毛など、生やしておけば良い。
違う、乳首の周りの毛も剃らない。裸は見せないのだから。
違う、不潔ではない。
断じて、不潔ではない!
ふ、不潔じゃないよね……?
不潔だよ。
アダムはわざとらしく咳き込んで、周囲を見回した時のことである。
「あんた、髪伸びたね!きってきな!!」
「はひっ!はひっ!のっくしろよぉ!!」
同棲(語弊)中の28歳ママ、お手伝いジーネンさんにより、扉が遠慮もなく開け放たれた。
床に足を伸ばしきったアダムは、怪しまれないために、お股のスマホを蹴散らし、勢いよく立ち上がった。
「……………。朝から元気ね。」
ジーネンさんはお手伝いなのに。お手伝いさんなのに、ママに自分の恥ずかしい姿を見られたような、この感覚。
「まぁまが髪を切ってください。」
ママって呼び方、きも。
「冗談言ってないで、お金渡すから切ってきなさい。もう予約したから。11時から。」
ジーネンはそう言いながら、四千ジンバブエドルと、お店のスタンプカードを差し出した。
「1000ジンバブエカットで、お子様専用コーナーの車の座席に腰掛けて、視聴するアニメにプリキュ○を指定して、髪型は丸坊主を指定して、店員をビビらせたいから、1000ジンブエドルだけで良いよ。」
とんでもないテロリストである。
やることが、40過ぎた中年のやらかし系ユーチューバーの企画であった。
「バカ言ってないで、まともに生きなさい。私も結婚して、子供作りたいんだから。」
「はい、まぁま。」
子供ならここにいる。産んだ覚えのない19歳乳児が。
♪♪♪
外の空気は爽やかで、お団子のようにぶつ切りにされた、星の数ほど存在する、男の金○の数を揶揄するような雲が、青空一杯に広がっていた。
羊雲だよ。変な例えするな。
作りかけの、小麦ちねりと喩えても、良いのかもしれない。
羊雲だよ。諦めろ。
新発見の天体を見つけた科学者気取りのことをしながら、アダムくんは、自然が与えてくれた土を塗りつぶす、コンクリートで作られた、人のエゴの道を歩く。
補強された道である。いちいち、比喩に果てしない逆張りの意志と、危険思想が滲んでいる。
この学園都市は、地球から離反した、階層都市の二層目。
それであるのに、自然が与えてくれた、土。
雲、青空。新鮮な空気。
アダムくんは、妙だなと、この世界の在り方を疑った。哲学者紛いの、勘ガキ。
道に寝そべる、等身大のこんにゃく。そして、犬のうん○。空を駆けるちくわぶ、それと大根。
アダムくんは、自分が本当に人間であるのかと、その存在自体を疑い始めた。
僕が見ている世界は、本当に存在するのか!
今、僕は後ろが見えない。ということは、いま、そう!
今なのだ!この、犬のうんこと、地面に寝そべるこんにゃくを、死角にしてしまえば、うんこは存在しないのでは!?
身を道路へ翻す。道路の脇、そこに位置する一本の電柱。その電柱にもたれかかる、健康的な茶色バナナ。
やはり、その存在を確認できなかった。
では、今家にいるジーネンさんは、本当にジーネンさんとして、存在するのか!?
僕が見てあげなきゃ、ジーネンさんは存在出来ないのでは!?
