486.彼女のこたえ SIDE:クノン 1
「クノン王女様、ザカラン王太従弟殿下のお使いの者からお手紙をお預かりしています。」
侍女にそう言われ、受け取った手紙を読む。来週の闇の曜日、時間を作って欲しいという内容だった。
闇の曜日は基本お休みだ。次の週の光の曜日に私のお誕生日パーティーが開かれる予定なのだが、自分の誕生日パーティーを取り仕切るなんてことはないので兄の第一王妃に全て任せている。故に、来週の闇の曜日は特に予定がなかった。
ザカラン王子の使いの者に時間は何時でも大丈夫だとの返事をする。しばらくすると再びザカラン王子からお手紙が届けられた。朝から夕方まで1日中でも可能なのかと。いったいどういう意図があるのかは分からないが、特に予定がないので了承の返事をした。
恋人のフィアレアラとは一週間に二回、休前日の火と水の曜日に会っている。以前は、闇の曜日や、光の曜日にも時間が合えばデートをしていたのだが、あの大事件以降、お互いにとても忙しく、デートする余裕がなかった。我が王国のザカラン王子と帝国の皇姪フィアレアラ皇女の一人二役は、双子の王子王女の一人二役をしていたフェリオ&フィオナ様の何倍も魔力を使うことになってしまうこともあり、まだ未成年のフィアレアラには、デートする魔力の余裕がないのだ。万が一に備え、できる限り魔力を貯めておく必要があるから。
フィアレアラと会っていても彼女はザカラン王子のことを何も言わない。何故、突然のザカラン王子からのお誘いなのか、フィアレアラに理由を聞きたいところだが、私もフィアレアラ&フィアランと我が王国のザカラン王子は別人だと思っているので、ザカラン王子のことをフィアレアラには聞きにくい。
………………………
休日、闇の曜日、指定された会議室に行く。彼は既に私を待ってくれていた。侍女を下がらせると、彼は自分と私に結界を張り、転移魔法で移動し始めた。
『やっぱり彼はフィアレアラではない。』と、そう思ってしまった。フィアレアラならば、私の部屋に来てくれるのに。フィアレアラならば私を抱き上げてくれるのに。ザカラン王子は私のフィアレアラとは別人だと思わざるを得ない。
一回目の転移魔法の転移先は、おそらく王都入口の検問所らしきところだった。そして、次の転移先は、何処かのお宿らしきところ。雪が積もっている。何処だろうか?冬の今ならばこの程度の雪はイーデアルでも降り積もる。もちろん、ウェスターナルもノーストキタも同様に。冬に雪が降らないのは、サザリーナンダくらいだ。そして、次の転移先は雪が深い。ノーストキタに間違いないとそう思った。
彼が転移魔法を繰り返す度にだんだん真っ白い雪しか見えなくなっていった。そして着いた場所は?
「おはようございます。ザカラン王太従弟殿下、クノン王妹殿下。お待ちしておりました。」
そう挨拶する見覚えのある初老の女性。
「えっ?北限孤児院?おはようございます、院長。ごめんなさい、私、ザカラン王太従弟から何の説明も聞いてなくて…。」
彼を睨む。何故ここに来るならば事前に説明してくれなかったのだろうか?分かっていたら支援物資を準備したのに、手ぶらで来てしまったではないか。
彼は謝ってくれたが、私は納得出来なかった。だったら何故フィアレアラの姿にならないのか。何故ザカラン王子なのか、説明してくれてもいいのにと文句言いたい。
院長は、私達を子供達のいる場所に案内し、何故みんなここにいるのか説明してくれた。それは、ここ食堂が一番暖かいからだった。
「わぁー。ノン様とFくん様だ。」
珍しい来客に子供達が集まってくる。昨年の大事件の後、ノーストキタでボランティアをする余裕がなく、この孤児院にきたのもニ年前の夏に一度だけ。なのにみんな私たちを覚えていてくれた。
「ごめんなさい。私、ここに来ることを何も聞いてなくて…。なにかお土産があればいいのだけど、私、何も持ってなくて。」
本当に申し訳なく思い、涙が出そうになる。子供達の笑顔が私の心に刺さる。ところが、ザカラン王子は、お土産ならば、ぼくが持って来ていると言ったのだ。
は?何故、私に相談なくそんなことをするのだろうか?意味が分からない。ノーストキタでのボランティアは、元々は私がしていた活動ではないか。フィアレアラは、私がやりたいように手伝ってくれていた。なのに、ザカラン王子はどうだ?私には全く相談なく、自分勝手なことばかり。彼はやっぱりフィアレアラとは全然違う。別人だ。
「女の子達は、クノンと朝のオヤツ作りのお手伝いをお願いできるかな?今日のオヤツは、ホットケーキだよ。クノンは料理が上手なんだ。」
そう言って、ホットケーキの材料を渡される。子供達から歓喜の声があがったが、ザカラン王子の自分勝手な行動に心穏やかではない。
ザカラン王子に言われた通り子供達とホットケーキを作ったが、心の狭い私は、作り笑いをすることで精一杯だった。




