005. 俺様貴族は実力の差を思い知らせるようです(2)
後編
「へえ。独学で性質変化まで習得しているんだ。大口を叩くだけはあるじゃないか」
雷の矢を射たシリウスを見て、オリガは素直に感心していた。
本来二次試験で見るのは魔力の操作と属性変化の練度くらいだ。
それどころか、条件によっては属性変化ができていなくても合格にする場合もある。
しかし、シリウスはその先、属性として放出した魔力の性質までも変化させ、雷に鋭さを付与していた。
確かにユラの方も魔力操作と属性変化の練度は相当の域に達している。
しかし、シリウスの方が一枚も二枚も上手だ。その上まだ大きく余力を残しているように見える。
厳しい戦いになりそうだ。そう思い、オリガはユラの方に視線を向ける。
しかし、彼女の瞳を見て気づく。
「いや、彼女の方もまだ何かありそうだね」
あれはまだ、敗北を認めてはいない瞳だ。
ユラは肩を射抜かれながらも火球を放ち続ける。
シリウスに狙いをつけられないよう、身体強化を駆使して移動し続けるだけでなく、常に火球を地面に撃ち続けることで煙幕に身を隠していた。
「ずいぶん速いじゃない。でも大してダメージは受けてないわよ」
ユラは冷静に戦況を分析する。
肩の傷はそれほど深くない。雷で焦げているので血は止まっているし、正確に撃ちぬかれたせいか穴も小さい。この試合中は右腕を動かすことはできないだろうが、魔法戦だから関係はないだろう。
つまり、まだ勝機はある。
「あえて外してやっただけだ。すぐに終わってもつまらんからな」
そのあまりに尊大な態度にユラは怒りを覚えた。そして、恐らく彼の言っていることは本当だという確信もさらに苛立ちを加速させる。
事実、彼我の間にはそれだけの実力差があるのはこれまでの時間で十分に理解していた。
(使うつもりなんて無かったのに、勝とうとするならアレを使うしかないじゃない)
ユラは奥の手を使うために体内の魔力を高め、空気に浸透させるように一気に広げた。
そして、隠れていた岩陰から姿を現し、シリウスに向けて言い放つ。
「アタシを舐めたこと、後悔するといいわ––––『火花』!」
ユラの周囲に数十の火球が展開され、シリウスの逃げ場を無くすように放たれる。
「コントロールが甘いな。その程度避けるまでもない。『雷矢』」
シリウスはそれまでと変わらず、自身に当たりそうなものだけを狙い、最小限に火花を射抜く。
「これで終わりか?」
そして、ユラに狙いをつけた瞬間、ユラは叫んだ。
「破裂しろ! 『爆』!」
その瞬間––––––宙に浮かんだ火花が一斉に弾けた。
爆発により発生した空気の圧が土煙を巻き上げ、視界を奪う。
これこそがユラの奥の手。一度発生させた火を再度燃え上がらせる魔術であった。
「もしかして、あの火とユラさん、まだ繋がってたのかな?」
そう呟いたのは、先ほどまでユラと口論をしていた黒髪の少年、レイだ。
一瞬たりとも見逃さないよう、彼らの試合をじっと見つめている。
いや、彼だけではない。他の受験者たちも魅入られたようにその試合を見ていた。
恐らく二人がここの試験会場ではトップクラスだ。受験者たちの中には、これが初めて目にする魔法戦という者も多いだろう。高度な魔術戦に魅入られてしまうのは仕方のないことだ。
そして、幾度も試験監督をしてきたオリガにとっても、この試合は中々に興味深いものだった。
そして、同様に、試験官としてレイにも興味を持った。
大抵の受験者が二人を目で追っているだけの中で、彼だけが魔力に言及していたからだ。
そう言えば、魔力測定の結果でも彼の感覚は鋭いと言われていたのを思い出す。
彼はこの会場であの二人に次ぐセンスの持ち主なのかもしれない。
オリガはそんな予感を抱きながら彼に声をかける。
「レイ君、もしかして今の魔力の流れが見えていたのかい?」
レイは一瞬驚いたようだったが、すぐに冷静になって答えた。
「あ、はい。何となくですけど、爆発が起きる瞬間に炎に込められた魔力がぼん、って膨らんだような感じがして」
「よく見てるじゃないか。恐らくあれは、一度火として放出した魔力に追加で燃料を与えたんだろうね。岩陰から出る瞬間、魔力を薄くのばしていたのは見ていたかい? あれが導線になっているんだ」
「なるほど……あれはただ火花を宙に浮かべるためだけじゃなくて、導線の役割も果たしてたんですか……」
魔力が見えているのは良いが、まだ経験値が足りないようだ。レイの言葉を聞いて、オリガはそう評価を下した。
事実、今も重要なものを見逃しているのに気づいていない。
「考えるのは良いけど、目を離していてもいいのかい? まだ彼女の攻撃は終わっていないみたいだよ」
そう、彼女はもう一段階攻めを残している。
土煙の中、シリウスは予想外の攻撃を受けたというのに満足そうに笑っていた。
「フハハハ! 貴様、この俺を驚かせるとはやるじゃないか。相手に選んだ甲斐があったというものだ」
しかし、その実、周囲の警戒は怠っていない。
(なるほど、魔力を再投入することによる火種の爆発か。面白いことを考える。見たところ、火種は残り五つといったところか。恐らく、撃つとしたら––––今!)
「まだ終わらないから! 爆ぜろッ! 『爆』!」
二度目の爆発。一度目の不意の爆発で視界を奪い、動揺している間に二度目で仕留める。それこそがユラの作戦、奥の手だった。
そのためにも、二度目の爆発は魔力を多く込めていた。
しかし、シリウスのことだ。手傷は与えていても致命傷には至らないだろう。
とどめを刺そうと手元に魔力を込め、正面を見据える。
瞬間、足元に影が広がった。
「悪いな。これで仕舞いだ」
「……上!?」
二度目の爆発があると確信した瞬間、シリウスは上に飛んでいた。
ユラの策よりもシリウスの読みの方が上をいっていたのだ。
ユラの上からはバチバチと雷が走る音が聞こえる。既にあちらは攻めの準備を整えているようだ。
「喰らえ––––––『落雷』!」
空気を裂くように白い閃光がユラの元へと迫る。
一手遅れた。しかし、それを分かっていても、諦めるユラではない。
「ッ、『爆』!」
手元に用意していた魔力を、シリウスへ向けて爆発させた。
赤と白がぶつかり合い、轟音が響く。
そして、その後に訪れた一瞬の静寂。結果を見逃さまいとする受験者たちが、ごくりと唾をのむ音だけが響いた。
果たして、煙が晴れた後には––––
「ここまでだね。両者、離れて」
オリガの出したであろう土壁と、それに阻まれた二人がいた。
一応これで初戦は終了です。




