006. 俺様貴族は勝ち気な令嬢と観戦するそうです
その後も試験はつつがなく進んだ。
シリウスたちの戦闘の後は、試合場に四つのフィールドを生成して一度に大量の試合をするようにしていた。
恐らく二人が特別待遇だったのだろう。
オリガは少し離れたところで試合を観戦している。時折どこかに伝えるように口が動いているので、何らかの魔術で通信をしているのだろう。
そして、当のシリウスとユラはといえば、試合終了後にすぐに治療を受け、今は部屋の隅の方で並んで観戦をしていた。
「どうだ、ユラ。貴様の目から見て見どころがある奴はいたか?」
シリウスが横のユラへと話しかける。試合が終わった時点で、二人の間には互いの魔術の技術への信頼が生まれていた。
「そうね、とりあえず、あの黒髪はなかなか強いと思ったわ。もしかしてアンタ、それが分かってたからアタシとアイツを戦わせないようにしたわけ?」
ユラの視線の先では、レイが対戦相手の魔法を素早い動きで躱し続けていた。
それどころか、相手の隙を読んで徐々に距離を詰めている。
この調子だとレイの勝利は堅いだろう。
「まあな。奴の魔力の流れはこの中でも相当洗練されていた。貴様と当たって無為に散らせるのは惜しいと思ってな」
「無為にって……アイツ、アタシが一瞬で倒せるほど弱くないと思うけど」
先ほどのシリウスとの試合を思い出し、ユラは言った。
悔しいが、自分のコントロールでは、初めの火球だけではレイを倒すことができていなかっただろう。
「いや。初めから『爆』とやらを使っていたら奴は手も足も出ずに倒れていたはずだ。貴様の魔術はそれだけ広域の破壊力には優れている」
火花の大きさで爆発範囲を誤解したシリウスも危うい所だったのも事実だ。初見殺しという点でも、シリウスはユラの魔術を評価していた。
「そんなん最初から使うわけないでしょ……ってか、アタシ本来なら使わずに入学する予定だったんだけど」
「なぜわざわざ実力を隠そうとする?」
「目立たないためよ。正直、アレを出せば首席くらい余裕だと思ってたから、目立ちすぎちゃうと思ったのよね。まあ、杞憂だったっていうか、魔法学園を舐めてたわ」
そう言って、ユラは自分の半生を振り返る。
魔力量、魔力操作の才に優れ、自身の生まれたクロワ家において歴代最高の魔術師になるとまで言われた幼少期。
ユラの生まれた皇国では女子が家系を継ぐことは無い。ゆえに初めから魔術を極めようと魔法学園を志望した。
ユラは元々貴族として生まれながら自由を求める性格だった。
だからこそ、目立ちすぎてしまえば卒業後、自国へ帰った後の権力者による囲い込みが面倒だと考えるようになる。
そのため、成長してからは他者の前で全力を出さず、ほどほどの実力に見せるようセーブしていたのだ。
あるいは、そのためだろうか。
ユラは敗北に対して悔しさはあっても、不快感はないことに気づく。
それは生涯において初めての敗北だというのに、不思議と清々しい気分だった。
「フン、傲慢だな」
アンタに言われたくない、と冗談交じりシリウスを睨みつけるが、シリウスは肩をすくめ、否定も肯定もせずに鼻で笑っただけだった。
「それで、他にはどうだ」
「そうね、あそこで剣を使って戦ってる風属性の女の子くらいじゃない? 他は似たり寄ったりに見えるわね」
ユラが指したのはレイとは別の試合場で戦っている受験生だ。
剣に風の魔力を纏わせており、相手が離れれば斬撃を飛ばし、近づけば剣技で翻弄して終始優位を保っている。
「ああ。俺もそれについては同意見だ。あの剣士の少女は突出して戦闘が上手いな。だが、他にも見るべき奴はいるぞ」
「誰よ」
そう訊かれてシリウスはまた別の試合場を指した。
「奥の土属性の男を見ろ。この試合場に落とし穴を開けている。ある意味では貴様の火球と同等の破壊力とも言えるぞ」
「そりゃ土属性なんだからそれくらいできるでしょ」
「そうでもない。この俺は天才だから分からんが、俺に仕えていたメイドが言うには、あらかじめ存在する物に干渉する魔術は難易度が高いらしいぞ」
「へー。アンタ、傲慢なくせに意外と他人に興味があるのね」
あるいは、それが自分とシリウスの違いなのかもしれない。ユラは言いながらそう思った。
自分は無属性だからと黒髪の少年を軽んじて、本来の実力を見ようともしなかった。
