75.サザリーナンダ公爵領 2
「リマリーエ、リマリーエ。ねぇ、リマリーエ。食べないの?これ、何?めちゃくちゃ美味し~い。甘~い。」
「えっ?あっ、はい。いただきますわ。」
いつも通り、フィアレアラ様はあのお二人のことを全く気にしていない。たぶん魔法指導らしいことが終わってあのお二人が私達のところに戻ってきた時も余計なことを何も話さないし、聞かない。だが、そのことは私一人仲間外れにされているような気分になってしまう。
フィアレアラ様とフルーツをいただきながら、思いきって聞いてみる。フルーツを口実に。ずっとずっと何をしているのか気になって仕方ないから。
「フィアレアラ様。クノハ先生とクララ王女様はどちらにいらっしゃるのですか?お二人ともフルーツをお召し上がりにならないのでしょうか?」
「ん?今、集中しているから邪魔出来ないわ。終わったら食べるんじゃないかしら?」
「前から気になっていましたが、クララ王女様は何の魔法の練習をしているのですか?」
「…。そうよね~。それは…。」
「それは?」
「リマリーエに言っても分からないわよ。説明してもね、???で終わりよ。一から説明なんて時間の無駄よ。」
やっぱりだ。私もそう思っていたから今まで聞かなかったのだから。私なんか全然ダメなんだ。私みたいな旧マ・アール五星は、王家王族家系五星の足元にも及ばないことは分かっていた。だけど、期待していた。クノハ先生に魔法指導していただいたら、私ももっと強い五星になれるのではないかと。
私は基本中の基本だという『幹』も分からない。今日がタイムリミット。私は結局何も分からないままで終わってしまう。
涙が溢れ出す。私は6日経っても初日の朝と何も変わらない。でも、クララ王女様は昼間クノハ先生からの魔法指導を受けて成長しているのだ。私なんかとは違って。フィアレアラ様も私に説明するなんて時間の無駄だと言った。
「えっ?えっ?リマリーエ。泣かないで。ごめんなさい。」
ポロポロポロポロ涙が溢れ出てきて止まらない。
「時間の無駄なんて言って悪かったわ。リマリーエ。ねぇ、泣かないで。ごめんなさい。」
自分の不甲斐なさをフィアレアラ様の責任みたいにして泣いている自分が情けないと思うのに涙が止まらない。
「本当にごめんなさい。お願いだから、泣き止んで。」
フィアレアラ様に抱きしめられ、彼女の魔力で癒される。温かい彼女の魔力。ごめんなさい、ごめんなさいと謝罪する気持ちと私を大切に思ってくれる優しい気持ちが伝わってくる、そんな極上の魔力だ。
彼女の魔力に癒された私は彼女に理由を話した。
「申し訳ありません、泣いてしまって。フィアレアラ様は悪くありません。私が…、私自身が全然ダメだから悲しくなってしまったのですわ。」
「全然ダメってそんなことないわよ。私が悪かったわ。ごめんなさい。」
「違いますわ。私がダメなだけなのです。私、毎日クノハ先生にたくさん魔法指導していただいているのに、一番最初の基本の基本さえも分からないのですわ。全然ダメなのです。」
「一番最初の基本の基本って、もしかして『幹』?
ならば、6日では分からないのが普通よ。でも、リマリーエが知りたいならば、私が教えてあげるわ。すぐわかるようになるわよ。」
「本当ですか?」
「ええ。」
「ならば、教えてください。」
「いいわよ。『幹』はね、体の中心のちょうどこの辺りにあるわ。ここよ、ここ。」
クノハ先生と同じところだ。でもやっぱり全く分からない。
「『幹』はね、魔力の『源』なのよ。『幹』を拘束されたら、一瞬で気絶するわよ。」
「…。一瞬で気絶…。」
「ああ、そうね。私の歓迎パーティーの時、あなたの『幹』を拘束したわ。」
あれか~。
あの時のことを思い出す。じわりじわりとゆっくり私の魔力を支配されたことを。
「私、あの時ね、同い年のあなたと仲良くしたいって思っていたから、なるべく恐怖感を与えないようにあなたの魔力に同調しながら『幹』の手前までゆっくり拘束したのよ。でも、あなたが全然降参しなかったから、最後は『幹』を拘束したわ。ごめんなさい。」
「いえ。あれは私が悪かったのですわ。
ところで『幹』の手前までって、フィアレアラ様は相手の『幹』が分かるのですか?」
「分かるわよ。魔力勝負は相手の『幹』を拘束すれば勝ちだから。あの時は回りくどいことをしたけれど、一撃も出来たわ。」
分かってはいたが、私は相当手加減していただいていたようだ。
