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私立エルガー学園!!  作者: ぷりお
第一部
60/70

番外編【アダお(13)メサちゃん(13)】



この回は個人的に可愛くて大好きだから、個別で挙げます。



ーー四月にジーネンがやってきた。それは、ジーネンは22歳、アダムくんが13歳の春。桜の花びらが散り、

代わりとして毛虫が降ってくる、クソのような季節。


両親は仕事の都合で家を去り、就職戦争に敗北したジーネンは、お手伝いさんとして資格を取得し、やってきたのだ。

ちなみに、ジーネンさんとアダムのフラグはない。

ジーネンさん(22)は既に彼氏持ちであるから。


ーーーー


ジーネンがやってきて一ヶ月目の五月。

アダまるくんは来る体育祭のために、長縄跳びの朝練習があった。


私立エルガー学園、体育祭。チーム分けは小、中、高の一クラスずつが固まって団となり、様々な競技を行なってポイント制で優勝が決まる。

団ごとの人数は凄まじく、小学生に限っては一〜六年生まであるため、基本的に競技の間隔は空いていて、暇である。


しかし、一発逆転を狙える学年別長縄跳びだけは、どの学年やクラスであっても気合を入れている。


特に、中等部から実施される部活動。その運動部の顧問というのは、その部活動の熱量をもってこの練習を行うから、怒声やキレ芸が後を絶たなかった。


アダ男くんは文化部であり、さらにはほとんど活動の無い写真部である。それであるから、運動部のことは、わざわざ怒鳴られに行くことを選ぶマゾと見下していた。


そして、この体育祭シーズンというのは、そのマゾ運動部行きを理性で回避したアダムくんであっても、縄に足をかければ、問答無用でどやされるのだ。

その一部始終をお見せしよう。



『「1………2………506………30095!!」


自分達の足元を走る縄。まさに拷問。

炎天下の熱に晒され、なぜ同じ人間で縄を回し、それを血眼でジャンプして回避せねばならんのか。


それが、アダムくんにはひたすら疑問であった。


バチンっ!と縄が唸り、その縄はピンと自分達の横を張った。砂煙に巻かれ、固まった生徒達の汗や、疲労を感じさせる息遣いは、吐き気を催す。


この熱、この眩暈、そして、このげっそりする感覚!


「すいません、引っかかりました!」


同学年の女子、男子達の列と反対に並ぶうちの一人が、手を挙げてそう言った。


縄に引っかかることは、死であり。そしてその死は、自己宣告制である。


「てめぇ、縄回ってたんだよ!集中しろ、ぼけが!」


これは、アダム達の男担任の怒声である。

ちなみに、この男は一度も縄など飛びもせず。

バインダーに挟まれた紙と、縄を必死に飛ぶ13歳の奴隷達を見て、ただ横から怒鳴るのみである。


自分たちを殺すために、縄を回す人間も、自分達と同じ給食の飯を食ってきた人間である。それであるのに、このグラウンドという戦場に一度身を出せば、縄を回して自分達を殺そうというのだ。』


今見てもらった映像は、長縄跳びの一部である。

アダムは、これが、本当に気に食わない。元来あまり怒られず育ったアダムくんである。極度に叱られることを恐れて行動する、社会不適合者の片鱗を見せていた。


しかし、将来役に立つのは運動部で怒鳴られた経験である。アダムくんは、この言葉自体に嫌悪感を覚えていた。


『怒られるのが役に立つって、怒られるのが前提なのやめろ!』


では、怒られてるダイジェストをどうぞ。


『スパァン!!!


