第五十三話 むふふ
代→大です
『言われた本人が、しりませんってなんだ。あと、流れであんなことを……』
アダムくんであった。
『しりませんってなんだろう。私達、どんな状況なんだろう。』
メサちゃんであった。
時刻は15時21分。18時ごろには解散の予定なので、宴もたけなわだろう。
二人は、特に巡りたい場所もなかったため、近くの大型複合施設に入り込む。名前は、マー・ボウパーク。
この学園都市の三大財閥、アルメイア、マー、マイコンの内一つ、マーグループの経営するモールであった。
ちなみに、このマーグループを発音する時の鉄則は、両手を白鳥のように外に向けて、足をガニ股に、全力でマー!と叫ばなければならない。
そのため、この三大財閥の中で、最も人気がない。
財閥に人気もクソも無さそなのだが、実際アルメイア財閥はギランミ率いる、ポンコツお姉さんsp達で人気を獲得しているし、マイコン財閥の娘シスメは、次期筆頭としてルックス含めて人気である。この、マイコンという名前に、アダムくんはどこか聞き馴染みを感じた。
マーは、そのポーズがお下劣として、初期のクレ○ンし○ちゃんのように卑下されていた。
しかし、やはり都会の大型施設。アダムくんとメサちゃんを包む人々は、家族連れから恋人連れ、おチビ達の集団から老人まで、様々である。
そして、アダムくんとメサちゃんは、お互いをぱっちりと見つめ合う。そして、二人とも客観的に見れば、カップルなのではないかと思い、同時に頬をぽっと赤くさせた。
しらないんじゃなかったのか。
マー・ボウパークは、入り口は通常の大型自動ドアであったが、その中には多くのお店が出店していて、マップを見たところ、先には大型の公園と、アトラクションがあるようであった。
「来たはいいけど、何するの?」
アダムくんは、ホログラフィックで展開されるマップを見上げて、その後に、同様にしていた横のメサイアを見つめた。友達とお出かけした時特有の、もう解散しない?の倦怠感がこもっていた。
やはり、かす。
メサちゃんは、鼻息をふふんと得意げに鳴らして、自身の高級革づくりの黒い鞄から、小さなメモ帳をつまみ上げた。
メモ帳をパラパラと開くと、「アダムくんとやりたいことリストなる」ページが現れる。
メサちゃんは、蛙化こそあったものの、ここまで一途にアダムを考えていたのに、アダム本人は美少女アニメトークアプリで、セクハラをして、ユナちゃんへ浮気匂わせである。
やはり、かす。
そのメサちゃんのメモ帳には、まばらだが、チェックが入っていた。
映画を見る。ご飯を食べる。手を繋ぐ。これらには、赤ペンでチェックがついていた。
そして、未達成のやりたい事である。
夏祭りに行く。海に行く。お花見をしたい。クリスマスを一緒に過ごしたい。服を一緒に見たい。学校で話しかけて、自分のグループに押し込む。手料理を食べてもらう。
財閥の地下室に軟禁する。駆け落ちして、古本屋を経営する。
最後の二つは不可能だろうが、それ以外は可能だろう。ただ、夏祭りということは、それをするまで連載を続けなければいけない。季節を、冬と春の二つ越さなければならないのだ。
はっきり言うと、やりたいことはあるが、ギャグのレパートリーは底を尽きているのが現状である。
「それは、なんでしょう。」
アダムが言いながら、その手帳を覗こうとする。
メサちゃんは、必死に胸に押し付けて隠す。
「とにかく、歩きながら見たいものあったら、見る感じで!」
メサちゃんであった。アパレル系の店と言うと、アダムが萎縮するから、良い誘導方法だろう。
***
二人は、スタコラと白い大理石を模した道を歩く。
立ち並ぶオープン型の店内からは、雑貨や服、独特な形の入浴剤のような、様々な商品を店舗ごとに取り扱っていた。
そして、その店の全てから、まばらな店内のbgmも流れている。
「あ、この入浴剤のお店いい匂い。」
メサちゃんは、ぴたりと足を止めて、その床や壁の全てが、木で作られている店内を指差した。
「ちょっと、入ってみようか。」
アダムくんにしては、100点の答えである。
二人がお店に入ると、小さな店舗であるから、レジの女性店員はチラリと二人を見た。お客はまばらである。ましてや形を売りにした、おしゃれで巨大なものであるから、普段からひっそりとしているのだろう。ただ、ふりかけ型の入浴剤しか知らないアダムには、物珍しい。
