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第6話 証明写真

第6話 証明写真


同じ季節の中で


二回目の夏




まわしはやっと自分のものを買った。


チョウタの願いは、あと一つ。


丸刈りにしたい。




この街の


初めての夏祭り、相撲。


----------------------


朝靄の中


公民館  エス中学校校区


「ここにご飯つめて」


「はい」リョウコの声


「お茶入れて」


「はい」トモミの声


「おかずはここにつめて」




「こきつかいやがって。リョウコは腹立たないの?」


トモミの声を無視する。




なんかいい。この手つき。


リョウコは自分の手を見る。いい、この手。




保冷剤を入れる。次々車に詰め込む。




隣の部屋では、男子がワイワイやっている。


「まわし締めるから、並んで。ここ」




-------------------


公民館から、まわし姿の子たちが出てくる。


小さな子、背が高い子。みんな細い。




エスメ神社 到着。




「昼ごはん、飯食った後に相撲したら大変だぞ。げーって」


「そんなことなるかよ」




ダイとチョウタ。




陣太鼓は神社から。




まわしを締めた子供たち。


年齢順にならび、


本殿に一礼。土俵に一礼。




境内の石が足裏を冷やす。




「ふんゆみくしなー」






街を練り歩く。


商店街、田んぼ、祠


小さな陣太鼓をもって。




「・・・来てください」


「相撲大会・・・」





何かを叫びながら相撲大会に来てくださいと呼びかける。


「ふんゆみくしな、来てください


 相撲大会、ねばどらけ


       って言えばいいんだよ」




ダイがわかった顔で言う。




「ふんゆみくしなー」まわし姿の男の子たち。


足にはサンダル。チョウタの頭に髪の毛。




やっぱり坊主にできない。


だれも気にしない。




-----------------------




エスメ神社




土俵の近くには革靴。


土俵から離れて、ワンピースと畳んだ日傘





神社のにぎわい。




土俵の近くには革靴。


離れて、ワンピースと畳んだ日傘




チョウタは脇に手を挟んだ。ここももしかして。




サンダルとワンピースから声援が飛ぶ。




チョウタはそのまま小さな石段に座る。


前褌と太もも。





何度か取り組む。


押す、低く、押す。


声援が飛ぶ。


良かった。


黄色い声も。




声はチョウタの耳に入る。






「チョウタ、つえーじゃん、全部勝ってる」トモミが手を握る。




「練習見てないの?」


リョウコの軽い詰めに、言葉がつまる。




「練習見て。掃除もしなさいよ」軽いリョウコの叱責。




リョウコに遅れて、トモミも裸足になった。


熱気の外側で。





-------------------------------


チョウタは押す


ダイは笑う




太陽が真上に。


木陰、神社。


葉が揺れる。




「飯食おうぜ」ダイが言う。




むき出しの背中が二つ、横に並ぶ。


背中合わせに、リョウコとトモミ。




リョウコは、少し場違いに感じた。




「ねえチョウタ、」トモミが首を回して言う。


「つえーじゃん」


「見てた?」


「みたよ、ぜーんぶ。かっこいいね」


「どんどん食べて。ね」







「あ、お茶。」


立ち上がったトモミを、リョウコが追う。




「男子にしゃべりかけるなんて」


「何が」


「もぉ、裸だよ」


「そうだけど」




リョウコの顔を見て、トモミが言う。


「わかったよ」




リョウコとトモミは、お茶を配る。


両手を添えて。





---------------




中学校三年生の部が終わり、表彰。




賞品が和紙に軽く包まれ並ぶ。


賞品を手に取り、笑顔で土俵を降りる。


チョウタも。




閉会の挨拶。




日傘が広がる。


観客たちが帰路につく。




わずかな大人と


子ども達が残る。




リョウコたちが、黙って境内の端に行く。裸足


