第五十七話 アダムくん帰る
アダムくんとメサちゃんは、結局なにをすることも出来ず、マー・ボウパークを後にした。
これも陽キャのb級センメタコンプレックスの所為だろう。このまま行けば、この作品は陰キャによるプロパガンダ作品になってしまう。それは避けたかった。
――時刻は16時30分
先の時刻から30分経っているということは、二人はあれ以降も何気に公園でモジモジしていたのだ。外の寒さに晒されて、カップルのあらあら❤︎視線に晒されて。
なんでアダムくんちょっと良い思いしてるのだろうか。置いてくなよ、おい。地の文を置いていくなよ、お前。
そもそも、あの恋愛漫画に良くある。高校生友達以上、カップル未満モジモジの二人を生温かい目で見つめる取り巻きは一体なんなのか。現実にそんな人間達がいると思うだろうか。
あらあら❤︎なんてものはない。あらあら❤︎と言う視線を向けられるのは、5歳〜11歳のおチビである。
おチビは可愛いからわかる。見てると元気でるし、手はクリームパンみたいだし、ほっぺもちもちだし。
昆虫や仮○ライダーの話ずっとしてくれるし。
しかし、最早大人の初期段階である高校生カップルを見て、あらあらというのは反吐が出る!
あらあら❤︎ではない!現実ではチッ、イチャイチャしやがってよ、道の真ん中で止まるんじゃねえよ!、止まるんじゃねぇぞ………希望の………
の視線しかないのだ。
それに現代社会において、現代社会とはあくまでこの学園都市のことである。
この学園都市では、地球へ降下する財を成せなかった人間達が、ハイパーインフレに則り、ようやっと平均的な生活をしているのだ。
そして、宇宙に放たれた彼らには、限りないコンプレックスがあるのだ。自分は、ハイパーインフレの中でしか生活していけないという、コンプレックスだ。
それであるのに、人の恋愛の様を見せつけられて、あらあら❤︎というような余裕はないはずなのだ。
あらあら❤︎と呟く暇があるなら、ハイパーインフレの中で成り上がるために、地球へ降下するために、食事をするために、働かなければならないからだ。
そのプレッシャーから解放される休日に、シニシズムとよそよそしさを是とするこの世の中で、他人の幸福にあらあら❤︎と言えるか。推しでもなんでもないのに。
よって、この学園都市社会で人にあらあら❤︎と呟く余裕はない。だから、恋愛漫画でのあらあら❤︎はファンタジーである。
登場人物の恋愛感情が見せる妄想である。自分は周囲の人間に生温かい視線で見守ってもらっているという、驕りである。
それは相手に好かれている自分という、確固たる自我が育む、自信故だろう。
ふざけんな………置いてくなよ。
だから、実際の人間達は荒んだ瞳で、そのラブラブすれ違い恋愛をしている人間達を見つめていると、信じたい。
そして、フィクションの世界で恋愛のリアリズムを徹底的に追求することは、暴力でもある。
パンチは痛いので、もうこのことについて喋るのはやめる。
一言付け足すと、高校のクラスで気になる子と二人で遊びにいくシチュエーションや、花火大会に二人で行くシチュエーションは多くあるが。そこで、初めてこの相手が好きなのかも、と気が付かせるのもファンタジーでしかない。
なぜなら、その異性の誘いが来て、条件が二人という依頼なのだから、相手が自分に対して気があると確信までいかなくとも、若干の感覚で気付くものだろう。
これに勘付けないとなると、コミュニケーション的な面で心配が出てくる。アダムくんはこれである。
そして、その好意的な何かを承諾するのだ。
その時点で相手を知ろうとか、ワンチャン好きなのかなとかわかるだろう。
それであるのに何も考えずに出かけて、花火が弾けた瞬間に照らされた相手を見て、「あっ好きかも」
「あっ気になるかも」というのは、空中でぶち撒けられる花火と同じくらい知能指数が下がっている。
あっ好きかもは、誘われた時点でそうならないのか。
好きや気になってない人間を誘うのか。その誘いを受けるのか。相手を会話シュミレーターとして認知してるのか。相手を会話シュミレーターとして認知してるサイコパスならわかる。しかし、そんなサイコパスが恋愛漫画の主人公となれるのか。
花火が弾ける瞬間に、タイミング良く気づく必要はない。
誘われた時点や、浴衣を見た時点で気づけば良いのだ。
そもそも浴衣を着て二人で出かけるって、ほぼカップルだろ。アダムくん、メサちゃんの所に戻ろうとするな。
