72.サザリーナンダ父娘
父:「カナリーエ、リマリーエ、お前たちに少し聞きたい事がある。」
姉妹:「「はい。お父様。」」
父:「カナリーエ、お前は普通の結界を何重に張れる?」
姉:「三重で精一杯ですわ。四重は出来ません。」
父:「リマリーエ、お前はどうだ?」
妹:「二重で精一杯です。ギリギリです。三重にチャレンジすることも出来ません。」
父:「例えば、国王陛下とかの王家王族家系五星の方が普通の結界を重ねて張るとしたら、何重まで張れると考える?」
姉:「五重くらいでしょうか?ギリギリ六重?それ以上はいくら王家王族家系五星でも無理だと思いますわ。」
父:「リマリーエ、お前はどう考える?」
妹:「十重とかそれ以上でしょうか?15重くらい?」
姉:「はぁ?何言ってるの、リマリーエ。あなたはまだ初等学校二年生だからかも知れないけれど、王家王族家系五星でも普通は五重で精一杯なのよ。六重なんてたぶん無理よ。十重なんて聞いたこともないし、ありえないわ。一般常識よ。知らなかったのならば、知っておきなさい。」
妹:「私は、出来ると思ってます。」
姉:「出来ないと言っているわ。一般常識だとも。私の言っていることが理解出来ないなんて、バカな異母妹ね、あなた。妹がバカだと姉の私が恥ずかしいのよ。黙りなさい。」
妹:「出来ます。黙りません。」
姉:「リマリーエ、あなた、バカな上に姉の私に口答えまでする気?容赦しないわよ?」
父:「止めなさい。カナリーエ。」
姉:「…はい。お父様。」
父:「リマリーエ、お前は何故そう思うのだ?」
妹:「それは…。
フィアレアラ皇女殿下が多種の結界を少なくとも五重以上重ねて張れるからですわ。普通の結界だけならばもっとたくさん重ねて張れると思っています。」
父:「ほう。フィアレアラ皇女殿下は、いつ多種の結界を重ねて張ったのだ?」
妹:「春の遠足の時ですわ。クラスメートの女児達五人を連れて川の上を歩いていました。私は水面を歩くなんて怖いので遠慮しましたが、足元だけに結界を張っていたと思っています。」
父:「足元だけの結界とは凄いな。」
妹:「はい。その後、アレクが川の溺れて、フィアレアラ皇女殿下は、クラスメート五人全員を連れたままアレクを助けるために転移魔法で彼のところに移動しました。他人を連れての転移魔法です。私の知らない結界を張ったと予想します。さらに、クラスメートは五人とも三星でした。多種の結界のうち一番内側は魔力隠蔽結界と予想します。そして、一番外側もですわ。フィアレアラ皇女殿下の結界からは殿下の魔力を一切感じませんでした。つまり、一番外側から魔力隠蔽結界、足元の結界、五人のクラスメート達を連れて転移するための結界、一番内側は、五人の三星のために殿下の魔力を隠蔽する結界と、少なくとも四重の結界が張られていました。もしかしたら、足元の結界の上にも魔力隠蔽結界を張っていたかも知れません。五重か、もしかしたらそれ以上だった可能性もあります。」
姉:「マジ?リマリーエ。春の遠足でそんなことがあったの?」
妹:「はい。お異母姉様。私のお母様は知っています。お父様は?」
父:「私もエリゼラから聞いてはいたが、多種の多重結界の話は今初めて聞いた。リマリーエ、何故そのことを言わなかったのだ?」
妹:「私の予想だからですわ。四星のお母様に言っても分からないだろうし、むしろ変な話として伝わってしまう可能性が高いです。同級生や、先生方も同じですわ。初等学校にいる五星は私とフィアレアラ皇女殿下だけですから、四星以下の者たちは、あのとき何がどうなっていたかなんて分かっていないと考えられます。フィアレアラ皇女殿下は何も言いませんから、私も聞いていません。五星にとって魔法は命に関わる大切な力です。友人ではありますが、殿下は留学中の帝国の皇女殿下です。私が聞いたり、誰かに話したらお困りになられるかも知れないと思い黙ってました。川で溺れるアレクを助けていただいたという事実だけで十分ですから。」
父:「そうか。分かった。確かに、殿下は帝国の皇女殿下であるからこと魔法に関してやたらに触れ回るのはよくない。まだ初等学校の子供故に気にする必要もないかも知れないがな。」
妹:「はい。お父様。」
父:「今日、私がお前たちに結界のことを聞いたが、その事も他言無用だ。分かったな。」
姉妹:「「はい。お父様。」」
父:「ああ、そうだ。リマリーエ、お前、二学期末休みに自領に戻る時に友人のフィアレアラ皇女殿下と一緒に行きたいと言っていたな。」
妹:「はい。お父様。」
父:「殿下は他国の皇女殿下だから、王都を離れるならば、五星の保護者が必要になる。私は王都を離れられないし、領を守る父上にお願いすることも出来ない。大叔父上のところの分家サザリーナンダ一族五星にも頼み辛い。お前のお願いを聞いてやりたいとは思うが現状難しい。」
妹:「はい。」
父:「だが、もし、クノハ王義母殿下が一学期末休みの時みたいに殿下の保護者になっていただけるとしたら、お前はどうする?本家サザリーナンダの五星令嬢として責任を持ってクノハ王義母殿下達に我が領内をご案内出来るか?」
妹:「はい。お父様。出来ます。」
父:「カナリーエ。お前はどうする?次の二学期末休みにお前も我が領に戻るか?大丈夫とは思うが、中等学校三年生のお前は来年の高等学校受験勉強があるから無理強いはしない。」
姉:「私は遠慮致しますわ。受験勉強でしたら完璧ですからご心配にはおよびません。ですが、二学期末休みに異母妹の友人の初等学校のチビッ子と一緒に遊びながら自領巡りなんてないですわ。私はもうそんな子供ではありません。」
父:「…そうか。」
姉:「日焼けもしたくありません。それでなくても南国サザリーナンダ家系は色黒なのに。王都にいても日に当たりたくないのにサザリーナンダ領なんてもっとイヤですわ。『海』なんて近付きたくもありません。外遊びを喜ぶのは初等学校以下のチビッ子だけですから。」
父:「…。分かった。お前は王都にいていい。」
姉:「あー、良かったですわ。リマリーエ、行ってらっしゃーい。自領のことは私の優秀な異母妹のあなたに全部任せたわ。頑張ってご案内するのよ。」
妹:「…はい。お異母姉様。」