003. 俺様貴族は入学試験を受けるようです(2)
魔法学園の入学試験は二日に分けて行われる。
一日目は0次試験と呼ばれる魔力計測と、一次試験である筆記試験。
そして二日目。
二日目の実技試験の対象になるのは、一日目を経て合格の者のみだけだ。
合格したものには学園の方から招待状が渡されることになっている。
そして、シリウスは当然一日目を乗り越え、二日目の受験資格を手に入れていた。
「ここが二次試験の受験会場か」
案内に書かれていたのは魔法学園の中の訓練場と呼ばれる施設。
二次試験はいくつかの会場に分かれているらしく、シリウスの案内には『Aブロック』と書かれていた。
試験場の扉を抜けると、既に二十人近くの受験者が待機しているのが分かった。
入った瞬間扉が閉まり、ガチャンと自動で錠が下りた。どうやらシリウスが最後のようだ。
周囲を見回すと、中央付近に人が集まっているようだ。しかも言い争うような声も聞こえる。
「……騒がしいな。何かあったのか?」
ちょうど扉の近くにいた紫髪の男に、何があったのかを尋ねる。
「見ていないのかい? 二次試験は一次試験合格者同士の模擬戦らしいんだよ。それでみんな対戦相手を探そうと軽く自己紹介をしていたんだ」
そう言って彼は壁に貼られた紙を指した。
そこには紫髪の男が言う通り、二次試験の概要が書かれている。
しかし、それだけにしては聞こえてくる声は荒々しく感じる。
「自己紹介にしてはずいぶん騒々しいみたいだが」
「ああ、それは……見れば分かるよ」
騒ぎの方に目を向けると、赤髪の少女と黒髪の少年が言い争っているのが見えた。
「アンタ、その歳でまだ属性に覚醒していないの? 雑魚は国に帰りなさいよ。この魔法学校にふさわしくないわ」
勝ち気そうな赤髪の少女が、黒髪の少年を見下して言い放つ。
(なるほど、一次試験の結果に納得がいかないと言ったところか。無属性なだけで下に見るとは、視野の狭い奴だ。しかし、魔力の流れは相当な練度だ。実力に裏打ちされたプライドではあるようだ)
シリウスは彼女を観察し、十分な実力があると察する。
「そんなの、やってみないと分からないじゃないですか!」
負けじと食い下がる黒髪の少年。しかし、本人も属性に覚醒していないハンデは身に染みているようで、明らかに強がっているのが見て取れる。
(ほう、この黒髪も面白い。属性には覚醒していないようだが、体内の魔力の巡りの均一さだけを見れば赤髪にも劣らない。相当高度な身体強化を使えそうだ。が、もし戦ったとしてもそれを披露することはできんだろうな。力の差が大きすぎる)
そこまで眺めると、シリウスは思いついたように紫髪の男に告げた。
「少し口を挟んでくる。俺の相手をしたかったのなら悪いな」
「おや? 振られてしまったのかな。でも気に病まなくていいよ。どうせ学園でまた会えるだろうしね」
「フン。試験に合格してもいないのに、随分と傲慢な奴だ」
君に言われたくない、とでも言いたげに紫髪が肩をすくめて笑うのが見えた。
(あの紫髪の男も底が知れないな。あれだけ近くにいたというのに全く魔力の流れが読めなかった)
シリウスがそんなことを考えている間も言い争いは続き、むしろ熱を帯びている。
そしてついに赤髪の少女が宣戦布告を叩きつけた。
「ふん、じゃあ二次試験はアタシが相手してあげる。それだけ言うならアンタの実力を見せてみなさいよ」
「の、望むところです!」
一触即発の空気。周囲で様子を伺っていた受験者たちも、戦闘に巻き込まれてはいけないと距離を取り始めた。
ただ一人、近づいていく男を除いて。
「待て、貴様ら。この俺を差し置いてずいぶんと盛り上がってくれているではないか」
その男、シリウスが傲岸不遜に言い放った。
「何よアンタ。今はアタシがコイツと話してるんだけど」