置いてくな。
☆☆☆
アダムくんとメサちゃんは、早速次のお休みのお出かけの計画を立てていた。
主犯格はメサちゃん。
二人は歩道へ戻り、木の間や建物の間を繋ぐ青や白、紫、黄色、緑のイルミネーションに照らされながら、人の波を掻き分けている。
おそらく、メサちゃんはクリスマスまでの間に勝負をつけるつもりなのだろう。
アダムはやめて欲しかった。こいつは駄目な人間であるから。
「あ、でも。祝日なのに学校の日が多いから、あまり出かけられないかも。」
そう言うのは、アダムの隣をホクホク顔で歩くメサイアである。先のキーホルダーが包まれた小包みを、大切そうに両手で持っていた。
ライトアップの光にそのキーホルダーを掲げ、キラキラしてるなどと言って、アダムにも共有する。
………………。
祝日なのに、学校が多い主な理由。
それはエルガー学園が私立であるからだ。私立エルガー学園はマンモスどころか白亜紀学校である。
それほど巨大な学校は幼、小、中、高、大、大学院、全て統合されている。ラッツェル曰く、統一主義に則り。
リアリズムもクソもない。
そして私立大学というのは、祝日はない。
なぜか。この学園都市には、地球ジャポンの
文○科○○の野郎共と取って代わる、お勉強警備隊。
通称、「セリエタ」という組織があるからだ。
そしてそのセリエタが、私立大学は祝日含めて、
「絶対十五回授業しないと殺すぞ!」と私立大学に脅しているからである。
そして、おそらくセリエタの連中は、祝日を謳歌するのではないだろうか。国立は休みなのだろう。おそらく。
私立のアダム達は休みがない。アダムは停学処分なので関係ないが、メサちゃんが学校となればお出かけはできない。
そして、二人はその事で頭を悩ませていた。
アダムくんは、職場がアルメイア邸なので良い気もするのだが、どうもメサちゃんと二人の時間が欲しいらしい。
もう二人は立派な成人で、コアラのガキみたいに抱きつく必要はないのに、なぜコアラの真似をしようとしているのだろうか。そして、なぜカップルだけがその退行を許されるのだろうか。冗談ではない。
横断歩道が赤に変わった。暗闇とイルミネーションの狭間、その赤はよく目立つ。
車のブオーーンという音が響いて、スマホを見て信号が変わったことに気付かないドライバーは、クラクションを鳴らされている。
アダムとメサちゃんはそれを見て、ふふっと笑った。
ふふじゃないだろ。
「俺仕事上がるの16時だけど、メサちゃんのお迎えの車に乗ってついて行くよ。」
アダムであった。メサちゃんの輸送スケジュールは、朝の送り出しがヴィーナ。帰りの迎えがフェスターである。
アダムは、後部座席か助手席でそれに着いて行くと提案した。
「ありがと。」
メサちゃんはそれを受けて、再び嬉しそうに微笑む。
頬を若干赤らめて、寒そうにしている。
開けたコートを閉じれば良いのだが、オシャレのために我慢するメサイア。
このような時のための、ヴィンテージレインコートであったかと、アダムは納得した。
いや、暑いと思う。
あと、コート二枚重ねってださい。分厚くてガタイが良くなってしまいそうである。バイ○ハザードのタイ○ントのように。
丁度、良い子の皆さんはお家に帰りましょうコールが街を包んだ。
帰宅の時間も計算すると、とうとう宴たけだろう。
アダムくんとメサちゃんは、無言で横断歩道を渡る。
このビル群を抜ければ、駅である。
メサイアのお迎えには、車のギランミとエトセーラがいる。アダムくんは、電車である。その前に、アオハルならぬ、アホハルを盾にして行った、改札無限通過の余罪があるので駅員に捕まってお終いだろう。
そして、独房行きである。
次からは、火星近くにある監獄都市、「カルケー」投獄編が始まるはずだ。
長く感じられたビルの狭間もようやく抜け切り、駅のアナウンスや電車の振動が伝わり始めた。
メサちゃんは、道中何度もアダムをチラチラと見つめる。
延長コースに入りたいのだ。夜ご飯も一緒に食べないかと視線で送っているのだ。
『門限やばいから、早く帰ろ。写真集の本屋は寄ろっと。』
アダムであった。写真集も独房入りの前に徴収だろう。
金○に隠してもバレるので無駄である。
ピーーンポーーーン!と駅のあの独特なアラームみたいななんかよくわからない音が鳴り響き、駅前の人々はタクシーで見送られたり、何か話して名残惜しそうに帰っていた。
ビュルルルルルルル!!