正座して礼




サンダルを足に。




ほうき


ざ、ざーさー




リョウコたちの声は遠い




ブラウス、ワンピース


きゃはは、きゃ


笑い





ーーーーーー


まわしをほどく。


たらん、たらんと足元に落ちる。


湿気を隠すように、バスタオルを腰に巻いた。


下着、ズボン





短い間だったな。


まわし、買ったのに。


洗わなきゃ。




適当に折りたたむ。


カバンにまわしを詰める。




自宅


カバンから出す。


ブラシでこする。




この街でもこうやって、こうして、エイ 洗うんだな。




臭い、前袋。


しわが入るたてみつ。




しみ、まだないな。




------------------------


夏祭りが終わり、相撲の練習もない。




「え、もう相撲ないの」ショックが、すごい。




丸刈りで相撲できない。まえの学校では当たり前だった。




ダイから相撲の練習の終わりを告げられた。




ダイが簡単に言うから腹が立つ。でも、悪気ないし。こっちがどうかしてるんだから。


というか、前いた学校がおかしいんだよ。




夏しかしないんだ。


「僕の」まわしも夏だけか。


----------------------




ガラスを見る。


室内は明るい。


定規。


髪の長さ。




タイミング逃したな。


いつまでこの映った姿を見るんだろう、チョウタは自分の目を上にそらす。




最初から最後まで


三年間


坊主 前の学校の顔が浮かぶ。




定規を持つ


測るまでもなく、前髪は伸びる。ゆびでくるっといじる。こめかみを押さえる。




ケープをかけた自分に言う。


軽い気持ちで言おう。6mm




明日が坊主になる最後の機会。何日同じこと考えただろう。


------------------------




「サッカーしない?」トモミがリョウコを誘う。


「え、あんた剣道は?」リョウコが聞き返す。




「もう、つぶすんだって、道場」


「マネージャー?」


「違うよ。ボール、ガンガン蹴っちゃうよ」やる気、トモミ




「バレーなら一緒にする?」トモミがリョウコに聞く。


「バレーならね。そうそう、あんたバレー誘われてたじゃん」




「バレーなんかしませーん」


却下という顔のトモミ




-------------------------




床屋


「初めて、坊主?いいのかい?」


「どれくらい切る?」


「三枚、三分」


枚も分も本当はわからない。


「うん、わかった 9mmね」


「9mmでいくね」


両肩を軽く抑えられた。




6mmじゃない。




よーし覚悟はわかった、その覚悟買った。みたいな表情であってほしいけど、


なんか言いたげかな っていうかもう始まる。


どきどき、ああ、もうバリカン。でかい。




ごんと、右目の真上からバリカンが入る。




通りかかった女性定員が


「ひゃ」っと声を出す。




「注文だよ、坊主って」




「まぁぁ」女性店員が見つめる。




観念した。6mmは次か。いや、伸ばしたい。




意外と白いの見えないな。


頭皮を見る。




毛が払われる。白い。




丸くなった。手で払われる。繰り返し。




長い、このまま椅子から降りて逃げてもまだ間に合う?


間に合いそう


え、真上、もうない。


上 横 右横 ななめ  後ろ長いよ いつまで後ろ。




はたきでほこりを落とすように。




さっ 




ケープがはがされる。




ガタゴト片付け。タオルは首に巻いたまま。




「もう中学校は、坊主にしないでいいの?」女性店員、二十五歳くらいかな。


「二年前、三年? だったかな、なくなったの、中学生、坊主でいいと思うんだけど」店主


「ふふっ、まっ」




なんだい、二年前か、タイミング悪い。


強制的な坊主だったらよかったのに。




なんで坊主にしたいのか、過去を取り戻す迷路にはまっている。




頼んでもいないのにシャンプー。切りたて。




泡が違う。ざ、むにゅ。やわらかい手が、頭をさする。え、大人じゃない。十七歳くらいか。もう働いてんの?




