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第5話 転校先「集まれ」 三年生の声

第5話 転校先「集まれ」 三年生の声




キッコの独り言。




男は坊主、丸刈り。


はだかんぼで相撲。バチバチ。




この町では、女は肌を出さない。


二の腕も、だめ。オキテ。




女は、えーっと。




これじゃTシャツ着れないじゃない。




半袖のカッターシャツならいい。




……あれ?




襟があればいいのよ。


トウコは相変わらず聞き分けがいい。





-------------------


「四股しないと」負けるのが怖いトワ




細い身体。


押す。崩す。




四股。もう一度、四股。


すり足。土をなめる。




「低く」


立ち合い。


「もっと低く」




-------------------------------------




丸刈り。




小6でもらったプリント。


これだったのか。




ここでやるんだ。




ソラは嫌がっていた。


丸刈り。


トワは平気そう。


家にバリカン、あったし。




バリカンを持つ。


スイッチを入れる。


音が立つ。


練習台は、オトコ。




ドラムの延長コードが、グラウンドに伸びている。


ズボンだけの男たちが、ハコ椅子に並ぶ。


「今から白くしてあげる」


キッコは、にっと笑う。


トウコは音を鳴らしながら、アタッチメントを見ている。





順番に頭があてがわれた。


刃を入れると、頭皮が白く見える。




ゾクッ。




目の前で白くなる。赤いおできがある。




ドクン、ドクン。




トワがよかったな。


そう思いながら、ならった通りにバリカンを当てる。


うまくいかない。


オトコの汗が煮詰まった匂い。


刃が滑る。


押し込む。刃が進む。




左手で首を押さえろ、と言われた。


今日は、押さえなくても動かない。


左手が余る。右手はバリカン。


背中に、ぺとっと張りつく左手。




ふっと左手に気づく。


あわてて離す。




「あ、すみません」




二つの黒目がこっちを見て、すぐ戻る。




余った左手の置き場に困る。




ふと、見渡す。




あちこちの左手が、肩や背中に置かれている。


指の間が、やわらかく開いている。




トワは、知らない子に刈られながら笑っている。




肩に置かれた手を、気にする様子もない。




トワの肩に、白い手。




手元のバリカン。ぶらんとした左手。




ケイ中学校グラウンド


ーーーーー


チョウタ1年生。


チョウタは丸刈りの集団を観るしかできない。




ドック、ドック、ドッ。




チョウタの髪はこの学校で唯一長い。耳にかぶるほど。


僕は、


6年生の終わりにエス中学校に転校だったはず。


坊主は免れた。


予定が延びた。転校はいつだろう。




「すぐ転校するなら、丸刈りにしなくていいです」




入学前に聞いた言葉が繰り返し響く。


どうしよう、伸びちゃったな。髪。




なんで。早く転校したい。




あっちの中学も丸刈りならいいのに。




どうしよう。さすがに耳を覆うようになったら。肩まで伸びたら。




悶々




床屋に行こう。近所の床屋は無理だ。




伸びすぎた耳周りの髪、


僕はいつもねじる。




「もうすぐ転校するのかよ」


「チョウタは、坊主しなくていいって」


「ふーん」




「ワタシが思うに・・・」


「坊主が普通。中学よ、ここ。」


「よそは伸ばしてるって。」


「伸ばしてるなんてヤダわ」


「ほっときなよ」


「転校するっていったって、ねえ。坊主にしたら?」


「そうなんだ、ふーん」




こうやって俺の坊主頭を想像される。




その倍以上、チョウタは自分の丸刈りを想像した。




鏡の前で前髪を上げ、手で押さえる。


夜は明かりがついた部屋でおでこをむき出しにする。


「ああ、坊主にしておけばよかった」




明日こそ。


わざわざ電車に乗った。駅近くの大きめの床屋を目指す。




扉を開ける。予想より重い。


椅子が何脚もある。





どうしよう


いっそのこと坊主に。


6mm、3mm、 ... 9mm


えっ え




やめようか、店を出ようか、


でもこれ以上伸ばすわけには。




誰も見てない。




切っちゃえよ。




——どの中学も坊主いるよ。


——似合うと思うよ。




どれだけ声をかけられただろう。






ケープが巻かれる。




どれくらい切る?




坊主、丸刈り、と言えずにいた。




君、中学生?


君んとこは伸ばしていいんだね。


サラッサラ、いいね。


でどれくらい切る?




もう何も言えなかった。


じゃあ、耳周り整えるね。


前髪はこれくらい?