哲学者から、ただのやばいストーカーに早変わりしていった。
『哲学者とは、突き詰めればただのストーカーだな。』
主語がでかいとか、最早そういう話ではなく。
ひたすらに誹謗中傷と名誉毀損の嵐である。
その後も、アダムくんは自分が本当は宇宙の粒子で、その粒子が夢を見ているのではと考えた。
自販機で、水を買う。
『こりゃ、波動ウォーターだぜ!』
暇な夏休みに、宗教に引っかかった馬鹿な大学生のようである。
『変なこと考えてたら、心臓に何かないかとか、息苦しくなったらどうしようとか、不安になってきた。』
道を歩きながら、ゼーゼーと息を吐き、波動を摂取するアダムくん。
スマホを取り出し、息苦しいと検索してみた。
『検索結果 もしかして、肺病。』
「はっ!くうっ!ぬおっ!ひっ、ひっ、ふー!!」
そして、そのもしかしてとかいう、めちゃくちゃのめちゃに無責任な検索結果を見て、勝手に病気の心配を始めた。
全然呼吸出来てそうなので、問題ないだろう。
――そんなこんなで、美容室に辿り着いた仮想病人哲学者。
美容院の名前、「マルゲーリー」
丸刈り専門店に思えるが、扉のポスターには、丸刈りはしていません、と書いてあった。
丸刈りをしないのは、しないで、それは散髪屋失格ではないのだろうか。
こぢんまりとした佇まいだが、中々におしゃれな空間なのだ。だからこそ、アダムくんは嫌がるのである。
『髪型は、ファイト・クラ○のブラ○にしよー!』
結構ウキウキであった。
木造のおしゃんな、扉を開くと、上部に備え付けられた鈴が軽快に鳴り、落ち着いたジャズの音と、ふんわりと柔らかい香水のような、アロマのような香りが広がった。
「へい、らっしゃい!なんにしましょう!」
雰囲気ぶち壊しだわ、描写の文字数返せ。
「えーと、昆布とたまごと大根。つゆだっくだくで。あ、あと29番二つ。あと、振り込みお願いします。」
カウンターの大将の掛け声を受けて、アダムも財布片手に注文を始めた。コンビニくる、クソめんどくさい客である。
「いえ、お名前をお願いします。」
大将もとい、店員さんは正気へ戻ったようである。
スタイリッシュに、名簿に視線を落としていた。
『赤っ恥かかせやがってよ!』
顔を赤くし、汗を垂れ流すアダムである。
自分から恥という名の、熱湯風呂に身を投じたのである。
「あ……あうあう!あ、あでむ!あだ、あだむでぷ!!」
さっきの注文の威勢は消え去った。
どこで緊張してるんだろうか。
「アダムさんですね、カードお持ちですか?」
店員さんは、汗ぶっ放しのスプリンクラーを前にしても、特に何も気にしていないようであった。
さすが、プロ。しかし、ならば先の大将の人格が余計気になる。
「これが、目に入らんかぁ!!」
アダムは、財布からスタンプカードを取り出した。
いちいち会話にユーモアを求められる美容院であるらしい。
「はーい!こちらにどうぞー。」
女性店員さんは、カードを受け取り、それをバインダーに挟んで、アダムの荷物を預かった後に、座席に案内した。
アダムの基地外行動は、すべてガン無視されていた。
大将でもなく、女将なんかい。
カスの叙述トリックするな。
『あ、ちなみに今回の回は、服の描写はしてないから、僕達全員全裸です!!』
わいせつ叙述カミングアウトするな。服着てないなら、カミングアウトするな。
「いやーーーーっ!!」
先の女将は、その事実に今気づき、掌で顔を覆って発狂した。
遅すぎである。この女将も、全裸なのだろうか。
美容師特有の、おしゃれなでラフな、ぴっちりとした服装。スタッフの計らいにより、服が着用された。
『僕は、本当に宇宙の流れに乗れているのか?この肌に当たる風は、果たして僕の肌に触れているのか、魂に触れて、それを体感しているのか。』
なんでもいいが、裸で公衆の面前なのだから、法に触れている。
座席に座り込む。けつ丸出しで。
否が応でも裸を貫くな。
革づくりの座席に、自分の体から自生した黒いジャングルが触れ、その後に肌の角栓に、座席のひんやりとした感覚を享受した。もっとミクロに言うなら、オケツに。
