第四十六話 ジェットストリームカーストアタック
「アダムくん、トレーは自分で取ってきてね。」
「ふぁい。」
食事のトレーと、人数分のおしぼりを運ぶメサイアが呟く。アダムくんは、口をパンパンに腫れさせて、そのパンパンほっぺを摩りながら呟く。
ユナちゃんは、未だ横で食事をしていた。
アダム君がカレーとオレンジジュースのトレーを取り終えると、メサイアはまだ食事のサンドイッチには手をつけず、ぽよんと座って待っていた。ユナは相変わらずガツガツと。
「メサイアちゃん、食べないの?」
「……………。」
「アダムくんを待ってたのよ!そんなこともわからないの!?お礼を言いなさい。」
ユナは、横の座席からガミガミとアダムに説教をする。ガツガツとご飯を食べながら。
「ありがとうね。メサちゃん。」
「いただきまーす。」
メサイアは、アダムに返事をせずにサンドイッチをチマチマと食べ始めた。
「…………。」
アダムは無言でカレーを突き始める。
「いただきますを言いなさい!」
ユナは再びアダムに叱り、アダムは急いで手を合わせてスプーンでカレーをかっこむ。
「食べるペースに合わせる……!」
ユナはため息を吐きながら、腕組みをしてアダムを見つめる。ユナちゃんのお山が組まれた腕で寄せられていた。
ユナちゃんは、こんな冬なのに半袖一枚である。
しかも、英語表記がデカデカとされている中学生ファッションであった。
プリントされた英語は「 I am violent 」であった。
私は暴力。
プリントは、寄せられたお胸により、ミチミチと軋み
所狭しと引き延ばされていた。腰のシュッとしたラインとは正反対の大胸筋である。アダムくんは、横目でチラチラとそれを見ると、カレーをかっこむペースが自然と上がる。
ユナちゃんは、英語を知らないのでおしゃれなTシャツだと思い、購入したらしい。
『けっ、ママになってくれとは言ったけど、母ちゃんになってくれとは、一言も言ってないってばよ!』
いつまでも乳児期を脱しない子供はいないのに、アダムはそれを望んでいた。
「ガツガツムシャムシャ!ムシャクシャ!バグボギ!!」
ユナちゃんは、食事を取りながら、メサイアちゃんの服装とアダムくんの服装を見て、頭の上にはてなをつくる。
ユナちゃんは、アダムの座席の側に近寄り、コソコソと耳打ちを始めた。
ユナちゃんの控えめな、温かい吐息が耳の淵と、中心を揺らすので、アダムくんはとても興奮した。
そして、ユナちゃんはアイドルなので、声が甘ったるい。アダムくんは鼻息ハスハスした。
これ、興奮したの一文で済むのではないだろうか。
「なんで、アルメイアさんはあんなおしゃれしてるのに、君は制服なの。」
アダムくんは、ジェナちゃんプリントジャンパーしか持っていないと言うべきか迷って、カレーをかき込む。
「ジェナちゃんプリントジャンパーしかなかったんですよ。」
言うんかい。
「なんで、私のじゃないの。」
ユナちゃんは叫び、再びアダムを殴ろうとして、頭ポンで終わらせる。
どんなヤンデレなのだろうか。
「いや、ユナさんのは猥褻罪で、外じゃ着れんでしょ!!」
アダムがそう叫んだ後、記憶はぶつ切りであった。
♨︎♨︎♨︎
二人はご飯を食べ終え、その間には一切の会話もなかった。アダムはもう足が痛くて解散したく、メサちゃんも、アダムのノンデリの波動を致死量受けて、帰りたくなっていた。
しかし、お友達とのお出かけは、全員が帰りたいと思っても、帰ろうと切り出せないのである。
切り出されると、お泊まり編が始まるのでもうちょっと粘って欲しい。
「じゃあ、ユナさんさよなら。」
アダムが呟き、メサイアがニコニコしていると、ユナはメサイアだけに反応して、何かコショコショと話していた。ユナの視線がチラチラとこちらに向き、メサイアもこちらをチラチラと控えめに見るので、教室の女の子達にチラチラコソコソされて、悪口を言われることを思い出し、めちゃくちゃ心理的にダメージを負った。
そして、その教室でメサイアは自分を無いものとしていることを思い出すと、アダムの心には寒冷化が起きて、そのハートは極寒地帯となって、エクソダスしたがる人間が生まれた。