いちごの形や、薔薇の形、キャラクターを模した物まであった。
そして、アダムくんの気を引いたのが、恋愛シュミレーションゲーム「ドギマギメモリー」のキャラクター達を模した入浴剤が売っている棚であった。
「こ、これは……」
アダムは、横のメサちゃんを置き去りにして、店内最奥のその棚へ向かう。
全て、シンプルな球体型であったが、二分された配色は、それぞれのヒロインのイメージカラーとなっていて、キャンディのような印象を受ける。
そして、肝心の匂いは、そのキャラクターの使う柔軟剤イメージであるらしい。そして、それをお風呂に投入して、一つになる妄想をすると………
「ニヘッ!ニヘッ!ニヘヘッ!!」
鼻の下ガン伸ばし、産毛丸見え、鼻の穴ガン開き、鼻の下の産毛のみならず、髭の剃り跡や、きったない毛穴、そこからプツプツと溢れる細かな汗の全てを露見させるのは、アダムであった。
「あはは……いらっしゃいませー。」
そのコラボ棚は、レジ横であったので、店員もカバのようなアダムを見て、苦笑いである。
この店員がプライベートで、友人と一緒にこの場に居合わせれば、即座にキモの二文字ををくれて、大嘲笑大会開催。その後カフェで、おちゃらけた方の友人が、そのアダムのアホヅラの真似をして、再現VTR大爆笑必死の、オタク確殺コンボを決めているところだろう。
なぜなら、この学園都市でのオタクの地位は、2000年代初頭の、旧世紀のジャポンのそれであるからだ。
「ねぇ、アダムくんこれ可愛いよ!………アレ。」
メサちゃんは、ウキウキの顔で後ろを振り返ると、立っている筈のアダムはいなかった。
そして、なぜかアニメキャラクターのプリントされた、等身大コラボパネルの設置された棚に、ニヘニヘ言いながら、横の店員の含みある困り顔を一身に受ける、アダムがいるでないか。
「…………………。」
メサちゃんは、トマトを初めて食べさせられ、我慢ならずに吐き出したいけど、やはりティッシュを前に出してくれずに、吐き出すことができず、それがまだ幼く言語化出来ない、悔しさとやるせなさを含めたおチビの表情で、アダムの背中に近づく。
アダムくんの肩がトントンと、突かれ、そのトントンの位置から、女性であるとわかった。
「ニヘッ!ニヘヘ!に………」
次は、ゴンゴンであった。扉ノックの要領で、左肩甲骨をノックされたのだ。
「………………。後ろにいるのは、店員さんですか。」
「いいえ。」
速答であった。いつもの甘い声に、ドスを真上から突き刺したような印象を与える。
ホラー映画のアキネ○ターであった。
「メサちゃんですか。」
「はい。」
アダムくんは、棚にそっと入浴剤を戻し、横のレジに立つ店員さんを一瞥した。
困り顔で、汗をピヨっと吹き出している店員さん。
自分達と同じく、女子学生なのだろう。
後ろを振り向くと、瞳からハイライトを消し、困り眉を最大まで歪ませ、口をジグザグにして悔しそうに歪め、その下の窪みに、シワをつくり、自分をジッと見上げるメサちゃんの顔があった。
先の本屋で、ユナちゃんスケベ写真集を手に持っていたことを、咎める顔と同じであった。
「メサちゃん、これは違います。」
「何が違うんですか。これはスケベシヨウヤと送った作品と、同じではないのですか?」
「メサちゃん、その作品とはまた別です。」
アダムくんは、必死に弁明を試みるが、作品を一緒くたにされるのは避けたかった。オタクでない人特有の、全部一緒だろ!を否定したい気持ちに駆られ、弁明の言葉を忘れた。
メサイアは、その険しい表情のまま、等身大でお風呂上がりにタオルを巻きつけ、ホカホカとしているパネルを指差した。
アダムと、汗を流す女性店員さんも、そちらを向いた。
「こういう子が好きなんですか。」
そのパネルのヒロインは、人気ナンバーワンであり、胸もデカい。しかし、アダムくんの推しは、男装をしながら1年を過ごし、最後の告白イベントで、女性であったことを開示されるキャラクターが推しであった。
「違います。僕も、この匂いになりたかっただけです。もっと言えば、この子達になりたかったんです。」
アダムくんは、入浴剤を使いたかったと言ったつもりだが、焦りすぎて、文章がこじれる。