セクハラの拡大をミクロという単語で誤魔化すな。
『えー。ちなみに、僕の全身はマコモです。』
要約すると、風呂キャンしているらしい。
「本日は如何なさいますかーー?」
どうやら、担当さんは女将であるらしい。
アダムくんは、それだけで心臓がドキドキした。
『何この、動悸……!?』
哲学者なら、もう少しおおらかに生きればいいのに。
「えー、ごほん!ブラッ○ピットで。」
アダムくんは、スマートフォンを後ろに差し出した。
保存された写真、あの赤い革のジャケットと、サングラス。そして、あのとんがった短髪であった。
「あー!!アルバトリオ○、スネ○スタイル!!」
女将はその写真を見て、合点と言ったように叫んだ。
この人、本当に散髪の知識あるのだろうか。
アダムくんは、アルバトリオ○は兎も角、スネ○と言われて、ムッとした。全裸だから、変なところにプライドを持ってはいけないのに。
「………ブラッ○ピットね!」
「はーい、じゃあ髪濡らしていきまーす。」
ベイビーちゃんの前掛けのようなタオル。
そして、ホグワーツのようなマントを纏い、髪を鑑賞目的の植物のように、霧吹きで濡らされ始めた。
店内には、自分以外にはお客はいないようだ。
ご機嫌な散髪である。
穴の空いた手元。
こういう時、スマホを見るのは良いのだが、店員さんに中身を覗かれるのがなぁ。
かと言って、目の前には眠そうな自分の姿が鏡写しであるのだ。それと、イケてるメンズという雑誌が積まれていた。
『俺がイケてないってんだな!皮肉のために、こんな雑誌を重ねやがって!!』
「私立エルガー学園」評価 ☆1.3
レビュー
☆1 「主人公が、徹底的にひねくれています。共感できない。」
☆1 「文章が回りくどく、比喩もぼやけています。読み物ではなく、ドーパミンも出ない。」
☆1 「………!?文字だけ!?何が面白いん!?!?」
☆1 「キスシーン特集と聞いていたのに、徹底的にキスシーンが少ない。すぐ本番に入るのは、好印象。」
☆1 「性格破綻者の集まり。どのキャラにも共感できない。」
☆1 「世は、一夫多妻の時代である。」
☆1 「冒頭の男優の、わざとらしい演技で萎えた。
ドーパミン放出を期待していたが、ひたすらに難解。」
☆3 「無断転載で視聴。金を取られていないので、非常に満足。」
☆2 「海賊版で視聴。駄作。」
どいつもこいつも好き勝手言うし、その種類もドパガキとレビュー書くとこ間違えてる、風評被害ばかりである。
あと、無料のウェブ小説を、海賊版とか表現するのやめてほしいのであった。
主人公がクズすぎて、共感出来ないのは、わかります。
←ここら辺に出てくる、50代の肌の汚さ改善みたいな広告、マジでやめてほしい。
ここら辺にも出てくる、脂全回収とか言って人間の脂を背脂のように見せてくる、あの広告、マジでやめてほしい →
***
――10分後。
『ソシャゲやるわけには、いかんしな。』
チョキチョキチョキ。チョキチョキ。
「最近は、どうですか?学校とか?」
突如始まる、神の審判。これに対しての返答で、
この散髪が気まずく終わるのか、比較的気楽に終わるのかが決まる。
「あえ!あっ!あっ!ぼっ、ぼっ……ぼっ木です!」
終わりだ。
レビュー
☆1 「子供が視聴していたのを、一緒に視聴。すぐにテレビを叩き割り、こんな下品な物は見るんじゃないと、キツく叱りました。ありえない作品!!」
突如、鬼ママからの苦情レビューが追加されてしまった。
致し方ない。甘んじて受け入れよう。この、お馬鹿下品哲学者気取りの変態主人公のせいであるのだが。
『性教育後進国め!臭いものにただ蓋をするだけで、それで何になるよ!性教育倫理という科目を、学校に追加しろ!!それでいて、キチンとした性教育を、施さんか!それであるのに、少子化だの、結婚しないだの!当たり前だ!!この、性への過剰な密閉が、親に隠れて、インモラル背徳ビデオ視聴に繋がってしまうんだからな!』
『この、大人の無責任さと、過剰な介入の混在が!