頬が細くなる。




鬱々悶々




外に出た。




ああー。




朝、教室


カバンを下ろし見渡す。


丸い頭が次々教室に入ってくる日常。




なにか言われる


言われる





・・・言われなかった。




誰も触れない。




前髪を家で測る。定規。12cm。




---------------------------


着替え小屋。


「君のまわしはこれでいいだろ。転校するんだろ。これ、予備のまわし


 あっ、返すときクリーニングに出しといて」




そう言われて、全員と同じ格好になった。短い間のはず、、、だった。




みんなと同じ思いで、締めたまわし。


自分のだけ使い古し。


洗ったのはわかる。清潔。


でも薄汚れている。


きれいな白のまわしが太陽の光に映える。




次の日も


相撲小屋


靴を脱ぐ、靴下、上衣、ズボン、下着。


軽く畳む。


顎にまわしの先を挟む。


しみがある。前袋の左側。


いつもさわってしまう。


二つ折りにして股間を通す。




来月、僕は転校してるだろうか。




ちょっと足を開く。 


まわしを折りながら股間を通す。ペアの手際がいい。




自分の尻を、両手でつかむ。僕の中指、薬指で軽く開く。


左に力が入る癖。





たて褌が股から腰に引き上げられる。


身体を回転させ巻きつける。


最後に、端が、うしろ褌に交差する。


足をやや広げる。


うしろ褌がぐっと上に。


僕は、腰を落とす。


ずん、ぐっ。


結ぶ。




次の中学校では、こんなの...ないよな。




両手で尻をつかみ確かめる。


前褌を見る。




ペアのまわしを持つ。


新しい。


俺がいなくなったら、誰がペアになるんだろう。







-------------------


転校まで数日




ケイ中学校からエス中学校に




チョウタの足裏の痛みは皆と同じように慣れた。


髪は長いまま。借り物のまわしのまま。




いつクリーニングだそう。


クリーニングのタグを想像する。


四股を踏む。


一回、二回、...。


足と尻の境目に指先を当てる。パンと尻を叩く。


パン、パ


皆、同じようなことをしていた。




尻の肉がわずかに揺れ、よこ褌をたたく。自分の顔に手を当てる。




すり足。




--------------


隣の町 エス中学校




転校先。


初夏の日差し。




引っ越しの荷ほどき。




友だち、いない。みんな僕を知らない。坊主にするなら今か。


前の学校でしておけばよかった。


でも、おもいきりが足りない。





男子を見る。ん、坊主だ。


次の男子、長い。


次も長い髪、


次、長い。




まわしは手元にない。僕も髪、長い。




丸刈りもいるな。




丸刈りにしておけば、


   ......よかった。





普通の学校。


普通の授業。




縄跳び。サッカー。ランニング。


空気が、体と離れている。


土も。




初夏。ぬるい空気が、蒸してきた。




町内放送


 通夜のお知らせが聞こえる。


 


こっちの街の音。




----------------




数日で学校には慣れた。


普通の感じ。


夏に向かう。




えっ。坊主?


あいつ、いきなり。




「おれ、夏は坊主にするんだ。」ダイ。3mm




日差しが照り付ける。


体育館。


窓を開けても、風はない。


ラジオ体操。




座る。汗の粒が首をつたう。


前の生徒の首も。


汗が襟に吸われる。




むき出しの首や背中、


ここにはない。


泥まみれの身体はもうない。




汗はシャツに。




ダイの頭を見る。


頭にダイの手が伸びる。小さなしぶき。




---------------------


床屋。




ダイは何ていったんだろう。




「坊主にして」「6mm」


さっと言うよな。




僕は、


口が動かない。




女性だ。


「どれくらい切る?」


「あっ」


「みじかく、」


「暑いからね。スポーツ刈り?」


「えっ  はい。」


「前髪、残そうね」


そんなのいらない、でも。


スタート。止められない。




「ずいぶん伸びてる、うん」




つー。つー。バリカンが進む。前髪は残る。




まちがって坊主にしてくれないかな。そんなわけ、、、ない。




はいおわり、ケープがとられる。


やわらかい手が後頭部をざっと触る。




初めてのスポーツ刈り。




後ろを向いた女性店員。




チョウタの指が前髪をねじる。


-------------------------


帰り道、


前髪を指で挟みながら。


小学校。


土のふくらみを見つける。


あ、土俵かな?


