第十話 死線を潜って
「君、メサイアちゃんの友達なんだって?」
お昼休み、座席に座って放心し、ジェナちゃんのライブ動画をお弁当箱とペットボトルで隠しながらコソコソと視聴するアダム君は、突然スクールカースト一位のヨウ・キャー君に声をかけられた。
アダム君は震え、ジェナちゃんライブの動画を消す。
「君さぁ、メサイアちゃんがさぁ、中々面白いって言っててさぁ……」
ヨウ君は、試食をするようにアダム君を嗜みに来たのだ。
目線でわかる、この、人を見定めながらも最初から自分の信念は揺るがないような瞳。
期待していないのだ、友人になるつもりもない。
カマキリを見つめる人間であるように、カブトムシとクワガタの対戦を楽しむガキのように、
このヨウというガキは、自分をどんなものか見定めようとしているのだ。そして、どれだけ頑張ってもアダム君は面白いと思ってもらえないのだ。
アダム君も、ヨウというガキは最初から気に食わない。
常に、クラスで騒ぐサマを見ては、金魚のフンと毒づいていたからだ。
アダム君は金魚のフンでもないんだけど……
あと、ねっとりとした喋り方やめろよ。
社会で通用すると思うか?その喋り方が。社会で通用しないことは、学生の内でも通用しないから、今すぐやめろ!
そんなことを言う勇気はないんだけど……
そもそも、この陰キャが思いつくような、典型的な
ステレオタイプ陽キャはなんなんだよ。
なんだよ、ヨウ・キャーって。
アダム君は、ステレオタイプにもなれない。
ステルスタイプだねw
やかましいわ。
ヨウキャーはステルスタイプを見つめ、言葉を待っている。ポケットに手を入れて、ガムくちゃくちゃ。
あ!ガムのゴミそこら辺に捨てたぞ、こいつ!!
アダム君、こんな内心ブ○ッ○ト○ガーの人間は、やってしまえよ!
やっちゃいなよ!ヤッチャイナヨ‼︎ ヤッチャイナヨ‼︎ ヤッチャイ……
ステルス!!!
ワール○トリ○ーの風間隊のように、アダム君は叫び、お弁当を机に捨て、スマホを持って逃走を開始した。
「おい!待てよ、お前ェ!!」
ヨウの叫び声、「お前」の後のエが狭そうだなぁ。
だから、ねっとりした喋り方はやめろって。
あれほど言ったのに。見てこれ、お前ェ。
この「エ」可哀想だと思わないの?満員電車みたいに潰されてさ。「お前」という文字と、カギカッコに挟まれてさ。
その語尾やめな?神経が苛立つ!!
ヨウ、お前ェさ。
ェに人権ないと思ってるだろ。
アダム君もェだと認識してるんだろって。
正直に言えよ!人をちっちゃいエと、認識してるんだろ、貴様!そうだと言え!認めたな!?
認めないだと?何がまずい、言ってみろ!
クラスカーストォ一位のお前ェには、わからんさ!
このォ、語尾達のォ、所狭し感はァ!!
みんな、狭そうだろ!社会ってそうじゃないだろ!
今の社会ってェ、ちょっとォ刺々しいィ過ぎるよォ!!
アダム君は、走る。ステルスと叫ぶ恥を被ったのに、
姿は全く透明でない。廊下を駆け、叫ぶヨウを、
クラスのカーストティア1達に囲まれて、飯を突く
メサイアも振り向いた。
アダム君が、ちっちゃいェになってるのに、
メサイアさん、貴方はそうやって呑気に飯を突くんですか。だからイギリスは負けかけてんだろ、本編でさぁ!!
ステレオ陽キャの、ヨウの叫びは、一瞬にしてクラス全体の雰囲気を、陰キャのアダム君がヨウを怒らせることをしたと認識した。誰も味方をしなかった。
悲しいけど、これ現実なのよね!
アダム、後ろに大きいものがくる!
「大きいもの……?」
ルールールールルー……
コスモスの名前が付いてそうなBGMが流れて、後ろの
虹色の光に包まれた、ガンド……ヨウが現れた。
太陽が彼を照らし、虹色に発光している!
こいつ、お日様そのものじゃないか……!!
