プロローグ3
3月29日 23:54 雲交じりの晴
手慣れた足取りで現場に入ろうとするその仕草が刑事ドラマの刑事に見える。白の手袋をはめて倉庫内に入る仕草がまさにそれっぽい。実際の刑事ドラマがそうなのかはわからないが…。とりあえずわたしも黒崎さんの後ろに追従する。その後ろには灰色の車で来た黄色い防護服を着ている怪しげな集団――といっても協会の鑑識課だが。が、ついてきた。
「ふむ。本当に君は手加減というのを知らないな。」
ムカデの死骸に指を指しながら呆れたように答え。
「しょうがないでしょ、わたしを襲ってきたんだから。依頼でも討伐してくれ、って書いてあったし。」
「だがこの惨状を処理するのは我々なんだけどな。」
溜息混じりに言うそれは、明らかに中間管理職の故。まあわたしも手加減の仕方がわからないから大体こんな感じだ。黒崎さんは、わたしのような部下には胃が痛むかもしれないから申し訳ないと思うけど。
「それで、報酬の3000円と預かり金の500円、合わせて3500円。この封筒に入ってる」
茶封筒を手渡す。わたしは確認しないでそのまま受け取る。
「有り難う。黒崎さん。」
そう言い終えると白衣の中に封筒ごと入れる。黒崎さんは白のスマートフォンで協会に電話している。邪魔したら申し訳ないのでわたしは外に出ることにした。
公式戦闘記録1987戦中1955成功32失敗。協会格付けランキングC+
それがわたしの協会の信用度も兼ねてのランク。かれこれ10年以上上がっていないし下がってもいない。
まあ上がっても危険な任務をこなしてくれ、と言われることになるし、報酬に見合わないから底辺任務にちまちまと稼ぐつもり。
ちなみにここの世界はわたしが以前いた世界とは貨幣の価値が違う。ここでの10000円は前の世界では100000円の価値があるから、今回の報酬は30000円の価値がある。但しCランクの仕事でも命の危険があるからあんまり割に合わないことも少なくはないけど…。
実際今回のムカデにはわたしが退魔巫女と聞いた瞬間襲ってきたからね。だから基本安寧に過ごすには身分を隠して過ごすのが普通。またこの職業柄友人はこの世界にはいないのだ。まあ出来てもわたしはあんまり人を信用してないから。信用できるのは己の稼いだお金とおいしい食事ぐらい。
黒崎さんは仕事上のパートナーみたいな感じだ。
外に出ると突如と強風が襲ってきた。咄嗟にスカートに右手で抑える。まあ見られても減るような代物じゃないけど癖になってしまった。それに殺気ではないが妖気を含んだ視線を感じる。どこからかはわからない。あたり一面からの平均的に来る視線。とりあえず、わたしはあたりを見渡しても見つからなかった。殺意ではないので無視するのも手。
「大神さんのほうに視線を感じたが大丈夫か?」
背後から聞き慣れた声。振り向き、聞き慣れた声の主に首を左右に振る。
「ううん。大丈夫。黒崎さん、ありがとね。」
そう言い終えると、代わりに黒崎さんがわたしの肩に自分の上着を羽織ってきた。この服に縫い込まれたグラスの効果か上着がわりと暖かい。
「このままじゃ寒いだろう?僕の方の現場検証は一段落終わったから後は鑑識課が整理する。今日はお疲れ、車で送る。」
気遣ってくれるのもこの黒崎さんの良いところ。他の協会の人はこうはしてくれない。まあ、幼馴染みだからかもしれないとも言える。
ん、視線が遠ざかってきた。多分二人いるから撤退したのだろう。何しろもう一人はAランクの退魔師なのだから。
「待って。わたしの今持っている魔紅石とグラスを換金してくる。」
わたしは、車に乗ろうとしている黒崎さんを止めて鑑識課の一人に魔紅石とグラスを渡した。
「これら合わせて50円。だけど大神さんはよく協会にやってくれるから、5円だけどおまけするよ!」
「わーい、ありがとうございます。」
気前の良い鑑識課のおじさんからチップを弾んでくれたため、軽やかな足取りで紺色の車に向かって行った。