「すいません、引っかかりました。」


アダムくんは、馬鹿な地の文とバカなこと考えてた所為で、足を引っ掛け、自己宣告した。


「馬鹿野郎!!!」


この怒声は、教官様のお言葉である。』



朝の7時10分。ジーネンが作った朝ごはんを食べ終えて、綺麗に畳まれた制服をリュックに押し込めた。


アダムくんは体操着を見に纏い、リビングにいるジーネンの元に向かう。


「水筒2リットルのにしてくれた?」


アダムくんはリビングの扉を開くなり、開口一番そう言った。


ソファでニュースを見ていたジーネンは、そのアダムをギロリと睨む。室内には既にエアコンが付いていて、その冷気をアダムは肌寒く感じた。


「アダムくん、昨日洗い物に出してなかったでしょ。

……そんなすぐ洗えないよ。ちっちゃい方持ってきなさい。」


ジーネンは仕方ないねー。と付け足して、再びニュースに視線を戻した。


アダムはトボトボと冷蔵庫に向かい、冷蔵庫の最上部三段目に寝そべる、タオルに包まれた500mlの水筒を取り出した。


「絶対足りないよー!」


アダムは文句を言いながら、湿ったそれを制服の横に詰め込んだ。


「お金あげてんだから、自販機で買いなさい。」


ジーネンは欠伸をして、ソファに寝そべり始めた。


「もう行くよー。」


アダムはリュックを背負い直して、寝そべるジーネンの短パンから覗く、太腿を見つめながら声をかける。


「そっか、朝練か。」


ジーネンは言いながら、アダムを自分の前に立たせて、服の埃や忘れ物が無いかの確認をした。


アダムくんはリュックに詰め込んだ、ちょっとすけべなラノベがバレないかドキドキした。

学校に持っていき、友人と挿絵を楽しむのだ。


「家にいたいよ。」


アダムはジーネンに言いながら、玄関に向かう。

靴を履いて、解かれた紐に苛立った。


「学校行くのが仕事だからね。アダムくんは。」


ジーネンはそんなアダムを見下ろして、鼻歌を歌いながら靴箱の埃を指で掬っていた。


「いってきまふ」


噛み方は19歳のアダムと変わっていなかった。

19歳と言っても、高一なので、どこかで留年しまくったのか、時空が歪んだのだろう。


ジーネンがアダムの両肩を優しく叩いて、アダムは鬱陶しそうに扉を開けた。太陽の陽が強まる中で、三段ほどの階段の先に、モジモジとしている女の子を見つけて、ジーネンはアダムやるね。と呟く。


「あの子、メサイアちゃんっていうんだ。」


ジーネンは呟いて、再びリビングへ戻った。



***



「アダムくん、学校一緒にいこ。」


体操服の姿で、両手の人差し指をツンツンさせるのは、アダムくんのお隣のクラス、メサイア・アルメイアちゃん(13)であった。


メサちゃん、この頃は徒歩通学である。なぜなら、フェスターが20歳で、ギランミも同年代。ヴィーナやエトセーラ、ロイヤリティに至っては、まだお酒も煙草も出来ない歳だからだ。だから、誰もアルメイア財閥に就職はしていないし、私立エルガー学園の学生である。


