ある男子高校生たちの日常
ここは、北海道にあるとある高校。
話はその日のテスト返却から始まる……
「席についたわねー?今日は家庭科のテストを返却します」
家庭科の先生の言葉にクラスは沸き立った。
「今日も恒例の珍回答を探しに行こうぜ!」
「あたりめーだろ!」
「このクラスの珍回答率半端ないんだぜっ。な?」
「今回のテストも期待できるぜ!」
中でもクラスでも有名な仲良し二人組の徹、守は盛り上がっていた。
テスト返却後
「おっしゃ!赤点は免れたーー!」
諸手を挙げて喜ぶ徹。
「だがよ、お前の答え見ると…ポーランドから来た食べ物のところに…[鉄砲]って書いてあるぞw」
「あっ……食べ物だったか←」
「今更気付くのおせーよ!!鉄砲はあいつ、織田信成が」
「いやいや、織田信長だからww信成って一文字違うだろwww」
「そーういえば……信成っていたよな」
「信成……信成…ノリノリ?」
「ぶっ、あははははwwwノリノリとかwww」
「そういえばさっき女子にも珍回答聞いたぜっ」
「その答えは」
「[キリスト教]だってさ」
「キリスト教…これもノリノリの時代のやつじゃね?」
「ちょ、お前、ノリノリってw」
いつもテストといえば、珍回答が目立つのがここのクラスなのだ。
そして、数学の時間も例に漏れず珍回答が炸裂したのである。
「今回、テストを返却したが、赤点はギリギリで居なかったが、変な回答が多数みられたぞ」
「おっしゃー!」
「キタコレwwww」
仲良し二人組は盛り上がる。
テスト返却後
「あー、サイン、コサイン、タンジェントを間違えたんだな、こりゃ」
守が自分の返却されたテストを見ながら言った。
「なんて間違えたんだ?」
「コイン、タサイン、エージェントって書いてある」
「ちょ、お前…、コイン、タサインはまだ何となく分かるけどエージェントって」
おそらくエージェントがつぼったのであろうか爆笑する徹。
「いや、笑いすぎだろ!誰にでも間違いはある物だろうが!」
「ふ、俺はそんな初歩的な間違いは犯していないぜ、ほら」
「いや、確かにサイン、コサイン、タンジェクトは間違っていないけどよ……ぷっ、お前引き算間違えてんじゃん、あっはははは」
守も爆笑しながら間違いを指摘した。
「マジで!?」
思わぬ言葉に焦る徹。
「うわっ、本当だ!七-三が十になってる」
確認すると引き算のはずが足し算になっていた。
「足しちゃってるよ。馬鹿だなぁ」
「お前が言うなエージェント」
「ちょっとカッコイイじゃないの」
「調子に乗るな」
「え、酷っ!」
そんなこんなでわいわいとテスト直しをしているとあっという間に時は過ぎ、只今、お昼休み。
「なぁ、知ってるか」
携帯を弄っていた徹がふと思い出したように守に言った。
「何をだ」
「最近流行りのあの、広げるボタン付いている折りたたみ傘あるだろ?」
「流行りかどうかは知らないがあるな」
「あれってさ、気ぃ抜いて手ぇ離すと結構な勢いで開くじゃんか?」
「あぁ、たまにびっくりする位勢い良いよな」
「あの飛び出す勢いって、柄の部分だと空き缶を易々と凹ませる事が出来る位強いんだってさ」
「マジかよ、折りたたみ傘すげぇな!」
「それでさ、それをテレビで知った時俺は思った訳よ。これはやってみなくてはってな」
「確かにそういうの見たらやりたくなるよな」
「と言う事で、折りたたみ傘で何かを凹ませようと思ったんだけど、そう言う時に限って空き缶とかが無いわけさ」
「あーあるあるそういうの」
「だから、代わりにお前の顔面を凹ませようと思う」
「いやいやいや!何で!?何でそうなった!?」
「そりゃあお前、あれだろ、空き缶が無いからだろ」
「ふざけんな!俺は空き缶と同等とでも言いたいのか!?」
「馬鹿、誰もそんな失礼な事言ってないだろうが」
「だよね、信じていたよ友よ」
「お前と空き缶が同等だなんて、空き缶に失礼だろうが」