インモラルジャンキーと女の子の顔も見れない陰キャを生むんだよ!!』
アダムくんは、鋏の音を横にしながら、最早言葉を放たなくなった女将さんへの、当てつけとして、教育に怒りをぶつけた。
そして、そのインモラル背徳ジャンキーとやらと、自分の今の境遇を重ねた。
『そうだよ!俺に友達がいないのは、教育が悪い!』
将来の犯罪者の思考である。犯罪者の血筋である。
鋏が顔を掠める音が連続する。それは、先の部屋の時計の音によく似ていた。
『ここで、吐き気を催してしまったら、ぼかぁ、社会的に死ぬな。』
アダムくんは、またそんなことを頭によぎらせた。
そして、それは決定打の一撃でもある。
『やっ、やばい!唾液が気になってきた!口に残る唾液の分泌量が、か、過剰すぎる!呑み込むのきっつー!なんか、喉、喉閉じてない!?く、くるち!は、はきそ!』
アダムくんの思春期の終わり際、その終わり際を彩る記憶。そのすべて、性教育への怒りと、この吐き気への不安であった。
座席に座り直す。少し、落ち着く。
結構落ち着く。深呼吸。
「ひっ、ひっ、ふー!」
深呼吸どころか、部屋全体の酸素を吸い上げる人力ダイソンである。
『大分落ち着いてきたな、ふぅ。焦らせやがってよ。
は……はなが……はなかゆい。鼻が痒い。』
精神の忙しいやつ。アダムくんは、性教育へ怒った後、吐き気が治ると、次は切られた髪の毛が、鼻頭に張り付き、
それでムズムズしていた。
『く、くしゃみでちゃう!ば、爆発する!も、もう無理!!』
「ひゃ、ひゃの。ひゃのすいまへん。」
「………………」
チョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキ。
………ブイーーーン!!
「ひゃのっ!ひっ!ひぐっ!!ひゃっ!!ぶっひょーーーーーーーーい!!!!」
アダムくんは耐えきれずに、くしゃみをぶちに、ぶちかました。
丁度頭部全面、中央のバリカン調整のタイミングに。
女将はんの、あっ!という叫びを、バリカンのバイブ音と共に、置き去りにして。
鏡を見ると、二つの突起の中央に、金○みたいな自分の頭皮が丸見えであった。
「………いっちゃいましたか………?」
「…………。おめでとうございます。中央部分全イキしました。」
「あははは!!あは!あはは!!!あははは!!あははは!!あはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあはははあははは」
怖い怖い怖い。
精神崩壊したアダムくん。髪型は、江○。
「こ、ころしてくれーーッ!!」
くしゃみによる散髪失敗で、一生を終える人間は、後にも先にもこいつだけだろう。
しかも、恋愛カテゴリーで。しかも、主人公キャラで。
これ、ギネス取れないだろうか。
これ、トロフィー解放は固い。
丁度、トロフィー解放率89パーだったので、助かる。
「お客様。特別サービスです。坊主にしましょう。」
女将さんは、手元のバリカンを二刀流に持ち替えた。
いや、死んでもらわなくては困る!!トロフィーと、ギネスのために!!
「く、クラスのみんなに!弄られる!!出家だと!!
野球部の人間でさえ、坊主じゃないのに!なんで、僕は!!!!あ、あう!ヘラりそう!!ロシア文学みたいな、ヘラり方しそう!!」
「私は泣いた。座席に、ゆったりと腰掛けた。その瞬間であった。自分の頭髪の全てを、鼻腔を揺らす、その衝動の全てを、汚らしく足元にぶちまけてやったのだ。頭が割れるように痛む。(バリカンの荒削り)なぜだ? (バリカンの荒削り)なぜ私たち(*ここで指す私達とは頭髪。)が、この私が、こんな目に遭わなければならない?そうだ、私は、性教育をまともに受けていない!(*関係ない)違法視聴サイトという、あの呪わしい悪魔の火を見つけてしまった丸坊主だ! (*自業自得だし、坊主は関係ない)そして、この頭髪の喪失とは、まさしくその火に当てられた代償だ!!なんとも、愉快な話だ!!!
クラスメイトどもは、私の明日からの、この、曇りない、頭髪もない、永遠の、そして、悠然とした地平線と平坦を見て、腹を抱えて喚き散らすだろう!
その通り、私は、丸刈りだ!!私は、恐れている!私の、この頭部の歪みは、月と称されるのか、はたまた、太陽と称されるのか!!教室に入ったその瞬間を、日の出と称されてしまうのが!!だが、なぜその代償を、クラスメイトの嘲笑を、くしゃみをしただけの、この私が受けなければならないのだ?」
丸刈りにされたドスエフ構文やめてね。
―――短編 日常その1。完―――