ちなみに、ヴィーナは17からタバコを始めている。


「また、アルメイアさん。ごめん、僕一人で行きたいんだけど。」


アダムくんは、階段の下でもちもちほっぺと上目遣いで自分を見つめるメサイアに、めんどくさそうに答えた。


「うん、でも。この間近所の犬から助けてもらったって言ったら、お礼しなってお母さんが。」


メサちゃんは指のツンツンを早めて、自分の目の前に立つアダムくんを見つめた。


「お礼?お礼どこ?」


アダムは、わざとらしく首を振った。このガキ。


「………一緒に学校行ってあげる。」


頬を赤らめるメサちゃんであった。アダムくんはそれを聞いて、ため息を吐いた。ジメジメとした湿気が、アダムには不愉快である。


「悪いけど、俺ソロだから。」


アダムくんは、昨日アニメで見たセリフを言う場面だと感じて、メサちゃんに告げた。決まった。アダムくんは鼻息フンスである。


「へー、かっこいいね。」


メサちゃんであった。絶対思ってない声音で、体操服で胸を張るアダムくんを見つめる。


そしてアダムくんは満足したのか、ズンズンと歩いて行ってしまった。メサちゃんは会話これで終わりなのかと感じて、暫くあたふたした後、その背中について行くことにした。



***


アダムくんの家は、遠方に見える学校の時計塔に、太陽光による陽炎を作るほどは距離がある。


アダムくんはメサイアちゃんがついてきていると知らずに、一人で猫背気味に歩いていた。


木の棒を見つけて、ソードスキルを放ちたい衝動に駆られたが、もうお兄さんなのでやめた。


「……………わ!」


メサちゃんは、鈍臭いのでアスファルトの段差や、水撒きで湿ったマンホールに足を滑らせていた。


『パパ達に頼んで、お車で送ってもらう他ないわ。』


メサちゃんはご令嬢なので、考えがセレブである。


「あーー!まだついてきてんのかよ!」


アダムくんは、メサちゃんのその声に肩を揺らして振り向く。そうすると、先ほど同行を断ったメサイアを見つけて、指を差して叫び散らした。


「う、うん。ごめん。でも、ここからの行き方わからなくて……」


メサちゃんは申し訳無さそうにして、そのアダムの指を見つめた。


「やめてくれよ!ニョック達に噂される!女の子と登校なんかしたら!」


アダムはそう叫んで、再びズンズンと進む。

この時アダムくんはクラスでかなり人望があり、ニョックやオ・ゲレッツーと仲が良かった。


高校一年生となった19歳でも、同クラスだが、全てメサイアの囲いとなっていて、アダムと関わることは無くなった。アダム自体はそれを気にして、気まずくしているが、ニョック達の認知にあるところではない。



13歳のメサイアは、家の名前ばかり独り歩きしていて、どうにもクラスに馴染めなかった。クラスで会話をしようにも、テレビcmに出ている父の真似をされて揶揄われるばかりで、会話をしてくれない。男子達はそれが顕著で、女子はそんなメサちゃんを妬む。メサちゃんは学校が嫌いになっていた。


そんな時に、学校の側のピットブル五匹に囲まれ、死を予見した時にス○ーバース○ス○リームを叫びながら、木の枝2本を振り回して自分を助けたのが、アダムであった。精神年齢が小3止まりのアダムくんである。


