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4.意外な趣味


 趣味と言えば何を想像するだろうか。

 スポーツ、読書、ショッピング、ゲーム。


 俺の場合はゲームが趣味と言っても差し支えないだろう。

 特段、PCゲームが好きで放課後も定期的にPCショップに立ち寄っては最新のゲームに対応したパーツなどを眺めていることがある。


 部活動に所属しているわけでもなく、放課後は定期的にコンビニでアルバイトをしているが基本的には自宅でオンラインゲームをしていることが多い。


 学業もそこそこに成績を維持しているので両親も俺がゲームを長時間プレイしていても文句を言うことなく見守ってくれている。


 オールジャンル遊ぶが、最近ではもっぱら格闘ゲームに夢中だ。

 大樹と一緒に発売日に購入した最新作で、元々この手のゲームは好きだったので専用コントローラーなんかもバイト代で購入しており、今日も夕食後の対人戦をやろうかとPCでゲームを起動させる。



 ランク戦をやるのも好きだが、今日は大樹と次回勝負した時のために新しいキャラの練習をしたい。

 だから、そういうときに活用できる個人カスタム戦を作っている人のリストを確認していると……。


「練習希望、チャット、VC無しで自由に退室可能か……この人のところに行こうかな」


 俺と同じように戦績に関わるゲームモードではなく、しかしNPCでもなく対人での練習を行いたい人はたくさんいるのが最新作の良いところだろう。


 楽しくても新作出ると人口がそちらに流れて過疎ってしまうからな。


 どこぞの人が作成した部屋に入ると、さっそく練習したいキャラクターを選択して対戦可能の合図を出す。

 相手も自分のキャラクターを選択しており、大樹がメインで使用している王道キャラだ。

 初心者でも扱いやすく、無難で強い。

 ただ、猪突猛進のプレイヤーも多く練度が非常に分かりやすいキャラクターといって差し支えない。


 対して俺は、どちらかというと絡め手を得意とする玄人キャラ。

 練習は必要だが覚えれば非常に強いと評価されているキャラだ。


 大樹がめっぽう嫌いなタイプでもあるので、これを上達させて上から目線で嘲笑してやろうかと画策している。


 そんなことを考えながら対戦が開始されると暫くの間、俺の部屋はカチャカチャとボタンを叩く音だけが響いた。


 



