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海に、月が昇る ~シェリーの追憶~  作者: 時澤菫
太陽王子と月光令嬢
18/22

17 誤解

 イザベラが目を開けると、海水に濡れキラキラとしたピンク髪の女の人が、美しい目を見開いてこちらを見ていた。


 「あれ、私…?」

 

 波打際の砂浜に横たわっていたようだが、女性は海から上がってくる気配はない。



 少し離れたところにいたランヴァルドが、こちらに向かって歩いて来る。


「海に突き落とされたこと、まさか忘れたのか?」


「そうだった!私、落とされて…。あれ?」


 なんで助かったんだろう、と疑問に思って首を傾げると、目の前にいた女の人がニッコリとほほ笑んだ。綺麗でどことなく色気が漂っており、イザベラは思わず顔を赤くした。


「あの、あなたが私を助けて下さったんですか?」


「ええ。どこかの誰かさんは、貴女が完全に溺れてしまう前に助けられなかったようだったからね。」


「?」


 ランヴァルドは不機嫌になりながら、マントの水を絞った。


「助けて下さってありがとうございます。でも、なぜ陛下もご一緒で?」


 パレードがあったはずでは、という言葉を飲み込み、顔を上げると、彼は不服そうに言った。


「お前の友人—コマス伯爵家を良く思わない連中がいたんだが、それを成敗するためにも、あの海岸で君たちがやり合っているところに行ってみただけだ。…そしたら、やっぱり人違いから君を突き落とそうとしていたところを目撃したのだ。今頃俺の部下が彼女たちを捕らえているだろう。」


 じゃあ、あの最後に追いかけてきた男の人は陛下だったのか、とイザベラは気づく。

 それとともに、コマス伯爵領の揉め事を陛下自身が把握していたことにも驚く。


「あの、わざわざ駆けつけて下さってありがとうございました。ですが、その、パレードはどうなったのでしょうか?」


 イザベラとフレデリーカは、主役のいない馬車を想像して苦笑した。さぞ民衆は残念がっただろう。


(( 無駄に顔が良いから…。観客はきっと途中で帰ったんだわ。))


「それも宰相に頼んだから大丈夫だ。もしパレードが見たかったならば、また来年見に来ればいい。」


 一方のランヴァルドはイザベラたちの考えていることを知らず、アルミロの言葉にあった、イザベラがパレードを楽しみにしていたということを思い出して、あれは嘘じゃなかったのかと思い少し照れていた。



「それより、ケガはないか?こいつに運ばれていたが、すごいスピードで泳いでたから、お前頭でも打ってるんじゃないか?」


「な、失礼な人間ね!ちゃんと運んだわよ!」


 喧嘩を始めた二人を眺めながら、イザベラは少々不思議な気持ちになっていた。



(思ってたより陛下は、ちゃんと国王なのね…。意地悪な人ではなかったみたい。)


 だが、感傷に浸るにはまだ早かった。


 「お二方とも、本当に助かりました。その、あなたのお名前を伺っても?」

 「フレデリーカというの。」

 「フレデリーカさん。もし宜しかったら、今度お礼に伺いたいのですが。」

 「えーっと…。」


 気まずい沈黙の後、あきれた顔をしたランヴァルドが口を開いた。


 「イザベラ、こいつは人魚だぞ。」



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