第87話 龍勢ベルト
上の階は、ダンスホールになっていた。
木のシャンデリアが在りし日の栄華を思わせる。
絨毯は色あせ、虫食いだらけだ。
やはりゴブリンが出てきた。
ゴブリンは首にスカーフを巻いている。
みんなが戦闘態勢をとる。
ふっとゴブリンの姿が霞んでクラスメイトの前衛職がなぎ倒された。
俺は『アミオンの目』でゴブリンを捉えようとして気持ち悪くなった。
人間の脳は超高速には対応していないらしい。
しょうがないので『アミオンの目』をオフにした。
俊足スキルを持っているクラスメイトが発動させようとして失敗。
魔法も不発。
どうやらその力をスピードに変えているらしい。
和銅さんが俺の推測を裏付けしてくれた。
まったく映画のヒーローみたいな力を使いやがって。
これに対抗する道具なら持っている。
下の階でコレクションした中に『龍勢ベルト』というのがあった。
ワームがもの凄い勢いで空を駆け上がり龍になるという伝説があり、その龍の皮で作ったベルトらしい。
身につけると神速で動けると説明書きにあった。
「動きの早くなるベルトがあるんだけど誰が使う?」
「痛ててて。ちくしょうリベンジだ。私がやる」
武川さんがダメージを負った身体をさすりながら名乗り出た。
こうしている間も前衛職は立ち上がっては倒され、また立ち上がるという事を繰り返している。
このゴブリン遊んでやがる。
武川さん頼んだよ、みんなの仇をとってくれ。
そう思いながらベルトを渡した。
武川さんはベルトを着けると姿がぶれて、ゴブリンと戦闘に入った。
どしゅっと音がして一瞬だけパンチを振りぬいた武川さんが見える。
衝撃波で壁にひびが入った。
ゴブリンも負けじとパンチを放つ。
武川さんを拳が貫くが当たっていないようだ。
武川さんの残像が消えた。
ゴブリンのパンチの衝撃波で壁が揺れる。
裏拳を放つ武川さんの像が一瞬見える。
立っているゴブリンとしゃがんでいるゴブリンが同時に見える。
風が巻き起こりクラスメイトの衣服をひらひらさせた。
らちが明かないな。
援護に使えそうなのは『必中の弓』か。
弓道部のクラスメイトに弓を渡す。
彼女は目を瞑り弓を引き絞った。
矢を放つと矢はクルクルと回りグギャっという苦鳴が聞こえる。
一瞬矢が刺さったゴブリンが現れる。
武川の放ったパンチが遂にゴブリンを捉えた。
ゴブリンらしき影がもの凄い勢いで壁に叩きつけられる。
口から血を吐くゴブリンの姿が見えた。
武川さんが全力で正拳突きを放ち、衝撃波がゴブリンに追い討ちを掛けた。
ゴブリンは魔石になった。
武川さんはベルトを外し、一言。
「腹減ったぁー」
そんな副作用が。
そりゃそうだよな何倍もの速さで動いているのだから、数分でも一時間フルに運動したぐらいのカロリーは消費するよな。
俺はアイテム鞄から『もはや神の味』って銘打たれていたパンを取り出した。
それと『神の肉』のステーキと飲み物に『女神の涙』。
武川さんはそれらにかぶりついた。
なんかみんなも食いたそうだな。
旅の間の楽しみだったけど振舞ってやるか。
カロリー大目の三時のおやつになった。
「おい、二人共そんなに食うと太るぞ」
「女の子に太るは禁句だよ」
「ダイエットできる鏡があるから平気さ」
「そういえばそんなのもあったな」
「えっ、なになに。ダイエットできる鏡ですって」
「みんなダイエットできる反則道具らしいわよ」
クラスメイトに嗅ぎつけられてしまった。
「おい押すなよ。今出すから。壊れ物だから順番にな」
「じゃあいくわよ。じゃんけんぽん」
じゃんけん大会が始まってしまった。
しばらくして、一通りダイエットが終わった。
「この鏡、貸してよ」
「ずるい私が借りるの」
「いいえ私よ」
貸してよという声が多いが、貸すと返ってこないパターンだな。
「俺が管理する。文句はないな」
「それじゃ、御花畑さんと小前田さんが有利過ぎる」
「そうよ」
「納得できないわ」
「仕方ないな。桜沢さん預かってくれる」
「いいわよ。公平に使わせてもらうわ。みんな波久礼君に感謝を忘れないように」
結局、ダイエットできる鏡は桜沢さんの管理物件となったか。
俺には必要ない物だから構わないがな。
御花畑と小前田の視線が少し恨めしそうだ。
だが、文句を言うのは不味いと思ったらしい。
何も言わない。
鏡をもう一つぐらい手に入れとけば良かったな。
こんなに需要があるとは思わなかった。