赤髪の少女がシリウスを睨む。
しかしシリウスは彼女の視線を冷静に受け流し、二人の間に立ちふさがった。
「落ち着け赤髪。これは入学試験だろう。全力も出せん相手と戦っても試験官の評価は伸びん」
「は? アンタなんかに心配される筋合いないんだけど」
そう睨みつけてくる赤髪の視線を意にも介さず、今度は黒髪の少年に向き直る。
「それと、無属性の貴様。挑発に乗るな。見たところ、貴様は近接戦が得意なのだろう? 相手が悪いことくらい分かるだろう。せっかく一次試験を超えたのだ。いたずらにチャンスを棒に振るな」
「それは、そうかもしれません……」
事実、己の実力が届かないことを理解していた黒髪の少年は、自分が助けられたのだと理解した。
急に割り込んできて驚いたが、彼は尊大な口調の割には優しいのかもしれない。
けれど、それを面白く思わないものもいる。
「さっきから偉そうだけど、アンタならアタシの相手ができるってわけ?」
赤髪の少女だ。
宣戦布告を無為にされただけではなく、衆目の中、上から目線で一方的に非を責められたのだ。
自国では貴族として育ってきた彼女のプライドは許さなかった。
どうせ自分よりも低い実力なのだろう。偉そうに口を挟むな。そんな意図を込めて言い放つ。
しかしその答えは意外にも
「ああ。そのつもりで口を挟んだ」
と、挑戦を受け入れるようなものだった。
(馬鹿ね。アタシに勝てるわけないのに。女だからって舐めているのかしら?)
少女はけん制するように魔力を高める。
事実、彼女は今年の受験者の中でもトップ層の一人で、魔力測定の時点でシリウス同様教師に目を付けられていた。
「ふぅん、それなら実力を見せてもらおうかしら。アタシはユラ。炎属性の魔術師よ」
魔力の高さを見せつけるように、右手から火球を出す。
単なる火球ではない。ユラによって高密度な魔力を注がれたその炎は、周囲の空気を歪ませるほどにプレッシャーを放っている。
「ああ。受けてもらえて光栄だ。俺の名はシリウス。シリウス・フォン・ウェスターリング。雷属性の魔術師だ。そして、いずれこの学園で頂点に立つ男だ」
けれど、そんな脅しに怖気づくシリウスではない。むしろ余裕の笑みを浮かべてそう宣言した。
当然、挑発し返すように雷を迸らせるのも忘れない。
「な、雷属性だって!?」
「勇者と同じ属性じゃねえか! 実在したのかよ」
「おいおい、そんなことよりアイツ、まだ入学前だってのに馬鹿なんじゃねえか?」
「そうだよ。試験官なんかに聞かれたら……終わったね、彼も」
シリウスの宣言を受けてざわめく会場。
そんな中、一際大きく拍手の音が響いた。
そして、人混みの中から一人の受験者が前に出てくる。
「ふふふふ、あはははは。最高だね、君。入学もしてもないのに学園で頂点に立つなんて言う子と会ったのは初めてだよ」
それは先ほどまでシリウスと話していた紫髪の男だった。
「あー面白い。じゃあ、面白いものを見せてもらったお礼として、二次試験の一戦目は君たち二人の模擬戦にしてあげようじゃないか」
そのあまりの上からの物言いに、受験生たちから疑念の視線を向けられる紫髪の男。
それはシリウスも同様で、彼らを代表するように問いかける。
「ずいぶんと上からの物言いだが、貴様は何者だ?」
「ああ、言い忘れてた」
すると、紫髪の男の男は、わざとらしく肩をすくめる。
「僕はオリガ––––––この学園の教師だ。君たちからしたら、二次試験の試験官って言った方がいいかな」
そう、己の正体を明かした。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
少しでも『おもしろかった!』『続きが読みたい!』と思っていただけたら、下の☆☆☆☆☆の方を★★★★★にしていただけると励みになります!