アダム君は、とうとう太陽まで自分の敵に回ったとわかった。メサイアは、弁当を突き。ヨウは太陽に照らされ。
自分の光学迷彩は服を着てるから意味を成さず。
メサイアちゃん、朝、僕を拾って車で一緒にファブリックを浴びたじゃない。もうちょっと、学校でも仲良くしようよねと思った矢先に、これ。
再び涙が頬を伝った。今日何度目かわからない、悔しみの涙だ。
「こんな、こんな甲斐のない生き方、俺は絶対に認めない………!!」
歯を食いしばり、涙はアダムの線上になった地面に擦れ、弾けていく。
別に陽キャから追いかけられているだけで、甲斐の見つけ方なんかいくらでもあるのだが、アダム君は危機感に胸を一杯にしていた。
満杯に思える悔しみの中で、少しの幸せをねじ込むことこそが、人の営みであるのに。
今の自分にはそれすら許されていないようだった。
小学生が背伸びしたような文章であるが、陽キャから、勝手に意味もなく逃げてるだけである。
もうダメだと、運動不足が祟った!!
相手は、サッカー部のヨウだからだ!
突如、自転車のベルが廊下を包み込んだ。
ガルーラ君であった!!
走るアダムの横に並走し、後ろのヨウを一瞥する。
「が、ガルーラ君、お昼ご飯は俺と食べてくれるかと思ったら、どこに行っていたんだい?君のせいで、僕は一人だったよ。一人で飯を食っていただけなのに、
突如陽キャにお前の居場所は無いって!(言ってない)もう、辛くて辛くて……」
「うんうんうんうんうん、それは辛いね。じゃあ自転車、乗せるね。」
ガルーラは、自分の前に位置どり、後ろの荷台を手で叩いてみせた!!
「恩に切るぜ!!」
木曜夜19時くらいから始まる、某アニメの帽子主人公のようなキレで、アダムは叫ぶ。
今は金曜に変わり、帽子はいないらしい。
ちなみに、昨日は視聴しました。
座席に飛び移り、ガルーラの腰に手を回して、背中に頭を預けた。
気色の悪い絵面だが、アダム君にとってのメシアはガルーラであった。
先の、プリクラチェキの件から、アダム君にとってのガルーラ君への好感度は最高潮であった。
「アダム君をいじめたのか、この人でなし!!」
ガルーラは振り向き、アダムは焦り出す。
「やめろ!俺達はいつか教室に帰らないとなんだから、そんなことはやめろ!!」
「あんたは人でなしだよ、最悪だ!!」
「あんたはそんなことばかりだよ!最初からそうだ!あんだがやったんだぞ、あんたが壊したんだぞ!街一つをあんたがやったんだ!」
ヨウをゴ○ラとでも勘違いしているのだろうか。
自転車を廊下で駆け抜けるガルーラ君の
マシンガンヘイトスピーチは止まらない。
コンプレックスを拗らせると、こうなのだ。
「いや、俺仲良くしてみようと思っただけでェ!!」
ヨウは叫ぶ。
「そんなことはない!! ジェナちゃんのアイドル動画を見て、お前はガムのゴミを引導のように渡しただろう!
お前は、友人の馴れ初めの言葉の代わりに、そのガムのゴミをくれるのか!? クラスの陰キャを、根絶やしにされるおつもりか! 陽キャの友達など、我々はどうでもいいのだ! サムライなら、潔く死んでくれ!!」
パクリのオンパレードだろ。
アダムも、ガルーラの背中の体温に釣られ、意味のわからないことを叫び始める。ガムのゴミを投げたのは確かだが、いんどう?などのつもりはなかった。
「インキャだって生き延びたいからなーー!!」
そりゃそうだろ。ガルーラの叫び、こいつらパクリだらけやんけ。
自転車のギアを、1にする。
シャカシャカシャカ……
自転車がさらに加速したような、そうでないような。
「避難所がある、そこに行くよ、アダム君!!」
アダム君は、ガルーラ君がとても頼りに思えた。
「ガルーラ様!!」
ガルーラの黒いガクセイフクの背中へ、二、三度口付けし、ガルーラ君は押し付けられた、その生温かい感触のこと、追求するのはやめた。
次回ーー「避難所へアダム、ガルーラ、死す」
デュエルスタンバイ!!