そして、アダムもこの場からエクソダスして、本屋の写真集を展示品から私用品にエクソダスさせたかった。
「じゃあ、行くよ!」
メサイアはプイッとしながら、アダムに振り向きツカツカと歩いていく。
「もっと、女心をわかって!」
通りがかりに、ユナに背中を殴られ、アダムは心臓が飛び跳ねる思いであった。脊髄をやられるのは不味いからであった。
脊髄の心配が一番に出る時点で、もう女心はわかっていなかった。
♤♧♢
二人はツカツカと歩き、ビルに沿った人の波を掻き分ける。アダムくんは、突然、空を平泳ぎするおじさんの、ブーメラン型水着の、もっこりおいなりさんを見上げる想像をして、吹き出しかける。
陰キャというのは、突然やってくる妄想や、脳内会議の言葉に、いちいち足を掬いかけられてしまう生き物なのだ。人との会話が少ないので、自分と会話するしかないからである。
あと、静かな病院や、美容室で突然目という目をカッ開いて、血眼になりながら発狂して、キチゲ解放をしたら、自分はどうなってしまうのだろうとも考える。
そして、その場でそんなことを考えると、決まって自制が効かなくなり、本当にキチゲ解放するのではないかという、恐怖に襲われて、動悸が勝手に始まるのだ。
なら最初からするなそんな妄想。
「にょーーーーーい!!にょーーーーい!!あっ、にょっき!あっ、にょっき!」
みなさん、驚かないでください。アダムくんのキチゲ解放妄想です。
アダムくんは、隣を歩くメサイアちゃん横目で見ながら、動機を激しくさせていた。
「…………?」
メサイアは、怪訝そうに眉を歪めてそれを見る。
最早、アダムくんという固有名ではなく、それである。
かようなほどに、メサちゃんのアダムくんへの評価は地に落ちかけていた。
「次、映画館いこっか。」
メサイアの声のトーンは、一二段低いものとなっていた。
「あー、うん。いいよ。」
アダムの答えも素っ気ないもので、メサイアはため息を吐いて、ポテポテと歩く。
この時、アダムの妄想では、暗い映画館のスクリーンに突然自分が立ち、上映前披露宴ならぬ、上映中無関係者披露宴を開催していた。
そして、動機が始まる。ならやるな。
映画館は、都会ならではの巨大なスクリーンが、入り口から広がっていた。現在公開中の映画の広告が、次から次へと高級スピーカーの音を介して流れる。
なぜ、こうも映画の広告の終わり際の余白や、次の広告へ移る際の絶妙な間というのは、人の心を昂らせるのだろう。
アダムは、ワクワクしすぎてうんちしたくなった。
なぜか、アダムくんはワクワクするとうんちしたくなるらしい。早くトイレ行け。
二人が映画館の自動ドアを潜ると、ポップコーンの匂いが全身を包み、売店や薄暗い照明に陳列するポスターと、券売機、上映表が見えた。
時間は、13:21分。
結構混みそうな時間である。
「やっぱ映画館ってワクワクするね!」
メサちゃん、アダムに振り返り笑い掛けた。
「うん、トイレ。」
カス。
メサイアちゃんは、アダムがトイレに行っている間、
売店を見て回っていた。劇場版名怪盗プリティープリやザ・ベッドマン2、メキシカン・スサイコなどのグッズがあった。
ところで、ザ・○ットマン2の上映はいつなんだろうか。地の文は心待ちにしているのだが。
メサイアちゃんが、売店を見て回っている理由は、トイレに行っているアダムくんに、何かプレゼントでも上げようと思っているからである。
なんでいい子なんだろう。アダムは、うんこに頭を囚われ、うんこに脳みそを食われた男であるから、そんなこもは思いつきもしなかった。
アダムくんは、手を洗って広告達の列を拝見していた。さっさとメサイアと合流しろよ。
「うわ、アイドルバスターシャイニングカラドッズ映画化してるわ!!!」
アダムは一人でに叫び、そのポスターを食い入るように見つめる。
「いや、ただアニメ化がcgでちょっとガッカリしたから、手書きじゃないとな。……手書きだ!!今日はこれに決定!」
アダムはそう叫んだ。蛙化ゲコゲコ解散決定!!
