71.第一王妃クノン 7
「やはり、そうですわよね~。難しいですわよね~。でも、実は、私、難しいなりにもフィアレアラ皇女様のお願いを聞いて差し上げたいと思い、色々考えてはいたのですわ。
例えば、一学期末休みのノーストキタの時のようにまた私の母上に保護者をお願いするとか。あの時は、父上も一緒でしたからソウルも連れて行って頂きました。ソウルがノーストキタ公爵領に行ったのは初めてでしたからいい経験になったと思いますわ。
サザリーナンダは、第二妃タミル様のご実家がありますから、今度はハウル第二王子を、とも思いましたが、そうなれば五星男性を保護者に付けないといけません。現役を引退した母上と違い兄上は長く王都を離れることは出来ませんからハウル第二王子は難しいですわね~。
母上も姪っ子のクララとフィアレアラ皇女様の二人の毎日の魔法指導のことがあります。フィアレアラ皇女様には申し訳ないのですが、今回は難しいと思っていたのです。」
さりげなく、彼が大切に思っている第二王子の名前を出す。五星第二王子の後見人は母親の実家の分家サザリーナンダ公爵家ではなく、本家サザリーナンダ公爵家。つまり、現当主の彼こそが第二王子の後見人なのだ。そして、その第二王子の魔法の先生が私の兄上であるということも忘れない。話題を魔法指導に変えることにも成功した。
「ああ、クノハ王義母殿下がクララ王姪殿下とフィアレアラ皇女殿下の両殿下に魔法指導なされているとは聞いています。」
「魔法指導は毎日ですから。
ところで、サザリーナンダ公爵、あなたの五星の二人のご令嬢達の魔法指導は?」
「私なのですが、平日は仕事がありますから休日のみになります。上の娘は私の魔法指導を嫌がるようになりました。中等学校三年生の思春期の少女ですから父親を嫌がるのは仕方ないと思ってますが、寂しい限りです。上の娘がそんな態度を取るから下の娘までが真似して微妙な態度を取ります。自分の子供ですが異性は難しいですね。」
「魔法指導は、スキンシップがありますから。中等学校三年生の思春期の少女ならば、父親に手を握られての魔法指導を恥ずかしいと思う気持ちは分かりますわ。姉がそうすると妹までが恥ずかしいと思う気持ちもですわ。私も妹ですから。
王家王族ならば子供の魔法指導は同性と決まってますが、各公爵家は、そうもいきませんから難しいですわね。
特にサザリーナンダは、一番強い公爵家系五星旧マ・アールですから、令嬢達の魔法指導の出来る五星女性は限定されてしまいますわね。」
「はい。他公爵家系には何人か成人女性五星がいらっしゃいますが、うちの家系に成人女性五星はいませんので。」
「唯一いるとすれば…、私の母上でしょうか?イーデアルに降嫁されたレティーア王女は、子供が生まれたばかりですから、領から出ることは出来ませんし。
ならば、そうですわね~、今度の二学期末休みに私の母上に魔法指導をお願いするのは如何ですか?」
母上とは事前に話し合い済みだ。魔法能力向上のためにサザリーナンダ公爵領の自然と遊び自然に触れて学ぶ、という口実でサザリーナンダ公爵領の各地を巡る予定なのだ。クララに魔法指導するためには、案内役となる令嬢リマリーエの存在を無視出来ない。彼女にも魔法指導する必要がある。
「えっ?クノハ王義母殿下の魔法指導ですか?」
「はい。前回のノーストキタの時と同じですわ。フィアレアラ皇女様も、姪のクララも、息子のソウルも子供たちは三人ともノーストキタの自然に触れて凄く魔法の技術が上がりましたのよ。魔法はイメージ力が大切ですから、子供のころに自然と遊び、自然を学ぶことが必要になりますわ。」
「それは、その通りですね。」
