10 陽炎祭の朝
「ドーラ、あの茶会のことお父様に報告したって本当?」
イザベラは今朝、侯爵に上機嫌で「気をつけていってらっしゃい。」と言われたのだ。
「はい。お嬢様の陛下に対する姿勢は大変素晴らしいとアピールしておきました。」
「まあ、あなたは私が陛下を苦手としていることくらい知っているでしょう⁉」
非難の声を浴びたドーラは、ニッコリとして着替えを手伝っていた。
民衆が待ちわびていた今日は、陽炎祭当日なのである。
「まあまあ、今日くらい楽しんでください。ルシア様もおっしゃる通り、陛下はパレードで忙しいでしょうし、お嬢様が心配なさるようなことは何もないですよ。」
「そういうことではないのよ。お父様のことだから、きっと調子良く陛下にも娘が楽しみにしているとか言ってるはずよ!言ってないといいのだけれど…。」
イザベラの悪い予感は見事に的中していたが、本人は当たっていないと信じることに決めた。
ブリストル王国には東側に透き通った青いビーチが広がっている。
海には大小様々な岩が顔を出している部分もあり、その海底深くは、人魚が住んでいた。
「もうすぐお祭りかしら。」
この海に住む人魚、フレデリーカは興奮した様子で沖の近くまで顔を出す。
「毎年騒がしいわね。特にあの国の王はいつもけばけばしいのよ!…でも、一歩引いてみるのは面白いわ。」
一緒に来た仲間たちとコソコソと話していると、なにやら海岸線を行き来する二人の女性が見えた。
「あのブドウで有名な…?まあ、そうなのね。…急に成り上がって嫌だわ。」
人魚のため耳は良いのだが、やはり距離があるためか聞き取りにくい。フレデリーカが近づこうとすると、隣にいた友人が止める。
「やめときな。あれはいい噂じゃなさそう。」
「私もそう思うのよ。ただ、祭りの日に浮かれていない人もいるのが驚きだわ。」
フレデリーカは去っていく二人を不思議そうに眺めた。