違った。




小屋でさえ見つければ、じっと見てしまう。





-------------------------


スポーツ刈り


ここまで短くしたのははじめて。


夜、部屋のガラスに映る。


耳の上、後頭部。




定規を持ってくる。


前髪6cm


うん




うえ、よこ、はかる。


4cm,


1.2cm




え、全然


短くない。




ガラスを見る。今までで一番短いけれど、




床に沈んだ。




---------------------




短くなったね。リョウコがわざわざ言ってくれた。




ああ、暑いからな。




優しいやつ。強がっても。


こんな前髪、


指でつぶす。




---------------------------


トモミとリョウコ




「神社行く?」 リョウコが聞く


「いつぅ?」  ダルそうなトモミ




「今日よ、今から」


「真面目だね」




「あーあ、行くか」トモミが立ち上がる。




「ほうき持ってく?」


「向こうにあるかな、とりあえず持ってくか」




結んだ髪、おろした髪、ほうき。




すた、すた




エスメ神社




-------------------




町内放送


 がー 


 あー


 相撲


 小学生 何年  中学生  


 公民館





え、なんてった?




相撲、たしかに聞いた。


急に思い出す。下腹部がすっとなる。




紛らわすようにテレビ。





いくつか足音がバラバラと。


ドアベル




「おーい」




一目散に玄関に行く。




「どうした?いきなり」


坊主頭のダイ 奔放




「公民館でさ、相撲、くる?」




(続けて欲しい)声に出ない




「相撲興味ある?」




あるあるって言えない。




無言




よしっ




「とにかく来て」


サンダルをはいて向かう。心躍る。




よし、取り返せる。戻れる。


-----------------------


小さい子から中学生まで


床にTシャツ、短パン。




長い布が目に入る。まわし。




上着に手がかかる。おっと。


手を止めダイを見る。


大人の前に並んでいる。次から次に、締めあげられる。


自分たちペアで締めれないのか。チョウタの口がうずうずする。




公民館、リョウコが小さな子としゃべっている。トモミはなんか食べてる。


こっちを気付いた。




ダイがまわしを大人に渡す。くるくる。出来上がる。




まわし姿のダイ、普段着の僕。


「相撲したことある?」


「あるよ」


「まわししたことは?」


「ある」


「持ってんの?」


「いや」


「借りる?今日は見とく?」


「う、うん、見とく」




まわしいっちょの男子たちが、エスメ神社に向かう。




僕は、数メートル離れてついていく。




四股も踏まずに取り組みだした。ああ。


------------------------------


自宅に用紙が来た。


まわし注文用紙。




「チョウタ、まわし注文する?」ダイが帰り道に。


「迷ってる」


嘘ついた。買う気満々なのに。


「中三までしか使うよ」ダイ




自宅に帰ると注文用紙にしっかりかいている。


早く提出しなきゃ。




「へー、注文するの。相撲かぁ。いまどき相撲ねぇ」


大人はそういった。


いまどきとか、そんなんじゃない。




あと一つ、坊主頭。


二つを追う、チョウタ。




まわしは逃さなかった。ちょっとした揺らぎで、つかめなかった。つかんだ。


手元に新品のまわし。へその下にあててみた。自室。


カーテンを閉める。


靴下、ズボン、下着、、、Tシャツ 順番がおかしい。脱ぐ。


肌にあてる。


股間を通す。


僕のものだ。




------------------------




列に入ってエスメ神社に向かう。裸、まわし、歩道を歩く。




車が鳥居の前を通る。





小さな子から中学三年まで。


色とりどりの荷物袋を持っている。


ダイを見る。


今シーズン二回目の坊主に。


僕も、はやく坊主にしたい。




はやくしないと。




鳥居の向こうに土俵。どの町にもあるんだな。よかった。


みんな土俵に一礼もしない。




ワイワイ、 ガヤ、 




リョウコがほうきを持って掃いている。




思い切って隅のほうで四股を踏んだ。一回二回、ぺちん、ぺちん。




ダイが来る。三回、四回


「お相撲さんの真似?」


えっ


そんなん・・・。




でも


これでいい、取り戻した。




ダイの頭を見た。


あす、


6mm,


...3mm。


したいけど、恥ずかしい。






日が暮れ始めた。


「まだやる?」


「チョウタ、やんの? よし、やろうぜ」




チョウタだけ一礼して土俵に上がる。


ぐっとぶれない足。


どす、


ずずず、押し出す。


チョウタは、前に押すだけだった。




「つよいじゃん。チョウタ、ははは」ダイが言う。


「稽古のあと、ブルーシートかぶせる?」僕は素直に言った。


「は? 稽古?」


「あ、練習、ブルーシート」


「ああ、そのまんまだよ」


ブルーシートが隅のほうに置いてある。隅にはリョウコがいる。トモミも。


髪がなびいている。





「集まれ」 三年生の声。


みんな集まる。


自然と並ぶ。土俵が目の前に。




礼。




無言。




ほっとした。

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