004. 俺様貴族は実力の差を思い知らせるようです(1)
今回ちょっと長いので前後半に分かれてます。初めての戦闘シーンです
時間は少し遡り、シリウスが試験会場の扉を開ける前。
『それでは、振り分けは以上とする。実技試験の詳細は各々に任せるが、受験者たちの実力を確認できるようなものにするのじゃぞ』
この試験場を任された試験官であるオリガは、エルドレインのその言葉を思い出していた。
二次試験の形式は試験官によって異なる。的に向けて魔法を放つものもあれば、試験官と戦わせるもの、変わったものだとゴーレムなど魔力構造物への対応を見るものもあるという。
そんな中、オリガがとったのは『受験者同士の対決』だ。
理由は単純。自分の手を煩わせずに済むうえ、オリガが見ていて楽しいからだ。
当然評価に手を抜くつもりはない。しかしそれはそれとして自分で戦うのも面倒だし、見どころのある生徒はじっくり観戦したい。その両方を満たす素晴らしい試験方法だ。
(とはいえ、今見た感じだとあの赤髪の子––––ユラちゃんが実力的に浮いちゃってるね)
オリガは受験者のフリをしながら様子を伺う。
会議で聞いた話だと、もう一人相当魔力の運用に優れた受験者が来るはずなのだが、どうやらまだ来ていないようだ。
(うーん、このままだと他の子との対戦が決まっちゃいそうだね。仕方ないから僕の方で相手するしかないかな……)
そう思い、オリガが動こうとすると、ちょうど扉が開く音がした。
「……騒がしいな、何かあったのか?」
少年––––シリウスがそうオリガに尋ねる。
オリガを見たその瞳には、わずかに驚きが映っていた。
(なるほど、魔力視まで備えてるっていうのは本当みたいだね。僕が他の受験者とは違うことに気づいているみたいだ)
その様子からオリガは彼がシリウスだと確信した。
「見ていないのかい? 二次試験は一次試験合格者同士の模擬戦らしいんだよ。それでみんな対戦相手を探そうと軽く自己紹介をしていたんだ」
そう言って軽く壁の掲示を指して、中央へと誘導する。
そこからは知っての通り、彼はユラに向けて宣戦布告を叩きつけることとなる。
(にしてもあれは傑作だった。まさかこの時点で『いずれこの学園で頂点に立つ』だなんて宣言するとはね。彼のこれからが非常に楽しみだ)
そう回想しながらも、笑みをこぼす。彼の破天荒さはオリガからしたら好印象だった。
(それじゃ、教師として全力でお膳立てしてあげないとね)
「僕はオリガ––––––この学園の教師だ。君たちからしたら、二次試験の試験官って言った方がいいかな」
そのためにも、彼はまず己の正体を明かすことに決めたのだ。
◆
「それじゃ、ちょっと離れてね。『大地壁』」
オリガがそう言うと、地面が盛り上がり部屋の中央に円形のフィールドが形成される。
土属性の魔法だ。込められた魔力は相当のもので、壊れるどころかちょっとやそっとでは傷すらつきそうにない。
「なるほど。さすが魔法学園の教師といったところか」
シリウスが思わず感嘆の声を上げると、隣でそれに同意する声がした。
「同感ね。これならアタシの火力でも一撃で壊すのは苦労しそう」
魔力を見るまでには至っていないようだが、感覚的に察するだけの実力はあるようだ。
これは楽しくなりそうだ、とシリウスは考える。
「ああ。それなりに頑丈に作ったから全力で戦っていいよ。光属性の術師も控えているから、死にさえしなければ大抵の怪我も治せるし」
もっとも、そんなことになる前に自分が止めるつもりだが。
事実、そのためにスタジアムを自分で形成しているのだ。
咄嗟の瞬間に岩の壁を作るなら、自分の魔力に馴染んだものが一番いい。それこそ、自分の魔力から生み出したもののような。
そんなことを考えながら、オリガは二人に位置につくよう促す。
「それじゃ、準備はいいかな––––始めっ!」
「喰らいなさい––––『火球』ッ!」
号令と同時に炎が舞う。
先に仕掛けたのはユラの方だった。
ユラの掌で魔力が揺らぎ、火球が放たれる。
『火球』は火属性の基本魔術だ。
魔力を炎に変えて放つだけの、単純な魔術。
しかし、単純ゆえに込める魔力の量、コントロールによって破壊力が大きく変わる。
ユラはシリウスの見立て通り魔力操作に優れている。ゆえに、魔力の込め加減によってはただの基本魔術でさえ当たれば必殺の武器となる。
しかし、シリウスはその必殺の火球を涼しい顔で躱していく。
魔力さえ込めずに、ただ身体を逸らし、数歩動くだけでいなしていく。
「フン、その程度か? それなら迎撃するまでもないな」
あからさまな挑発。本来ならば乗る必要などないが、これは試験だ。
しかも、あの魔法学園に合格するか否かを決める、重大な一戦。
ゆえに、ユラには『攻めない』という選択肢は残っていない。
「舐めないでよね! 『火球』!『火球』!『火球』!」
逃げ場を無くすように火球を飛ばしていく。
ユラの魔力の込められた強力な炎は、躱されたとしても地面を削り徐々に足場を悪くしていく。
そして土煙が視界を奪う中、ユラが一気に距離を詰めた。
「いい加減、当たりなさいよ! 『火球』!」
ユラがシリウスに迫った瞬間、ついにシリウスが距離を取るように退いた。
「たしかに火力はそれなりにあるようだが、この程度で傷ついてやるわけにはいかんな」
そして左手に魔力を込め、雷へと変化させた。
これは基本魔術と同様の予備動作だ。
「魔法というのは、こう放つのだ」
しかしシリウスはその魔力をそのまま放つことはせず、それを右手で引き絞り、鋭く変化させて放った。
「『雷矢』!」
何かが来る、そう思い躱そうとしたユラだが、放たれた瞬間には右肩に雷が刺さっていた。