目に映るものがどんどん気になる。




白い整髪料、ワックス、よくわからない黄色の液。ぜんぶいらない。わー。


鏡もいらない。本当に何もいらない。




次、次は何? ...店主がシャンプーが終わった僕を待っている。




「ちょっとぬれてる」タオルで水滴をとる。えっドライヤー? ドライヤー数秒。




もういいって。




左耳付近の髪をちょっと切る。切り残し。




バリカンで全部済ませてくれ。これじゃあ調髪。




イメージは、ざーざーと切られてハイ終わりだった。




会計に行く。財布に目を落とす。


何か言いたいが、非の打ち所がない。


誉め言葉を言われた。


すっきりした、似合ってる。だったかな。


女性店員は、あきらめたような、信じられないというような感じだった。


簡単に言うと「うちの子にはさせたくない」みたいな感じ。




外に出る。帽子をかぶる。耳まわり見えるじゃん。当たり前か。


視線を感じるが、帽子被ってるし。


風を感じたい。帽子をとる。視線を浴びる。


同じ年くらいの男子を見る。髪がある。




いそがしい。




準備していた小銭。




自動の証明写真を撮る。不可解。行動がおかしい。


数分待つ。


通りすがるの通行人は、たまに頭をみる。


どうだ、切りたてだ、見てよ、とも言えるわけなく、帽子をかぶる。




近くの店は通常の音。日常が流れる。白いタイル壁を見ながら待つ。




じーーーー。写真がロール状に出てくる。


証明写真を握り、帰宅。




机の引き出し。手元に引く。右端に証明写真を入れる。


この写真どうしよう。記念でしかない。


変な顔。そして、つるっつるの頭ではない。青くもない。


9mm中途半端


でも白い地肌はみえる。




でも、もう一回切る勇気は失せた。


のばそうか。写真撮っていてよかった。


一番短い自分。




すぐ風呂に入る。


シャワー、さっき洗ったのに、もう一回洗髪。


シャンプー。


確かにそのまま石けんで洗えそう。


石けんでも洗う。




なんどさわっても同じ感触。


飽きてはまたさわる。




風呂上り。




テレビのCM シャンプー 


きれいな髪が波打つ。


こんなのいらない。




男のシャンプーみたいなCMも。


いらん。




でも、すぐ伸びるなら伸びて。




何度さわっても同じ感触。


伸ばそうか。




おーい おれ坊主にしたよ、見てよ そんなこと言っても、


前の学校で言っても、


「なんだ、今頃」 となる。




大会のときに坊主にしておけば、、、




伸ばそうか。





------------------------


「スパイク、っと」トモミ


「髪切るって言ってたじゃん。長いよね、まだ」リョウコはトモミの髪を眺める。


「切らない。もうちょっと伸びたら切る」




「チョウタいいじゃん、坊主」トモミ


「ああ」


「さわらせてよ」同時に手が出るトモミ


「いい、いい」




前の学校でこんなことはない、触るなんて。でもいい。ここは、ここ。




坊主のことなんて興味がなくなる。


「ねえ、男だったら坊主する?」トモミ。


 え、話題続くじゃん


「するよ、絶対」リョウコが即答。


「えー意外」


「するよ、男ならね」


長い髪を軽く結んでいた。二人とも。




あの女性店員は何だったんだろう。




---------------------


夜。


テレビCMが頭から離れない。


かっこいい男って坊主じゃないもんな。




男だったら坊主にするか。トモミはいいとしてリョウコも。




現実は、


ここ。ここが正解。ここで生きてる。




ガラス窓に映った自分を見る。坊主三日目。




まわし。どうしよう。




坊主頭でまわし締めて。これが前の学校のスタイル。




今できるじゃん。押し入れからまわしを取り出す。


ビニールから出す。


ん。


ここじゃない


日差しも、土もない。


ペアで締めることもない。


ああ。


まわしの端をあごに挟む。はずす。




髪9mm、10mm




四股を踏む。


服、着てるよ。ほんと、はあ、


来年まで、何日だ。


---------------------------------





僕。


僕は坊主頭に慣れないチョウタ。




秋の気配、


葉はまだ緑。





広報誌に、相撲の案内が載る。ちょっと遠い。


カーペットの上に置いた広報誌。


子ども相撲。


やってんな、どこも。僕の出番ないけど。


電車で行くか。


知らない子たちの相撲を見るなんて。しかも小学生。


暇だな僕。




軟弱なパーカーを着る。


見た目は坊主。伸びたけど。


まだ切らないよ。これくらいなら。他の男子だってそう。




帽子をまだ持ってる。




男だったら坊主むき出しで、Tシャツなんだろう。


そのまえに、何しに電車乗ってんだ。




どこかの神社。クスノキ。しめ縄。


居心地が悪い。


明らかによそ者。


取り組み。


小さい子がポンポンしてる。


まわしてるけど。


軽い。


僕も、したい、なんて言えない。


ここに中学生はいない。


コーチ役しようか?なんて言えるわけない。




場違い。




空振り。同じ金額の電車賃。




どこかに行くついでに、この神社に立ち寄っただけだと言い訳したい。




速攻で帰る。








そろそろか、指で挟んで出てたら、切り時。


ちょうど指の高さだ。


まだ?




今行かないと、6mmは、


急に短くなる。どうしよう。




床屋、行くか。




遠くの床屋に行く。


結果は「耳まわりだけ切る」


最悪。続かない。


ずっと坊主でいたいはずだろ。




数時間前を思い出す。


「いらっしゃい」


「坊主?」


ここでハイと言えない。ハイとさえ言えばいいのに。


「あ、耳周りだけ」


なんで否定できる。憧れの6か3だろ。


「伸ばすの?」


「ハイ」


ここでハイじゃない。




電車の中で腐る。耳周りだけ。





-----------------------


「チョウタ知ってた?リョウコ転校するの。」トモミが言う。


バッサリ切ったリョウコの髪。ニコニコしている。


「そうよ。あんたのいた学校に行くの」リョウコはニコニコしている。




笑うのか。




「ケイ中、結構厳しいらしいね」リョウコがチョウタを見る。




「男子は坊主、相撲だってね。」リョウコ


「そうだけど。」


「こっちもちょっと前まで坊主よ。似てるじゃん」トモミが言う。




「とりあえず、厳しいみたいなんで切ったのよ。バッサリ。これで大丈夫?」


軽く聞いてくる、リョウコ。




「うーん 女子は、伸ばしていてもいいけど、そのー、相撲のときお辞儀を、はだしでー、見ちゃいけなくて、エス中とは違う。う、ん、行けばわかるよ」


苦しい。




「えっ 髪、長くていいの? まあいいや。伸ばそう」リョウコが拍子抜けする。




一言、こことは違うぞ、覚悟しろ と言えばいいが、軟弱なパーカーをチョウタは来ている。




「大丈夫よ、リョウコ、落ち着いてるし」リコは太鼓判を押す。




パーカーなんか脱いで、まわし持ってケイ中に戻りたい。前の学校にもどりたい。




ダイが来た。「転校するん?」





同じ季節の中で










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