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海に、月が昇る ~シェリーの追憶~  作者: 時澤菫
太陽王子と月光令嬢
10/22

9 執務室にて


 翌日、ランヴァルドのもとに、スチュアート侯爵家で茶会が開かれていたという知らせが入ってきた。



「それがどうしたんだ?」


 アルミロは微笑んで一通の報告書を渡す。



「ここをご覧になってください。」


「?」


「茶会ではご令嬢方が陛下のパレードを楽しみにしている、と話されていたようです。」


「…。」


 ランヴァルドは報告書を無視して、別の書類を読み始めた。


「どうせ侯爵が吹き込んだんだろう。その報告書もエヴァンが書いたのか?」


「ええ、この報告書はスチュアート侯爵が、その場にいたメイドから聞いて書いたようです。しかし、内容を読むとイザベラ嬢のご友人であるコマス伯爵令嬢の計らいのようですが。」


 ペンを持とうとしたランヴァルドはそれをやめ、ふと考えるしぐさを取った。


「あの侯爵令嬢に、友人が?」


「ええ、コマス家のルシア嬢と仲良くなられたみたいですね。」


 アルミロは頷いた。


「コマス…。おかしいな。コマス伯爵の娘はこれまた引きこもりという噂を聞いたことがあるのだが。」


「ああ、それは伯爵のことを社交界であまりよく思わない人々が流している噂ですよ。その、…彼女の趣味が園芸らしいのですが、貴族らしからぬと噂が広まってしまい、数年前からあまり舞踏会にも参加されないようになっていたようです。それを引きこもりといっているのかと。」


 ランヴァルドは顔を顰めた。


「そういうことを話す連中がいるのか。アルミロ、今度調べて名前を記しておけ。」


「かしこまりました。」


 一度端にやった報告書を目に通すと、目の前にいたアルミロは浮かべていた笑みをより一層深めていた。


「…なんだ。」


「いえ、陛下のパレードが楽しみだな、と。」


 そう言い残し、アルミロは宰相としての仕事に取りかかるため自席に戻る。


 ランヴァルドは迫りくる陽炎祭に腹が立ってきて、自分でも意図せず舌打ちをしていた。


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