#03
* 限りなく愛から遠く
あなたが怖がる理由を 少しずつ理解する
分かろうという気持ち
歩み寄ろうという意思
ここから どんな方向にでも動こうという身軽さ
忘れてはならないものがあるとして
それを皮膚のように 繋ぎとめて
感受性は生きていく
限りなく 遠いそれを
今まさに わたしたちは望遠鏡で見ている
目指そうとしている
* 隙間風
閉じ忘れたドアが 夢のようにかすかに鳴っている
無風だと思っていたが そうでもないらしい
時を刻むよりわずかに焦りを帯びた 不安なリズムで
耳障りな音を立てて 風に鳴るドア
あなたが行ってしまった季節を思い返せば
仕方のない幻聴かもしれない
それでも確かに 耳につく音だと思っていてしまう
ぼくには分からない
あなたの去った理由が 今でも
戸惑いの風が吹きすさんで
安らかな無音が まだおとずれようもない
* 畳み掛ける感情の深遠なゆがみ
決断をあなたは待っていてくれる
そのありがたさに 寄りかからないように
僕は慎重に未来の計算をはじめた
彼の 自分が人間じゃないことを知っていながら
「怪物だから怖がってくれ」と言わんばかりの横暴を
僕は確かに受け取っていた
だけど 互いの尊重がない関係に
いずれ価値が見出されるとは思えなかった
本当に素敵なもので
切れるべきものにはそれ相応の素晴らしい刃物が
あるいは それ自体の弱点が
自ずと分かるタイミングがある
その厚かましい魂を 僕から切り離すべく
新品の刃物を 新しい皮膚と肉に突きつけた
報われる瞬間
切り離された僕には 次の行き場がある
捨てられた過去は すぐ灰になる
彼を灰にして 僕はあなたと木を植える
水をやって 待っていると約束しよう
畳み掛けられようと こればかりは変わらない
* テラー
愛おしさのかけらもないその唇が
行方のない歌をうたう
行方がないわけではないだろう
少なくとも 今の私が知りえる前提の中では
もはや 前提をアップデートする価値もない
君に何が演じられるというのか
私には関わりのないこと
何年経てば 君は真っ当に輝ける役にありつけるだろうか
到底 今のままでは
恐ろしいほど可哀想
いちいち憐れんでも仕方ない
君にぴったりの役を 君が拒むこともままあるのだから
* 逃亡
ふたりが生きていく理由
お互いが お互いのために
他人の不幸を指差せない僕らが
目指す旗を立てて
ここから逃げ出そう
逃げ出すには 必要なものが多い
明日の命も惜しくないなら 何もいらない
しかし 生きていくことが必要だから
壮大な逃亡計画のために
僕は 君の承認を得るために
君は 安全に逃げ出すために
落ち合う場所まで最短経路を使おう
最高の再会を探そう
* 風下より
風に当たろうと 外に出たのに
どういうわけか 君がいた
あまりにもタイミングが悪かったので
僕はそっと 引きこもった
風上に立っていられたら
僕はどうしようもない
君にバレないよう こっそり荷物をまとめて
帰って来る前に 裏口から出よう
鏡は裏返しにして
僕のマグカップだけを割って
それから カレンダーも捨てて
僕の痕跡は 君を病気にするから
生きてられない
君が僕を風下に置いた時から
* 往路
少しばかり 思い通りにはいかなかったけど
なんとか 会いに行けそうな感じにはなった
待たせてごめん って 言うことになるかもしれないし
きみは困ったように笑うかもしれない
(あの日したみたいに)
思い出せる限りのことを 繋ぎ合わせて
そうやってきっと 今日のふたりは出来上がる
まどろむ往路で きみの夢を見よう
なにもかも 身を任せるまま




