496.ウェスターナル公爵メアリー 25
「上層定例会議では、第一王妃のあなたが説明するのよ。今回は急に決まったことだから私があなたの代わりに説明しているのに、私が頼んだ資料を何一つ用意出来ないなんて、第一王妃失格よ。
もし何をどうすればいいのかさえ分からないようならば、恥を忍んでクノンに聞けばいいわ。クノンも気の毒ね、自分の婚約のための資料を自分が作成しないといけないなんて。兄嫁が役立たずなせいで。
今日の会議は、準備不十分で終わりよ。サザリーナンダ公爵、閉めなさい。」
ご機嫌の悪いクノハ前国王陛下は、すぐにご退出なされました。泣き崩れる第一王妃陛下を全員でお慰めします。
「皆様、会議を台無しにしてしまい申し訳ありません。」
第一王妃陛下は、泣き崩れたまま、土下座のような状態で謝罪しています。同じ女性の私は、第一王妃陛下のお手を取り、椅子に座らせました。机の上には、クノハ前国王陛下の説明を一生懸命なぐり書きしている前第一王妃陛下のメモ書きがありました。その片側には、クノハ前国王陛下からのメモ書きらしき物が置いてありました。
『クノンとザカラン王子の婚約を問題なく国民発表出来るような資料を神殿の間会議が始まる前までに作成しなさい。』
たったこれだけでした。『マジか?そんなの不可能やん。』とは思いますが、これがクノハ前国王陛下のいつも通りだと言われれば、そうなのです。
クノハ前国王陛下は、いつも通りクノン王妹殿下に丸投げすることを、同じように第一王妃陛下に丸投げしたのです。
先ほどのクノハ前国王陛下はご自身の思うがままにご説明され、話があっちこっちに飛んで被る内容までありました。私は異母兄の爵位を継いでまだ三年ですが、いつも通りのクノン王妹殿下のご説明の会議ならばそんなことはないのです。資料に記載された順番通り一直線にご説明が進み、内容が被ることはありません。簡潔で分かりやすく、間違いなく全て正しいと思ってしまうほどの説得力もあります。
あのお方の凄さは身に沁みて分かってます。あのお方は…、クノハ前国王陛下を影で操る真の国王陛下なのです。
上層定例会議は、3、6、9、12の月の13日にひらかれます。したがって、次の上層会議は、12の月13日。その二日前が事前上層会議です。つまり、後11日しかありません。しかも、第一王妃陛下になられての初めての上層会議です。クノン王妹殿下に慣れ過ぎた上位貴族たちを納得させるような資料作成と説明なんて、誰だって無理なのです。
「もう泣くな。婚約の儀まで一時間もない。母上には、私から言っておく。次の上層会議までに母上を納得させる資料作成なんてクノン以外出来る者なんていないのだ。我が王国の歴史に一番詳しいのはクノンだ。誰もクノンの足元にも及ばない。クノン同等の仕事なんて我等には不可能だ。」
国王クロード陛下がそうおっしゃいました。それはその通りです。いくら第一王妃陛下と雖も普通の人間です。何百年前からの前例や法の解釈を全て覚えることなんて不可能なのです。事前に準備するとしても、何十日も、いえ、何ヶ月もかかる資料作成です。王家王族に関する記録は、現代公用語ではなく『マ・アール語』で書かれています。古い資料に至っては、解読困難な『旧マ・アール語』です。マ・アール語を現代公用語に翻訳するだけでも難しい仕事なのです。
国王陛下にそう言われて、第一王妃陛下は、お化粧直しのために控室に行かれました。私たち四大公爵家の当主達は、どうすることも出来ず、ただその場に立ち尽くすだけでした。