「あの時と同じでなるべく恐怖感を与えないように拘束するわね。リマリーエが恐怖を感じたいならば、そっちでもいいわ。たまに恐怖感が好きなヤバい五星がいるのよ。恐怖で魔力を支配されて喜ぶヘンタイが。」
「…。
恐怖感は遠慮いたしますわ。私は恐怖で魔力を支配されて喜ぶヘンタイではありませんから。」
「良かったわ。リマリーエがヘンタイでなくて。」
あの時と同じように、フィアレアラ様にゆっくり支配され始める。それは分かる。じわりじわり締め付けられ、痛いといえば痛い。
「『幹』の手前でストップするわよ。
どう?『幹』は分かったかしら?」
「分かりませんわ。私の魔力を拘束されているのは分かりますが。」
「そうよね~。これで分かるようになるならば、誰でも簡単に分かるからね。分からない方が普通だわ。
申し訳ないけれど、今から『幹』を拘束するわよ。私が拘束するところが自分の『幹』だと意識してみて。一瞬よ。すぐに回復するわ。ちょっとだけ苦しいけれど、我慢してね。いくわよ。」
「はい。はぐっ。」
……………………
「…リーエ、リマリーエ。大丈夫?ねぇ、リマリーエ。」
「…。フィアレアラ様?」
「大丈夫?リマリーエ。」
「…はい。大丈夫ですわ。回復魔法ありがとうございます。」
「ごめんね。痛かったわよね。苦しかったと思うわ。」
「痛いことは痛かったですけれど、私がお願いしたことですから。」
「うん。『幹』は分かった?」
「なんとなく分かりましたわ。一番痛かったところですよね?きゅっと締め付けられて、潰されるような苦しみを感じましたわ。」
「ごめんね。もう痛みはないと思うけれど、あなたが痛いのが好きならば、もう一度拘束してあげるわよ。」
「…遠慮いたしますわ。痛いのはイヤです。」
「よかったわ。リマリーエが痛いことが好きなヘンタイでなくて。たまにいるのよ。もっと拘束して欲しい、踏みつけて欲しい、下僕にしてくれって言いながらつきまとってくるヤバい五星が。」
えっ?それは気持ち悪い。そんなヘンタイは私もイヤだ。
でも、待って。
もしその後にフィアレアラ様の極上の魔力で癒されるとしたら?
痛みの後のフィアレアラ様回復魔法が最高にいいことは分かる。彼女の魔力をずっと感じていたいと思うし、お側にいたいとも思う。
『下僕』…。いっ、いい…、いっ、いやいや、いいわけないわ。
私はそんなヘンタイではないが、一瞬『下僕』でもいいかと思ってしまうところだった。危なかった。
「リマリーエ、『幹』が分かったならば、感じることに集中してみて。そこに魔力が集まっていることが分かるかしら?そこから体全体に魔力が流れていることが感じられるかしら?」
「…。まだなんとなくそんな気がするだけですわ。」
そうだったわ。『幹』だった。『下僕』で頭がいっぱいになるところだったわ。危ない、危ない。
『最初はそれでいいのよ。そのうち魔法を使う度にわかるようになるわ。『幹』を感じることはね、魔力量を調整する技術に必要不可欠なのよ。』
「魔力量を調整する技術ですか?」
何それ?初めて聞いた。
「ええ。古のね、失われた技術よ。この技術はね、七歳~十歳くらいの子供の頃に身に付けないと一生出来ないの。つまり、その技術のない大人は子供に教えることが出来ない。
五星はね、他人に魔法を教えることを嫌がるわ。命に関わるから。自分の子孫を守るために五星が魔法を教えるのは基本的に自分にとって大切な子供だけなのよ。だから、一度でもそれが途絶えてしまったら、他人から教えてはもらえない。とても大切な技術なのに失われ易い理由の一つよ。」
「私はそんな凄い技術を学べるのですか?私、魔力量を調整できるようになれるのですか?」
「なれるわよ。練習が必要だけどね。後はクノハ先生に教えてもらってね。
今は、魔法よりも大切なことがあるわ。」
「えっ?マジですか?何ですか?」
何だろうか?魔法は命に関わる『力』だ。五星ならば、誰でも強くなりたいと思う。己を守るために。なのにその魔法よりも大切なんてとても気になる。おそらく教科書には載っていないような重要秘密なのだろう。
「フルーツが先よ。早く食べないと、リマリーエの分も私が食べるわよ~。最高に美味しいわ。魔法なんて後よ。いつでもいい魔法は寝る前にでも練習したらどうかしら?」
「…。
…たくさん食べてください。私は領に戻った時はいつも食べてますから。」




