魔法創世
「どうしよう! マジで消し方分かんないんだけど!!」
「とりあえず落ち着け」
健も若干困った顔をしている。いや、若干どころじゃないかもしれない。目の前には小屋くらいありそうな巨大火球が浮いているのだ。俺だって困る。
「そうだな……さっき創世したみたいに水の魔法は作れないのか?」
「水?」
一瞬固まる。その直後だった。
ピコン
ウインドが開く。
創世一覧:水魔法
「作れた!!!」
「だろうな」
健が諦めたように言った。俺は慌てて巨大火球を上空へ押し上げる。森の中で爆発されるよりはマシだろう。多分。続けて水魔法を発動する。すると今度は頭上へ巨大な水球が現れた。
「いや、デカすぎな!」
思わず自分でツッコむ。サリーも若干引いていた。俺も引いている。でももう止まらない。
そのまま水球をぶつけた。空の上で火球と水球がぶつかる。一瞬空が真っ白になる。何も見えない。気付けば大量の水が降ってきていて、考える暇もなく全身びしょ濡れになった。
「……」
髪から水が垂れる。服も重い。視界の端ではサリーが呆然としていた。キールも無言だった。健だけが額を押さえている。
「もう森で火は使うな」
「はい」
素直に頷く。反論できない。
サリーが何かに気付いた顔をする。どうやら自分も火魔法を使ったことを思い出したらしい。だが次の瞬間には何事もなかったような顔になる。
「ミナト! 気を付けなさいよ!」
俺は無言で見つめる。サリーが目を逸らした。
「そんなことより、まだ魔物がいます」
キールの声で意識を戻す。
そうだった。まだ終わっていない。視線を向けると、ゴブリン達は妙に距離を取ってこちらを見ていた。さっきまで襲いかかってきたくせに、今は様子を窺っているように見える。
「誰かさんのお陰でゴブリン達は警戒してくれてるみたいだぞ」
健がこちらを見ながら言ってくる。
心当たりしかなかった。さっきの巨大な火球のせいだろう。
キールが剣を構える。
「では処理しましょう」
そう言って一歩踏み出した瞬間だった。
「斬撃」
一体。
目の前のゴブリンが吹き飛ぶ。速い。そう思った時にはもう次の動きへ移っていた。
「二重斬撃」
さらに一体。あっという間だった。
「おお……」
思わず声が漏れる。副団長って肩書きは伊達じゃないらしい。
「よそ見してる場合じゃないわよ!」
サリーが杖を向ける。
「ウインドカッター!」
風の刃が走る。ゴブリンが吹き飛んだ。
やはり詠唱と共に魔法を放つ姿は様になっている。
「かっこいいな……」
だったら俺も。迫ってきたゴブリンへ向かって駆け出す。身体補正のおかげなのか、自分でも驚くほど自然に体が動いた。振り下ろされた棍棒を避け、そのまま剣を振る。
当たる。ゴブリンが倒れる。
「よし!」
初めての剣での戦闘だったが何とかなったらしい。残るは一体。
「ミナト!」
サリーが叫ぶ。だったら締めはこれだ。手を前へ突き出す。
「ウォーターカッター!!」
水の刃が飛ぶ。ゴブリンが真っ二つになる。
「お前、その技名叫ばなくても発動出来ただろ」
「かっこいいからいいの!」
「はぁ……」
健が呆れたように溜息を吐く。その瞬間だった。背後の茂みが揺れる。最初に殴り飛ばしたゴブリンだ。まだ生きていたらしい。ゴブリンは一直線に健へ飛びかかる。だが健は慌てない。ひらりと身をずらす。空振り。そのまま振り向きざまに剣を振る。ゴブリンが倒れる。
「何だ、生きてたのか」
それだけだった。
「皆さん、魔石を回収しましょう」
キールが剣を収める。
「了解!」
初討伐だ。俺は近くのゴブリンへ駆け寄る。
そういえば魔石なんてゲームでしか見たことがない。
少しワクワクしながら探していると、胸の辺りから赤黒い石が転がり落ちた。小石ほどの大きさだった。
「これが魔石か」
思わず摘み上げる。もっとこう、宝石みたいなものを想像していたのだが意外と地味だった。
「換金出来ますよ」
キールがそう言う。
「おお」
それは大事だ。金になる。ちょっとテンションが上がる。五体分の魔石を回収し終えたところで、キールが周囲を見回した。
「では薬草採取を再開しましょう」
そういえばそうだった。ゴブリン騒ぎで完全に忘れていたが、俺達は薬草採取の依頼を受けていたんだった。
「よし!」
今度こそ依頼達成である。
「負けないわよ!」
何故かサリーもやる気になっていた。薬草採取は思ったより時間がかかった。
「これじゃない?」
「それっぽいわね」
「だよな」
摘む。籠へ入れる。また見つける。摘む。
今思えばその時点で怪しかった。薬草ってそんなに簡単に見つかるものなのか?そう思わなかったわけじゃない。でも楽しかったのだ。仕方ない。
「そろそろ戻りましょうか」
キールの声で全員が集まる。薬草採取終了。成果発表の時間である。
「見なさい!」
サリーが自信満々に籠を掲げた。
「結構集まったな」
俺も負けていない。籠はパンパンだった。正直かなり採ったと思う。
「ふふん」
「ふふん」
何故か二人で得意げになる。その様子を見て健が嫌そうな顔をした。
「何だよ」
「いや」
健は俺達の籠を見る。もう一度見る。さらに見る。
「嫌な予感しかしない」
失礼な。キールも苦笑していた。
「では確認しましょう」
まずは健。籠いっぱい。全部薬草だった。
「何で分かるんだよ」
「見れば分かる」
分からん。次はキール。量はそこまで多くない。護衛や周囲の警戒もしていたのだから当然だろう。それでも全部薬草だった。
「普通そういうものです」
「そういうものなのか……」
何か納得いかない。そして。問題はここからだった。
「じゃあ私達ね!」
「おう!」
自信満々で籠を差し出す。キールが中を見る。
一本。薬草。二本目。薬草。三本目。沈黙。四本目。沈黙。五本目。沈黙。嫌な予感がしてきた。
「キール?」
「その……」
困った顔をしている。
「どうだった?」
「薬草は二本です」
「二本?」
「はい」
「残りは?」
「毒草ですね」
沈黙。俺とサリーは顔を見合わせた。
「「え?」」
もう一度籠を見る。量だけなら圧勝している。
でも薬草は二本。俺一本。サリー一本。
残り全部毒草。
「何でだよ!」
思わず叫ぶ。
「こんなに摘んで合ってるのは二本だけか」
健が呆れたように言う。
「似てたんだよ!」「似てるのよ!」
「ちゃんと確認しろ!」