それに、自分より弱いとしても、その戦術には学ぶべきところはあるはずだ。
「当然だ。他者と比べたうえで俺が優れているからこそ、この俺は傲慢でいられるのだ」
「あっそ。まあ実際アタシより強かったし、否定はできないけど」
「だが、貴様との勝負は楽しかったぞ。また腕を上げたら挑んでくるがいい」
シリウスはそう言って、挑発的な笑みを浮かべる。
自分が負けることなど微塵も考えていないような、自身に満ちた表情だ。
けれど、構わない。むしろ、そうでなくては勝つ意味がない。
「ええ、今度はアタシが勝つから。首を洗って待っていなさい」
確かな決意を込めて、ユラはそう宣言する。
必ず超えると心に誓うように。
(––––勝ちたい。どんな魔術を使ってでも)
それはユラにとって初めて抱いた勝利への執着だった。
「あ、シリウスさん、ここに居たんですね。それと、ユラさんも」
と、ユラが決意を固めていると、声がかけられる。
「なんだ、誰かと思えば黒髪か。俺に何か用か? それともユラか?」
声の方には黒髪の少年––––レイがいた。
試合前の自分の発言を省みて、ユラは少し気まずさを覚える。
「なによ。さっきのことなら謝らないわよ。アタシの方が強いのは事実だもの」
恥ずかしさを隠すようにそう言うと、すかさずシリウスが口を挟む。
「フン、先ほどは想像より強いと言っていたくせに、素直ではないな」
「うっっさいわね。焦がすわよ」
「どうせ当たらん。試してみるか?」
そう言ってシリウスが構えようとすると、ユラが掌に魔力を集め始めた。
「……ふふっ」
そんな二人の掛け合いを見て、レイは思わず笑ってしまった。
まさか、あれほど本気で魔法を打ち合っていた二人が、今はこんなにも仲良さげに軽口を叩き合っているだなんて、想像もしていなかったからだ。
その様子に冷静になったのか、ユラも魔力を抑えてレイの方を向いた。
「なによ、急に笑い出して。用が無いなら試合を見た方がいいんじゃないかしら」
「あ、ごめんなさい。お二人がそんなに仲良くなっていたなんて思いもしなかったので。僕が来たのは、シリウスさんにお礼を言おうと思ったからです。さっきは止めてくださってありがとうございます。おかげで実力が発揮できました」
ユラの言葉に本題を思い出し、レイは感謝を伝える。
実際、オリガのレイに対する評価は順当に高い。魔力への感度も当然として、戦闘中の魔力の流れの自然さや、長時間の維持に対する評価は、ユラとの戦闘ではされなかっただろう。
「構わん。それに、貴様ならユラと戦っていてもある程度は渡り合えたと思うぞ。コイツは本気を出すつもりがなかったようだからな」
「え、そうなんですか?」
レイが驚いた様子でユラを見る。
「別に、アンタなんて本気じゃなくても倒せるってだけよ。でも、思ったより時間はかかりそうだっていうのには同意するわ」
素直ではなかったが、ユラがレイを評価しているのは嘘ではない。
それを知ってレイは再び驚いた。
「それと、アンタいつまで敬語なんて使ってるつもり? ここは独立魔法学園よ。貴族とか平民とか関係ないの。アタシたちは魔法を学ぶ上で対等よ。分かったらそんな弱気な話し方やめなさい」
「そうだな。それがいい。それと黒髪、名を名乗れ。いつまでも黒髪では呼びづらくてかなわん」
「え、っと、分かった。僕はレイ。平民で苗字はないからただのレイだよ」
「そうか。では一応俺も名乗り直しておこう。俺はシリウス。シリウス・フォン・ウェスターリングだ。一応王国では侯爵家の出だが、気にするな」
気にするなと言いながらわざわざ家名を口にしたのは意図的だろう。侯爵と聞いてレイの頬がひきつる。
「それじゃあいい機会だからアタシの名前も教えてあげる。アタシはユララフィル・クロワよ。アタシも皇国では伯爵家の人間だけど、気にしないでいいわ。運が良ければまた会いましょう」
そして、それに乗るユラ。
レイは今更ながら想像以上の相手に目を付けられたのかもしれないと冷や汗をかいた。
「さて、二次試験は終わりだ。一度集まってくれるかな」
そこでオリガの声が会場に響く。どうやら、全ての試合が終わったようだった。
こういう戦闘が終わった後に妙な信頼関係が生まれるのが好きなんですよね。
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