第六十三話 アットホームな職場です
「ユナさん、本当にあんなのが好きなんですか?」
サラーシャちゃんである。幾度か見たこの、あいつ好きなの?ありえない。のくだり。
『しかし!そこではい!と言わせてしまうのが、主人公!』
ハーレムもののなり損ないの、ただのノンデリ陰キャカスの貴様が、言うことか!
『くっふぅ!くっふ!くっふ!』
「いや、べつにそういうわけじゃ。でも、なんか私じゃなくて、サラーシャちゃんと握手して、デレデレしてるのすごいモヤモヤする………」
ペットボトルを空中で回転させて、自立させるチャレンジをするユナちゃんは、拗ね気味に言った。
「へー!(ヤンデレか、好きなだけじゃん!)」
「へー!(ヤンデレか、好きなだけなんだな!)」
「なに……………///////////////////////////////」
二人は、照れ隠しにペットボトルを空中で回転させるユナちゃんを見て、ムフムフ笑った。
「それ、やっぱ好きなんじゃん!」
サラーシャであった、お前言うんかい。
ノンデリ系アイドルである。
「ちがっ………………わないのかな……でも、アルメイアさんがあいつには……。私にはシャキリ………。シャキリは学生の頃から、ルーラさんとイチャイチャ…………。グスン」
ユナちゃんは、デレの極地にいたり、泣いてしまった。
「ねぇ、素直に告白でもしてみれば?」
「むり。段階踏みたいし……。」
「へー!(好きでしかないやん!)」
「じゃあ、特例でチケット出すからな。(好きでしかないやん!スキャンダルですやん!でも、止めると怖いんだよな!!)」
二人は、ニコニコしながらそれぞれの準備をして、ユナちゃんは相変わらず顔真っ赤であった。
☆☆☆
「おい、みろよこれ。」
フェスターは、デパートの中のベンチで、アダムにスマホをかざした。
バナナトーク内のグループチャット。
メタ・ロトゥンドであった。
「フェスターと元旦那様。死んでもらいます。」
エトセーラからのメッセージであった。
「私は、この仕事を復職したばかりだが、やめようと思ってる。」
フェスターは、タバコのようにココアシガレットを取り出して、口に咥えた。
「…………家追い出されちゃう。それ、たばこ?」
隣に腰掛けるアダムくんである。
「いやちがう。喘息持ちだから。」
フェスターは、言いながら、ココシガをアダムに差し出した。
3本抜き取り、全て口に咥え込んだ。
「あ、なんか。甘い通り越して、スースーするわ!」
2本を鼻に突っ込み、もう一本は真ん中に咥えるアダム。
「ふほほほほー!おい、これ写真取って、あのグループに送るぞ!それで、やめるわ!!」
「ふほほーーー!いいですね!いいですね!」
「良いわけないだろ!このバカ二人!!」
ベンチで悪ふざけする二人は、めちゃくちゃ怒ってるロイヤリティに頭をぶっ叩かれた。
「えっ、ロイヤリティさんいたんですか。」
「こんな、恥ずかしいところ!みないで!!」
カス二人は、後ろに立ちながら、睨みつけてくるロイヤリティを見上げた。
「お前らさ、アイス奢るって言ったんじゃん!!」
ロイちゃん、帰ろうとしたが、車が見つからず、レンタルチャリを使おうとしたところ、借り方がわからず、バスに乗ろうとしたところ、乗り方がわからずで、わからずざんまいであった。
「えー、でも、ねぇ。」
「うん、ねぇ?」
文○キャノンを喰らった二人は、それを根に持ったように目を合わせる。ただ、ロイヤリティは怖いので、口には出さない。
「ロイヤリティさん、僕達ね……」
「お前話しかけないで。」
「くっふ!ぬうおおおおおおおおおおおお!!」
ロイヤリティに完全拒絶を喰らったアダム。
社会的死を望み、チャックを開こうとし始めた。
フェスターは、それをバイトテロの付き添いの感覚で、大爆笑しながらスマホを向ける。そして、ロイヤリティに殴られた。
「あの、すいません。アダム・ヴァ……ゔぁん……アダムさんいますか?」
突如、スーツを見に纏った爽やかイケメンサラーリマンが、小さなチケットを持ちながら、アダム達に声をかけた。どうやら、インペネスの紙袋を持っている人間に話を聞いているようだった。
「それなら、こいつですよ。かすだけど。」
ロイちゃんのアダム嫌いは、この日とてつもなく加速した。
「あ、こういうものです。」
突如アダムの前に、名刺を差し出して、やってくる爽やかリーマン。
スタイリッシュな柑橘系の匂いがサッと広がった。
「わお!べりべりスタイリッシュ!!」
出○イングリッシュかよ。
アダムは名刺を受け取り、返すものがなかったので、
鼻に突っ込んだココシガを差し出した。
「………これは?」
「ふつ……ふっとゅか………ふつつつつつつ………ふつぬかものでごわすが!」
アダムはゴリ押しでココシガを手渡す。奇しくも、鼻に突っ込んだものであった。
「…………なんか湿ってるけど。ありがとう。」
サワリーマンの、爽やかスマイルであった。
「それで、要件は?」
フェスターが、キチンもした名刺を渡して、ココシガを人差し指と中指で掴み、フーッと息を吐いてみせた。
「あの、これを渡せと担当から。」
サワリの手元にあったのは、ユナちゃんチェキサイン会チケットであった。
「いや、いらんな。」
アダムである。まずお礼言えよ。
「は!?ちょ、は!?は!?は!?は!?ぶりりりり!」
フェスターである。ココシガを噛み砕いて、座席の上で股間を天井に掲げ、ブリッジをかますフェスター。
「なんか……ねむいし、お腹減ったし。はぁ。」
ロイちゃんは欠伸していた。可愛い。
「ごめんね。そう言わずに、貰ってくれるかな。これ、持って帰ったら多分命ないからさ。この後、すぐ入場始まるから、さっきのブースの個室で。ごめんね。ほんとに。」
プロリーマンは、めちゃくちゃ良い人で、仕切りにごめんねを連呼し、去っていった。
「おまえ!せっこ!よこせよ!ごらぁ!!!」
フェスターはアダムを殴り、チケットを強奪した。
「ひゅー!ひゅー!いけいけー!」
ロイヤリティである。エトセーラはん、この職場には、いじめがあります!