しかし、ピットブルに立ち向かう姿勢をメサイアに買われたのだ。


そしてこれを父と母、メイドに話したところ、ぜひお知り合いになるべきだと言うことで、メサちゃんは意を決したのである。


しかし、前を歩くアダムは時折こちらを迷惑そうに振り向き、横断歩道を足早に駆けていく。


メサちゃんもそれになんとかついていくが、ハヒーハヒーと呼吸を乱して、近所のおばあちゃんに休憩を促された。



それを断り、背中を追いかける。メサちゃんは涙が溢れて、鼓動が早まるのを感じた。


学生生活、自分が勇気を出して初めて声をかけた相手である。それであるのに、今まで通り惨敗とあっては、メサちゃんは本格的に学校に行くのが嫌になるだろう。

これは、布団に潜り込んで眠るまでの間に、自分の脳内会議で出た結論である。


「まって………話だけでも聞いて……」


メサちゃんは息を切らしながら、依然としてこちらを振り向かない背中に声を張った。しかし、その声はか細く、開店準備中の八百屋さんのおっちゃんに聞こえるだけであった。


「うび!」


とうとう転んだ。


顔から突っ込み、肘と足を擦りむいただろう。鼻に弾けるような滲むような、鈍痛が走り、頭がガンガンと痛んだ。

そして、肘を見ると擦りむかれていて、ヒリヒリとする。


足も同様で、アスファルトの石が口に入り、苦味と痛みが合わさって、涙が溢れた。


「グスン!グスッ!!」


メサちゃんはお姉さんなので、泣き叫ぶことはしないのだ。しかし、痛いものは痛いし、なんか恥ずかしいし、八百屋のおじさんが心配そうに駆け寄ってくるしで、散々である。


極め付けは、八百屋のお野菜から出てきたいも虫が、アスファルトを這ってメサちゃんに近づいていたことである。


しかも、あの顔みたいなのつけてる、不気味なタイプ。

きっと今日の夢に出てくるだろう。


「ぎゃーーーー!!」


メサちゃんは叫ぶが、四肢の擦りむきが邪魔をする。

八百屋のおっちゃんは消毒とか言って、どっか行ってしまった。虫は、ヨジヨジと一生懸命地面を這って、メサちゃんに近づく。虫だって生きてるからね。


メサちゃんは頭とブロンドの髪をブンブン揺らすが、意味もない。


ヨジヨジ、ブンブン。ヨジヨジ、グスングスン。


メサちゃんは、もう絶対学校行かないと誓った――


その時であった。自分の前を歩いていた足音が、次は自分に向かってきて、そのいも虫をムンズと掴み上げ、ポイと投げ捨てたのだ。


「また転んでる。」


アダムくんが手をぱんぱんと払って、メサちゃんの側に屈んでいたのだ。


「アダムくん………」


メサちゃんは言いながら、再び情けなさで涙が溢れた。


「ち○かわ絆創膏あげるから、泣くのやめな!まず立って!」


アダムがメサちゃんの腕を掴み、体を支える。

メサちゃんから柔軟剤のめちゃくちゃいい匂いと、二の腕のぷにぷにを味わい、赤面した。


13歳なので、迂闊に描写すると犯罪である。


「ありがとう、うっ、傷口見たくない。」


メサちゃんは目をキュッと閉じて、そっぽを向いた。アダムくんは照れ臭そうに頬をポリポリと掻いて、

ち○かわ絆創膏を数枚取り出す。


「他にもちい○わ絆創膏貼ってあげる。ジーネンさんに持たされてるけど、こんなの使えないんだ。」


アダムは言いながら、メサちゃんの傷口を絆創膏で塞いだ。メサちゃんは胸の高鳴りを感じながら、片腕でグーを作って、口に添え、自分の足元に屈むアダムを見下ろした。


後から八百屋のおっちゃんが救急箱を持ってきて、手当をしてくれた。そして、絆創膏はち○かわの物のままでいいと言うと、おっちゃんはニヤニヤしていた。


アダムくんは腕組みをして、八百屋の野菜を見つめていた。別に、何がわかるわけでもないが。


八百屋のおっちゃんは、アダムとメサイアに三ツ○サイダー500ml缶をくれた。途中でお腹いっぱいになって、処理に困るアレである。


「男は手繋いで、女の子守ってやんな!!!!」


おっちゃんの言葉であった。アダムはソワソワするメサイアを横目に、別に手は繋がずに歩き出した。


おっちゃんは、そんなアダムを見てシャキシャキ歩きな!と叫ぶ。


いいお世話であった。


「僕、炭酸飲めんから、はい。」


アダムはそう言って、隣を歩くメサちゃんに三ツ○サイダーを差し出した。


「え、でも私も……」


メサイアも言いかけたが、お礼を言ってそれを受け取った。良い子である。


「…………。」

「……………。」


学校までの陽炎は、鳥が学校近くの木で、チュンチュン鳴く声に変わっていた。


「ねぇ……嫌だったら良いんだけど、お友達になってください。」


車道を走る車を背後にそう言ったのは、メサちゃんである。メサちゃんの背後に車が走っているということは、アダムは女の子と歩いていながら、車道に立つという常識を守っていない。


「ふ、ふぁい。」


アダムは照れくさそうに、車道から目線を離して呟いた。メサちゃんの顔は、パッと晴れた。


ただし、とアダムは付け足す。あんま調子乗ると、後で自分がしんどいのに。


「学校でもクラスでも、僕に話しかけないで外でだけ話しかけて!」


アダムであった。メサちゃんに食い入るように視線を向けて。


「な、なんで!喋りたいよ!!」


メサちゃんも流石に反抗した。


「男と女が学校で喋ってると、付き合ってるって噂されちゃうから!!」


アダムの叫びは、校門の側で響いた。

これ以降、メサイアは約束を守り、学校では絶対にアダムに話しかけないことを徹底している。


それは、19歳となった高一であっても、メサちゃんの中で絶対のルールとして、遵守されているのだ。



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