第五十一話 やるんだな!?今……ここで!!
――上映1時間10分
『ピロパラパラパラピロピロ!』
『ピロピ!パラランピロ!』
アダムくんは、左肘を肘置きについて、寝ることなくそれを見ていた。
『くそ、羨ましいな………』
アダムくんは、嫌な夢を見てしまったので、寝ることも叶わず。こうして起きて映画を見る内に、スクリーンの二人の、なんか甘くて酸っぱい感じを、羨ましくなってきてしまった。
劇場なので、音響は高級であるし、スクリーンの画面は嫌でも視線を奪う力がある。
そんな中で、1時間以上恋愛モノを見せられるのだから、嫉妬を生むのは仕方ないだろう。
アダムくんは、スクリーンの先で行われる。
心臓をねこじゃらしで、ウジウジされるような二人の距離感を見ていると、逆張りであっても胸がキュンキュンしてしまうのだ。
そして、そうであっても、この1時間のうちに、二人の距離は段々と歩み寄って近づくものだから、脚本家か監督は良くやっているものだ。
そして、ヒロインが病院で白いベッドに寝そべるシーンである。
『くそ、病気なんかするんじゃない!』
アダムくんは、完璧に二人のファンになっていた。
そして、物語がクライマックスなのかは、寝ていたのでわからないが、男の方が、そのヒロインの手を握りベッドに寝そべるシーンへと続いた。
『やるんだな、今ここで!!』
いちいち内心が喧しいのは、陰キャの性だろう。
ふと、首の辺りがチリチリとする感覚がして、そちらへ視線を向ける。
自分の右隣に座るメサイアが、ハンカチを左手に、もう片方の右腕は膝の上に置いて、アダムを見つめていた。
いつもの、若干の困り眉とスクリーンを反射する長いまつ毛。揺れる蒼い瞳、口は緊張した雰囲気で、覚悟を決めていた。折り畳んだコートは膝の上に置かれて、やはり右腕はやり場がないようであった。
メサイアは、アダムから一度目線を外し、アダムの左下を見てから、もう一度視線を戻した。
『と、トイレ行きたいのか……?』
もう、このアダムくんの鈍感もどきが、通用しない段階へと来ていることは、地の文も良くわかる話である。
メサちゃんは、自分の右腕を使って、さりげなく肘置きに乗っかるアダムの左肘を、グイグイと押し込んでいた。
「手置きたかったか、ごめんね。」
アダムは小声で呟き、空席の右側の肘掛けに、自身の手を置く。
「……………………。」
メサちゃんは、ジト目である。
メサちゃん曰く、このまま一度も手を繋がずに映画館を出るのは、あり得ないらしい。
陽キャに笑われていた時の、あのアダム君の悔しさと悲しさを交えた顔。
それと、この肘置きをすんなりと譲ってくれる優しさ。
どれも、当たり前のことだし、情け無いだけなのだが、メサちゃん恋愛フィルターを通すと、庇護欲を掻き立てられるらしい。
水を差すようで大変申し訳ないが、将来ヒモに引っかかる可哀想な女の子にしか見えない。
地の文は、メサちゃんがこのままではいけないと感じる。仮に、アダム以外のヒモに寝取られた場合。
メサちゃんが働く間にその寝取りヒモくんは、パチンコに行って散財するだろう。メサちゃんのお出かけにはついて行かず、勝手にクレジットカードを使用するだろう。二人でボロアパートで漬物とお湯を啜る日々。メサちゃんの目元には過労の隈。
ヒモには夜更かしの隈。
メサちゃんが仕事でいない間に、ヒモは、毎日自分の三代欲求をフルコンプリートし、さらには競馬やパチンコ、キャバクラまで行く始末だろう。
これが男というならば、そのヒモは自害した方が賢明である。というか、自害しろ!
ラン○ー!!(飛び火)
ラン○ーがしんだ!この人でなし!!
なんの話だったか。
地の文は、メサちゃんがヨウのようなヒモカスに捕まるぐらいなら、もうアダムと結婚して欲しかった。
主な構想としては、お付き合い(19)編、ゼクシィ(24)編、ウェディング(25)編、地球降下ハワイ旅行(25)編、共働き(25)編、二人でイチャイチャ添い寝(25)編、アダムパチンコ(26)発覚編、アダム押入れのエ○写真集バレる(26)編、アダムサッカーボールを高級車にぶち当てる(26)編、アダム借金(26)編、メサイアそろそろアダム見限り(27)編、アダムキャバクラでセクシィ(27)編、アダム不倫発覚(28)編、アダム山に男性3人引き連れて不倫し放題(28)編、ギランミ達に見つかり始末(29)編、メサイア(29)未亡人編。
これら全てをプロットとして、入れておくとする。おそらく、地の文は長さに絶望して、ウェディング編で完結させるだろう。いちいち、〜〜編の後に年齢が入っている。
なんの確変かわからないが、アダム君(26)から、エンドレス厄年が始まっている。
不幸(自業自得)無限継続編である。出玉が止まらず、換金はどこですれば良いのかと質問をすれば、
「みなさんあちらに行かれますね」と、隣接した
刑務所を促されるだろう。
突如、メサちゃんはアダムの左腕の手首を、両腕で掴み上げた。女の子の細く、しかし柔らかい小さな手を、手首の一点に感じて、アダムの体はビクッと跳ねる。
「…………………。」
メサイアは、スクリーンの光を顔の半分に映しながら、アダムを真っ直ぐ見据えていた。
メサちゃんのもちもちおてて二つが、アダムの左腕をガッチリホールドする。
『なんか、嫌な夢見て怖かったけど、メサちゃん見ると落ち着く……。手は洗わないでおこ!』
アダムであった。手大事にしてね。
二人は、お見合いを続けていた。
「…………。」
「………ゴクリ。」
メサちゃんは生唾を飲み、その腕をゆっくりと左の肘置きに乗せる。
両腕を離し、その腕を置かれたアダムの掌をジッと見つめながら、自分の右腕を被せようとしていた。緊張で、ロボットのような動きである。
この二人、結構前の話で手繋ぎまくって、ベッドに寝そべってたのに、今更何が恥ずかしいのだろう。
焦ったいので、やらしい雰囲気にして、チュー三回ぐらいして欲しかった。
「繋ぐよ。」
メサイアであった。久々に小声で声を出したので、ちょっと低音ボイスである。
「は、はひ/////////////////////」
アダムであった。顔が真っ赤で、声は変に高音であった。番外編にTS回を書いてみるのもアリかもしれない。一話だけ。
「やっぱ、好きだーーーー!!!」
二人は、スクリーンから響いた声で、自分達の内心を暴露されて、肩を同時に揺らした。
その叫びに合わせて、劇場版はエンドロールに入った。
「………オワッチャッタ」
「………オワッチャッタ」
二人は呟き、エンドロールを見ずに帰って行く人たちに、自分達の焦ったい、恋人繋ぎキャンセルの姿を見られ、顔を赤らめる。解かないということは、ほどほどに手は繋いでいるのだろう。
エンドロールの終わり際、会場の人々がヒソヒソと会話を始める時間であり、カップル最終イチャイチャのチャンスである。
アダムくんは、ため息を吐いて、左腕の繋いだ手はそのままにしていた瞬間。
自分の左頬辺りに、二つのぷにぷにしたものが、チュっと当たる感覚があった。
吐息がグンと迫り、一瞬の頬の衝撃で弾けるように離れていったのである。
アダムは、反射的にそちらの方向を見ると、手を繋いでいない左手で口元を抑えて、顔をとんでもなく赤くしている、メサイアがいたのであった。
――続く