殴られたアダムは、天井を見つめた。ガラス張りの天井は綺麗で、青空には開放感がある。
「それに比べて、僕の人生は、こんなにもかすですよ!」
大の字になって、床に寝そべるアダムくんに、ユナちゃんからバナナトークがやってきた。
ーー「チケット受け取った?アダムくん以外の人が、アレ持ってきたら、その刺客とアダムくんごと、殺すからね。チケットの違いなんて、すぐにわかるんだからね。そもそもね、貴方にはあんなに仲良くしてるのに、なんでそんなに人の好意を粗末にできるのかな。それだから、アルメイアさんだってさ………ブツブツ…………」――
要約すると、アダムがこいであった。
アダムは、水戸黄門のように、フェスターにそれを見せつけた。
「は!?てっめぇ!なんでユナちゃんの連絡先もってんだ!!ふざけんな!!」
「そういえば、お前私達から逃げた時、ユナちゃんと逃げてたな!結構お似合いなんじゃね!メサイア様は、やっぱお前には惜しいよ!」
フェスターとロイヤリティはそれぞれ好き勝手喋っていたので、チケットを受け取り、まだ好き勝手喋ってる二人を放って、再び重い足取りでインペネスブースへ向かうのだった。
♪♪♪
剥がしにその紙を渡すと、個室に案内された。
アダムくんはドキドキしてきた。
死への恐怖10割。女の子への期待0。
扉の前に立つと、可愛くデコレーションされた部屋で、隣にはサラーシャちゃんの部屋があった。
「すいません!サラーシャちゃんに変更で!」
ダメ元である。
「お願いします!ユナちゃんにしてください!私達は人質です!」
人命救助のため、ユナちゃんにした。
扉を開くと、やはりそこにはテーブルを隔てて、
ユナちゃんが立っていた。そして、外には屈強な剥がしが待機している。別に、ユナちゃん自身も屈強なので、必要ないと思うのだが。
「こんにちはーー!!…………あ。きたんだね///////」
営業スマイルから、スカートの裾をギュッと握り、
そっぽを向くユナちゃん。
どうやら、先の楽屋の会話のせいで、変に緊張してしまっているらしい。
それは、アダムも同様であり、アイドル衣装のユナちゃんは、まさしく自分が追ってきた姿であったから、ドキドキした。お前には、メサちゃんという正妻がいるんだよ。
アダムは、テーブルの前に歩み寄り、チケットを置いた。
暫く無言の二人。結構前の更衣室よろしく、再び密室で始まる、二人のうわき。
***
「ふごぉ!!!アダムくん!浮気はやめて!!」
そう叫ぶのは、授業でめちゃくちゃ寝てたメサちゃんであった。jk特有の、ブランケットに身を包み、突如座席から立つメサちゃん。
そして、クラスの男子は、そんなメサちゃんと良い匂いを嗅いで、ワンチャンないかと、目を輝かせるのだ。
☆☆☆
「じゃあ、まずサインから。なんかわたしのグッズ出してよ。」
ユナちゃんはそう言いながら、ペンをクルクルと回す。
言葉は辿々しく、ちょっと震えていた。
「あの、あの。買ってない……」
「くず!!!!!!!」
ユナちゃんは、顔を真っ赤にして、アダムに叫んだ。
あまりの怒声と風圧で、アダムは吹っ飛び、宇宙に向かって、金星まで飛び、ブラックホールに分解されて、銀河に辿り着き、世界の全てを知って、また世界を理解したあまり、世界を全く理解できなくなった。
「じゃあ、顔に書くからね。」
マッキーのキュポ音を鳴らして、ユナちゃんは、その穂先をアダムの頬に押し付けた。
マッキー特有の、あの臭いが鼻をつき、アダムくんは顔を顰める。
「ふ!ふご!ふご!あ、アルコールかんじる!ふご!」
「くふふ。むふっ!くふふ!」
ユナちゃんは、その顔が面白くて、口を押さえ、大爆笑を堪えながら、アダムの頬に自分のサインを書き始めた。
「これ、油性だからね。消えないね………」
流れが変わってきた。デレがデレり始めてきた。
アダムくんは、よく見ると、ユナちゃんの瞳からハイライトが消えているのがわかった。
「はい、完了。」
ユナちゃんは笑い、アダムの頬を人差し指で軽く擦った。そして、それが滲みも、消えもしないのを見て、満足そうに笑うのだ。
