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74.サザリーナンダ公爵領 1

二学期末休みに私はフィアレアラ様、クノハ王義母殿下、クララ王姪殿下を我がサザリーナンダ領にご案内することになった。


期末休みは、15日間だが、宿題や新学期の準備、なにかしらのアクシデントにも備えるために移動や滞在日程には少し余裕を持つ。


サザリーナンダ領まで往復5日間。領滞在は7日間の計12日間の予定だ。ご案内する領内も決まっている。領都、隣国との国境の街、ウェスターナルとの領境の街、農園、フルーツ栽培の盛んな街を巡り、最後に海辺のリゾート地として人気のマナリーに滞在し、海水浴やバーベキューを楽しみ、王都に戻る予定だ。各滞在地での宿屋は良質の温泉冷泉が楽しめるところを選んだ。


実は領をご案内するよりも楽しみに思っていることがある。クノハ王義母殿下の魔法指導だ。公爵家の五星が王族五星の方の魔力に触れることは普通めったにない。私のような公爵家の子供が大人の王族の方の魔力に触れる機会なんて全くない。なのに魔法指導していただけるなんて驚きと光栄で胸が高鳴る。


毎日が移動になので、魔法指導は、移動中、宿屋など、時間帯もバラバラになってしまうが、合計二時間前後くらい毎日教えていただける。めちゃくちゃ嬉しい。


出発当日、朝6時に王宮に皆様をお迎えに行く。馬車は二人一組。組み合わせはその時によって異なる。最初は、私はクノハ王義母殿下と一緒。フィアレアラ様とクララ王姪殿下の組だ。王都入り口南の検問所まで馬車は常歩でトコトコ約三時間。移動中の馬車の中でさっそくクノハ王義母殿下の初めての魔法指導が始まった。


「よろしくお願いいたします。クノハ王義母殿下。」


「はい、はい。こちらこそよろしくお願いいたします。私のことは、『先生』って呼びなさい、リマリーエ。さっそくだけど、あなた、『幹』は分かるかしら?」


「分かりません。初めて聞きました。」


「やっぱりそうよね~。予想通りだけど、12日間では難しいわね。誰でも自分の『幹』が分かるようになるまで1ヶ月以上かかるのよ。幼い幼児ならば、一年とか、二年とか、それ以上よ。私は、七歳の頃からはじめたけれど、三週間毎日毎日考えても全然分からなかったわ。それを12日間でなんて、私みたいな普通の五星の普通の指導ではたぶん不可能よ。でもちゃんと対策ならば用意しているから心配は要らないわ。」


「クノハ先生が普通の五星なのですか?不可能なのですか?」


いきなり不安になってしまった。大丈夫なのだろうか?


「みんな普通なのよ。あなたも私もね。対策があるから大丈夫よ。『幹』はね、とても大切な基本中の基本だから、分からなくてもいいから12日間のうちの半分は『幹』のために使うわ。『幹』はね、己の魔力の『源』なの。心臓のね、すぐ近くにあるの。ここよ。ちょうどこの辺り。分かるかしら?」


クノハ先生は、私の手を私の胸の辺りに当てた。


「心臓が動いていることしか分かりません。」


「そうよね~。最初は、普通そうとしか分からないわ。もう少し内側よ。体の中心のこの辺り。己の魔力を感じないかしら?」


「全然感じません。むしろ馬車が揺れるので、心臓が動いているのか、体が動いているのかもよく分からなくなりました。申し訳ありません。」


「…。それはそうかも?馬車の中でなんて申し訳ないけれど、長い移動時間に何もしないのはもったいないわ。難しいけれど感じる努力はするべきなのよ。最初から分かる人なんていないから、焦る必要はないわ。でも、12日間しかないからね、夜寝る前とか朝起きた時とかの少しでも時間がある時には『幹』を感じる努力をしなさい。その努力が力になるから。」


「はい。」


クノハ先生は、そう言って毎日私に『幹』を感じる指導をしてくれた。魔法指導は1日二時間前後とおっしゃっていたのに、三時間、四時間と少しでも隙間時間が取れる度に私に指導してくださっていた。たくさん指導していただいているのだから私はなんとか先生の指導に応えたいと思っていた。

だが、私は6日経っても全く分からなかった。


「限界ね。明日は魔法指導の時間に少し痛いかもしれないけれど、強制的に覚えてもらうわ。ごめんなさいね。」


「はい。申し訳ありません。」


「いいのよ。最初から厳しいって思っていたから。でも、出来る限り足掻いてみなさい。」


「はい。」


初日の早朝から始まってもう一週間ずっと私は先生の言う『幹』が分からないままだ。領内を巡っている間も、食事の時も、お風呂に入っている時さえもほぼ1日中そのことばかり考えてしまう。


………………………


「リマリーエ。リマリーエってば。リマリーエ。ねぇ、リマリーエ。」


「あっ、はい。フィアレアラ様。」


「着いたわよ。今日はフルーツ畑なのよね?昨日はカラフルなお花や動物、昆虫をいっぱい見て楽しかったわ。南国フルーツなんてめちゃくちゃ楽しみだわ。」


フィアレアラ様は、フルーツ畑に着くとすぐに収穫のお手伝いをし始めた。とてもうれしそうに。そしてもぎたてフルーツを美味しそうに食べている。


フィアレアラ様はいつも通り楽しそうに観光をしている光景なのだが、クノハ先生とクララ王姪殿下もいつも通りだ。初日の移動の時からずっと同じ。休憩場所や移動場所で必ずクノハ先生は、クララ王姪殿下に魔法指導をたぶんしている。だが、私には何を指導しているのかが全く分からない。…見えないのだ。どこか移動場所に着くとすぐに二人は消えてしまう。

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