変態へと、変態した。
隣の店員は、無意識にキモっと呟いて、急いで口を塞いでいた。
「次はパンチするからね。このお店、出よっか。」
メサちゃんは、言いながらツカツカと歩いて行く。
アダムくんは、この繰り返しだと溜息を吐き、トボトボとついて行く。そして、入り口に、入浴剤風キーホルダーなるものを見つけた。
♨︎☆♨︎
「……………………。なんか遅かったね。着いてきてると思って、一人で喋っちゃってたじゃん。」
メサちゃんは、先のホラー表情から、頬の赤い膨れっ面で、急いで追いかけるアダムくんを見ていた。
「いやーははは。」
いやーははは。じゃないが。
メサちゃんは、それを見て、ちょっとプリッと怒りながら、ハイヒールを鳴らす。
アダムくんは、このハイヒールのツカツカコッコっ音を鳴らしながら、コートをヒラヒラと揺らすメサちゃんの後ろ姿を見ると、大人っぽく見えてドキドキする。
かくいうアダムくんは、ちょっと剃り残しの髭、ボサボサ髪の毛、ざんぎり鼻毛、形を整えない眉毛、カッスカスの唇で、アイロン掛けを忘れた制服であった。
アダムくんは、先程メサちゃんの顔をじーっと見たとき、微かにお化粧が施されているのがわかった。
アダムくんは、キスマーク恐怖症なので、スマホの内カメで自分の頰を覗いてみるが、それらしきものはない。
メサちゃんは、アダムがキチンと着いてきているか、しきりに振り返り、スマホを手鏡にしているようなアダムを見つめた。
「……見た目確認してるの?」
メサちゃんは、口を上品に抑え、ふふっと笑う。
ただ、馬鹿にするような笑いではなく、可愛いものをみるような笑いであった。
『笑われた。周りの人も、お前なんかが内カメで顔確認するなって、思ってるんだろうな。』
逆張り自意識去勢カスオタクに、そんな愛しさを内在させた笑いが伝わるはずがなく。
笑いを、笑いでしか享受出来ないのが、アダムくんであった。しかし、勝手に周りの人間の内心を見透かしたように、自分通りに、ネガティブに捻じ曲げる。逆張り深読み思考は備え付けである。
地の文は、アダムくんも顔はカッコ良いイメージで作ってるから、自信をもってと言いたかった。
第一、地の文にとっては、陰キャの妄想なので、こいつら皆アニメ顔である。
メサちゃんは、それを見て機嫌を直したようで、アダムくんをチラチラと見ながら、歩く速度を遅めていった。
そして、とうとうメサちゃんが好きそうな服を置く、いかにも、女性専用アパレル店舗が立ち並んできた。
メサちゃん、アダムの左腕の側により、顔を四方にフリフリとする。どのお店の服も可愛らしく、冬物を中心に、春物も若干顔を出し始めていた。
アダムくんは、そのお店達にサンドイッチされて、イケイケお客の波と、イケイケbgmに胸を突かれ、咳をしていた。
「チラチラッ。チラチラッ。」
メサちゃんは、お店を見つめながら、アダムの顔も交互に見上げる。全力のお店寄ろうアピールである。
「………。」
『顔に何かついてるのかな、鼻毛出てるかな。』
内カメで一度顔を確認したアダムくんは、照明に照らされた顔が、思いの外、鼻の穴も丸見えだとわかり、鼻くそと鼻毛の所在を心配した。
メサちゃんがお目当ての、一店舗目を視線の端にとらえた。
高級感漂う黒い看板に、白のアルファベットの、シンプルなお店。白い内装には、黒を中心に、ワンポイントで青や赤、白の商品を展示するレイアウトである。
そして、店の入り口には、ファッションショーらしき映像が流れ、入り口の空間を挟んで、ジェナちゃんがそのブランドを見に纏い、大人っぽい印象を与える、宣材写真が置かれていた。
『うわ!ジェナちゃんの写真でっけ!かわい!!』
アダムくんは、思わずそこでピタリと足を止めた。
「……………!!!」
メサちゃんは、耳と全身をピーンと立てて、アダムくんが、自分のお店見たいアピールに気づいてくれたと錯覚した。
「むふふ。むふ。」
メサちゃんは、ニヤニヤを抑えながら、アダムの横でムフムフした。
アダムは、メサちゃんに引っ張られ、頭にハテナをつくりながらも、されるがままである。
しかし、このイケイケお店に入るとわかると、ちょっと抵抗したが、メサちゃんの力が強く。店内に侵入した。
――続く