***
メサちゃんの瞳からも、ハイライトが消えていた。
浮気の気配が、それはもうプンプンと、シュールストレミング並みに臭い初めていたからだ。
「では、フェルマーの最終定理を、アルメイア。」
授業に刺されてしまった。
「はい、不倫です。」
「ちがう。」
メサちゃんは、瞳のハイライトを消したまま冷たく言い放ち、そして座席に座り直した。
「…………イライライライラ。メチャクチャイライラ!」
最早、ハイパー化していくヤンデレの想い達。
☆☆☆
「スマートフォンのケースにも書いてあげる。お財布にも、そのスーツにも。出して?」
ユナちゃんは、所有欲全開である。なぜ、アダムが良いのか。もしかして、ユナちゃんルートは最速攻略可能なのではと、アダムは思った。
地雷を踏み抜き続けたのに、明らかに彼女は再びフラグを掘り起こしているのだ。
『一夫多妻制の時代がきたか。』
精神だけは一丁前に豪族のアダムであった。
「あー、スマホケースあの、ジェナちゃんでして……」
アダムは、申し訳なさそうに、ジェナちゃん財布、スマホケース、定期入れを差し出した。
全て、ジェナちゃんがプリントされていた。
「………………。キュッ!キュッ!」
ユナちゃんは無言で、ジェナちゃんの全身をサインで覆いはじめた。
「あ!ちょ!あっ!ちょっ!」
再び始まるカンフー。
「ジェナちゃんの実態は、この間教えたでしょ?
なら、こんなもの上書きしちゃっても良いんです。」
ユナちゃんは、一心不乱にサインを書き殴った。
ワイシャツにも、スーツにも、お財布にも、スマホケースにも、定期入れにも、おしりにも、パンツにも、手にも、足にも、耳にも、胸にも、とにかく全部。
「なんで、こんな券を自分にくれたの……?」
アダムは、マッキーに包まれながら、ユナちゃんを見つめた。
ユナちゃんはそれを受けて、ムッスー!と怒った顔をした。
「女心をわかってあげなと!教えましたけどね!」
再び銀河系へ吹き飛ぶ叫びであった。
そして、帰還したアダムくんは思ったのだ。
この、サボりがバレた現在。
このまま帰れば、エトセーラに殺されてしまう。
ならば、代わりに差し出せる代価さえあれば良いのではと。
ユナちゃんは、格闘技強いし。
「じゃあ、次チェキね。」
ユナちゃんが、カメラの準備をしているときに、アダムくんはスマホを差し出した。
「…………?なにこれ。」
ユナちゃんはそれを覗き込む。アルメイアsp、社員、バイト、パート募集!とあった。
「ユナさん、これ、週二日からいけます。一緒に働きませんか。」
「え////////////////////////////」
寂しかった毎日。朝起きると、一人。
夜寝る時も、一人。
ドラマでのダメ出し。収録のミス。
台本の読み込み。歌詞と振り付けの練習。
sns投稿のための、メイクの研究。
ファッションチェック(レインコート)
今日の夕飯。干したままの洗濯物。
その他もろもろ。
全てがひとり。誰かから、何かに誘われることなどなく。ただ、一人。シャキリは振り返ってくれず、ルーラにはデレデレ。それに文句を言ったり、二人の間に割って入ることも出来ず。
ひとりさみしいよる。
布団に潜り、誰かに抱きつきたい夜。
「うっ!シャキリ!!うっ!ガルーラくん!うっ!アダム!うっ!アダム!うっ!シャキリ!うっ!アダム!!」
何をしている描写なのだろうか。控えとく。
「ハァハァ……シャキリ、アダム。一人はさみしい……
早く、明日になって……」
布団に流す涙。枕に貯まる涙。
それら全てを報われるかもしれない、初めての友人からの勧誘。
「うん。いいよ。/////////////」
ユナちゃんは、大学の単位も取得し終えて、ただシャキリに会うために学校へ行っていたのだ。そして、週二日ならアイドルと折り合いもつく。
なにより………………………………………
ユナちゃんは上目遣いでアダムを見た。
『免罪素材、ゲットだぜ!!!』
アダムであった。かす