「サザリーナンダ公爵がよろしいのであれば、私のフィアレアラ皇女様が親友のあなたのご令嬢一緒にまた自然と学ぶ機会をくだされば二人とも喜ぶのではと思いました。もちろん、私の母上に頼むのであれば、姪っ子のクララも一緒に三人まとめてになりますし、母上に聞いてみないと分かりませんが。」
「王族五星の方に魔法指導していただけるなんて、公爵五星としては魅力的なお誘いですね。」
最初に、母上はクララの魔法指導があることはアピールしている。次は母上の魔法の技術力をアピールする。
「まぁ、私は、五星ではありませんが、母上は…、そうですわね~、自分の母親を褒めるなんてお恥ずかしいですが、母上の魔法の技術は凄いと保証致しますわ。私の知る母上の魔法の技術で絶対他の人には真似出来ないのではないかと思うことがありますのよ。常識ではありえないことですし、母上は他人にお話になられていないのでみんな知らないことなのですが…。」
「ほう。それは何でしょうか?」
五星は、みんな魔法に興味を持つ。魔法は『命』に関わる『力』だから。なので五星は、他人に魔法を教えることを嫌がる。そして強い力を持つ五星の魔法を知りたがる。彼もさっき母上の魔法指導は魅力的なお誘いだと言っていた。
「サザリーナンダ公爵は、普通の結界を何重に張れますか?」
「三重ならば完璧に出来ます、が、四重はたいへんです。五重以上は無理ですね。」
「ですわよね。五星でも普通そうですわよね~。四星の私なんて一重で精一杯ですわ。」
「私は、旧マ・アール家系五星ですからその程度ですが、王家王族家系五星のクノハ王義母殿下は五重くらいは可能だと思っています。」
「もっとですわ。」
「へっ?マジですか?六重くらいですか?」
「一桁ではありませんわ。二桁いけるそうですわよ。年齢から母上に若い頃のような魔力はありませんが、技術力は衰えてませんから。信じられないかも知れませんが、本当ですわよ。でも誰にも言わないで下さいね。母上は皆に言ってませんから、私が言いふらしたなんて怒られてしまいますわ。母上は、王族五星らしく控え目なお方ですから。」
「はい。分かりましたが、信じられない気持ちでいっぱいです。そんなにたくさん重ねて張れるなんて初めて聞きました。」
「今は信じなくて結構ですわ。ですが、学期末休みの私のフィアレアラ皇女様のサザリーナンダ公爵領訪問を少し考えてみられてはいかがでしょうか?私も母上に聞いてみますわ。兄上と違って現役を退いた母上は特に予定がありませんので私がお願いするならば大丈夫だと思いますけれど。」
「はい。分かりました。」
「私もフィアレアラ皇女様のお願いを聞いて差し上げることが出来るならば、嬉しく思いますし、ご令嬢も私の母上に皇女様と一緒に楽しく自然と遊びながら魔法指導してもらえば、一味違う五星になられると思いますわ。将来が楽しみですわね。いいお返事、期待していますわ。」
さてと、サザリーナンダ公爵に言うことは言った。後は、彼の判断に任せるしかない。夫のランセル国王陛下に繋がりの深いサザリーナンダ公爵を私は苦手に思って今までは避けていた。
『第二王子の家系を旧ナンダン王族家系だと証明する』
私達のこの計画を進めるためには、彼を私達の見方にする必要がある。ランセル国王陛下とは従兄弟同士の彼を、第二王子の後見人である彼を。
サザリーナンダ公爵家の協力は必要不可欠だ。彼の次女リマリーエには魔力量を調整する技術を身に付けてもらう。そうすれば、第二王子の家系を証明する助けになるはずだから。
サザリーナンダの協力なんて、一番難しいと考えていたが、今日話した彼の反応から案外いけそうに思えてきた。今日の彼の表情は終始柔らかく、笑いもあり、私の話に興味も持ってくれていた。私は、幾分の手応えを感じていた。