 一時間後、一息つくと俺は正直に感想を零す。


「この人、恐ろしく弱いな……」


 画面に映るのは10連勝の文字。

 俺もそこそこやり込んでいるとはいえ、10連勝は珍しい。


 というか、普通ここまで負けっぱなしだと相手が出て行くことの方が多いが依然として相手は対戦可能の臨戦態勢。

 俺には分かる……こいつ負けず嫌いだ。


 俺だってゲームマナーも含めて大人になり始めたお年頃。

 姑息な技などを連発して連勝を伸ばすなどはしたくはないし、かといって手を抜いて相手をしたくもない。


 だから決めた、普通に連勝を伸ばして高笑いしようと。





「で、昨日は連勝の嵐だったわけよ」


「だからって俺の招待断る必要ないだろう」


 朝のホームルームで大樹が声を掛けてくるや否や昨日の華々しい連勝記録について自慢した。

 それはもう包み隠さず。


 昨日も9時頃に大樹からゲームの招待が来たが断り続けて連勝を重ね、23連勝という自己記録を大幅更新してしまったのだ。


 おかげさまで操作も上手になり、今なら大樹をボコボコに負かしてやることが出来そうだ。

 昨日のプレイヤーには感謝しなくては。


「でも、そこまでしてお前が辞めるまで抜けないってなるとガチの初心者ではないんだろうな」


「大抵、そこまで負け続きだと抜けちゃうからな」


 俺が辞めようとした時まで相手は常に対戦可能となっており、抜けること自体が申し訳なさが出たくらいだ。

 本当の初心者ではなく、ある程度は格闘ゲーム歴が長い人間なのだろう。

 対戦が終了してから、再選申し込みまでが早いのなんの。


 きっと面構えが違うな、負けることを恐れていない生粋の下手プレイヤーだ。


 そんな話をしていると担任教師が入ってきたので大樹も自分の席に戻るために立ち上がる。


「そういえばプレイヤーネームは何だったの?」


「なんだっけな……あ、ふみぽん?」


「ッ……!」


 昨日の対戦相手を口に出すと、左隣から小さく息を飲むような声が聞こえる。

 そちらに目を向けると少し驚いたような表情を見せた語部が、次第に目を細め何か苦虫を噛んだような表情でこちらを見つめてくる。


 いや、睨んでくる。


「……なんでしょうか」


「……」


 普通に返事が返ってくることは期待していないが彼女の表情に思わず声に出す。

 しかし、予想通り彼女は視線を外し前を向く。


 一体、なんだったのだろうか……。

 間違いないのはご機嫌斜めということだけ。


 その証拠に、授業が始まってからも放課後になるまで彼女から手紙が届くことは無かった。



 放課後、何か癇に障ることをしてしまった可能性があるので早々に退散しようと片づけを済ませていると、いつもより乱雑に手紙が机の上に投げ入れられる。

 

 俺が開くよりも先に彼女は席から立ちあがり教室を後にした。

 気になる中身はいつもの会話内容ではなく、おそらくゲームのプレイヤーIDと19時という一言のみ。


 まさかね……と思いつつ自宅に帰り指定の時間にゲーム内で語部から渡されたIDを検索する。

 するとそこには『ふみぽん』の名前が。


「……」


 無言でフレンド申請をすると、すぐに承認が出て招待まで送られてきた。

 昨日と同じく個人の練習部屋だ。


 キャラクターも同じで彼女は既に臨戦態勢。

 いつでもかかってこいと言っているに違いない。


 そして何故か、昨日のキャラクターで来いと訴えかけられている気がするまである。


 俺は昨日と同じキャラクターを選択して、対戦可能の合図を送る。

 すぐにゲームは始まり、本来相手の顔など分からないはずのオンライン対戦ゲームが、相手の顔丸わかりの若干一名のプライドを掛けた戦いが始まった。



 そして、あっけなく終わった。 



―――同刻――――


 とある一室で『ふみぽん』こと語部文香は自分のゲーム画面にかじりつくように瞳を向けていた。

 部屋を暗くして全神経をゲームに注いでいる最中、まるでキャラクターとリンクするように声が漏れる。


「なッ……あぁ!! だめ……なあぁぁぁぁぁ!?」


 そこに映し出されたKOの二文字と同時に彼女は頭を抱えて一人叫ぶのだった。






 翌日、学校へ登校すると既に教室には語部が自分の席に座っていた。

 彼女との対戦は深夜になるまで続いたが、彼女が俺から勝利をもぎ取ることは終ぞ訪れることは無かった。


 何時間にも及ぶ対戦、だからこそ分かってしまった語部のもう一つの一面。

 こいつ、かなりのゲーマーだ。

 それも、飛び切り下手くそな属性まで付いているやつの。



 静かに自分の席に座ると、普段は遠慮気味に視線を送ってくるはずの語部が今日だけは違った。

 昨日以上に殺意を込めた視線で俺を睨んでいる。


 美人が台無しもあったもんじゃない。


 ここでお世辞を言っても彼女に向けて火に油を注ぐようなもの。

 だから、この一言は慎重に選ばないといけない。


 しっかりと、心を込めて彼女に伝えよう……。


「下手くそ」


「ッ……!」


 朝の賑わうホームルーム前、俺の左手に語部の消しゴムが心地よい快音を鳴らして当たり、そして宙を舞っていた。



ゲーム大好き、でも恐ろしく下手な女の子……いいよね!

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