「あるれぇ!?逆、逆ですよ!?空耳だよね?」
「そんな貴方の空耳を直すために、折りたたみ傘。貴方の耳に向けて発射するとあら不思議、あっと言う間に空耳が治ります」
「さも益があるかのように言ってるけど、何も無いよね!?その使い方は間違っている上にマイナス面しかないよね!?良い子は真似しちゃ駄目だよね!?つうか、鼓膜破れるわ!」
「これで貴方は永久に空耳を聞く事はありません」
「他の音も聞こえなくなるけどな!!」
「例えば、こんな嫌な情報も聞こえなくなります。ボソッ(お前の好きなC組の梓さん、あの人彼氏居るってよ)」
「あれ、げ、幻聴が聞こえた気がする!!聞き間違え、聞き間違えただけだよね!?」
「大丈夫だ。間違っていないから」
「ふっざけんな!!!そんなショックな情報いらねぇよ!!!どうせなら梓さんのスリーサイズとかを教えてくれよ!」
「うわ、皆さーん、ここに変態が居ますよ」
「変態じゃねぇし、健全な男子高校生だし。それに大体、ボタン式折りたたみ傘何てお前持っていないだろうが」
「さて、こちらに用意されたのは、既に完成した折りたたみ傘です」
机の中から折りたたみ傘を取り出す徹。
「料理番組か!何だよ既に完成した折りたたみ傘って!?」
「こちらには更に付属品として柄の部分に画鋲を張り付ける事をおススメします。これで憎いあいつに一撃をお見舞いしよう!」
「な、ん、で、そう言いながらこっちに向けてくるのかな?」
「それはもちろん視聴者の方にこの傘の威力を知って貰って更には購入して貰うためさ」
「テレビショッピングか!つうか、視聴者って誰だよ」
「…………」
「無視すんなよ!」
カシュッ!
「うおっ!あっぶねぇ!?」
顔に向け、発射された画鋲の装填された傘の柄を間一髪で避ける守。
「ちっ……」
「ちっ……じゃねぇよ!ちっ……じゃ!」
「まあ、冗談は置いといて、次の時間って授業なんだっけ?」
「冗談って言うならいい加減俺に向けているその傘を下ろそうや」
徹は笑いながら傘を下ろして、黒板の端に書いてある今日の時間割を見ながら話した。
「いやいや、今日もう帰れるはずだぜ」
「お?あー…そうだったな」
「ショート終わったらすぐに帰ろうぜ」
「おっしゃ!楽しみだな←」
「楽しみなのかよっ…まぁいか」
そんな会話をしながら帰りのSHRを終えて徹と守は帰ることにした。
「なぁ」
「ん?なんだよ」
「今だけ傘を俺に貸してくれないか?」
「あ、いいけど…何するんだ?」
「あ、ここに空き缶があるから、な?」
「なって、傘壊さないでくれよ?」
守るは片手で傘を広げて、たまたま道路の端っこにあった綺麗な空き缶を空いている手で上に投げ、傘の上でキャッチしてクルクルと回転し始めた。
「な、かくし芸じみたことすんなよwww」
「凄いだろ?」
「まぁ、俺には出来ないが、何で今するんだよ←」
「……気分?」
「気分ってww」
徹と守は帰り道でも会話は弾んだ。
「今日はいつもより多く回しておりまーす」
「いや、いつも回してんのかよ!」
徹にツッコミに守は笑い、傘で器用に空き缶を空中にぽーんと放り投げると折り畳み傘を畳み、開く部分を掴むと落ちてきた空き缶を柄で狙い撃った。
カーンっ!
柄は見事クリティカルヒットして空き缶は勢い良く飛んだ。
空き缶は真っ直ぐ飛んだ。
徹に向かって。
「えっ、へぶふぁ!!!」
顔面にもろに空き缶を受けた徹は地面に倒れ伏した。
「げっ、わ、わりぃ徹!大丈夫か!!?」
「……これが大丈夫に見えるならお前の目は節穴だ。眼下行け、良い医者紹介してやっから」
赤くなった鼻を押さえ、徹は起き上がった。
「悪かったって、詫びに傘回し教えてやっから」
「いらんわっ!後、最後無駄に格好良かったのが腹立つわ!」
賑やかに二人は歩く。
そんな二人の下校はいつしか学校の名物になっている事を知らぬは本人たちだけである。