12 昼下がり
貴族席から観覧できる石畳の広場は、なだらかな丘陵のようになっており、眼下には海を覗くことができる。広場へは城から一本の長く細い坂道が続くのだが、いつもはそれほど人通りがあるわけではない。しかし、いまやこの細い道は、手風琴やカスタネットの音楽が流れ、踊る人やら大道芸をする人やら、それらを見物する人やらをよけながら歩かないと、なかなか道にある露店にたどり着けないほどだ。
可愛らしい木造建築の家々を背に、商人たちはここぞとばかり声を張り上げ、屋台でお店を開いている。中には小さな子供が呼びかける店があったり、屋台の飾りつけも赤や黄色と華美な彩であったりと、皆熱がこもった商売人魂を見せていた。
そんな雰囲気にのまれ、圧倒されながらも、イザベラはなんて楽しいお祭りかしら、と考えた。あっという間に時間は流れ、もう昼を過ぎようとしており、周りを見渡すとパレード見物のための客も増えて来ている。
「そろそろあの席に戻ったほうが良いようね。」
ルシアが指さした方向を見ると、朝は空いていた貴族席も混んでいるようだ。
「ええ、そうね。道からはあまり見えないものね。」
イザベラは町人と同じように、道から楽しんでみたい気持ちがあったが、残念そうに言った。
「なんだ、気乗りしない感じだったのに、ほんとは楽しみだったのね。」
慌ててイザベラは首を横に振る。
「まさか!そうじゃなくて、お祭りは好きだなと思ったのよ。それより、馬車がこんな狭い道を通れるのかしら?」
「ええ、通るわよ。今頃城を出たんじゃない?海辺を通って広場について、そこからあの兵士たちが人をどかして作っていた狭い道を通るのよ。いつもあそこは激混みだわ。」
ルシアは平然としたようすでこの質問に答えた。
城の裏門から出発した馬車は、裏道を通り、海岸沿いの道を進んでいる最中であった。
「陛下、とても素敵ですよ。」
柄になく笑顔を作って手を振るランヴァルドに対し、アルミロはこう声をかけている。機嫌を少しでもよくしよう、という粋な心掛けである。けれども、ランヴァルドはより一層嫌そうな声を上げた。
「何を言っている。今日はやらなければならない仕事が他にあったんだが…。」
「陛下。前をちゃんと向いていてください。こちらを振り返ってコソコソ話していると、隙を見せることになりますよ。」
ランヴァルドは言われるままに前に向き直って、無理に笑顔を作った。
次話から展開が早くなる予定です。




