8話 皆川重蔵
風谷は管理官室に続く廊下を歩く。徐々に一課の騒がしさも、進む度に遠のき、そして
管理官室の扉の前に風谷は立ち止まった。
コンコン
「失礼します。」
「入れ」
声を合図に風谷はドアを開けた。そこには50代ほどの男性が、肘を机につき、顎に手を添えていた。
白髪が少し混ざった黒髪、整った七三分けの髪型とネクタイ姿。そして、威圧感のある目つきが印象的な男性、そのデスクには皆川重蔵の名札が立っていた。
「連続溺死事故について、相談があります。」
「一応、聞こう…」
殺伐とした空気の中、風谷は科捜研の画像解析、被害者の共通点、そして、足首の圧迫痕について説明した。
「以上の事から、事件性があると判断し、事故から殺人に切り替えるか考えております。」
………
しばらくの間が続き、皆川は静かに声を出した。
「風谷くん、君は私が科捜研を信用してない事は、知ってはいるはずだが。」
「はい、承知の上で話をしました。」
「では、何故私に話した。」
風谷は皆川の威圧感ある目つきに、臆することなく表情を変えずに話を続けた。
「仮に、科捜研が間違っていたとしても、一件目の時点で足首の圧迫痕に気づいていれば、
迅速な対応が出来たはずです。」
「そして、もし、マスコミにリークされた場合、見逃したなどと話を盛って書かれてもおかしくありません。」
「脅しと捉えていいのかね」
皆川は今まで無表情だった顔に、眉間に皺を寄せ、さらに威圧感が増す表情になった。
だがそれでも、風谷は臆することなく冷静さを保ち、口を開く。
「脅しなんてしません」
「ですが、今ここで判断を誤れば信頼を失う可能性があります。」
「そして、一件目の担当刑事はあなたの教え子、確かに、今の時期、
そういう判断になってもおかしくはありませんが、場合によってはあなたにも責任が問われてしまいます。」
皆川はしばらく沈黙を続け**た後、**口を開けた。だが、それは意外な答えだった。
「確かに、こればかりはこちらにも落ち度はある…今回のところはその方向性で捜査を許可する」
「しかし、これが何度も続くと思うな」
風谷は深く頭を下げ、お礼を言った。
「ご理解ありがとうございます。」
頭を下げ、管理官室を後にし、一課のフロアに戻っていった。
ーーーーー
風谷が皆川と話をしてるなか、少しでも情報を得るために資料を何度も見返していた。
しかし、そんな中、風谷がフロアに戻り、皆川との話の内容について二人に伝えた。
「本格的に殺人の方向で捜査を進める」
だが、岩馬は不思議そうな表情で首をかしげた。
「でも、科捜研嫌いの皆川管理官にどうやって?」
岩馬が不思議そうにしてるなか、真村は何かを察したのか口角を上げた。
「もしかして、皆川の教え子の事を話しましたね。」
「ああ、案の定、沈黙は続いて、落ち度を認めたよ」
それを聞き、不思議そうな表情から納得し、晴れやかな表情になった。
「なるほど、いくら管理官とは言え、そこを突かれると認めざるを得ないですもんね」
「そういう事、でも、やっと一歩目を出し始めた段階よ、ここから気合い入れるわよ」
不可解な謎の連続、被害者の共通点、そして、事故から殺人の方向性の変更。
大きく前進ではないが、数歩ずつ解決に近づいてるのを実感した。
しかし、ある出来事が再び謎を加速させる事になるとは知らなかった。