映画のノベルティは、限定SRサポートカードであった。
「これは、ゲームのホーム画面に設定したいやつ!よし、久々に鉱山ほりほりしながら、この映画視聴に決定!!」
アダムは、全ての決定権がメサちゃんにあると知らず、ウキウキでトイレの廊下を駆けた。
一方で、メサちゃんはアダムくんへのプレゼントととして、メキシカン・スサイコの血濡れ斧キーホルダー、白いカッパセットを購入していた。
車のキーチェーンみたいなものに、デフォルメキーホルダー二つが付けられているものである。
名刺と、拳銃のセットもあったが、アダムは頭が悪そうなので、この血濡れ斧にした。
ちなみに、アダムくんは、洋画には全く興味もないようであった。
『アダムくん、喜ぶかな。』
メサちゃんは、そのキーホルダーを小さめのカバンにしまい、ニヤニヤする。
プリティープリのグッズであれば、絶対喜んだが、メサちゃん自身が買うのを恥ずかしがって、メキシカン・スサイコとなった。
二人は合流して、券売機に並ぶ。メサちゃんは何やらホクホクとしていて、アダムくんはお尻をぽりぽりと掻いていた。
「あれ!メサちゃん!!」
突如、クラスでよく聞き慣れた、キーキー喧しい自分に悪口をコソコソ言ってくる、クソのヨウにはヘラヘラと媚びへつらい、放課後には毎回カラオケに行って、家で両親相手では無口そうで、学校に来ればまた騒いで、自分の悪口を言って、授業中に指されたらクソ声が低くて小さそうな集団系女子の声が聞こえた。
突如聞こえたくせに解像度が高すぎる。
「あっ、ニカクちゃんとハッカちゃん。マイターちゃん。アシッノ・ウラーちゃん、ケッツ・ルアナーくん、オ・ゲレッツーくん。みんなこんにちは……」
アダムの横で並んでいたメサイアは、突如アダムから体を離し、その陽キャ集団に囲まれていく。
ヨウがいないのは、幸運であった。
アダムは、無言で地面のふかふかの床を見つめ、汗を流す。瞳は暗く、口が震えて猫背で俯いていた。
いつも、その様相でノンデリでなければ、地の文最大の庇護をくれてやるというのに。
「え、メサイアちゃんなんでアレと一緒にいるの?」
「メサイアちゃん、映画一緒に見ようやー!」
「ぴろぱらぱらぴろぴろぱら!」
「まさか、アレと出掛けてるとかないよね!停学処分のカス!」
あながち、間違ったことは言われてないのだが、地の文の動機も激しくなってきた。
メサイアは、心配そうな瞳でアダムを見つめる。アダムは、悔しそうな顔をして気まずそうに立っていた。
それでも、陽キャ集団はいつも通りメサイアを囲み、
色々話しかけている。
ギランミとエトセーラに助けを求めたかったが、ここにはいないようであった。
「くっふ!くっふ!くぅふぅ!!くっふぅ!!」
アダムは、涙が止まらず、顔を歪めて泣き始める。
陽キャはそれを見て、ゲラゲラと笑った。メサちゃんは俯きながら、囲まれてそれを聞くだけである。
『く、くやしい!絶対アイドルバスター見て、ストレス発散しよ!!』
アダムは、結構神経図太い男の子であった。
陽キャに囲われて困り果てるメサイアをスルーして、(!?!?!?!?!?!???!?!?!?!)
券売機の元へ一人で向かう。しかし、券売機はエラーを吐いて、ぶっ壊れた。
「…………………。」
アダムくんは、鼻水を啜り、後ろの騒ぎ声を恐れて、従業員の人も呼べなかった。
「おい、早くしてくれねぇかな!」
都会特有の、ガチアッパー系が後ろにやってくる。
斜め後ろには陽キャ集団、後ろにはバイオレンスアッパー男。散々である。
『やっぱさ、やっぱ、みんなで分かり合えるなんて嘘だよ!やっぱり、みんな分かり合えないから、○し合うしかないよ!!』
本編で言わせようとしたことを、こんなくだらないことで言うのはやめてほしかった。
「ちょっと、そんな乱暴な言い方ないですよ!」
「なんだこいつ!!」
ボグゥッ!!!
!?!?!?!?!?!???????!!
聞き慣れたSE!!肩を一人寂しく震わせ、内心では
陰キャオタク最大の危険思想をばら撒く男の陰に、
迫る人間がいた。
胸には、スーパーマンのロゴではなく、意訳で私は暴力と書かれたプリント。腕や腰つきは健康的な細さであるのに、それを受けたアッパー系男は、頬を凹ませてぶっ倒れていた。
スーパーバイオレンスファイトクラ○系アイドル
ユナ・エイジールその人が後ろにいたのであった。
――続く。