これは本当に駅で聞き馴染みがないので、オノマトペのでっち上げはやめてほしい。
「じゃあ、ギランミ達が待ってるからここで……」
そう切り出したのはメサちゃんである。
「あ!なんか、あの駅前のお店はめちゃくちゃ話題になってたところー!」
メサちゃんは突然、向こうのビルの一階のお店を指差して叫び始める。どこにでもあるチェーン店であった。
「あれ、チェーン店じゃない。」
アダムである。
「じ、じゃああっちのお店ー!」
最早なんでも良さそうである。地理や英語のテストの時に、教室内にヒントが隠されていないか探る、カンニング紛いのダメ押しに似ていた。
「あそこも、チェーン店だよ。」
しかも大衆居酒屋であった。ナンセンス極まりない。
「駅ビルにも、何かないかなー!本屋とか服屋とか、沢山あるんだけどなー!」
メサちゃんは、アダムの横で必死に騒ぎ始めた。
アダムくんは、寒さで頭がやられてしまったのではないかと疑い、心配する。
「今日は家帰った方が良いんじゃない?疲れたし。」
アダムである。メサちゃんはほっぺを膨らませてムッスーとした。
アダムくんの脳内には、ユナちゃんの水着しかなかった。あの写真集の光景が脳裏に滲んで離れなかった。
それは試着室で密着した、あのリアリティある感触も相待って、さらに魅力的に感じられた。
アダムくんは、ソワソワしてうん○したくなった。
『早く!早く帰ってけれ!そして、オラはあのドスケベ写真集を買うんだ!!』
アダムのこの焦燥は、まさにネットで性を知った小学生エ○ガキが、家で一人そういう行為をしたいがために、家族全員のお出かけの時間を待ち遠しく感じるアレである。
そして大抵、弟か姉あたりが出掛けるのを面倒くさがって、その計画は失敗に終わるのだ。
アダムくんも、ジーネンにそのような事で咎められたことがある。
この話は全年齢から外れそうなので、また次辺りで語るとする。
「じゃあ、ほんとに帰るからね!」
メサちゃんは、めちゃくちゃにデカい声で叫んだ。
風圧でアダム君は荷物諸共吹き飛びかける。
「うん、荷物持っていってね。」
アダムくんは、その風圧を受けて荷物をヨロヨロと揺らしながら、メサちゃんに呟いた。
メサちゃんは未だにムッスーとしていた。
「ばか!またね!」
メサちゃんは叫んで、荷物を置いて帰っていってしまった。一七話使った最後がこれなのだ。
「メサちゃん、僕たち付き合ってるんでしょうか!」
アダムくんが、ズカズカと歩いて行く背中に叫ぶ。
もう確信めいたものがある癖に、当てつけか。
この男の知能指数は、きっと頭から湧き出るフケとなり、それを空中に撒き散らして、霧散させているのだろう。だから、こんな質問をするのだろう。そして、それが雪なのだろう。
「しりません。」
メサちゃんであった。メサちゃんもちょっとおバカだよね。
こうして、二人のお出かけは終わった。
アダムくんは、荷物をどうしようかと迷っていると、
ぷっぷー!と車のクラクションが鳴り響いた。
黒い高級車、ガタカールである。
そして、車の窓を開けて顔を出すのは、サングラスを外したフェスターであった。
「荷物持ち荷物。荷物受け取りに来たから、車に積むの手伝え。」
フェスターはそう言って、車を駅前のタクシー待ちの場所に駐車した。そして、タクシーを待つ人はタクシーが来たと勘違いして、その車に乗ろうとして、フェスターに怒られた。このヤクザ財閥、警察に捕まってしまえ。
「お前、一応後輩だから乗せてやろう。」
荷物を一通りトランクに押し込むと、フェスターがアダムに呟いた。
「なんかきもちわる、体を狙ってるんだ!」
アダムであった。アダフェスという鼻くそカップリングは、家に一匹いれば、あと九十九匹はいると思った方が良い。
フェスターは、体を覆うアダムを無視して、運転席に乗り込んだ。アダムも恐る恐る助手席に乗り込み、シートベルトを閉じる。
「楽しみだなー。明日を通り越して、月曜になれば、お前にパワハラし放題なんだ。ぐへへへへへへ」
フェスターは、めちゃくちゃ気持ち悪い顔をしてハンドルを握った。
「フェスターはん、そんなことより本屋に寄ってください。」
アダムくんは、無心でそう呟いた。ユナちゃんスケベ写真集の存在をフェスターに知られれば、再びイッケ事変のように取り合いが始まるからである。
「なんで、まっすぐ帰れってエトセーラさん達に命令されてんだけど。」
フェスターは、中間管理職的な立場なので、エトセーラと部下達にサンドイッチなのである。
あの、ロイヤリティでさえフェスターの上司なのだ。
「じゃあ、送らなくて良いです。」
アダムくんは、股間の熱によって座席を立とうにも、別の部分が立っていて立てなかった。
そして、フェスターはそれを見てキモがりながら車を走らせた。
結局本屋の前まで走ってくれたが、メサちゃんを乗せたギランミ達の車が待ち伏せしていて、バレるのが怖かったので逃げた。gpsと無線でバレたのであった。
―――完―――




