483.彼女のこたえ 5
「いらっしゃい、フィアレアラ。」
いつも通り彼女は私を迎えてくれたが、その笑顔はなんとなくぎこちない。そしていつも通り彼女が用意してくれたお夜食をいただく。彼女は何も言わない。私も何も言わずに下を見ながら黙々と食べた。
「ごちそうさまでした。」
そう言って顔をあげ彼女を見る。彼女は悲しそうな顔をしていた。
「フィアレアラ、ザカラン王子が学校を欠席していると連絡が入ってます。
…私のせいですか?」
そうだと言いたいが、そう言えば彼女を困らせるだけだと分かっているので答えられない。
「ザカラン王子のお返事に一週間待って欲しいと言いましたが、一週間〈以内〉に返事をすると言う意味だったのです。」
どういう意味だろうか?何が違うというのか?全く分からない。
「フィアレアラにザカラン王子のことを相談してから返事をするつもりでした。
私は…、
私は…、
私のお誕生日の前日にいつも通りフィアレアラが私の部屋に来てくれるのだと思ってました。」
私だってそのつもりだった。ザカランのプロポーズを受け入れてくれるものだと思い込み、彼女にお誕生日のプレゼントを渡して、夜を過ごし、お誕生日おめでとうと言うつもりだった。だが、プロポーズを保留にされた私は、彼女の部屋に行けなかった。
「ザカラン王子のプロポーズを受け入れても受け入れなくても、どちらにしても私はもうフィアレアラに会えなくなるのですか?今日、フィアレアラが私の部屋に来たのは、私に別れを告げるためですか?」
彼女は泣きながらそう言った。どういう意味だろうか?何故そうなるのか、全く分からない。
「待って下さい。何故私がクノンに別れを告げないといけないのですか?どうしてそうなるのか意味が分かりません。」
「理由を聞きたいのは、私の方ですわ。何故、先週の闇の曜日、ザカラン王子だけだったのですか?フィアレアラがザカラン王子として我が王国の王太従弟になってくれたのは分かってますが、それは同時にザカラン王子は、フィアレアラとは違う、フィアレアラはもう王国には来ないという意味だったのですか?私はそのことをフィアレアラに聞きたくて、お誕生日の前日フィアレアラを待ってました。ところが、フィアレアラは、ザカラン王子からの伝言で(私の部屋に)行かないと伝えたのです。私はそれがフィアレアラの答えだと思いましたわ。フィアレアラは私と別れるつもりなのだと。私をザカラン王子の妃にするためにフィアレアラは私を振ったのだとそう思ったのです。」
「全然意味が分かりません。クノンは、フィアレアラの私はザカランではないと思っているのですか?クノンはザカランの私と付き合っているのではないのですか?」
「えっ?」
驚く彼女に私が驚いた。
「帝国の壱の宮家の皇姪皇女フィアレアラ・マティスでは、王国の王家の第一王女であるあなたを妃にすることは出来ません。だから私はザカラン王子になったのです。私の妃になってもらうために。あなたは、なぞの少年F、フィアランとしてのザカランとずっと一緒だったではないですか。帝国の皇姪皇女のフィアレアラではなく。もちろん、フィアレアラの魔力の方が便利でしたから、フィアレアラにもなりましたが、基本的に私は、フィアランでした。」
「留学を終えて帝国に帰国したはずの壱の宮家の皇姪皇女フィアレアラ・マティス殿下が我が王国にいてはまずいので、なぞの少年Fくんとしているのだと思ってました。我が王国の隠し子王子の。」
「そうですよ。クノンは、その隠し子王子と付き合っていたのではないのですか?私はそのつもりでいました。だから先週ザカランである私の限界を見てもらったのです。フィアレアラは、帝国の皇女で、ザカランとは違いますから。まぁ、ですが、私が私であることに違いありません。私は、フィアレアラとザカランであり、それからフィオナとフェリオです。かつてレリーリアラがフェリオとフィオナの妃になってくれたように、クノンも私とザカランの両方を受け入れ付き合ってくれているのだと思ってました。」
「私、フィアレアラとお付き合いしている気でいました。ザカラン王子ではなく…。私、ザカラン王子にお付き合いして欲しいなんて言われてませんから。」
「へっ?ザカランは…、いえ、フィアランですね、フィアランは、何度もあなたに言いましたよ。あなたを愛していると。」
「フィアレアラが言ってくれていると思ってましたわ…。フィアレアラのフィアランが。ザカラン王子ではなく。」
「…。」
「…。」
彼女と私の認識のズレに沈黙になる。つまり、彼女は、ザカランのことをフィアレアラとフィアランとは別人だと思っていたということだ。
彼女にとっては、フィアレア≒フィアランなのだが、フィアレアラ&フィアラン≠ザカランだったのだ。




